379 / 408
第378話 レントーク決戦終結
しおりを挟む
王国軍が最後の兵力でこちらに進軍してくる。最後の一兵になるまで戦う意味がこの戦にはあるのだろうか? この戦で王国軍が失った兵はあまりにも多すぎる。それでも、無謀にもこちらに攻めの一手を打ってくる。ただ、無謀と言ったがこちらもとても戦争を継続できる状態ではない。全軍が砦に入った後に、訳の分からない魔族に強大な魔法を使われ、多数の兵が瓦礫に埋もれてしまっている状態だ。
幸い、将軍たちは無事で、少しずつ兵たちも起き上がり始めている。しかし、この状態では王国軍に対抗することは難しいだろう。
「ライル!! どれ位の時間が必要だ?」
「三十分だ」
三十分か……。後ろにいるミヤと眷属、リード、ルード、ドラドは全員無事だ。魔馬は無事だったが、魔馬に乗っていた兵士は怪我を負っている状態だ。敵軍が来るまで十分程度だ。四万人相手に堪えられるだろうか? するとミヤがすっと横に立った。
「時間稼ぎをすればいいんでしょ? だったら、敵の大将を潰しに行きましょう。こんな少数で、馬鹿正直に一人一人の兵を相手にする必要なんてないわよ。私達が敵の中心に突進していくの。どうせ、あっちには私達を止められる者なんていないわ」
甘美な言葉だった。そんな突撃が成功すれば、自軍の消耗もなく戦争をすぐに終わらせることができる。しかし、一歩間違えれば包囲され、逃げ場もなく窮地に追い込まれることになるのだ。ミヤ達が信頼できないわけではない。ミヤ達にはそれだけの力があるのだが。
「ダメだ。僕にはミヤたちが危険になる作戦はできない。別の方法を考えよう」
ミヤは特に不満を漏らすことはなかった。おそらく僕が、こう言うであろうと分かっていたかのようだった。
「そしたらロッシュは壁を作りなさい。敵はどうせ砦内にいる兵士たちを殺したいんでしょうから」
分かった。王国兵が砦に入れないような壁を作ればいいんだな。
「違うわよ。私達が砦前に陣取るから、田んぼ一枚分を囲めるくらいの壁を作って欲しいの。さすがに私達でも同時に相手出来る人数は限られているわ。私達は、その壁の中にいる敵だけを相手にするのよ」
なるほど。ようやく合点がいって、田んぼ一枚分の幅の双璧を作ることにした。片方はシラーに任せ、敵が来る直前まで壁を高くした。足の早い王国軍の兵士は肉薄するほど接近してくる。しかしその者達は、ミヤと眷属達によって形が無くなっていく。それにしても、ミヤの口から田んぼ一枚分とは。さすが私の妻だ。
「なんとか間に合ったな」
「お疲れ様。あとは後ろで見ていなさい。まぁ、風魔法で壁の外側にいる王国軍を吹き飛ばしてくれると助かるかも」
「了解!!」
僕とルードはできたての壁によじ登り、迫ってくる敵たちを風魔法で吹き飛ばしていく。ルードはさすがに風魔法の制御が上手く、敵をしっかりと砦に向かうように誘導していく。壁と言っても全体に広がっているわけではなく、砦の正面だけに作っているため、回り込まれる心配が常にある。
王国軍は砦前に群がり、細い通路に押し込まれるように流れていく。その先に待っているミヤたちに、次々と吹き飛ばされ、軍の後方で転がっている。その光景がしばらく続いたが、王国軍が引き下がる気配は微塵もない。なんというしつこさなんだ。するとライルが足を引きずりながらやってきた。怪我をしていたのか。
「ロッシュ公。すまねえ。けが人が思ったよりも多くて編成が難しそうだ。撤退の判断をしてくれないか?」
「数千人でもいいんだ。どうになからないか」
「すまねえ」
ライルはくやしさを滲ませながら、僕の言葉を拒絶する。ミヤたちの様子を見るとまだまだ疲れを知らないと言った様子だが、やる気はかなり落ちている。単純作業のようで嫌気が差してきたのだろう。仕方ない。撤退を選択するしかないようだな……そう思っていると、北から見知らぬ勢力が王国軍めがけて突撃を開始していた。
その姿は勇猛そのもので、手当り次第王国軍に牙を向いていく。ガモン将軍だ。大森林に潜ませていたから無傷だったのか。いいタイミングだ。しかし、王国軍とてやられてばかりではない。急に現れたガモン隊をすぐに追い詰め始める。五千人程度では意味がなかったか。
その時、砦南方の海岸線から大きな地鳴りのような声が聞こえてきたかと思うと、王国軍に突撃を始めた。次は一体何だ。ライルもその光景をじっと見ている。
「これはすげえな。七家軍だぜ。持ち直しやがったか。こっちもうかうかしてられねえな。ロッシュ公。すまねえが俺の足を治してくれ。千人でもいいから、かき集めてくるぜ」
すぐにライルの足を治療をすると、ライルは砦の方に駆け出していった。瞬く間にライルは、グルド将軍、ガムド将軍と千人程度の公国兵を連れてきた。ライル隊がミヤ達の横を通過し、砦の眼前に迫る敵たちに攻撃を仕掛け始めた。王国軍は、三方からの攻撃に初めて動揺を見せた。敵の指揮官は声を荒らげるが、敵兵士は目の前に迫る公国軍の兵士への対応に負われて、指揮系統が機能していない様子だ。
こうなれば、王国軍は弱い。公国軍からはガモン隊五千人、ライル隊千人と寡兵ではあるが士気は旺盛で、獅子奮迅の働きをしている。それだけではとても王国軍を追い詰めることは出来ないが、七家軍三万人が参加したことで一気に形勢が逆転したのだ。七家軍の先頭にはアロンの姿があった。そして後方には……サルーン? あいつも戦争に参加したのか。
七家筆頭当主が軍に加わったことで、兵の覇気が違う気がする。先の戦いでは王国軍に圧倒されていたが、今は微塵もない。七家軍の本領を見た気がする。三方に展開している公国軍と七家軍は徐々に包囲網を小さくし、王国軍を追い詰めていく。
すると王国軍の一部が戦線を離脱し始めた。おそらく王弟だろう。王弟は戦線から離脱するタイミングを明らかに間違っていた。なぜ今逃げる? 逃げるなら、もっと前に逃げるべきでしょ。
「この後に及んで……逃がしてなるものか」
僕はそう呟き、公国軍と七家軍の様子を見るが、両軍には追手を出すだけの余裕はなさそうだ。それならば……。
「ミヤ!! 僕達が王弟を追うぞ!! この戦争はこれで終わりにする!!」
ハヤブサを呼び、すぐに跨ぐとミヤの返事も待たずに飛び出していった。その後ろに続くのは、北の森から来たフェンリル隊だ。更に後ろにミヤと眷属が従ってくる。ミヤは明らかに僕を睨んでいる。あとで小言を言われそうだ。
フェンリルの速さで、戦線を離脱していった敵部隊にはすぐに追いつくことが出来た。敵部隊は王弟を庇うように撤退していたが、本当に少ない供回りだったため、既にフェンリル達で取り囲まれている。
「王弟よ。もう観念したらどうだ? お前がいなくなれば、この戦争は終わる。さっさとその馬車から出てこい」
王弟は馬車に乗ったままでいる。未だに姿は見えないが、馬車に翻っている旗は紛れもなく王弟のもの。供回りは観念した様子もなく、剣を構えたままこちらを睨んでくる。往生際が悪いな。
「ドラド。本当の姿を見せてやれ。ここならば誰にも見られまい」
「ようやく我の出番か。ロッシュはてっきり我を忘れているかと思ったぞ。あまり人間たちの争いには関わりたくはないのだが、ミヤ達だけでは少し心もとないからな」
使い方が難しいんだよな。基本的に戦争では個人の戦闘能力に頼ることはめったにない。ミヤと眷属は連携が上手く、多人数を相手にしても難なくこなしていく。リードとルードは狙撃という点で使い勝手がいいのだ。ドラドは確かに戦闘能力では妻の中でも一番を誇るだろう。しかし、戦争となれば話は別なのだ。
ドラドは息を吸い込むと、本来の姿に変身していく。相変わらずの巨体をさらけ出し、少し吐いた息がブレスとなって王弟の供回りに容赦なく降りかかる。なんとか耐える供回りだったが、その代償として鎧は吹き飛び、一糸まとわぬみっともない格好になっていた。まさに、剣もなくなり裸一貫となった供回りも、流石に断念したように座り込んでしまった。
そして、ようやく馬車の扉が開けられ転がるように男が地べたに這いつくばった。
「ど、どうか命だけは……」
「お前は誰だ?」
ミヤたちに顔を向けるが知っているわけがないか。すると供回りが勝手に答えた。
「こ、このお方は王弟殿下御嫡男、ミータス殿下だ。ず、頭が高いぞ!!」
その言葉は言わなくてはいけないものなのか? 言葉より手が早いミヤはその男を蹴り飛ばし、数メートル先で肉の塊になっていた。その姿を見てから、ミータスを見下した。かなり怯えているな。それもそうか。目の前にドラゴンが控え、馬ほどもあるフェンリルが取り囲み、一騎当千の活躍をしていた吸血鬼族がいるのだから。
「さて、ミータスと言ったか。今回の戦の首謀者はお前か?」
ミータスは無言を貫く。
「言いたくなければ、それでいいぞ」
その言葉をどう勘違いをしたのかわからないが、ミータスは馬車によじ登ろうとしていた。
「なにをしているんだ? 馬車に忘れ物でもしたか?」
怯えたような表情をしているミータスはこちらを振り向く。
「み、見逃してくれるんじゃないのか? さっき、そういったではないか?」
? そんなこと言ったか? こいつは話が通じないタイプなのか?
「よく分からないな。こんな戦争を仕掛けておいて、生きて戦場から出られると思うなよ。お前にはこれから皆の判断を仰がねばならない。僕の一存でも構わないだろうが……お前には色々と聞きたいことがあるからな。ただ一つ。あの魔族を召喚したどうかを説明してもらおうか」
こんなところで再び召喚されては堪ったものではないからな。しかしミータスは首を横に振るばかりだ。どうも話が出来ないな。眷属に命令し、締め上げてもらうことにした。
「な、無いんだ!! ここにはもう無いんだ」
「どういうことだ?」
「魔族を召喚する魔導書は、さっき使ったら消えてしまったんだ。本当だ。どこを探してくれてもいい」
消えた? 一度しか使えない代物なのか? するとミヤが呟く。
「どうやら、持ち主はこいつじゃないようね。大方、盗んできたのよ」
「ち、違うぞ!! あの魔導書は確かに父上のものだ。しかし、いずれは僕が相続するんだ。つまり僕の物と言ってもいいはずだ」
違うぞ!! といいたいがミータスという男は頭が悪いようだ。何を言っても通じまい。とにかく締め上げて、この戦争の実態を知ったら、煮るなり焼くなりアロンたちに任せればいいだろう。
空を見上げた。空は青く澄んでいる。とにかく戦争が終わったのだな。
幸い、将軍たちは無事で、少しずつ兵たちも起き上がり始めている。しかし、この状態では王国軍に対抗することは難しいだろう。
「ライル!! どれ位の時間が必要だ?」
「三十分だ」
三十分か……。後ろにいるミヤと眷属、リード、ルード、ドラドは全員無事だ。魔馬は無事だったが、魔馬に乗っていた兵士は怪我を負っている状態だ。敵軍が来るまで十分程度だ。四万人相手に堪えられるだろうか? するとミヤがすっと横に立った。
「時間稼ぎをすればいいんでしょ? だったら、敵の大将を潰しに行きましょう。こんな少数で、馬鹿正直に一人一人の兵を相手にする必要なんてないわよ。私達が敵の中心に突進していくの。どうせ、あっちには私達を止められる者なんていないわ」
甘美な言葉だった。そんな突撃が成功すれば、自軍の消耗もなく戦争をすぐに終わらせることができる。しかし、一歩間違えれば包囲され、逃げ場もなく窮地に追い込まれることになるのだ。ミヤ達が信頼できないわけではない。ミヤ達にはそれだけの力があるのだが。
「ダメだ。僕にはミヤたちが危険になる作戦はできない。別の方法を考えよう」
ミヤは特に不満を漏らすことはなかった。おそらく僕が、こう言うであろうと分かっていたかのようだった。
「そしたらロッシュは壁を作りなさい。敵はどうせ砦内にいる兵士たちを殺したいんでしょうから」
分かった。王国兵が砦に入れないような壁を作ればいいんだな。
「違うわよ。私達が砦前に陣取るから、田んぼ一枚分を囲めるくらいの壁を作って欲しいの。さすがに私達でも同時に相手出来る人数は限られているわ。私達は、その壁の中にいる敵だけを相手にするのよ」
なるほど。ようやく合点がいって、田んぼ一枚分の幅の双璧を作ることにした。片方はシラーに任せ、敵が来る直前まで壁を高くした。足の早い王国軍の兵士は肉薄するほど接近してくる。しかしその者達は、ミヤと眷属達によって形が無くなっていく。それにしても、ミヤの口から田んぼ一枚分とは。さすが私の妻だ。
「なんとか間に合ったな」
「お疲れ様。あとは後ろで見ていなさい。まぁ、風魔法で壁の外側にいる王国軍を吹き飛ばしてくれると助かるかも」
「了解!!」
僕とルードはできたての壁によじ登り、迫ってくる敵たちを風魔法で吹き飛ばしていく。ルードはさすがに風魔法の制御が上手く、敵をしっかりと砦に向かうように誘導していく。壁と言っても全体に広がっているわけではなく、砦の正面だけに作っているため、回り込まれる心配が常にある。
王国軍は砦前に群がり、細い通路に押し込まれるように流れていく。その先に待っているミヤたちに、次々と吹き飛ばされ、軍の後方で転がっている。その光景がしばらく続いたが、王国軍が引き下がる気配は微塵もない。なんというしつこさなんだ。するとライルが足を引きずりながらやってきた。怪我をしていたのか。
「ロッシュ公。すまねえ。けが人が思ったよりも多くて編成が難しそうだ。撤退の判断をしてくれないか?」
「数千人でもいいんだ。どうになからないか」
「すまねえ」
ライルはくやしさを滲ませながら、僕の言葉を拒絶する。ミヤたちの様子を見るとまだまだ疲れを知らないと言った様子だが、やる気はかなり落ちている。単純作業のようで嫌気が差してきたのだろう。仕方ない。撤退を選択するしかないようだな……そう思っていると、北から見知らぬ勢力が王国軍めがけて突撃を開始していた。
その姿は勇猛そのもので、手当り次第王国軍に牙を向いていく。ガモン将軍だ。大森林に潜ませていたから無傷だったのか。いいタイミングだ。しかし、王国軍とてやられてばかりではない。急に現れたガモン隊をすぐに追い詰め始める。五千人程度では意味がなかったか。
その時、砦南方の海岸線から大きな地鳴りのような声が聞こえてきたかと思うと、王国軍に突撃を始めた。次は一体何だ。ライルもその光景をじっと見ている。
「これはすげえな。七家軍だぜ。持ち直しやがったか。こっちもうかうかしてられねえな。ロッシュ公。すまねえが俺の足を治してくれ。千人でもいいから、かき集めてくるぜ」
すぐにライルの足を治療をすると、ライルは砦の方に駆け出していった。瞬く間にライルは、グルド将軍、ガムド将軍と千人程度の公国兵を連れてきた。ライル隊がミヤ達の横を通過し、砦の眼前に迫る敵たちに攻撃を仕掛け始めた。王国軍は、三方からの攻撃に初めて動揺を見せた。敵の指揮官は声を荒らげるが、敵兵士は目の前に迫る公国軍の兵士への対応に負われて、指揮系統が機能していない様子だ。
こうなれば、王国軍は弱い。公国軍からはガモン隊五千人、ライル隊千人と寡兵ではあるが士気は旺盛で、獅子奮迅の働きをしている。それだけではとても王国軍を追い詰めることは出来ないが、七家軍三万人が参加したことで一気に形勢が逆転したのだ。七家軍の先頭にはアロンの姿があった。そして後方には……サルーン? あいつも戦争に参加したのか。
七家筆頭当主が軍に加わったことで、兵の覇気が違う気がする。先の戦いでは王国軍に圧倒されていたが、今は微塵もない。七家軍の本領を見た気がする。三方に展開している公国軍と七家軍は徐々に包囲網を小さくし、王国軍を追い詰めていく。
すると王国軍の一部が戦線を離脱し始めた。おそらく王弟だろう。王弟は戦線から離脱するタイミングを明らかに間違っていた。なぜ今逃げる? 逃げるなら、もっと前に逃げるべきでしょ。
「この後に及んで……逃がしてなるものか」
僕はそう呟き、公国軍と七家軍の様子を見るが、両軍には追手を出すだけの余裕はなさそうだ。それならば……。
「ミヤ!! 僕達が王弟を追うぞ!! この戦争はこれで終わりにする!!」
ハヤブサを呼び、すぐに跨ぐとミヤの返事も待たずに飛び出していった。その後ろに続くのは、北の森から来たフェンリル隊だ。更に後ろにミヤと眷属が従ってくる。ミヤは明らかに僕を睨んでいる。あとで小言を言われそうだ。
フェンリルの速さで、戦線を離脱していった敵部隊にはすぐに追いつくことが出来た。敵部隊は王弟を庇うように撤退していたが、本当に少ない供回りだったため、既にフェンリル達で取り囲まれている。
「王弟よ。もう観念したらどうだ? お前がいなくなれば、この戦争は終わる。さっさとその馬車から出てこい」
王弟は馬車に乗ったままでいる。未だに姿は見えないが、馬車に翻っている旗は紛れもなく王弟のもの。供回りは観念した様子もなく、剣を構えたままこちらを睨んでくる。往生際が悪いな。
「ドラド。本当の姿を見せてやれ。ここならば誰にも見られまい」
「ようやく我の出番か。ロッシュはてっきり我を忘れているかと思ったぞ。あまり人間たちの争いには関わりたくはないのだが、ミヤ達だけでは少し心もとないからな」
使い方が難しいんだよな。基本的に戦争では個人の戦闘能力に頼ることはめったにない。ミヤと眷属は連携が上手く、多人数を相手にしても難なくこなしていく。リードとルードは狙撃という点で使い勝手がいいのだ。ドラドは確かに戦闘能力では妻の中でも一番を誇るだろう。しかし、戦争となれば話は別なのだ。
ドラドは息を吸い込むと、本来の姿に変身していく。相変わらずの巨体をさらけ出し、少し吐いた息がブレスとなって王弟の供回りに容赦なく降りかかる。なんとか耐える供回りだったが、その代償として鎧は吹き飛び、一糸まとわぬみっともない格好になっていた。まさに、剣もなくなり裸一貫となった供回りも、流石に断念したように座り込んでしまった。
そして、ようやく馬車の扉が開けられ転がるように男が地べたに這いつくばった。
「ど、どうか命だけは……」
「お前は誰だ?」
ミヤたちに顔を向けるが知っているわけがないか。すると供回りが勝手に答えた。
「こ、このお方は王弟殿下御嫡男、ミータス殿下だ。ず、頭が高いぞ!!」
その言葉は言わなくてはいけないものなのか? 言葉より手が早いミヤはその男を蹴り飛ばし、数メートル先で肉の塊になっていた。その姿を見てから、ミータスを見下した。かなり怯えているな。それもそうか。目の前にドラゴンが控え、馬ほどもあるフェンリルが取り囲み、一騎当千の活躍をしていた吸血鬼族がいるのだから。
「さて、ミータスと言ったか。今回の戦の首謀者はお前か?」
ミータスは無言を貫く。
「言いたくなければ、それでいいぞ」
その言葉をどう勘違いをしたのかわからないが、ミータスは馬車によじ登ろうとしていた。
「なにをしているんだ? 馬車に忘れ物でもしたか?」
怯えたような表情をしているミータスはこちらを振り向く。
「み、見逃してくれるんじゃないのか? さっき、そういったではないか?」
? そんなこと言ったか? こいつは話が通じないタイプなのか?
「よく分からないな。こんな戦争を仕掛けておいて、生きて戦場から出られると思うなよ。お前にはこれから皆の判断を仰がねばならない。僕の一存でも構わないだろうが……お前には色々と聞きたいことがあるからな。ただ一つ。あの魔族を召喚したどうかを説明してもらおうか」
こんなところで再び召喚されては堪ったものではないからな。しかしミータスは首を横に振るばかりだ。どうも話が出来ないな。眷属に命令し、締め上げてもらうことにした。
「な、無いんだ!! ここにはもう無いんだ」
「どういうことだ?」
「魔族を召喚する魔導書は、さっき使ったら消えてしまったんだ。本当だ。どこを探してくれてもいい」
消えた? 一度しか使えない代物なのか? するとミヤが呟く。
「どうやら、持ち主はこいつじゃないようね。大方、盗んできたのよ」
「ち、違うぞ!! あの魔導書は確かに父上のものだ。しかし、いずれは僕が相続するんだ。つまり僕の物と言ってもいいはずだ」
違うぞ!! といいたいがミータスという男は頭が悪いようだ。何を言っても通じまい。とにかく締め上げて、この戦争の実態を知ったら、煮るなり焼くなりアロンたちに任せればいいだろう。
空を見上げた。空は青く澄んでいる。とにかく戦争が終わったのだな。
0
お気に入りに追加
2,660
あなたにおすすめの小説
家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。
3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。
そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!!
こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!!
感想やご意見楽しみにしております!
尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。
転移術士の成り上がり
名無し
ファンタジー
ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした
桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。
雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」
最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる