上 下
21 / 60

第21話 奴隷商、奴隷化は何かの力を引き出すみたいです

しおりを挟む
宿に戻ると臨戦態勢のシェラがいた。

「無事だよ。しばらくはこの街に滞在することになりそうだ」

皆にデリンズ卿に頼まれた話をした。

王宮や王族には触れずに。

皆は特に反対はしてこなかった。

だけど、マギーだけは違った。

二人きりになった時……

「ロッシュ。何か隠している?」

……

「実は……」

この仕事が片付ければ、王族としての身分が戻ってくるかも知れない。

そして、そうなれば、皆と別れなければならない事を伝えた。

「そう。そうよね。私はマーガレット=オーレックではない。ただのマギーだものね」

……マギーは本当に寂しそうな顔をしていた。

「王族に戻ったら、ロッシュの横にいる人は私ではないのよね」

……僕は何も言えなかった。

生まれて、僕は王族となった。

王族としていき、一生、王族のままのつもりだった。

今は不遇にも奴隷商貴族の地位にいるが、王族の気持ちを捨てたつもりはない。

王族に戻れるチャンスがあれば、どんな小さなことでも飛びつく……

そう思っていた。

だけど、僕の中で少しずつ変化が起きていた。

マギーを失いたくない。

シェラやサヤサと別れたくない。

マリーヌ様……はどうでもいいか。

しかし、彼女たちと共に王族には戻れない。

王族を取るか、このまま奴隷商貴族として生き、彼女たちと共に生きるか。

……選択を迫られる。

「そんなに苦しそうな顔をしないで。私まで苦しくなるもの。今はデリンズ卿の仕事をしましょう。結論はその後でも……」

僕は「ああ」としか返事が出来なかった。

本当に不甲斐ない男だ……僕は。

次の朝は目覚めのいいものではなかった。

結局、一睡もすることが出来なかった。

王族に戻れば、マギーの寝顔は二度と見れない。

一方で王族に戻れば、国を動かすほどの大きなことが出来る。

それは何事にも替えがたい物だ。

「イルス。薬草の準備が出きた」

今日から薬草の販売が出来るようになるはずだ。

「ありがとう」
「イルス。元気ない。これを飲むといい」

これは……

「ぐいっといけ。一滴も飲み残すな。イルスのために作ったものだから」

シェラの優しさに少し涙がでそうになる。

そうだ!

今は悩むのはやめよう。

僕がどちらを選ぶにせよ、仕事を成功しなければならない。

しかも、後継者に据えるという大仕事だ。

正直、すぐに出来るような話ではない。

一年……いや、もっとかかるかも知れない。

ライルの功績を少しずつ積み重ね、周りの信頼を勝ち取る。

それが常道だ。

僕の王族復帰はまだそれからずっと先の話なのだ。

「今日は私も行くわ」

マギー……

「そうだね。マギーの知恵も借りたいからね。だけど、どうしたものか……」

マギーを紹介する時に困ったことになる。

「ただのマギーってことにしましょう。だけど……ねぇ、私をロッシュの奴隷にしてよ」
「何を言っているんだよ! マギーを奴隷だなんて……」

「いいじゃない。奴隷紋ないの、私だけだし。色々と変な目で見られるのが嫌なのよね」

と言っても、奴隷紋なんて……

「何を迷っておるのじゃ? 後で奴隷を解消すればいいじゃろう。そんなことも分からんのか」

全く知らなかったよ。

奴隷って一生ものだと思っていたよ。

そうか……外せるのか……。

「そういうことみたいね。私は一生、ロッシュの奴隷っていうのも魅力的だったんだけどね。一体、どんな命令をしてくるのかしら?」

上目遣いで言われても、何も出てこないぞ。

まったく、何を考えているんだか。

「じゃあ……な、なにを」

顔がマギーの胸に埋まる。

「いいじゃない。シェラのときもこうやったんでしょ? 私も、ね」

マギーの柔らかさが顔に直接伝わってくる。

もっと触れていたい……

いや、何を言うロッシュ。

僕はそんな男ではないはずだ!

「いくよ!」
「ええ。来て!」

「我の奴隷として汝の人生を捧げよ」

……。

詠唱が終わり、奴隷紋はしっかりと刻まれた。

「離してくれないか?」
「もうちょっと……いいでしょ?」

この状態はよろしくない。

だが……おかしい。

離れられない?

確かに離れがたいのは認めるが、マギー……力、強くないか?

むしろ……

「いたたたたた。マギー、頭が潰れる」
「えっ!?」

えっ!? っていいたいのは僕だ。

「マギーがこれほどの力があるとは知らなかったよ」
「冗談、よね? 冗談なんでしょ? 私、怪力なんてイヤよ!!」

マギーは何と戦っているんだ?

「えっと……冗談……かな? マギーは普通の女の子……だよ?」
「そう……そうよね。そう……よね」

一応、落ち着きを取り戻してくれただろうか……。

何はともあれ、デリンズ邸へ!

シェラとマギーを連れていく。

一応、サヤサにはマリーヌ様の護衛を頼んだ。

マリーヌ様はここに到着してからずっと同じ体勢で本を読み続けていた。

トイレはどうしているんだろう?

無粋なことが頭に浮かんでしまった。

「本物のレディーはトイレにはいかないものじゃぞ?」

こわっ!

余り触れずに部屋を出ていった。

「なぁ、マギー。どうして、腕を組んでくるんだ?」
「あら? いいじゃない。二人で街を散歩といったら、これでしょ?」

……とっても幸せな気分だ。

天気もいいし、風も気持ちいい。

散歩にはぴったりだ。

横にはかわいいマギーが……。

違う……違うぞ。

「やっぱり、離れてくれ。今は奴隷商の仕事中だ」
「あら? やっぱり、もっと過激なご奉仕がお望みかしら?」

何を楽しんでいるんだ?

奴隷紋を与えてから、少し様子が可怪しい。

なんというか……距離が近くなった。

「イルスは奉仕してほしい?」
「いや、結構だ」

マギーは相変わらず、離れようとしてくれない。

こんなに聞き分けが悪かったか?

衛兵もこの状況に閉口している様子だが、関わりたくないのか、すぐに通してくれた。

「僕達は一応、奴隷商としてここに来ている。屋敷には、そのついで感を出さないといけない」
「わかったわ」
「承知」

本当に分かっているんだろうか?

「マギー。離れてくれ。これでは仕事が出来ない」
「だって……ロッシュが好きすぎて、離れたくないんだもん」

だもん?

やっぱり、可怪しい。

「シェラ。お前か?」

さっきから、シェラの顔がどうも気になっていた。

マギーの行動にいちいち感心するような素振りも……

「惚れ薬は効果抜群」

惚れ薬?

……今朝飲んだやつか……

「とりあえず、解毒薬をくれ」
「承知。イルス、顔怖い」

マリーヌ様からの薬だけではない。

シェラからの薬も気をつけねば……。

デリンズ邸の裏……

使用人が使うようなドアが開かれた。

「よく来てくれた。イルス卿」
「わざわざの出迎え、ありがとうございます。早速、話をしましょう」

ライルも交えての秘密会議が行われようとしていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

異世界で至った男は帰還したがファンタジーに巻き込まれていく

竹桜
ファンタジー
 神社のお参り帰りに異世界召喚に巻き込まれた主人公。  巻き込まれただけなのに、狂った姿を見たい為に何も無い真っ白な空間で閉じ込められる。  千年間も。  それなのに主人公は鍛錬をする。  1つのことだけを。  やがて、真っ白な空間から異世界に戻るが、その時に至っていたのだ。  これは異世界で至った男が帰還した現実世界でファンタジーに巻き込まれていく物語だ。  そして、主人公は至った力を存分に振るう。

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

追放?俺にとっては解放だ!~自惚れ勇者パーティに付き合いきれなくなった俺、捨てられた女神を助けてジョブ【楽園創造者】を授かり人生を謳歌する~

和成ソウイチ
ファンタジー
(全77話完結)【あなたの楽園、タダで創ります! 追放先はこちらへ】 「スカウトはダサい。男はつまらん。つーことでラクター、お前はクビな」 ――その言葉を待ってたよ勇者スカル。じゃあな。 勇者のパワハラに愛想を尽かしていたスカウトのラクターは、クビ宣告を幸いに勇者パーティを出て行く。 かつては憧れていた勇者。だからこそここまで我慢してきたが、今はむしろ、追放されて心が晴れやかだった。 彼はスカルに仕える前から――いや、生まれた瞬間から決めていたことがあった。 一生懸命に生きる奴をリスペクトしよう。 実はラクターは転生者だった。生前、同じようにボロ布のようにこき使われていた幼馴染の同僚を失って以来、一生懸命に生きていても報われない奴の力になりたいと考え続けていた彼。だが、転生者であるにも関わらずラクターにはまだ、特別な力はなかった。 ところが、追放された直後にとある女神を救ったことでラクターの人生は一変する。 どうやら勇者パーティのせいで女神でありながら奴隷として売り飛ばされたらしい。 解放した女神が憑依したことにより、ラクターはジョブ【楽園創造者】に目覚める。 その能力は、文字通り理想とする空間を自由に創造できるチートなものだった。 しばらくひとりで暮らしたかったラクターは、ふと気付く。 ――一生懸命生きてるのは、何も人間だけじゃないよな? こうして人里離れた森の中で動植物たちのために【楽園創造者】の力を使い、彼らと共存生活を始めたラクター。 そこで彼は、神獣の忘れ形見の人狼少女や御神木の大精霊たちと出逢い、楽園を大きくしていく。 さらには、とある事件をきっかけに理不尽に追放された人々のために無料で楽園を創る活動を開始する。 やがてラクターは彼を慕う大勢の仲間たちとともに、自分たちだけの楽園で人生を謳歌するのだった。 一方、ラクターを追放し、さらには彼と敵対したことをきっかけに、スカルを始めとした勇者パーティは急速に衰退していく。 (他サイトでも投稿中)

ごめんみんな先に異世界行ってるよ1年後また会おう

味噌汁食べれる
ファンタジー
主人公佐藤 翔太はクラスみんなより1年も早く異世界に、行ってしまう。みんなよりも1年早く異世界に行ってしまうそして転移場所は、世界樹で最強スキルを実でゲット?スキルを奪いながら最強へ、そして勇者召喚、それは、クラスのみんなだった。クラスのみんなが頑張っているときに、主人公は、自由気ままに生きていく

Switch jobs ~転移先で自由気ままな転職生活~

天秤兎
ファンタジー
突然、何故か異世界でチート能力と不老不死を手に入れてしまったアラフォー38歳独身ライフ満喫中だったサラリーマン 主人公 神代 紫(かみしろ ゆかり)。 現実世界と同様、異世界でも仕事をしなければ生きて行けないのは変わりなく、突然身に付いた自分の能力や異世界文化に戸惑いながら自由きままに転職しながら生活する行き当たりばったりの異世界放浪記です。

若返った! 追放底辺魔術師おじさん〜ついでに最強の魔術の力と可愛い姉妹奴隷も手に入れたので今度は後悔なく生きてゆく〜

シトラス=ライス
ファンタジー
パーティーを追放された、右足が不自由なおじさん魔術師トーガ。 彼は失意の中、ダンジョンで事故に遭い、死の危機に瀕していた。 もはやこれまでと自害を覚悟した彼は、旅人からもらった短剣で自らの腹を裂き、惨めな生涯にピリオドを……打ってはいなかった!? 目覚めると体が異様に軽く、何が起こっているのかと泉へ自分の姿を映してみると……「俺、若返ってる!?」 まるで10代のような若返った体と容姿! 魔法の要である魔力経路も何故か再構築・最適化! おかげで以前とは比較にならないほどの、圧倒的な魔術の力を手にしていた! しかも長年、治療不可だった右足さえも自由を取り戻しているっ!! 急に若返った理由は不明。しかしトーガは現世でもう一度、人生をやり直す機会を得た。 だったら、もう二度と後悔をするような人生を送りたくはない。 かつてのように腐らず、まっすぐと、ここからは本気で生きてゆく! 仲間たちと共に!

異世界の力で奇跡の復活!日本一のシャッター街、”柳ケ瀬風雅商店街”が、異世界産の恵みと住民たちの力で、かつての活気溢れる商店街へと返り咲く!

たけ
ファンタジー
 突然亡くなった親父が残した錆びれた精肉店。このまんま継いでも余計、借金が増えるだけ。ならいっそ建物をつぶして、その土地を売ろうとえ考える。  だが地下室の壊れた保冷庫から聞こえる謎の音。ひかれるように壊れた保冷庫の扉を開けると、そこは異世界につながっていた。  これは異世界から魅力あふれる品物や食品を持ち込み、異世界で知り合った仲間と共に、自分のお店や商店街全体を立て直していく物語。  物語の序盤は、違法奴隷や欠損奴隷、無理やり娼館で働かせられているエルフや人族、AV出演を迫られている女性などを助けていく話がメインです。中盤(100話以降)ぐらいからやっと、商店街を立て直していきます。長い目でお付き合いして頂けるとありがたいです。  また、この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、企業、地名などとは一切関係ありません。また、物語の中で描かれる行為や状況は、著者の想像によるもので、実際の法律、倫理、社会常識とは異なる場合があります。読者の皆様には、これらをご理解の上、物語としてお楽しみいただけますと幸いです。

処理中です...