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旗本の敗因・Ⅱ
しおりを挟む……そう言う意味か。
研水は、後藤の言わんとすることが分かった。
しかし、不安がある。
「準備とは、どのようなものでございましょう」
「火縄銃、弓矢、槍、捕縛用の網、鉤のついた縄……」
「そのような武器は、旗本衆も用意されていたのではありませぬか?」
「……そうだな。
さらに、旗本衆は鎧で身を固め、馬に乗る者も多かった」
後藤は少し困ったような顔になったが、正直に答えた。
つまり、ぐりふぉむを呼び込んでも、倒す決定打が無いと言うことである。
嫌な沈黙が流れた。
その沈黙を破ったのは、佐竹であった。
「浅草寺での戦いでは、景山と後藤が囮となり、怪物を境内の外まで誘き出した。
奉行所に怪物を呼び込むことが成功すれば、まずは私が斬りかかろう」
佐竹の言葉に、景山と後藤が驚いた顔になった。
見ると、佐竹の目は座っている。
「私の小太刀が、あの怪物に通じるとは思えぬ。
私は一瞬で殺されるであろう。
……しかし」
佐竹は、自分の言葉に酔うように続けた。
「しかし、私が真っ先に死に様を見せれば、景山、後藤はもちろん、他の与力、同心たちは、必ずや奮い立ち、死を賭して怪物に向かってくれるであろう。
武士の意地を……」
「何を言われておるのか!」
研水は、思わず佐竹の言葉をさえぎった。
佐竹は口を半分開けたまま固まり、景山、後藤も、驚いた顔で研水を見た。
一介の町医が、与力の言葉を中断させたのだ。
これほど無礼なことはない。
しかし、興奮した研水は、自分の言葉を止めることが出来なかった。
「わたくしは医者であります!
医学即ち、命を助ける学問であると誇りに思っております。
その私が、軽々しく、命を捨てるという戦略に賛同できるはずがない!」
驚いていた後藤だが、研水の言葉に、妙に嬉しそうな顔になった。
「真っ当なことを言う。
ならば、研水殿は、どうせよと言うのだ?」
我に返った佐竹が激高し、研水が困った立場に立たされる前に、後藤がたずねた。
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