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第49話 奴隷商、死を覚悟する

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「伏兵がいない? ……そうか、引き続き、探索を続けてくれ」
「はっ!!」

どう言う事だ?

あの攻撃魔法は奇襲としては完璧だった。

相手が立て直す前に伏兵でもって、損害を与えるのが定石。

……壊滅させるつもりがないのか?

相手の意図が全く分からない。

僕達は攻撃を受けて、すぐに後方に移動した。

攻撃魔法は威力こそ凄まじいが、有効範囲が広くはない。

なんとか、態勢は整えられたが……

どうすればいい?

オーレック領まで引き返すか?

くそっ!

もっと調べてから、こちらに向かうべきだった。

「ロッシュ!」
「えっ?」

「しっかりして! 報告が来ているわよ」

ダメだな。僕は……。

こういう時こそ、周りに目を向け、判断する。

そう、教わってきたと言うのに……

「報告を聞こう」
「はっ!! 後方に敵影を発見いたしました。おそらく退路を断つつもりかと」

これで引き下がることも難しいか……

「カーゴはいるか!!」
「ここに」

今はカーゴが率いる150人の赤蛇隊と青熊隊だけが頼りだ。

この兵を用い方で、僕達の運命が決まる。

「死傷者は?」
「今のところ、問題ないですぜ。シェラの姉さんの薬が効いているようで」

良かった。

さて……

報告では……

後方には敵1000人。

前方はその十倍以上。

この兵力ではとても勝てない。

だが、逃げるだけなら……

前方の一点だけを集中的に攻撃し、突破さえ出来れば……

イルス領に入ることが出来る。

「カーゴ。君たちには死んでもらうかもしれない」
「へへっ。そりゃあ、怖いですな。だが、どんな命令でも聞きやすぜ。なんなりと言ってくだせぇ」

カーゴ……済まないな。

「我らはこれより敵陣深く、突撃する。それ以上に活路を見出す方法はない」
「へい! 我等とて、簡単にくたばる玉じゃあねぇですぜ。一人で十人は道連れにしてやれますぜ。そうすりゃあ……・」

僕とマギーだけは逃げられるだろう、と。

僕は涙が出てきた。

この者たちが命を捨てて、僕を守ろうとしていることではない。

自分の不甲斐なさにだ。

もっと用意周到に行動していれば、こんな事態にはならなかった。

この者たちの犠牲を払う必要もなかった。

そして、この者たちにこれほどの覚悟を強いることもなかったのだ……。

僕は決意した。

「お前らはすでに我が領の領民だ。領民を救わずして、領主を名乗れない。僕も戦う!」

それがこれから歩むであろう道だ。

血に塗れた道を這いずるように進む。

泥まみれになりながらも領民を守る。

それこそが、僕が歩かなければならない道なのだ。

だから、誓う。

領民を犠牲に僕が助かろうなんて思わない。

領民が死ぬならば、僕も死ぬ……!

「カーゴ。僕は逃げない。お前たちと共に行く」
「……大将……分かりやした。我らの命……大将に預けやす」

気持ちがスッキリした。

これでいいんだ……

「マギー。済まない。僕はここで死ぬかもしれない」
「ええ」

「だから、君とはここでお別れだ。僕達が必ず、途を切り開く。そこを通って……」

パシン! と乾いた音が森に響いた。

「私がロッシュを置いて逃げろって言うの!? ふざけないで!」
「マギー……でも、君たちを守って戦うなんて、出来ないんだ! 分かってくれ!!」

「そんなに情けない顔をしないでよ。私の……私の愛するロッシュはもっと強いはずよ。これくらいの逆境は払いのけられるはずよ」

……どうして……

そんなに簡単に自分の命を犠牲に出来るんだ?

「マギーは死ぬのが怖くないのかい?」
「……怖いわ。とても怖い」

だったら、なぜ……

「これから楽しいことが無くなるのが怖いの。ロッシュと一緒じゃないと楽しくないの。だから……」
「マギー。ごめん。本当にゴメン」

僕は何も分からなくなっていた。

ただただ、マギーを愛おしくて、抱きしめていた。

「妾達を忘れてはおらんか?」
「マリーヌ様……それにシェラも」

そうだよな。

僕にはこれ以上ないほどの仲間がいるんだ。

「私もいますわよ」
「サヤサ……」

一瞬、分からなかった。

彼女の出で立ちがあまりにも……美しかったから。

「その格好は?」
「神孤族の衣装です。こっそり作っていたんですが、間に合ってよかったです」

まるで神に仕える天使のようだ。

その艶やかな衣装の女性がフェンリルに跨る姿は神々しくさえある。

「ロッシュ!」

おっと、サヤサに見とれてしまったのがバレてしまったか?

「覚悟は……決まったわね?」

……。

僕は集まる仲間たちを見つめる。

誰もが死を覚悟したいい目をしていた。

マリーヌ様とシェラはどこか、気の抜けたような顔だ。

彼女らにとっては、この程度の戦、簡単に抜けられるのだろう。

「ああ。マギー、そして皆、僕に力を貸してくれ……いや、命を僕に預けてくれ! そして、勝機を必ず掴む。イルス領に戻るために」
「おおっ!」

これで腹は決まった。

やるべきことも……。

敵陣の一点突破だ。

「報告! 敵兵、前方に展開。こちらに向かってきます」
「兵力は?」

「その数、500」

それだけでもこちらの3倍以上か。

「カーゴ。やれるか?」
「俺達は野盗ですぜ。森の中の戦は得意中の得意ですぜ」

頼もしい答えだ。

「カーゴ、指揮を頼む。一兵残さず、森から帰すな」
「へへっ。面白くなってきやがった。相手さんを完膚なきまでにボコボコにしてやりますよ。者共!! 行くぞ!」
「へい!!」

これでいい。

「ヨルはいるか?」
「ここに」

ダークエルフ……この者たちの能力は今のところ、未知数だ。

シェラのような動きが出来るなら、これ以上ない戦力なのだが。

「単刀直入に聞く。お前たちは何が出来る?」
「あたいらは闇の住人。暗殺ならば、容易くやります。一対一なら確実に息の根を止めてみせます」

暗殺か……

使いどころさえ間違わなければ、最高の結果になるが……

今のような総力戦では役に立たなそうだ。

もっとも個人戦が得意と言うなら、今は護衛に回したほうがいいな。

いざという時の切り札に……

「ヨルは我らの護衛を」
「承知しました」

さて……

神々しいサヤサを見つめるのも、すこし気後れしてしまうが……

「サヤサ。君には特別に頼みたいことが……」

サヤサとフェンリル達は静かに森から姿を消した……。

さあ、やるぞ!

やってやる。

「なぁ、妾を忘れておらんかぁ?」

……。
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