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怪しい駕籠・Ⅱ

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 後藤が足を速めるかどうかを迷った瞬間、駕籠かきは担ぎ棒を肩に乗せると、スッと立ち上がった。
 そのまま路地を奥へと消えていく。
 後藤は、それを追った。
 姿勢は変わったように見えないのに、ぐんぐんと追う速度をあげていく。

 駕籠は路地を器用に抜け、通りに出ると北に向かった。
 ……追いつけないだと?
 後藤は驚愕していた。
 本気で追っているのに、前を走る駕籠に追いつけないのだ。
 
 「待て」とは言わない。
 明らかに駕籠は、こちらから逃げている。
 待つはずは無いからだ。
 その言葉は、よけいな動きになる。
 追いつけてはいないが、離されている訳でも無い。
 後藤は、そのまま追い続けた。

 段々と周囲は田畑が多くなり、その向こうには森が見え始めた。
 人気が無い。
 ……何か仕掛けてくるために、人気のない場所へと誘ったか?

 後藤が警戒した時、駕籠が止まった。
 ……!
 いや、駕籠は止まっていない。
 後の担ぎ手が立ち止ったのだ。
 駕籠は、前方の駕籠かきが一人で担ぎ、そのまま速度を落とさずに去っていく。
 飛脚が書状箱を引っ掛けた担ぎ棒を持つような気軽さで、おそらく人間一人が入っている籠を一人で担ぎ、どんどんと駆けていくのだ。
 どのような筋力をしているのか、信じられない光景であった。

 後藤が駆け寄る前に、残った駕籠かきはこちらに向き直った。
 ほっかむりをした顔は、伏せたままである。
 
 「足止めか……」
 立ち止った後藤は、苦い顔で言った。
 すでに、佐竹から借りた刀の柄には右手を添え、左手親指で鯉口を切っている。
 踏み込みながら抜刀し、次の一歩で斬り伏せることができる。
 しかし、その前に、聞いておきたいことがあった。

 「聞け」
 駕籠かきに声を掛けた。
 「わしの同僚に、景山と言う男がおってな。
 その景山から、江戸を騒がす、ぬえ、人面鳥、麒麟などのあやかしの背後には、一人の男がいると聞いたのだ。
 もう何年も前に死んだ男よ……。
 正直に申せ。
 駕籠に乗っていた男、もしかして、平賀源内ではあるまいな?」
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