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第364話 クレイとの再会
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レントーク七家領に向かっている途中で七家からの使者がやってきた。ここで対応を誤れば、クレイに危険が及ぶ可能性が高い。慎重にしなければ。
「止まれ!! ここはレントーク王国領だ。サントーク王国が何用でこの地に来たのだ」
その言葉を受けて、ニード将軍に指示を出し、全軍を停止させた。そしてガモンを呼び出し共に使者と対面することになった。使者は意外にも大物だった。七家の一つの当主が直々にやってきたというのだ。やはりサントーク王国が絡んでいるとなると、下っ端を寄越すわけにも行かないのだろう。
「私は七家が一つ、コントーク家の当主アロン。ひとまず軍を止めてくれたことに礼を言おう。ガモン将軍、久しぶりだな。そなた達がサントーク王国軍に関係しているのは分かるが、そうではないな。まずはサントーク軍が何故、こちらに向かっているのか用向きを伺いたい」
するとガモンが使者に対して話を始めた。
「アロン将軍、久しく。私は王より命じれられレントーク王国が窮状ゆえ、友軍として馳せ参じました」
「レントーク王国とは王家のことか?」
「王家はアウーディアに尻尾を振ったと聞きました。そのようなものに友軍を送る道理などない。この地は我がサントーク王国の支配地。アウーディアなどに好きにはさせない」
「相変わらずですな。レントークとサントークはこの地の問題については避けていたので今は何もいいますまい。つまり、七家にサントーク王国がお味方をしてくれるというわけですか?」
ガモンはアロンの言葉に頷くだけだった。それを見て、アロンは少し満足げな表情を浮かべ、僕に視線を送ってきた。未だに七家の状況は分からないが、少なくともサントーク王国の援軍に対しては受け入れる余地はあるようだな。
「ところで、そちらの御仁は? ガモン将軍の態度から見て只者とは思えないのですが?」
僕が話そうとしたらガモンに遮られてしまった。ガモンって、こんなに話が好きだったやつなのか?
「このお方は、王の孫であり、次期王のマリアナ姫の夫にして、イルス公国の主であるロッシュ公です」
「何⁉ 公国……サントーク王国は公国と繋がったということか?」
「無論。王はサントーク王国の未来をマリアナ姫とロッシュ公に託された。サントーク王国は公国の傘下に収まったのだ」
アロンは意外な事を聞かされたのか、考え込むように手を顎に当て始めた。アロンはどうやら直感で動くのではなく、よく考えた上で行動するタイプのようだな。それからしばらく考え事をして、僕に視線を送ってきた。
「イルス公。挨拶が遅れたことについては申しわけありませんでした。まさか、公国の主がこのような場所においでとは。なるほど。これですべての辻褄が合いました。そうなると心配でしょう?」
……僕は頷いた。この言葉にどんな意味があるのか推し測ることが出来たのだ。
「クレイ様なら無事です。七家筆頭レントーク家で幽閉されていますが、扱いは酷いものではありません。一応、王国の間者である疑いがかけられていたので。クレイ様がおっしゃっていた公国との結びつきについて、これで確認が取れそうです。ちなみにクレイ様とはどういった関係なのでしょう?」
「決まっている。クレイは我が妻だ」
「ありがとうございます。我々の情報も穴だらけのようだ。当初、クレイ様は死んだものと思われていました。それが南から現れて、最初はこの周辺に潜んでいたのかと思われたくらいですから。しかし生きていると分かると、次は王国に差し出されたのだから間者の可能性が出てきたのです」
そんなことになっていたのか。それならば、公国に関係をするものを身に着けさせておけば良かった。そうすればこのような目には合わなかっただろうに。しかし、クレイは引き連れてきたクレイ隊のことを話さなかったのか?
「さあ、そのような話は初めてです。我らの態度を見て、仲間に危険が及ぶ恐れを危惧して、言わなかったのかも知れません。それほどクレイ様に対しては疑いの目がかけられていましたから。そうなると、クレイ様が言っていたこと。公国は本気で七家支援に動いてくれるということですか?」
「そうでなければ、妻を危険にさらしてまでこんなところに来るわけがないだろ? レントークの地は公国にとっても重要な土地だ。この地がアウーディア王国に占領されてしまうのは、まずいのだ。七家支援はそのついでだ。本懐は公国の安寧のために、そしてクレイを公国に無事に連れて帰ることだ」
「我らはついでですか。いやはや、正直なお方ですね。普通は我らをある程度喜ばせるものですが……分かりました!! 我らは公国とサントーク王国と共闘関係になるように七家全体の意志を統一しましょう。正直、信頼できる味方でしたら、一兵でも欲しいところですから」
アロンは僕に握手を求めてきたが、それには応じる気はなかった。まずはクレイの身が安全であることを確認してからだ。クレイが七家にひどい目にあっていたら、僕はとてもこの者たちと共闘する気になれない。甘いかも知れないが……。アロンは出した手を引っ込めて、僕達を七家領まで案内することを志願してくれた。
それからは何事もなく七家領に入ることが出来た。僕は道中、アロンに七家領について聞いてみた。
「七家領は言葉の通り、レントーク王国を作った祖先の七家の末裔が収める領地です。七家は建国以来、独立した領を持つことはせず共同統治という形をとっております。七家筆頭から王が選ばれ、筆頭に後継者がいない場合は七家順位に従って、王が七家から選出されます。一応は血統が重要視されていますが、七家の間で婚姻関係がないものはないほど、入り混じっているのであまり血統は関係ないんですけどね」
なかなか面白い話だな。そうなると王都と七家領の関係が気になるな。王都はまさに王国の中心だ。全ての権限が王都に集中する。しかし七家領とて次期王と排出する場所だ。このような場所に王家の意向が入れば、たちまちメチャクチャになってしまうだろう。
「その通りです。そのため七家領は王都からの命令に従う義務がないのです。もちろん独立しているわけではありませんが、内政に限定すれば全て七家領については七家で決めております。王の選出についてもです。七家筆頭の後継者も七家で決めることになっています。クレイ様の一件は予想外でしたが」
七家領は独特な地位を持っているのが分かるな。しかし、外国人である僕には理解するのは難しそうだ。しかし、クレイの件が予想外とは?
「先程も言いましたが、七家筆頭の後継者は七家で決めます。それゆえ順当にクレイ様が次の当主になる予定でした。しかし、七家でも王家の意向に逆らえない部分があるのです。それが外交なのです。王家はクレイ様を王国へ出すことを決めてしまったのです。我らは何度も抗議しましたが変わることはありませんでした。それゆえ仕方なくクレイ様の姉上を、と思っていましたら七家領には入らないと言う始末。それでようやく今のクレイ様の弟君になった次第で。これほど右往左往した後継者選びをしたのは初めてでしょう」
なるほどな。そんなことがあったのか。レントーク王国、ますます分からないな。しかしアロンとの会話は有意義なものだった。僕達は七家領に入ってから真っ直ぐ、七家筆頭の屋敷に向かうことになった。そこにクレイがいるからだ。ただ、三万人の軍を七家領の中心に入れるのは憚られるので郊外で一旦野営地を作り、そこに待機してもらうことにした。
同行するのはガモンの他、エリス、ミヤ、シラーだ。シェラとリード、ルード、ドラドは兵たちと待機だ。一応は共闘関係になることが認められたが、手放しに安心していいものではない。警戒は必要だろう。僕達はアロンの案内で七家筆頭屋敷に向かった。
なるほど。七家筆頭の屋敷と言うからどんなものかと思ったら、想像以上だ。屋敷というより城という建て構えだ。アロンが言うには、王家の城とほとんど作りが変わらないらしい。七家筆頭家が王家に対して萎縮しないように、とか王になった時に城に驚かないように、とかなんだか色々と理由があるみたいだ。それでも王家がこの建物を認めているのだから、やはり七家筆頭家はレントーク王国では独特な地位があるのだな。
すぐに七家筆頭家当主と面会する運びとなった。アロンがその者の横に立ち、僕の正面に少年がそうなのだろう。クレイの面影があるが、どこか弱々しい印象だ。
「私がレントーク王国七家筆頭レントーク家当主、サルーン=レントークだ。アロンより話は聞いている。こちらにお味方をしてくださるそうで。今回の戦は我らにとっても勝たねばならない。共に勝利を収めましょう」
「サルーンか。確かにクレイに面影が似ている。しかし、話はクレイに会ってからだ。今は何も語る気にはならない」
そんなことを僕が言うのを分かっていたのか、すぐにドアが開かれクレイが姿を見せた。しかもひどい扱いを受けていたというものではない、ドレスを着させられ化粧まで施されている。一瞬、誰か分からなかった。しかし、見惚れるのも一瞬だ。近寄りクレイを抱きしめた。
「クレイ。遅くなって済まなかった」
「いいんです。私は何もお役には立てませんでしたから」
「何を言う。クレイはよくやってくれた。この地に公国のために身を挺してくれたことだけでも凄いことなのだ。とにかく無事でよかった。ただ、これから戦が始まる。すぐに着替えてこい」
クレイは喜色を浮かべて、再びドアの奥に隠れてしまった。さすが生家だな。勝手を知っているのか、すぐにどこかに行ってしまった。
「さて、クレイを確認できた。クレイは身を挺して七家を助けるためにこの地にやってきた。それに対して、幽閉した扱いは僕としても許せるものではない。だが、アロンより事情は聞いている。その上で、公国は七家に対して共闘を望む。王国は我らの共通の敵だ」
「分かりました。それで構いません。公国は何度もアウーディア王国を打ち破ったと聞いたことがあります。是非ともその武勇を見せていただきたいです」
これで七家との共闘関係を築くことが出来、一つ目の目的を達成することが出来た。しかし、ここで公国と七家との関係を整理しておかなければ。
「一応言っておくが、公国はアウーディア王国と停戦協定を結んでいる手前、レントーク王国領を動くことが出来ないのだ。もちろん、王国がどのように動くかによるが。そのため食料庫がある都市に対しては後方支援に回ることになる。だから七家独力で当たってもらいたい。もっとも王国が公国軍に攻撃を加えてきたら……話は違うが」
「どういうことですか!?」
「王国はサントーク王国とレントーク王国との間に領土問題があることを知らない。僕達は北部のレントーク領ぎりぎりに布陣をする。そうすれば王国は僕達が停戦協定を破ったと思って、直ちに攻撃を加えてくるだろう。それをもって、王国が停戦協定を破ったと訴え、攻撃を開始する。この手順は七家には危険が及ぶ行為だが、どうしても必要なのだ」
「分かりました。しかし、領土問題など今や問題にすらなっていないことを持ってくるとは。ロッシュ公は我々よりこの地のことに精通していらっしゃるのですか?」
「使えるものは何でも使う。王国に勝つためならば手段を選ぶな。どんなに泥臭くても勝つためならばなんでもしろ。今回の戦はそれが出来るものに勝利をもたらすだろう。サルーン、それを肝に銘じておけよ」
「わかりました。義兄」
義兄? まぁそういうことになるが……まあいいか。僕達はこれからの作戦を考えるために場所を移動することになった。
「止まれ!! ここはレントーク王国領だ。サントーク王国が何用でこの地に来たのだ」
その言葉を受けて、ニード将軍に指示を出し、全軍を停止させた。そしてガモンを呼び出し共に使者と対面することになった。使者は意外にも大物だった。七家の一つの当主が直々にやってきたというのだ。やはりサントーク王国が絡んでいるとなると、下っ端を寄越すわけにも行かないのだろう。
「私は七家が一つ、コントーク家の当主アロン。ひとまず軍を止めてくれたことに礼を言おう。ガモン将軍、久しぶりだな。そなた達がサントーク王国軍に関係しているのは分かるが、そうではないな。まずはサントーク軍が何故、こちらに向かっているのか用向きを伺いたい」
するとガモンが使者に対して話を始めた。
「アロン将軍、久しく。私は王より命じれられレントーク王国が窮状ゆえ、友軍として馳せ参じました」
「レントーク王国とは王家のことか?」
「王家はアウーディアに尻尾を振ったと聞きました。そのようなものに友軍を送る道理などない。この地は我がサントーク王国の支配地。アウーディアなどに好きにはさせない」
「相変わらずですな。レントークとサントークはこの地の問題については避けていたので今は何もいいますまい。つまり、七家にサントーク王国がお味方をしてくれるというわけですか?」
ガモンはアロンの言葉に頷くだけだった。それを見て、アロンは少し満足げな表情を浮かべ、僕に視線を送ってきた。未だに七家の状況は分からないが、少なくともサントーク王国の援軍に対しては受け入れる余地はあるようだな。
「ところで、そちらの御仁は? ガモン将軍の態度から見て只者とは思えないのですが?」
僕が話そうとしたらガモンに遮られてしまった。ガモンって、こんなに話が好きだったやつなのか?
「このお方は、王の孫であり、次期王のマリアナ姫の夫にして、イルス公国の主であるロッシュ公です」
「何⁉ 公国……サントーク王国は公国と繋がったということか?」
「無論。王はサントーク王国の未来をマリアナ姫とロッシュ公に託された。サントーク王国は公国の傘下に収まったのだ」
アロンは意外な事を聞かされたのか、考え込むように手を顎に当て始めた。アロンはどうやら直感で動くのではなく、よく考えた上で行動するタイプのようだな。それからしばらく考え事をして、僕に視線を送ってきた。
「イルス公。挨拶が遅れたことについては申しわけありませんでした。まさか、公国の主がこのような場所においでとは。なるほど。これですべての辻褄が合いました。そうなると心配でしょう?」
……僕は頷いた。この言葉にどんな意味があるのか推し測ることが出来たのだ。
「クレイ様なら無事です。七家筆頭レントーク家で幽閉されていますが、扱いは酷いものではありません。一応、王国の間者である疑いがかけられていたので。クレイ様がおっしゃっていた公国との結びつきについて、これで確認が取れそうです。ちなみにクレイ様とはどういった関係なのでしょう?」
「決まっている。クレイは我が妻だ」
「ありがとうございます。我々の情報も穴だらけのようだ。当初、クレイ様は死んだものと思われていました。それが南から現れて、最初はこの周辺に潜んでいたのかと思われたくらいですから。しかし生きていると分かると、次は王国に差し出されたのだから間者の可能性が出てきたのです」
そんなことになっていたのか。それならば、公国に関係をするものを身に着けさせておけば良かった。そうすればこのような目には合わなかっただろうに。しかし、クレイは引き連れてきたクレイ隊のことを話さなかったのか?
「さあ、そのような話は初めてです。我らの態度を見て、仲間に危険が及ぶ恐れを危惧して、言わなかったのかも知れません。それほどクレイ様に対しては疑いの目がかけられていましたから。そうなると、クレイ様が言っていたこと。公国は本気で七家支援に動いてくれるということですか?」
「そうでなければ、妻を危険にさらしてまでこんなところに来るわけがないだろ? レントークの地は公国にとっても重要な土地だ。この地がアウーディア王国に占領されてしまうのは、まずいのだ。七家支援はそのついでだ。本懐は公国の安寧のために、そしてクレイを公国に無事に連れて帰ることだ」
「我らはついでですか。いやはや、正直なお方ですね。普通は我らをある程度喜ばせるものですが……分かりました!! 我らは公国とサントーク王国と共闘関係になるように七家全体の意志を統一しましょう。正直、信頼できる味方でしたら、一兵でも欲しいところですから」
アロンは僕に握手を求めてきたが、それには応じる気はなかった。まずはクレイの身が安全であることを確認してからだ。クレイが七家にひどい目にあっていたら、僕はとてもこの者たちと共闘する気になれない。甘いかも知れないが……。アロンは出した手を引っ込めて、僕達を七家領まで案内することを志願してくれた。
それからは何事もなく七家領に入ることが出来た。僕は道中、アロンに七家領について聞いてみた。
「七家領は言葉の通り、レントーク王国を作った祖先の七家の末裔が収める領地です。七家は建国以来、独立した領を持つことはせず共同統治という形をとっております。七家筆頭から王が選ばれ、筆頭に後継者がいない場合は七家順位に従って、王が七家から選出されます。一応は血統が重要視されていますが、七家の間で婚姻関係がないものはないほど、入り混じっているのであまり血統は関係ないんですけどね」
なかなか面白い話だな。そうなると王都と七家領の関係が気になるな。王都はまさに王国の中心だ。全ての権限が王都に集中する。しかし七家領とて次期王と排出する場所だ。このような場所に王家の意向が入れば、たちまちメチャクチャになってしまうだろう。
「その通りです。そのため七家領は王都からの命令に従う義務がないのです。もちろん独立しているわけではありませんが、内政に限定すれば全て七家領については七家で決めております。王の選出についてもです。七家筆頭の後継者も七家で決めることになっています。クレイ様の一件は予想外でしたが」
七家領は独特な地位を持っているのが分かるな。しかし、外国人である僕には理解するのは難しそうだ。しかし、クレイの件が予想外とは?
「先程も言いましたが、七家筆頭の後継者は七家で決めます。それゆえ順当にクレイ様が次の当主になる予定でした。しかし、七家でも王家の意向に逆らえない部分があるのです。それが外交なのです。王家はクレイ様を王国へ出すことを決めてしまったのです。我らは何度も抗議しましたが変わることはありませんでした。それゆえ仕方なくクレイ様の姉上を、と思っていましたら七家領には入らないと言う始末。それでようやく今のクレイ様の弟君になった次第で。これほど右往左往した後継者選びをしたのは初めてでしょう」
なるほどな。そんなことがあったのか。レントーク王国、ますます分からないな。しかしアロンとの会話は有意義なものだった。僕達は七家領に入ってから真っ直ぐ、七家筆頭の屋敷に向かうことになった。そこにクレイがいるからだ。ただ、三万人の軍を七家領の中心に入れるのは憚られるので郊外で一旦野営地を作り、そこに待機してもらうことにした。
同行するのはガモンの他、エリス、ミヤ、シラーだ。シェラとリード、ルード、ドラドは兵たちと待機だ。一応は共闘関係になることが認められたが、手放しに安心していいものではない。警戒は必要だろう。僕達はアロンの案内で七家筆頭屋敷に向かった。
なるほど。七家筆頭の屋敷と言うからどんなものかと思ったら、想像以上だ。屋敷というより城という建て構えだ。アロンが言うには、王家の城とほとんど作りが変わらないらしい。七家筆頭家が王家に対して萎縮しないように、とか王になった時に城に驚かないように、とかなんだか色々と理由があるみたいだ。それでも王家がこの建物を認めているのだから、やはり七家筆頭家はレントーク王国では独特な地位があるのだな。
すぐに七家筆頭家当主と面会する運びとなった。アロンがその者の横に立ち、僕の正面に少年がそうなのだろう。クレイの面影があるが、どこか弱々しい印象だ。
「私がレントーク王国七家筆頭レントーク家当主、サルーン=レントークだ。アロンより話は聞いている。こちらにお味方をしてくださるそうで。今回の戦は我らにとっても勝たねばならない。共に勝利を収めましょう」
「サルーンか。確かにクレイに面影が似ている。しかし、話はクレイに会ってからだ。今は何も語る気にはならない」
そんなことを僕が言うのを分かっていたのか、すぐにドアが開かれクレイが姿を見せた。しかもひどい扱いを受けていたというものではない、ドレスを着させられ化粧まで施されている。一瞬、誰か分からなかった。しかし、見惚れるのも一瞬だ。近寄りクレイを抱きしめた。
「クレイ。遅くなって済まなかった」
「いいんです。私は何もお役には立てませんでしたから」
「何を言う。クレイはよくやってくれた。この地に公国のために身を挺してくれたことだけでも凄いことなのだ。とにかく無事でよかった。ただ、これから戦が始まる。すぐに着替えてこい」
クレイは喜色を浮かべて、再びドアの奥に隠れてしまった。さすが生家だな。勝手を知っているのか、すぐにどこかに行ってしまった。
「さて、クレイを確認できた。クレイは身を挺して七家を助けるためにこの地にやってきた。それに対して、幽閉した扱いは僕としても許せるものではない。だが、アロンより事情は聞いている。その上で、公国は七家に対して共闘を望む。王国は我らの共通の敵だ」
「分かりました。それで構いません。公国は何度もアウーディア王国を打ち破ったと聞いたことがあります。是非ともその武勇を見せていただきたいです」
これで七家との共闘関係を築くことが出来、一つ目の目的を達成することが出来た。しかし、ここで公国と七家との関係を整理しておかなければ。
「一応言っておくが、公国はアウーディア王国と停戦協定を結んでいる手前、レントーク王国領を動くことが出来ないのだ。もちろん、王国がどのように動くかによるが。そのため食料庫がある都市に対しては後方支援に回ることになる。だから七家独力で当たってもらいたい。もっとも王国が公国軍に攻撃を加えてきたら……話は違うが」
「どういうことですか!?」
「王国はサントーク王国とレントーク王国との間に領土問題があることを知らない。僕達は北部のレントーク領ぎりぎりに布陣をする。そうすれば王国は僕達が停戦協定を破ったと思って、直ちに攻撃を加えてくるだろう。それをもって、王国が停戦協定を破ったと訴え、攻撃を開始する。この手順は七家には危険が及ぶ行為だが、どうしても必要なのだ」
「分かりました。しかし、領土問題など今や問題にすらなっていないことを持ってくるとは。ロッシュ公は我々よりこの地のことに精通していらっしゃるのですか?」
「使えるものは何でも使う。王国に勝つためならば手段を選ぶな。どんなに泥臭くても勝つためならばなんでもしろ。今回の戦はそれが出来るものに勝利をもたらすだろう。サルーン、それを肝に銘じておけよ」
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