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スラム編
第21話 勘違い
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シャンドル公を連れて、砂金の収集場所へと向かうことにした。スラムからだと時間がかかる事を告げて、行くのを遠慮してもらいたかったが、残念ながらそうもいかなかった。
「金が絡んでいるとなれば話は別だ。私自ら出向く必要性もあるだろう。それにロランと言ったな。道すがら、話でも聞こうではないか」
「はあ。しかし宜しいのですか?」
僕はシャンドル公の後ろに控えている役人がこちらを凄く睨んでいるのが、さっきから目に入っていて気になって仕方ないのだ。おそらく、スラムの人間が、シャンドル公と話しているのが気に食わないのか、そもそもスラムの人間を嫌っているかとどちらかだろう。
「気にするな。あれはここを管理している者だが、私がやってきたことにあまりいい顔をしていないだけだ。それに金の存在を王国が先に知ってしまって歯噛みしているのだろうな。そんな小物に臆する必要はない」
役人とは言え、王国では同僚ではないのかな? そんな人に対して随分な言いようをするんだな。まぁ、気にするなと言われれば、気にしないようにしよう。少なくともシャンドル公の近くにいれば、何かしてくるようなことはないだろう。
シャンドル公はすぐに号令を出し、スラムを離れ、金の収集場所に向かうことにした。僕とガーフェ、それに数名が同行することになった。ガーフェは色々と根回しをして、接待とかしようとしていたみたいだけど全て断られたらしい。
「急ぐゆえ、すまぬな」
シャンドル公はこれだけ言った。ガーフェはシャンドル公の人物を計るつもりだったみたいだが、なかなか難儀しているようだ。
道中はシャンドル公はずっと僕の側から離れようとしなかった。
「ロランはどのようにして金を見つけたのだ?」
最初の質問がそれだった。別に隠す必要もないし、何か大きな秘密があるわけでもないからな。ガーフェの部下が貝殻集めが趣味で、それで見つけたと言ったら笑われた。
「何かおかしなことを言いました?」
「いや、そうではない。実はな、王国は今、金や銀の鉱山を探していてな。王はその情報を王国中から集めては、試し掘りを繰り返しているが、なかなか成果が上がらないんだ」
「そんな話、僕にしてもいいんですか? 一応は国の重要な話なのではないですか?」
「いいんだ。こんな話、王都では子供でも知っている。まぁ、それでな。情報は様々だ。尤もらしいものから馬鹿げたものまであるが、貝殻なんて馬鹿話の部類であろうな。それが金の有力な情報となるとはな。さすがにルシンでも見抜けまい」
ルシン? 誰?
「王国の民ならば、王の名ぐらい覚えておかねばな」
王の名前でしたか……王を名前で呼ぶって結構普通なのかな? 僕もそんな風に気さくに呼んでも大丈夫そう?
「打ち首覚悟なら呼ぶが良い」
ダメじゃん。シャンドル公って命知らずなんだな。もしかしたら、今日が最後かも知れないな。
「不躾ながら……ここで思い残すことはありませんか?」
「何を分けの分からぬことを言っているのだ? 私はルシンとは学友であり、親友であるつもりだ。ロランも親友は名で呼ぶであろう?」
呼ぶけど……そもそも気兼ねする敬称の人って周りにいないですけどね。
休憩を何度か挟みながら、目的地に向かっていく。正直、シャンドル公の相手をするのも疲れてくる。かなり話が好きみたいで、途切れる様子がない。おかげで、王城の様子とか知ることが出来て面白かったけど、砂浜につく前に疲れそう。
「そういえば……師匠……ティスのことを知っているんですか? 本人は最高の錬金術師とか言っていますけど」
ティスの話になると、急に口が重くなったようだ。もしかして……昔の女とか? だったら、知っていても納得だ。なんで、僕の話から師匠のことがわかったかは謎だけど、少なくともシャンドル公と師匠の間には何かあるぞ。
「うむ……話してよいか悩むところだが……」
ほら。やっぱり、そうだ。しかし、ティスが恋愛とかするんだなぁ。意外だ。
「ティスは我が屋敷のお抱えの錬金術師だったのだよ。確かに最高の錬金術師かも知れないぬが、錬金術を大して披露はしてくれなかったな」
ほお。同棲をしていたということか。まぁ、大人同士だ。大して珍しくもないことだろうな。しかも相手は大貴族だ。師匠はきっと数ある女性のうちの一人だったのだろうな。
「私がとある女性と揉めたのだ」
そうだろうそうだろう。師匠が数多いる女性のうちの一人という立場に納得するわけがない。当然、シャンドル公の寵愛が熱い人に対して、嫌がらせをするだろうな。当然、揉める、と。
「私としてはどうしても居てほしかった。しかし、周りが許さなかった。しかも、その女性には私の子が身籠っていたのだ」
師匠が急に悪人に見えてきたぞ。身籠った女性に嫌がらせした挙句、屋敷から追い出してしまうとは……。続きが気になるな。師匠はどうなったのだ?
「ティスも女性共々、屋敷からいなくなってしまったのだ」
さすがの師匠も自責の念に襲われたか。なるほど。それでスラムに逃げてきたというわけか。そういえば、師匠は僕を母親から預かったという言っていたな。
……分かったぞ。分かってしまったぞ。
自分が身籠った女性を陥れた事を悔やんでいたんだ。おそらく、スラムで僕を抱えた母親がいたんだ。そして、母親が何らかの理由で僕を手放さなければならない事情が出来た。その時に師匠が手を差し伸べたんだ。
師匠が僕を育てる理由がやっと分かった気がする。
「ありがとうございます。シャンドル公。僕は自分の事が少し分かった気がします」
「ふむ。しかし、それを知れば、ロランは不幸になるやも知れぬ。深入りはしないことだ。お前には残念だが、機会は訪れぬだろうな」
どういうことだ? 師匠が僕を育てるのに他に理由が? それを知ると不幸になるということか? 機会がないということはどういうことだ? 理由なら、師匠から聞けばいい話ではないか。シャンドル公も意外と諦めが早いんだな。
「僕は諦めませんよ。どんなに時間がかかっても、どんな障害が立ちはだかろうとも、やり遂げてみせます」
自分の出自に関わることだ。師匠の卑怯な手でも、嘘でも乗り越えて、真実に辿り着いてみせる。それを知ることで、僕は師匠と初めて対等になれる気がするんだ。
シャンドル公も僕の気迫に押されているようだ。十歳だからといって甘く見られては困る。
「それは本気で言っているのか?」
念を押されるまでもない。
「もちろんです。それが僕の出自の運命のようなものですから」
「その歳で、その覚悟……見事だ。ならば、私も力を貸そう。お前の運命は大きく変わるやも知れないな」
まさかのシャンドル公の申し出。しかし、大丈夫かな? 師匠と昔、色々あったんだよね? いまさら、力を貸してくれても、ややっこしくなるだけなんじゃないか?
「嬉しい申し出ですが……僕の力でやってみたいのです。ですから……」
「ますます驚いたな。一体、何を目指しているのか、本当に分かっているのか?」
もちろんですとも。強大な変態師匠の口を開こうというのだ。これ以上の強敵はいないだろう。僕は真剣な眼差しで、頷いた。
「これは私も本気にならざるを得ないようだな。私の知らぬ間にロランは傑物になっていたようだ。私の力が不服なら王なら問題なかろう。私から王に進言しておこう。すぐにどうこうというわけではないがな」
師匠!! なんか知らない間に王に目をつけられるような存在になってしまいましたよ。さすがにこれはマズイかも知れない。王が出てくるより、シャンドル公の方がいいかも知れない。
「王なんて恐れ多い。気分が害していないのであれば、シャンドル公にお願いしたいと思います」
「うむ。任せておけ。手はずはそれなりにかかってしまうが、許せ」
別に急ぐ話でもないし、頭を下げられても困ってしまうんだけど……。
「僕の力で出来ないか……出来るならば、シャンドル公の力なく成し遂げたいのです。これは僕の問題ですから」
「なにをたわけたことを言っているのだ!!」
えっ⁉ なんで怒られたの?
「この問題はロラン一人の問題ではない!! わがシャンドル家、ひいては王国にも関わる大きな問題なのだ。やはり、自覚が足りなかったようだな。よいか? 時間はさほどにない。しっかりと考えておくことだな」
師匠が僕を育てている理由が王国にも関わるだって!? 一体、どんな秘密が……・いや、その前にシャンドル公はもしかして知っているのではないか? 僕が怪訝な顔をしていると、何を勘違いしたのか、シャンドル公は二本の指を立てた。
「二年だ。この時間をやろう。その間に自らのなすべきことを見極めろ。そして、それを私に証明するのだ。よいな?」
なるほど……どうやら僕は勘違いをしていたようだ。シャンドル公は全てを知っている。しかし、それを知るためには僕の覚悟が必要だったんだ。そして、今の僕にはそれが足りないようだ。
「でも、どうやって?」
「そんな事は自分で考えることだが……そうだな。この場所で、自らの遣りたいことをやってみろ。その結果が良かろうが悪かろうが、お前自身への評価となる。私がそれを見極める。それでどうだ?」
そんなことなら簡単だ。僕はスラムの人達が笑顔になるように頑張る。それだけだ。そうなると、一人でも多くの人が笑顔になれば、秘密を教えてくれるということだろう。
「分かりました。頑張ってみます」
変な話をしてしまったが、二年間の目標が出来た。それにしても、王国に関わる秘密って一体何なんだろうか? 全く、想像できないぞ。
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僕はシャンドル公の後ろに控えている役人がこちらを凄く睨んでいるのが、さっきから目に入っていて気になって仕方ないのだ。おそらく、スラムの人間が、シャンドル公と話しているのが気に食わないのか、そもそもスラムの人間を嫌っているかとどちらかだろう。
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ルシン? 誰?
「王国の民ならば、王の名ぐらい覚えておかねばな」
王の名前でしたか……王を名前で呼ぶって結構普通なのかな? 僕もそんな風に気さくに呼んでも大丈夫そう?
「打ち首覚悟なら呼ぶが良い」
ダメじゃん。シャンドル公って命知らずなんだな。もしかしたら、今日が最後かも知れないな。
「不躾ながら……ここで思い残すことはありませんか?」
「何を分けの分からぬことを言っているのだ? 私はルシンとは学友であり、親友であるつもりだ。ロランも親友は名で呼ぶであろう?」
呼ぶけど……そもそも気兼ねする敬称の人って周りにいないですけどね。
休憩を何度か挟みながら、目的地に向かっていく。正直、シャンドル公の相手をするのも疲れてくる。かなり話が好きみたいで、途切れる様子がない。おかげで、王城の様子とか知ることが出来て面白かったけど、砂浜につく前に疲れそう。
「そういえば……師匠……ティスのことを知っているんですか? 本人は最高の錬金術師とか言っていますけど」
ティスの話になると、急に口が重くなったようだ。もしかして……昔の女とか? だったら、知っていても納得だ。なんで、僕の話から師匠のことがわかったかは謎だけど、少なくともシャンドル公と師匠の間には何かあるぞ。
「うむ……話してよいか悩むところだが……」
ほら。やっぱり、そうだ。しかし、ティスが恋愛とかするんだなぁ。意外だ。
「ティスは我が屋敷のお抱えの錬金術師だったのだよ。確かに最高の錬金術師かも知れないぬが、錬金術を大して披露はしてくれなかったな」
ほお。同棲をしていたということか。まぁ、大人同士だ。大して珍しくもないことだろうな。しかも相手は大貴族だ。師匠はきっと数ある女性のうちの一人だったのだろうな。
「私がとある女性と揉めたのだ」
そうだろうそうだろう。師匠が数多いる女性のうちの一人という立場に納得するわけがない。当然、シャンドル公の寵愛が熱い人に対して、嫌がらせをするだろうな。当然、揉める、と。
「私としてはどうしても居てほしかった。しかし、周りが許さなかった。しかも、その女性には私の子が身籠っていたのだ」
師匠が急に悪人に見えてきたぞ。身籠った女性に嫌がらせした挙句、屋敷から追い出してしまうとは……。続きが気になるな。師匠はどうなったのだ?
「ティスも女性共々、屋敷からいなくなってしまったのだ」
さすがの師匠も自責の念に襲われたか。なるほど。それでスラムに逃げてきたというわけか。そういえば、師匠は僕を母親から預かったという言っていたな。
……分かったぞ。分かってしまったぞ。
自分が身籠った女性を陥れた事を悔やんでいたんだ。おそらく、スラムで僕を抱えた母親がいたんだ。そして、母親が何らかの理由で僕を手放さなければならない事情が出来た。その時に師匠が手を差し伸べたんだ。
師匠が僕を育てる理由がやっと分かった気がする。
「ありがとうございます。シャンドル公。僕は自分の事が少し分かった気がします」
「ふむ。しかし、それを知れば、ロランは不幸になるやも知れぬ。深入りはしないことだ。お前には残念だが、機会は訪れぬだろうな」
どういうことだ? 師匠が僕を育てるのに他に理由が? それを知ると不幸になるということか? 機会がないということはどういうことだ? 理由なら、師匠から聞けばいい話ではないか。シャンドル公も意外と諦めが早いんだな。
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自分の出自に関わることだ。師匠の卑怯な手でも、嘘でも乗り越えて、真実に辿り着いてみせる。それを知ることで、僕は師匠と初めて対等になれる気がするんだ。
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「嬉しい申し出ですが……僕の力でやってみたいのです。ですから……」
「ますます驚いたな。一体、何を目指しているのか、本当に分かっているのか?」
もちろんですとも。強大な変態師匠の口を開こうというのだ。これ以上の強敵はいないだろう。僕は真剣な眼差しで、頷いた。
「これは私も本気にならざるを得ないようだな。私の知らぬ間にロランは傑物になっていたようだ。私の力が不服なら王なら問題なかろう。私から王に進言しておこう。すぐにどうこうというわけではないがな」
師匠!! なんか知らない間に王に目をつけられるような存在になってしまいましたよ。さすがにこれはマズイかも知れない。王が出てくるより、シャンドル公の方がいいかも知れない。
「王なんて恐れ多い。気分が害していないのであれば、シャンドル公にお願いしたいと思います」
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「僕の力で出来ないか……出来るならば、シャンドル公の力なく成し遂げたいのです。これは僕の問題ですから」
「なにをたわけたことを言っているのだ!!」
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「二年だ。この時間をやろう。その間に自らのなすべきことを見極めろ。そして、それを私に証明するのだ。よいな?」
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「でも、どうやって?」
「そんな事は自分で考えることだが……そうだな。この場所で、自らの遣りたいことをやってみろ。その結果が良かろうが悪かろうが、お前自身への評価となる。私がそれを見極める。それでどうだ?」
そんなことなら簡単だ。僕はスラムの人達が笑顔になるように頑張る。それだけだ。そうなると、一人でも多くの人が笑顔になれば、秘密を教えてくれるということだろう。
「分かりました。頑張ってみます」
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