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西の陣Ⅱ
しおりを挟む雑兵も馬上の旗本たちも、視線をやや左、西側に向けていた。
その顔が強張っている。
「すまぬ」
「我らも」
二人は、雑兵の間を抜けて前に出ると、置き盾の間から、兵たちの視線の先を追った。
その瞬間、西の陣で怒号と喚き声が爆発したように上がった。
途中で向きを変えたぐりふぉむが、西の陣に突っ込んだのだ。
置き盾が兵ごと、五枚、六枚と、一気に吹き飛んだ。
密集する雑兵の中に入り込んだぐりふぉむが、鉤爪のある前肢で踏みつけたのか、悲鳴が聞こえ、血飛沫が見えた。
西の陣は、一気に崩壊するかに見えたが、そうはならなかった。
「囲みを崩すなッ!」
「槍を並べよッ!」
旗本たちが必死に叫び、兵を取りまとめようとしていたのだ。
「ちりゃああ!」
盾の外に出た旗本の一人が、ぐりふぉむの後ろに回り込み、槍を繰り出した。
大木の幹のような、ぐりふぉむの後肢に槍が突き刺さった。
「どうじゃあ!」
旗本が叫ぶ、周囲が「おおッ!」と勢いづく。
が、次の瞬間、ぐりふぉむの後肢が跳ねあがり、旗本を蹴り飛ばした。
ぐりふぉむの後肢は、猛禽類のそれではなく、猫の後ろ脚に近かった。
ただし、大きさは桁違いである。
蹴られた旗本は、下半身だけとなって宙に舞った。
上半身は、蹴られた瞬間に、ぼろぼろの赤黒い肉塊となって破裂したのだ。
強烈な一撃であった。
あまりのことに、西の陣の兵たちが固まる。
「怖気るなーーッ!」
兵を奮い立たせるように旗本に一人が叫んだ。
「手柄を立てる機会は、この場を置いて無いッ!
命を惜しむなッ!」
続けて、そう叫ぶと、周囲の兵たちが再び動き出した。
「友部か……」
景山の横に立つ旗本がつぶやいた。
今、西の陣で叫んだ旗本の知り合いなのであろう。
つぶやいた旗本の顔は、自身が戦っているかのように力が入っていた。
「死ぬなよ……」
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