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六郎奔走・Ⅱ
しおりを挟む「わしなどには会うてくれませんわい。
中間の男に、景山様は手紙に何と返事を書かれたのか、本人に確かめてきてくれと頼みに頼み込んで、ようやく教えてもらいましたわ。
なにせ、100文がかかっておりますからなあ」
六郎はニコニコと笑いながら言う。
……何と礼儀の無いことをしでかしたのか。
研水は、その様子を想像して胃が痛くなった。
……が、それは景山様に会った時に詫びればよい。
……ともかく、会う約束を取り付けることが出来たのだ。
「玄白先生は、まだ床から出られぬようです。
加助という下男が、そう申しておりました。
加助はいけませぬな。
あれは下男と言うのに、無礼で高慢な態度を取る男でございました」
六郎が顔をしかめて言う。
……どの口が言うのか。
……それに、加助ではなく、加吉であろう。
研水は、そう思ったが口には出さない。
加吉のしっかりとした態度を褒めたりすれば、六郎が、どうへそを曲げるか分かったものではないからだ。
……こちらは、十文分の働きと言ったところか。
「しかし、こちらも100文がかかっております。
はいはい、そうですかと帰る訳にはいきませぬ」
「お、お前は、まさか、玄白先生に、無礼な真似をしたのでは……」
研水はギョッとして、言葉を詰まらせた。
「いやいや、加助に伝言を頼んだだけでございます。
我が主は、玄白先生のお体を心配しつつも、早急に伝えたきことがあると申しておりました。
また、二日後、それに関係することで、同心の景山様と話をなされるようです。
これを伝えてもらうと、奥に引っ込んだ加助がしばくして戻り、このような返事をもらいました」
「何と?」
「体調が良くなれば使いを出す。
そのときには、景山様と共に、私の屋敷に来て欲しい。
そういう返事でございました」
……。
研水は目を閉じ、そして、目を開けた。
「ご苦労であった、六郎。
200文の働きは充分にあったぞ」
研水は懐に手を入れると、100文銭を二枚取り出し、六郎に手渡した。
その後、文机に向かうと、礼と共に、当日、八丁堀の屋敷に伺うことを記した手紙を景山に書き、これを届けるよう、六郎に渡した。
◆◇◆◇◆◇
そして、二日後。
研水は、八丁堀にある景山の屋敷を訪れたのであった。
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