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スラム編
第26話 道普請
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王国印の肥料を使った畑をスラム郊外に広げることを決めた。改めて、旧都を歩いてみるとなかなか面白かった。スラムはちょうど旧都の中心部に作られていて、中心に草が生えた大きな空き地がある。昔はそこに城があったんだと思う。
旧都は大きく塀に囲まれている。あまりにも塀がぼろぼろでよく見ないと分からない程度だけど……。塀の内側でもかなりの広さだ。多分、二キロメートル位はあるんじゃないか。更に外側にも壁があるけど、今は考えなくても良さそうだ。
スラム畑は、この最も内側の塀の近くに作る予定だ。ニッジが言うには、ここが最適らしい。
「塀に沿って、水が流れているだろ? きっと農業用の水路のはずだ」
なるほど……言われてみれば、水が流れているが……水路? あまりにも水の量が少なすぎて、無視してしまう程なんだけど。
「おそらく長い年月で土砂が堆積してしまったんだろうな。まずはこれを復活させることから始めないと。水路が確保できれば、畑作りはかなり簡単になるはずだ」
穴を掘るってことかな? だったら僕の魔法で……えっ? だめ? なんで?
「畑づくりと水路の整備はオレ達で十分に出来る。ガーフェさんがスラムの人達を動員して、五千人くらい呼んでくれるらしいからな。だから、ロランには道普請をしてほしいんだ」
道普請か……たしかに必要かも知れないな。旧都とは言え、すでに何十年という歳月が流れているせいで、道だった場所も分からず、ただただ草が生い茂る平原と化している。ここに道を作るのはスラムから畑に通う際にも移動時間短縮のために必要なことだ。
さらに言えば、畑の収穫物を運搬するときの荷車が今のままでは使えないのだ。
それにしても、五千人を動員するとは意外だったな。スラムには大体一万人くらいの人が住んでいるはずだ。はずだ、というのは誰も把握していないって意味ね。ガーフェがリーダーになった頃に人数を把握するために調べたらしいんだけど、その時は五千人くらいだったらしいんだ。
それから十年で、その何倍もの人が入ってきていると言うから実際は二万人から三万人くらいになっているかも知れないらしい。そう言う意味では五千人というのは意外と多くないかも知れないけど。
ただ、僕が心配しているのは五千人もの人に賃金を払えないことだ。一応、彼らも仕事として来ているはずだから、せめて多めに少量を手渡すとかの方法を取らなくてはならない。そのための元手がまったくないのだ。
「ロランは気にしすぎなんじゃないのか? 最初っからもらえるなんても思っているやつなんて、いないだろ。畑で野菜を作って、それをもらえれば、位にしか思ってないんじゃないか?」
そんなものなんだろうか? とりあえず、万が一に備えて砂金だけは準備しておいたほうがいいな。微量でも給金として十分なはずだ。
すると、スラム畑の現場にマリアと孤児院の子供たちがやってきた。なんか孤児院の子供たちと会うのは久々? いや、そんなことはないぞ。ちゃんと毎日のように勉強を教えに行っているからね。中でもララの勉強はかなりのものだ。読み書き、計算は完璧だし、今では大人が読みそうな難しい本にまで手を出し始めている。
そんなララもマリアとなにやら難しい話をしている。邪魔はしないでおこう……と思ったが、マリアに呼び止められてしまった。
「ロラン様。相変わらずの見目麗しい姿に鼻血が……いえ、大丈夫です。おはようございます。子供たちがどうしてもニッジに会いに行きたいというものですから。お邪魔だったでしょうか?」
「そんなことはないぞ。ただ、これから人が大勢集まる予定だから迷子だけにならないようにね。それと僕だけは別行動をするんだ」
マリアはどちらに? とは言わない。付いてくるのは当たり前のようだ。ララは弁当を掲げてくるので、ララも一緒に行くようだ。
「ララ。勉強の方はどうだい?」
「うん。シスターに教えてもらっているの。武術を」
うんうん。ん? 武術? あれ? ちょっと聞き間違いかな? いや、そもそもマリアが武術教えているの?
「そうなんですよ。ララには戦闘で光るものがありますからね。今から伸ばせば、戦場で敵なしの女戦士にすることができそうですよ」
そうなのか……ララが。確かに怪力は相当なものだと思っていたけど。戦闘の才能が……それで、なんでマリアが戦闘を教えられるんだ?
「そんなに私が気になりますか? 分かりました。ロラン様がどうしても知りたいというのなら」
マリアが急に修道服の裾をめくり始めた。えっ? 何してるの? と思ったら、裾をしばって、動きやすいような格好をした。そう思ったら、華麗な動きで……舞い始めた。多分、武術家何かなんだろうけど、すごくきれいな動きだ。下着丸見えだけど、そんなことが気にならないほどに。
マリアは五分ほど動いてから、一呼吸おいた。ララはマリアの動きを真剣な眼差しで見ている。立派な師弟関係になっているな。
「私はシスターになる前は……戦士でした。戦うことに溺れ、毎日、戦場で暴れておりました。常に血の臭いがしていたんですよ」
なに、それ。凄く怖い人じゃん。マリアが? 冗談でしょ?
「ふふっ。本当ですよ」
笑顔が怖い!! なんか、怖い!!
「ララも立派な戦士にさせますから。そうしたら、ロラン様の護衛としてつかせますね。それがララの願いですから。ね?」
ララも強く頷く。僕の護衛だって? ニッジといい、ララも僕に何を期待しているのだろうか? まぁ、ニッジと同じく放っておこう。どんな目的にしても、ララが毎日突き進むのはいい事なんだろう。
ガーフェはしばらく現場には来れないと言うので、ニッジが主たる責任者ということになる。すでに肥料作りで数百人を指揮してきたニッジは風格が出てきたような気がする。
五千人という人数を前に動じる様子もなく、実に頼もしい。僕の方は、今後の成否が心配で不安な表情を浮かべているだろうか? するとニッジが淀みもなく、五千人に指示を飛ばし、すぐに作業に入り始めた。畑作りに四千人、水路整備に千人を割り振り、まずは最初の畑を作るみたいだ。
「シスター、ララ。僕達も行こうか」
といっても、道はここから始まる。さて、どうしようかな。目の前には五千人が通ったおかげで草は踏み潰され、道らしいものが出来ている。これを土魔法で整備すればいいんだな。
まずは……草を取り除くか。草を取るのは面倒だから、土をひっくり返してしまおう。イメージをすると、幅五メートル、長さ百メートルの土がひっくり返った。しかし、凸凹になってしまったな。
それを平らにして……とりあえず、道らしいのが完成したぞ。マリアが完成した道を歩くと、ずぶずぶと足が沈んでいく。ちょっと柔らかすぎか……僕も爪が甘いな。
土を締め固めるイメージか……隙間を埋めるイメージでいいのかな? とりあえず、やってみよう。すると、窪んだ道が完成した。マリアが再び道を踏んでから、何度も触っている。
「凄いですよ。ロラン様。黒光りして、凄く固いです……何度も触っていたくなりますね」
……まぁいいか。なぜ恍惚な表情を浮かべているのか不思議だが、無視しておこう。固く締まった道が出来たのは良かったんだけど、窪んでしまったせいで雨が降ったら、水が溜まってしまうぞ。周りから土を持ってきて、周りより高くするか。
何度も試行錯誤を繰り返していくうちに、完成形がようやく見えてきた。まずは土をひっくり返す。それから道の横に溝を切っていく。その土を道路に盛っていき、均した上で固く締めていく。
この道の優れているところは、雨対策が万全ということだ。雨が降っても横の溝に水が流れる仕組みだ。路面が泥にならないから、荷車も簡単に進むことが出来るというわけだ。
さて、どんどん進んでいくか……と思ったけど魔力切れのようだ。ふらついて、手を着いてしまった。マリアが駆け寄ってきて、僕を寝かせて膝枕をしてくれた。なんだか、恥ずかしいけど体調がそれを拒むことが出来ない。凄く癒やされる……頭に伝わる暖かさと柔らかさ。枕とは違った感触に幸せな気分になる。
目を開ければ、双丘が見えマリアの顔を覗くことが出来ない。
そんな調子で、何度も繰り返しながら道普請を続けていった。次の日からマリアの修道服の丈が凄く短くなっていたけど……なんでだろ?
旧都は大きく塀に囲まれている。あまりにも塀がぼろぼろでよく見ないと分からない程度だけど……。塀の内側でもかなりの広さだ。多分、二キロメートル位はあるんじゃないか。更に外側にも壁があるけど、今は考えなくても良さそうだ。
スラム畑は、この最も内側の塀の近くに作る予定だ。ニッジが言うには、ここが最適らしい。
「塀に沿って、水が流れているだろ? きっと農業用の水路のはずだ」
なるほど……言われてみれば、水が流れているが……水路? あまりにも水の量が少なすぎて、無視してしまう程なんだけど。
「おそらく長い年月で土砂が堆積してしまったんだろうな。まずはこれを復活させることから始めないと。水路が確保できれば、畑作りはかなり簡単になるはずだ」
穴を掘るってことかな? だったら僕の魔法で……えっ? だめ? なんで?
「畑づくりと水路の整備はオレ達で十分に出来る。ガーフェさんがスラムの人達を動員して、五千人くらい呼んでくれるらしいからな。だから、ロランには道普請をしてほしいんだ」
道普請か……たしかに必要かも知れないな。旧都とは言え、すでに何十年という歳月が流れているせいで、道だった場所も分からず、ただただ草が生い茂る平原と化している。ここに道を作るのはスラムから畑に通う際にも移動時間短縮のために必要なことだ。
さらに言えば、畑の収穫物を運搬するときの荷車が今のままでは使えないのだ。
それにしても、五千人を動員するとは意外だったな。スラムには大体一万人くらいの人が住んでいるはずだ。はずだ、というのは誰も把握していないって意味ね。ガーフェがリーダーになった頃に人数を把握するために調べたらしいんだけど、その時は五千人くらいだったらしいんだ。
それから十年で、その何倍もの人が入ってきていると言うから実際は二万人から三万人くらいになっているかも知れないらしい。そう言う意味では五千人というのは意外と多くないかも知れないけど。
ただ、僕が心配しているのは五千人もの人に賃金を払えないことだ。一応、彼らも仕事として来ているはずだから、せめて多めに少量を手渡すとかの方法を取らなくてはならない。そのための元手がまったくないのだ。
「ロランは気にしすぎなんじゃないのか? 最初っからもらえるなんても思っているやつなんて、いないだろ。畑で野菜を作って、それをもらえれば、位にしか思ってないんじゃないか?」
そんなものなんだろうか? とりあえず、万が一に備えて砂金だけは準備しておいたほうがいいな。微量でも給金として十分なはずだ。
すると、スラム畑の現場にマリアと孤児院の子供たちがやってきた。なんか孤児院の子供たちと会うのは久々? いや、そんなことはないぞ。ちゃんと毎日のように勉強を教えに行っているからね。中でもララの勉強はかなりのものだ。読み書き、計算は完璧だし、今では大人が読みそうな難しい本にまで手を出し始めている。
そんなララもマリアとなにやら難しい話をしている。邪魔はしないでおこう……と思ったが、マリアに呼び止められてしまった。
「ロラン様。相変わらずの見目麗しい姿に鼻血が……いえ、大丈夫です。おはようございます。子供たちがどうしてもニッジに会いに行きたいというものですから。お邪魔だったでしょうか?」
「そんなことはないぞ。ただ、これから人が大勢集まる予定だから迷子だけにならないようにね。それと僕だけは別行動をするんだ」
マリアはどちらに? とは言わない。付いてくるのは当たり前のようだ。ララは弁当を掲げてくるので、ララも一緒に行くようだ。
「ララ。勉強の方はどうだい?」
「うん。シスターに教えてもらっているの。武術を」
うんうん。ん? 武術? あれ? ちょっと聞き間違いかな? いや、そもそもマリアが武術教えているの?
「そうなんですよ。ララには戦闘で光るものがありますからね。今から伸ばせば、戦場で敵なしの女戦士にすることができそうですよ」
そうなのか……ララが。確かに怪力は相当なものだと思っていたけど。戦闘の才能が……それで、なんでマリアが戦闘を教えられるんだ?
「そんなに私が気になりますか? 分かりました。ロラン様がどうしても知りたいというのなら」
マリアが急に修道服の裾をめくり始めた。えっ? 何してるの? と思ったら、裾をしばって、動きやすいような格好をした。そう思ったら、華麗な動きで……舞い始めた。多分、武術家何かなんだろうけど、すごくきれいな動きだ。下着丸見えだけど、そんなことが気にならないほどに。
マリアは五分ほど動いてから、一呼吸おいた。ララはマリアの動きを真剣な眼差しで見ている。立派な師弟関係になっているな。
「私はシスターになる前は……戦士でした。戦うことに溺れ、毎日、戦場で暴れておりました。常に血の臭いがしていたんですよ」
なに、それ。凄く怖い人じゃん。マリアが? 冗談でしょ?
「ふふっ。本当ですよ」
笑顔が怖い!! なんか、怖い!!
「ララも立派な戦士にさせますから。そうしたら、ロラン様の護衛としてつかせますね。それがララの願いですから。ね?」
ララも強く頷く。僕の護衛だって? ニッジといい、ララも僕に何を期待しているのだろうか? まぁ、ニッジと同じく放っておこう。どんな目的にしても、ララが毎日突き進むのはいい事なんだろう。
ガーフェはしばらく現場には来れないと言うので、ニッジが主たる責任者ということになる。すでに肥料作りで数百人を指揮してきたニッジは風格が出てきたような気がする。
五千人という人数を前に動じる様子もなく、実に頼もしい。僕の方は、今後の成否が心配で不安な表情を浮かべているだろうか? するとニッジが淀みもなく、五千人に指示を飛ばし、すぐに作業に入り始めた。畑作りに四千人、水路整備に千人を割り振り、まずは最初の畑を作るみたいだ。
「シスター、ララ。僕達も行こうか」
といっても、道はここから始まる。さて、どうしようかな。目の前には五千人が通ったおかげで草は踏み潰され、道らしいものが出来ている。これを土魔法で整備すればいいんだな。
まずは……草を取り除くか。草を取るのは面倒だから、土をひっくり返してしまおう。イメージをすると、幅五メートル、長さ百メートルの土がひっくり返った。しかし、凸凹になってしまったな。
それを平らにして……とりあえず、道らしいのが完成したぞ。マリアが完成した道を歩くと、ずぶずぶと足が沈んでいく。ちょっと柔らかすぎか……僕も爪が甘いな。
土を締め固めるイメージか……隙間を埋めるイメージでいいのかな? とりあえず、やってみよう。すると、窪んだ道が完成した。マリアが再び道を踏んでから、何度も触っている。
「凄いですよ。ロラン様。黒光りして、凄く固いです……何度も触っていたくなりますね」
……まぁいいか。なぜ恍惚な表情を浮かべているのか不思議だが、無視しておこう。固く締まった道が出来たのは良かったんだけど、窪んでしまったせいで雨が降ったら、水が溜まってしまうぞ。周りから土を持ってきて、周りより高くするか。
何度も試行錯誤を繰り返していくうちに、完成形がようやく見えてきた。まずは土をひっくり返す。それから道の横に溝を切っていく。その土を道路に盛っていき、均した上で固く締めていく。
この道の優れているところは、雨対策が万全ということだ。雨が降っても横の溝に水が流れる仕組みだ。路面が泥にならないから、荷車も簡単に進むことが出来るというわけだ。
さて、どんどん進んでいくか……と思ったけど魔力切れのようだ。ふらついて、手を着いてしまった。マリアが駆け寄ってきて、僕を寝かせて膝枕をしてくれた。なんだか、恥ずかしいけど体調がそれを拒むことが出来ない。凄く癒やされる……頭に伝わる暖かさと柔らかさ。枕とは違った感触に幸せな気分になる。
目を開ければ、双丘が見えマリアの顔を覗くことが出来ない。
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