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ぐりふぉむⅠ

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    ◆◇◆◇◆◇

 景山は、見届け人の一人として、その場にいた。
 
 左手で傘を差し、右手に抜き身の太刀を下げた後藤が現れ、引き出された罪人の横に立つと、何かつぶやきながら、空を見上げた。
 つられて手伝人足の二人も空を見上げ、押さえつけられていた罪人も、首を回しながら、空を見ようとした。

 景山は、一連の動きを横から見ていた。
 首が回る角度は限度がある。
 可動域は、左右に60~70度と言われ、真横までは回らない。

 しかし、罪人の首は真横を向いた。
 さらに、そのまま回り続け、180度向きを変えたのだ。
 座して、頭を下げさせられた状態から、首が180度回ったため、罪人は、頭だけが空を見上げる形になった。
 
 後藤が、罪人の頚椎の可動域が限界を迎える寸前、首を断ったのだ。
 そのため、自由になった首が、回し始めた勢いを保ったまま回転し、空を見上げたのである。

 が、それも一瞬であった。
 空を向いた首は、勢いを失い、そのまま血溜まりの穴へと落ちた。
 落ちた首を追うように、首の断面から大量の鮮血が噴き出した。

 他の見届け人たちは、何が起こったのか分からず、瞬きをして目を凝らし、骸となった罪人と後藤を見比べていた。
 
 後藤は、その日、四人の罪人の首を落とした。
 しかし、一滴の返り血も浴びなかったどころか、雨にさえ濡れていなかったと言う。

   ◆◇◆◇◆◇◆◇
 
 「景山。
 佐竹様は?」
 後藤の言葉に、景山は視線を一瞬、風雷神門の方向に走らせた。
 門までの参道に、佐竹の姿は無い。
 「無事に、外に出られたようだ」
 景山が答えた。

 ぐりふぉむの指を斬り飛ばした後藤は、後方へと移動し、回り込みながら、ぐりふぉむの真正面に立った。
 参道の直線で、ぐりふぉむと対峙する形になったのだ。
 距離を取ってはいるが、さすがに怪物から目を離し、背後の風雷神門を確認することは出来そうにない。

 景山は、ぐりふぉむとの距離は後藤より近いが、参道から外れ、斜めからぐりふぉむを見る位置に立っている。
 傷を負ったぐりふぉむが、逃げる動きを見せれば退路を断つために走り、逆に、後藤に襲い掛かれば、牽制ができる位置である。
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