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第403話 魔族たちとの決戦

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 王弟により召喚された魔族達は正面から衝突した。カミュの思いがけない大魔法の奇襲も相手に対して大したダメージを与えることはなかった。魔族と接触する寸前には、魔族達が吹き飛んでいったのだ。ドラドがドラゴンの姿に変身してブレスを吐いたのだ。

 ドラゴンのブレスは強烈なものだ。触れるもの全てをなぎ払い、大きなダメージを与えるはずだった……しかし、魔族達は吹き飛びこそすれダメージは大して受けていない様子だ。どう考えても異常なほどの強さだ。かなりヤバイかも知れない。

 ミヤの眷属達も戦いに入ったようだ。個人的な戦闘能力という点ではミヤよりかなり劣る眷属達は巧みな連携技により戦いを有利に進めていく戦い方をしている。それで敵を一体一体倒していくのだが……一体を倒すのに時間がかかりすぎているため、むしろ魔族達に包囲されそうになっている。

 それをミヤが単独で包囲されないギリギリのところで保っている状態だ。トラン達も似たようなものだ。ただミヤの眷属より個々の戦闘能力が高いので、こちらは包囲される前に敵を倒していっている感じだ。そのため、トランは比較的自由に目の前の敵を倒している。リードとルードは広場の端の方にある高い建物の屋根や木の上から狙撃をしている。

 リードとルードが矢を射る度に小爆発が起きる。どうやら鏃に爆弾を仕込んでいるようだ。そのおかげで、腕や足を吹き飛ばす魔族が続出し、戦力を低下させることに成功している。手元の団扇に魔力を流し、敵陣に強烈な風を与え続けている。少しはダメージに繋がっていると良いが、むしろ前に進めないことで苛立ちを感じている魔族の怒りを集めているような気がするな。睨んでくる魔族の量が尋常ではない。

 手を止めたら最期だな。この陣形でようやく僕達と魔族の戦力は拮抗状態と言ったところだ。怪我をすれば、後方にはシェラを待機させているので治療を受けることができる。

「これなら、なんとかなるかもしれないな……」

 独り言を呟くが、気になる存在がいる。それは魔獣になった王弟の姿だ。手に魔属性のアウーディア石を握ったまま立ち尽くしている。王弟の力はミヤやトランが言うには、大したものではないらしいが魔族達の飛躍的な力の向上を目の当たりにすると元人間の王弟と言えども危険かも知れない。

 戦いを続けていく内に、有利になり始めていた。一進一退を続けながらも、こちらにはシェラという回復魔法が使える者がいるため戦力が低下しにくい。一方、魔族は違う。倒れればそれまでなのだ。最初は、数の上ではやや魔族が多かったが、今では半分以上の魔族を討ち取ったことになる。このまま行けば……。

 団扇を握る手にも力が入る。それにもう少しで終わると思えば力が湧いてくるものだ。しかし、無情にも状況が一変したのだ。今まで動きを見せてこなかった王弟が石に何かをすると、その波動が周囲に魔族に影響をしだす。

「皆!! 倒れた魔族が起き出したぞ。一旦、下がれ!!」

 魔族を倒すとそれを踏みながら少しずつ前進していっている。魔族が起き上がれば囲まれてしまうのだ。皆に声をかけると、すぐに後方に再び下がり始めた。流石にミヤは堪らない様子だ。

「勘弁してよね。復活するとかないでしょ。もう!!」

 振り出しに戻ってしまった。王弟は一度魔族が復活すると、再び動きを止めてしまう。もしかして、石の力がなくなるまでこの状態が続くわけ? しかし、王弟から石を取り上げようにも分厚い魔族の壁を超えなければならない。やはり魔族を倒し切るしか方法はない。でも、皆は魔族との戦いに少しずつ慣れて倒す速度が早くなっているから、希望はあるな。

 再び、魔族達に向かい進み始めた。しかし、様子が少しおかしい。

 魔族達……強くなってないか?

 さっきまで一体を倒すのに然程時間がかかっていなかったトランの眷属達も一体に苦戦をするようになっていった。トランもさすがに眷属達のサポートに回らざるを得ない様子だ。一体、どうなってるんだ。団扇に送っている魔力を一段増やすことになった。団扇から出る烈風では足止めにすらならなくなってしまったのだ。

 大多数の魔族の足止めが出来ているから、皆はなんとか戦っていられるんだ。この状態を崩すわけにはいかない。それでも長続きはしそうにもないぞ。団扇はその特性上、どんどん魔力を吸っていくのだ。オリハルコンがこの魔素のない世界で形を維持するためだけの魔力だ。

 なけなしの魔力回復薬を口にしながら、風を送り続ける。ドラドも同じようにブレスで敵を吹き飛ばし続けるが、魔族も徐々に学習をして動きが複雑になってきたのだ。そのため僕とドラドの風の猛威から抜け出す魔族が少しずつ増えていく。

 それらの魔族がミヤやトラン達に襲いかかるのだ。それでもなんとか拮抗した状態を作っていた。

「やはりミヤやトラン達は強いな。また敵を倒す速度が上がっているぞ。これなら……」

 そして、魔族がようやく数が減り始め、王弟に手が届きそうな距離まで近づこうとすると、王弟が再び石から波動を出し始めた。

 くっ……またか。今度は僕が言うまでもなく、皆が後方に下がり始めた。ミヤが息を切らせている。

「また強くなるんじゃないでしょうね。この子たちも結構限界かも知れないわ」

「ロッシュ君。まだ体は大丈夫か? ここいらで一発逆転といきたいところだな。このままの調子では我らのほうがジリ貧になってしまう」

 一発逆転と言われてもな。そんな方法が……あっ、あった。

「トラン、前みたく先祖返りできないのか?」

「う、うむ。実はなあれから何度も挑戦しているのだが、出来ないのだ。真紅のなんとかも大量に飲んでいるのだが。肌ばかり綺麗になるばかりで、なんの反応もないのだよ」

 真紅のなんとかって、トマトジュースね。こうなったら敵を押さえつけていたドラドに直接攻撃に切り替えてもらうしかないな。

「ドラド。次からはトラン達と一緒に戦いに参加してくれ」

「でもロッシュ。敵を抑えられなくなるぞ」

「なんとか僕がやってみる」

「ロッシュ君。それは無茶だろ。今でも君の体はボロボロなんだ。今無理をすれば、どんなことになるか分からないぞ」

「そうはいっても、なんとかしなければならないだろう。でも、そんなにチャンスはない。これを最期だと思ってくれると助かる」

「無論だ。我等とて長続きはすまい。部下たちもこれが最期となるだろう。ミヤも頑張るのだぞ」

「お父様に言われたくないわ」

 トランは急にしょんぼりとしてしまった。皆、気が立っているからトランは和ませようとしたんだろうが、失敗だったな。ミヤは立ち上がってくる魔族達を見ていた。

「今よ。起き上がり切る前に倒しましょう。お父様も行くわよ」

「お? おお!!」

 元気になるの早いな。ここは一番と気張らないとな。トラドの抜けた穴を埋めるんだ。団扇に魔力を強く込め、風を起こした。これでもなんとか足止めできる程度だ。ミヤとトラン、頼むぞ。リードとルードの攻撃はさっきから意味をなしていない。狙撃を常に急所を狙っているのだが、矢が通らなければ意味はない。今はミヤ達とドラドだけが頼りだ。

 再び猛攻を続けるが、やはり敵の魔族は更に強さを増しているようだ。強い個体ではトランに匹敵するかも知れない。弱い敵から倒していくが、二十体ほどの魔族を倒してから一体も魔族を倒せなくなった。それどころか、ミヤとトランの眷属から怪我人が続出し、シェラ一人では回復が間に合わなくなっていき、劣勢に回り始めた。

 ドラドの怪力で敵を圧倒するも、何体もの魔族にまとわりつかれ鬱陶しそうに立ち回っていた。徐々に味方の数が減っていく。ミヤの眷属達は自分で後方に下がれるのはマシで、取り残された眷属達は魔族達に囲まれ暴力の限りを尽くされていた。

 するとミヤの様子が次第に変わっていったのだ。目の前で自分の部下たちが魔族達に蹂躙され始めていたのを見てからだ。

「いい加減にしろ!! 雑魚共が!!」

 ミヤがみるみる変身していく。そう、まさにトランが見せたような変身だ。翼が生え、牙が異様に発達していく。桃色の髪は今にも燃えだしそうな朱色の変わっていく。

「死ね!!」

 そういうとミヤは眷属にまとわりつく魔族達を片っ端から殴り、吹き飛ばしていく。中には頭を潰されるものもいた。圧倒的な力だ。今まで僕達を劣勢に追いやっていた魔族達もミヤの驚異的な強さに慄き、集団で襲いかかる。それに対してもミヤは冷静に一撃で屠っていく。ミヤに全く疲れの表情はない。

 ミヤは敵を倒し続けていると、再び王弟が動きを見せた。ミヤは見逃さず王弟に肉薄するが、王弟の方が一歩早かった。再びミヤの前に立ちはだかる魔族は更なる強さを持ったものだった。簡単に魔族を屠ってきたミヤでさえ、次の敵は簡単には倒されない。

 この無限ループはいつなくなるのだ。その中でもトラン達は善戦している。巧みな連携で敵を翻弄しながら倒していく。しかし、四度目となる魔族の復活でその状況は一変する。眷属たちでは全く歯が立たなくなり始めたのだ。それどころか、ミヤの眷属と同じ目に合わされ始めた。終始、トランと背中合わせで戦っていたシュリーがついに魔族に掴まれ、その身がボロボロになるほどの攻撃を受けていた。

「いい加減にしろ!! ゴミクズが」

 そういってトランの姿が変わり始めた。トランもミヤに続いて先祖返りの変身をしたのだ。やはりトランは強い。ミヤの数段は上にいる存在だ。形勢は再び、僕達に有利になり始めていた。ミヤとトランは敵を屠りながら、王弟に近づく。目標は最初から王弟のようだ。あの石さえ奪ってしまえば。

 ミヤとトランが近づいてくるのに危機感を持ったのだろうか。少し早いが再び動き出そうとして石を頭上にかかげた。それを奪おうとするミヤとトラン。再び波動が出始めたときに、石が急に砕けたのだ。そして、その後ろにいた魔族に二本の矢が深々と刺さっていた。

 リードとルードがやってくれたのだ。砕けた石は地面に散り散りとなった。すると魔族達の様子が急に変わり始めた。今まで巨大になっていた体がしぼみ始めたのだ。どうやら石から受けていた力が無くなったのだろう。こうなれば、先祖返りしたミヤとトランの敵ではない。魔族の死屍累々の山が王弟の前に積み上がっていく。

 戦いは終わりだ。僕の手を見ると団扇を握りすぎたのか血だらけになっていた。ゆっくりと王弟に近づいていく。

「王弟よ。もう終わりだ。お前の負けだ」

「ぐしゅう……私が……お前たちごとき……小物にやられるわけがない」

 そう言い出した王弟は散らばった石を口に放り込み始めたのだ。何をしているんだ? こいつは。それでも王弟は地面を舐めるように石を食べていく。まさに獣だ……。するとシェラが僕達に近づいてきた。

「やっと終わったのね。ところであの獣は何をしているの?」

「分からない。石を食べているんだ?」

「石を? そんなことをしても意味はないはずだけど……いいえ!! やっぱり止めさせて。じゃないと……・」

 シェラが叫ぶと同時に王弟の様子が変わる。醜い化物が巨大化を始めた。

「ミヤ、トラン。頼む!!」

 しかし王弟は手で薙ぎ払うと風が巻き起こりミヤとトランの動きを封じる。その間に王弟が目の前に山積みになった魔族達を食べ始めたのだ。すると更に巨大化したのだ。

 一体、王弟はどんな化物になってしまったのだ……
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