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石畳

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 宝蔵門は、二層建てになっている。
 左右に仁王像が配置されていることから、仁王門とも呼ばれる。
 参拝者は、阿形像と吽形像の間の間を通ることになるのだが、ここには二列の太い柱がある。
 ぐりふぉむの巨体には、この柱が邪魔であった。

 ぐりふぉむが身を捻じっている隙に、景山と後藤は、宝蔵門から離れて参道に出た。
 
 しかし、一目散に逃げる訳にはいかない。
 ぐりふぉむに追って来させるように仕向けるため、あまり離れる訳にはいかないのだ。
 
 「ほら、来い。
 こっちだ、こっち」
 後藤が後ろ向きに歩きながら、ぐりふぉむの注意を引く。

 宝蔵門には、大店や町会から寄進された幾つかの提灯が吊られていた。
 ぐりふぉむは苛立ったように身を揺すり、翼に引っ掛かった提灯を引き裂きながら、参道へと出てきた。

 カッ、コココココと、乾いた木を打ち合わせる様な声で鳴く。
 カッ、ココココ、ココココ。
 
 その声を背で聞きながら、景山と後藤は、すでに山門に向かって駆け出していた。

     ◆◇◆◇◆◇◆◇

 佐竹は、早足で山門へと向かっていた。

 残った景山と後藤は、佐竹の配下の中でも、腕の立つ同心であった。
 機転も利き、現場で的確な判断を下せる冷静さもある。
 しかし、その二人であっても、あの化け物は手に余るであろう。
 
 なにとぞ、御加護を……。
 佐竹は心の中で、浅草寺の本尊である、聖観音菩薩に願った。

 願いながら、山門に向かって足を速める。
 参道の両側にある出店は、どこも無人であった。
 異様な感じがした。
 閉めた訳ではない、開いているけど無人なのだ。
 どの店の人間も、売り物を片付ける暇もなく、逃げ出したのだ。

 と、前方から、声が聞こえてきた。
 「佐竹様、早く!」
 「危のうございますッ!」
 そう聞こえた。
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