104 / 204
六郎二百文
しおりを挟む「景山様は、同心でございましょう。
ならば、江戸を守るのが務め。
あの場にいて、討ち死にしたのかも知れませぬな」
六郎はなんとも気楽に言う。
「た、確かめてくるのだ」
研水は六郎に命じた。
「と、言われましても」
六郎は大袈裟に困った顔を見せる。
研水は懐を探り、数枚の穴銭を取り出した。
「番太郎に尋ねてくるのだ。
あれも奉行所の関係者ではある。
これで酒でも買って渡せば、話してくれよう」
六郎に穴銭を渡した。
酒一升が200文ほどであり、渡した金は、200文以上はあった。
番太郎とは、町々の番所に詰める番人の俗称である。
「わ、分かりました」
両掌で穴銭を受け取った六郎は、急いで土間を出ていく。
と、戸口を潜る前に振り返った。
「旦那様。
釣り銭が出た場合は、どのように?」
何かを期待している顔である。
「釣りは、お前にやる」
「その言葉、間違いはありませぬな」
「いいから、急いで行け!」
研水がそう言うと、六郎は「承知しました」と言い残し、姿を消した。
六郎が去ると、研水は自ら裏庭の井戸に向かい、冷たい水で手を綺麗に洗うと、盥に水を満たし、縁側で足を洗った。
……まさか、景山様が。
景山の身を案じ、手拭いで足を拭く。
六郎は、思っていたよりも早く戻ってきた。
「景山様は、無事でございます。
ちょうど番所に、景山様の手下がおりましたので、しっかりと確認いたしました。
麒麟を征伐しようとし、返り討ちに遭ったのは、みな旗本であり、奉行所の関係者には死人は出ていないと」
六郎の言葉は落ち着き、いつものように回りくどい言い方も無い。
表情も、いつになく真面目にみえた。
「死者は100人前後になると言われました」
100人……。
さっきの3000人という話はなんだったのか。
「ただ……」
「どうした?」
「同心が一人、麒麟にさらわれたようでございます」
「さらわれた?
……まあ、景山様が無事ならばよいか」
「では、わしはこれで」
六郎が頭をひとつ下げて、出て行こうとする。
「……待て」
研水は六郎を呼び止めた。
「銭はどうした?
酒手として使ったのか?」
研水の問いに、六郎は目をパチクリさせた。
表情は変わらぬはずなのに、途端に胡散臭くなった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

if 大坂夏の陣 〜勝ってはならぬ闘い〜
かまぼこのもと
歴史・時代
1615年5月。
徳川家康の天下統一は最終局面に入っていた。
堅固な大坂城を無力化させ、内部崩壊を煽り、ほぼ勝利を手中に入れる……
豊臣家に味方する者はいない。
西国無双と呼ばれた立花宗茂も徳川家康の配下となった。
しかし、ほんの少しの違いにより戦局は全く違うものとなっていくのであった。
全5話……と思ってましたが、終わりそうにないので10話ほどになりそうなので、マルチバース豊臣家と別に連載することにしました。

時代小説の愉しみ
相良武有
歴史・時代
女渡世人、やさぐれ同心、錺簪師、お庭番に酌女・・・
武士も町人も、不器用にしか生きられない男と女。男が呻吟し女が慟哭する・・・
剣が舞い落花が散り・・・時代小説の愉しみ
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
戦国三法師伝
kya
歴史・時代
歴史物だけれども、誰にでも見てもらえるような作品にしていこうと思っています。
異世界転生物を見る気分で読んでみてください。
本能寺の変は戦国の覇王織田信長ばかりではなく織田家当主織田信忠をも戦国の世から葬り去り、織田家没落の危機を迎えるはずだったが。
信忠が子、三法師は平成日本の人間が転生した者だった…
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく

永き夜の遠の睡りの皆目醒め
七瀬京
歴史・時代
近藤勇の『首』が消えた……。
新撰組の局長として名を馳せた近藤勇は板橋で罪人として処刑されてから、その首を晒された。
しかし、その首が、ある日忽然と消えたのだった……。
近藤の『首』を巡り、過去と栄光と男たちの愛憎が交錯する。
首はどこにあるのか。
そして激動の時代、男たちはどこへ向かうのか……。
※男性同士の恋愛表現がありますので苦手な方はご注意下さい
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる