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研水の話・Ⅰ

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   ◆◇◆◇◆◇◆

 「……黒く巨大な、ナマズのごとき尾か」
 研水の話を聞いた後藤が、小さく頷いた。
 「杉田玄白殿が所有する『禽獣人譜』なる書物にも、人魚の絵図が描かれていたのではないか?」
 景山が研水を見て、確かめるように言った。

 「はい。禿頭の男二人が向かい合う絵図がありました。
 二人とも、指の間に水かきを持ち、腰から下は魚の胴として描かれておりました」
 答えた研水は、少し間を置いた。
 三人からの質問は無い。
 それを確認し、話を続ける。
 「その後、帰宅したのですが、留守を任せていた下男が言うには……」
 しばてん坊と名乗った大入道が、自分手を訪ねて現れたことを話す。

 「七尺(212㎝)、八尺(242㎝)もある大男か。
 七尺だとしても、相当の大男であるな」
 後藤が、なぜか嬉しそうに言う。

 「禽獣人譜に、大男の絵図はあったか?」
 「玄白先生に確認せねばなりませんが、私の記憶では、無かったかと……」
 景山に問われて玄白が答える。
 「研水殿自身に、心当たりは無いのか?」
 「ございません」

 研水の言葉を受け、景山は、視線を佐竹と合わせた。
 景山は、それで何かを了承したのか、再び研水に視線を向ける。
 「私に話したいと言うのは、人魚と大入道のことであったのか?」
 「いえ、それも、ございますが……」
 研水は言い淀む。
 「どうした?
 まだ何かあるなら、遠慮なく申せ」
 景山に促され、研水は「はッ」と小さく頭を下げ、口を開いた。

 「先日、わたしは往診の帰路、犬神憑きと遭遇いたしましたが、景山様に助けられ、事なきを得ました。
 その夜、景山様に連れられ、奉行所に保管されていたヌエを拝見しました」
 研水は、話がややこしくなるのを嫌い、まんてこあではなくヌエと称した。
 「二日後、景山様と共にいたところで、人面鳥に襲われました。
 その後は、人魚を目撃し、大入道とすれ違うことになりました」
 「大人気だな」
 「はい」
 後藤が軽口を叩き、研水が素直に応じた。

 「犬神憑きとの遭遇は、偶然でございましょう。
 ヌエは、景山様を通して拝見しました。
 しかし、その後の人面鳥、人魚、大入道は、意図的に私に接触してきたように思われてなりませぬ」
 研水は、そう続けた。
 後藤に「大人気」と言われて、否定しなかったのは、こういう思いがあったからであった。

 ……。
 研水の言葉に、三人は考え込む顔となった。
 「……たしかに、大入道はそうであろう。
 その方を訪ねてやってきたわけだからな」
 そう言ったのは、佐竹である。
 「しかし、景山にしても、犬神憑き、ヌエ、人面鳥、麒麟と遭遇し、あまつさえ、命を賭して戦っておるぞ」
 「佐竹様」
 と、後藤が口を挟んだ。
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