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第358話 レントークへの船出
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レントーク王国に向かう船が出港するまで時間がない。戦力増強をできるだけやっておかなければ。フェンリルのハヤブサにまたがりながら都内を歩いていた。二万人の兵を増やすことは出来ない。練度も十分だと報告を受けている。つまり、レントーク公国に向かう軍隊は、公国ではもっとも強いといえるのだ。そうなると残された方法は新兵器か? しかし、時間がない。錬金工房のカーゴに依頼をして、兵器の改良を進めてもらっているが、あと数日でなんとかなるだろうか?
んん。何か方法が……すると都に住む子供が僕とフェンリルの姿を見て近寄ってきた。一応、自警団が子供が近寄るのを止めようとするが、僕が許した。子供は自警団が急に前に現れたことに驚いて立ち止まってしまった。そして恐る恐るといった様子で僕に上目遣いをしてくる。
「どうしたんだ?」
「あの……そのもふもふに触りたいの」
もふもふ? どうやら子供の視線を辿るとハヤブサのようだな。もふもふか……変なあだ名をつけられたものだな。
「構わないぞ。思いっきり触ってやってくれ。こいつは寂しがりやだからな」
「うん!!」
すると子供は容赦なくハヤブサに抱き着き、毛をむしるような勢いで触り始めた。
「気持ちいいな。こんなのが僕も欲しいなぁ。フェンリルっていうんでしょ? お母さんから聞いたの。いっぱいいるところ知らない? 僕、捕まえに行きたいんだ」
「それは無理かな。ハヤブサを捕まえたのは魔の森だ。子供が行けるような場所じゃないぞ。ん? そういえば魔の森以外にもフェンリルがいたような気がするな……!!!! そうだ。フェンリルだ!! 助かったぞ。君のおかげで我が国は救われる!!」
そういうと子供は呆然とした顔になっていたが、その子供に一枚の証書を手渡した。僕の名前が書かれており、特別な功績者に対して渡すものだ。それの効果は要求を公国に対して行うことが出来るというものだ。衣食住、全てに適用される。家の新築や改築、引っ越しも可能だ。まぁ公国では夢のチケットみないなものだ。しかし、子供にはそれの価値など分かるものではない。ちょっと不安になって子供に尋ねた。
「お母さんはどこにいるんだ? 近くにいるなら連れてきて欲しいんだ」
「うん!! ちょっとまっててね」
そういうと、どこかに消えてしまった。しばらく待たされたが、子供が大人の女性を引っ張ってきてくれた。この女性が母親か? 母親と思われる女性が僕の姿を見て、ヘタッと座り込むように土下座を始めてしまった。
「む、息子が何か粗相をしてしまったのでしょうか? この子は好奇心が強いせいか、トラブルが絶えないのです。本当に申しわけありません!! ほら、あんたも謝りなさい!!」
母親が急に謝り出し始め、子供に謝罪を催促しだしたので子供が急に泣き出し始めてしまった。
「貴方がこの子の母親か?」
「そうです。子供が何をしたかわかりませんが、その責任は全て私にあります。なんなりと罰をお与えください」
なんと素晴らしい親だろうか。このような親に育てられた子が悪い子に育つわけがないだろうに。
「とにかく頭を上げてくれ。この子には罰どころか報奨を与えたいのだ」
一枚の証書を母親に差し出した。これは? と言う表情をしていたが、その内容を見てどういったものかを理解したようだ。
「子供にこれを渡しても破り捨てられるかも知れない。それに証書を子供が持ってきたら貴方とて子供を疑うかも知れないだろ? だからここに来てもらったのだ。この子には公国を代表して、礼を言おう。この子は公国を大いに救ってくれた。これはその礼だ。この子の為に使ってやってくれ。それと、その好奇心の強さがこれから先もあるようだったらゴードンの元に行け。悪いようにはしないからな」
母親は改めて子供を見つめてから、感謝を言ってきた。
「ではな!! 公国のためにこれからもよろしく頼むぞ」
ハヤブサに城に向かうように命令をして、すぐに登城した。そして、エリスとシラーを捕まえ共にサノケッソの街に向かうことにした。エリスと僕はハヤブサに跨り、シラーには走ってもらうことにした。山道を走ることになったが、一日もかからずに到着した。
「ロッシュ様。一体、なぜ私をここに連れてきたんですか?」
「言うのを忘れていたな。僕も急に思いついて、急いでしまったな。ところでハヤブサをどう思う?」
「素晴らしいの一言ですね。早いですし、障害物をものともしないのは驚きです。私にはすこし大きいので騎乗は難しいですが」
「そうか。それならばエリスにもフェンリルを与えよう」
「でも、ここ? 魔の森じゃあ」
サノケッソの街近くにある大森林に向かい、魔素の濃い領域に入ってからハヤブサに指示を出した。ハヤブサはすぐに僕達の元から離れ、姿が見えなくなった。それから数十分、それほど長くない時間でハヤブサは二十頭ちかいフェンリルと共にこちらにやってきた。
この森に、はぐれのフェンリルがいることを思い出したのだ。ここのフェンリルはハヤブサに比べれば一回り程度小さい。ハヤブサが馬くらいの大きさなら、ここのフェンリルはポニー程度だ。それでも強さは、さすがと言えるものだ。ここのフェンリル達をこの狭い森から出せる方法がないかと考えていたのだ。これで、それを解決できる。
もっともこの森のことは忘れてしまっていたけどね。フェンリル達に使役魔法を使い、魔石を与えた。これでフェンリル達がこの森を出ても問題はないだろう。エリスに一頭を選ばさせることにした。エリスは並ぶ二十頭の目をじっと見つめながら、一頭を選んでいく。そしてついにその一頭を決めたようだ。
「ロッシュ様。私、この子にします!!」
そういったのは、この中でも更に小さいフェンリルだった。エリスが乗るにしても、少し小さいような気もするが。しかし、ハヤブサからすればエリスの眼力は素晴らしいということらしい。選んだ子はこの集団の元リーダの忘れ形見のようで、将来有望なリーダーに育つというのだ。今こそ小さいが、成長の度合いはこの集団では一番だろうということだ。なるほどなぁ。エリスにそんな眼力があったとは……意外だ。
さっそくフェンリルに鞍を取り付け、エリスが乗れるようにした。シラーにも一頭を勧めたが断られてしまった。
「私は前々から魔獣とは相性がよくありませんので、他の人にお願いします」
とにかく、ここでの目的は達成した。急ぎ、フェンリルと共に都に戻った。城には広大な庭がある。フェンリル達にはそこで寝泊まりをしてもらうことにしてある。ハヤブサの希望では、魔の森のような坑道を掘ってほしいというので、僕とシラーで最高の穴蔵をつくってやった。螺旋のように地下に潜り、一頭ごとに部屋を作っていく。もちろん番になってもいいように、一つ一つの部屋は三頭程度でも余裕でくつろげるほどの広さだ。下敷きには魔草を敷き詰めてある。これはトランの眷属に依頼した仕事の一つだ。最近は魔牛牧場での仕事をしているようだが、頼めば色々な仕事をしてくれる。トランはあれだけど。
すぐにガムドを呼び出し、急遽レントーク行きの船にフェンリル二十頭を追加するように指示を出すと、ガムドは難色を示すどころか、喜色を浮かべながら了承してくれた。
「ハヤブサの強さは実際に目にしていますからな。体格が違うにしても魔馬とは比べ物にならないほど戦闘に役に立つでしょう。兵を減らしてでもスペースを作りますよ。ただ、魔獣ですから運用はロッシュ公の側でお願いしたいのです。信頼はしているのですが、暴走されては我々の手には負えませんから」
これで準備は全て終わった。マグ姉はレントークに随行する衛生兵へ、薬の投与についての講義をひたすら行っていた。多少でも衛生兵の質が向上すれば戦死者をかなり抑えることが出来るだろう。今回は回復魔法が使えるシェラも同行してもらうが、治療の限界は必ずあるからな。
ついに、出発当日になった。レントークに遠征する軍隊をレントーク遠征軍と呼ぶことにしよう。レントーク遠征軍の指揮官にはニード将軍が当たることになっている。その副官は当然、イハサだ。ガムドには今回の船の指揮を頼み、万が一王国海軍が出張ってくるようならガムドに叩いてもらう予定だ。そして海路の兵站の全てを任せることにしてある。今回の戦いは本当に細い細い糸に全てを託すような危うさを持っている。それでもこの戦いに勝利し、王国の牙城を崩さなければ我々に未来はないのだ。
都にはニード将軍率いる二万人の軍が集結した。それを見送るためにライルやグルドも馳せ参じてくれた。それだけで戦いの重要性の高さが分かる。ライルとグルドが兵達に叱咤激励を与えてくれたたおかげで否応なく士気が上がっていく。これからの戦に少しだけ光明が見えたような思いだ。
沿道に集まる住民たちに見送られながら、大型船八隻に分乗し、出発を待った。船長はチカカ、ではない。すでに船長として力をつけたチカカ塾の生徒たちがこの八隻の船長をしている。チカカにはより難しい、レントークへの物資運搬船の船長をしてもらっている。僕が乗る船はクレイ号と名付けられた船だ。なんとなく意味合いのある船に乗ったものだと思った。この戦いでクレイを無事に公国に連れ戻す。それも大きな目標の一つだ。このクレイ号で帰ってこられればよいが。
船に乗るのは、僕、エリス、ミヤ、リード、シェラ、シラー、ルード、ドラドの他に魔馬五百頭、フェンリル二十一頭、兵二千人、船員三百人、その他大量の食料物資が満載されている。僕の私室にも大量の荷物を積み込んだ。ありとあらゆる隙間に物資が詰め込まれている。追加の物資がないことを前提としたものだ。本当にガムドとチカカに期待するところが大きいな。
エリス達に最後の確認をした。
「これが引き返す最後のチャンスだ。皆、覚悟は出来ているか?」
皆の顔は様々だ。エリス以外は物見遊山でもするような気持ちでいるからだ。シェラは寝場所を荷物に占拠されていることにずっと不満顔だし。僕の言葉はほとんどエリスに対してのものだった。
「ロッシュ様。不安はないと言えば嘘になりますが……私は大丈夫です」
「そうか」
聞くだけ無駄だったようだな。船長に出港の合図を出すように命令をした。各船からも合図が鳴り響き、そろそろと船が動き始めた。レントークまでは一週間ほどの船旅だ。これからどうなってしまうんだろうか
んん。何か方法が……すると都に住む子供が僕とフェンリルの姿を見て近寄ってきた。一応、自警団が子供が近寄るのを止めようとするが、僕が許した。子供は自警団が急に前に現れたことに驚いて立ち止まってしまった。そして恐る恐るといった様子で僕に上目遣いをしてくる。
「どうしたんだ?」
「あの……そのもふもふに触りたいの」
もふもふ? どうやら子供の視線を辿るとハヤブサのようだな。もふもふか……変なあだ名をつけられたものだな。
「構わないぞ。思いっきり触ってやってくれ。こいつは寂しがりやだからな」
「うん!!」
すると子供は容赦なくハヤブサに抱き着き、毛をむしるような勢いで触り始めた。
「気持ちいいな。こんなのが僕も欲しいなぁ。フェンリルっていうんでしょ? お母さんから聞いたの。いっぱいいるところ知らない? 僕、捕まえに行きたいんだ」
「それは無理かな。ハヤブサを捕まえたのは魔の森だ。子供が行けるような場所じゃないぞ。ん? そういえば魔の森以外にもフェンリルがいたような気がするな……!!!! そうだ。フェンリルだ!! 助かったぞ。君のおかげで我が国は救われる!!」
そういうと子供は呆然とした顔になっていたが、その子供に一枚の証書を手渡した。僕の名前が書かれており、特別な功績者に対して渡すものだ。それの効果は要求を公国に対して行うことが出来るというものだ。衣食住、全てに適用される。家の新築や改築、引っ越しも可能だ。まぁ公国では夢のチケットみないなものだ。しかし、子供にはそれの価値など分かるものではない。ちょっと不安になって子供に尋ねた。
「お母さんはどこにいるんだ? 近くにいるなら連れてきて欲しいんだ」
「うん!! ちょっとまっててね」
そういうと、どこかに消えてしまった。しばらく待たされたが、子供が大人の女性を引っ張ってきてくれた。この女性が母親か? 母親と思われる女性が僕の姿を見て、ヘタッと座り込むように土下座を始めてしまった。
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「そうです。子供が何をしたかわかりませんが、その責任は全て私にあります。なんなりと罰をお与えください」
なんと素晴らしい親だろうか。このような親に育てられた子が悪い子に育つわけがないだろうに。
「とにかく頭を上げてくれ。この子には罰どころか報奨を与えたいのだ」
一枚の証書を母親に差し出した。これは? と言う表情をしていたが、その内容を見てどういったものかを理解したようだ。
「子供にこれを渡しても破り捨てられるかも知れない。それに証書を子供が持ってきたら貴方とて子供を疑うかも知れないだろ? だからここに来てもらったのだ。この子には公国を代表して、礼を言おう。この子は公国を大いに救ってくれた。これはその礼だ。この子の為に使ってやってくれ。それと、その好奇心の強さがこれから先もあるようだったらゴードンの元に行け。悪いようにはしないからな」
母親は改めて子供を見つめてから、感謝を言ってきた。
「ではな!! 公国のためにこれからもよろしく頼むぞ」
ハヤブサに城に向かうように命令をして、すぐに登城した。そして、エリスとシラーを捕まえ共にサノケッソの街に向かうことにした。エリスと僕はハヤブサに跨り、シラーには走ってもらうことにした。山道を走ることになったが、一日もかからずに到着した。
「ロッシュ様。一体、なぜ私をここに連れてきたんですか?」
「言うのを忘れていたな。僕も急に思いついて、急いでしまったな。ところでハヤブサをどう思う?」
「素晴らしいの一言ですね。早いですし、障害物をものともしないのは驚きです。私にはすこし大きいので騎乗は難しいですが」
「そうか。それならばエリスにもフェンリルを与えよう」
「でも、ここ? 魔の森じゃあ」
サノケッソの街近くにある大森林に向かい、魔素の濃い領域に入ってからハヤブサに指示を出した。ハヤブサはすぐに僕達の元から離れ、姿が見えなくなった。それから数十分、それほど長くない時間でハヤブサは二十頭ちかいフェンリルと共にこちらにやってきた。
この森に、はぐれのフェンリルがいることを思い出したのだ。ここのフェンリルはハヤブサに比べれば一回り程度小さい。ハヤブサが馬くらいの大きさなら、ここのフェンリルはポニー程度だ。それでも強さは、さすがと言えるものだ。ここのフェンリル達をこの狭い森から出せる方法がないかと考えていたのだ。これで、それを解決できる。
もっともこの森のことは忘れてしまっていたけどね。フェンリル達に使役魔法を使い、魔石を与えた。これでフェンリル達がこの森を出ても問題はないだろう。エリスに一頭を選ばさせることにした。エリスは並ぶ二十頭の目をじっと見つめながら、一頭を選んでいく。そしてついにその一頭を決めたようだ。
「ロッシュ様。私、この子にします!!」
そういったのは、この中でも更に小さいフェンリルだった。エリスが乗るにしても、少し小さいような気もするが。しかし、ハヤブサからすればエリスの眼力は素晴らしいということらしい。選んだ子はこの集団の元リーダの忘れ形見のようで、将来有望なリーダーに育つというのだ。今こそ小さいが、成長の度合いはこの集団では一番だろうということだ。なるほどなぁ。エリスにそんな眼力があったとは……意外だ。
さっそくフェンリルに鞍を取り付け、エリスが乗れるようにした。シラーにも一頭を勧めたが断られてしまった。
「私は前々から魔獣とは相性がよくありませんので、他の人にお願いします」
とにかく、ここでの目的は達成した。急ぎ、フェンリルと共に都に戻った。城には広大な庭がある。フェンリル達にはそこで寝泊まりをしてもらうことにしてある。ハヤブサの希望では、魔の森のような坑道を掘ってほしいというので、僕とシラーで最高の穴蔵をつくってやった。螺旋のように地下に潜り、一頭ごとに部屋を作っていく。もちろん番になってもいいように、一つ一つの部屋は三頭程度でも余裕でくつろげるほどの広さだ。下敷きには魔草を敷き詰めてある。これはトランの眷属に依頼した仕事の一つだ。最近は魔牛牧場での仕事をしているようだが、頼めば色々な仕事をしてくれる。トランはあれだけど。
すぐにガムドを呼び出し、急遽レントーク行きの船にフェンリル二十頭を追加するように指示を出すと、ガムドは難色を示すどころか、喜色を浮かべながら了承してくれた。
「ハヤブサの強さは実際に目にしていますからな。体格が違うにしても魔馬とは比べ物にならないほど戦闘に役に立つでしょう。兵を減らしてでもスペースを作りますよ。ただ、魔獣ですから運用はロッシュ公の側でお願いしたいのです。信頼はしているのですが、暴走されては我々の手には負えませんから」
これで準備は全て終わった。マグ姉はレントークに随行する衛生兵へ、薬の投与についての講義をひたすら行っていた。多少でも衛生兵の質が向上すれば戦死者をかなり抑えることが出来るだろう。今回は回復魔法が使えるシェラも同行してもらうが、治療の限界は必ずあるからな。
ついに、出発当日になった。レントークに遠征する軍隊をレントーク遠征軍と呼ぶことにしよう。レントーク遠征軍の指揮官にはニード将軍が当たることになっている。その副官は当然、イハサだ。ガムドには今回の船の指揮を頼み、万が一王国海軍が出張ってくるようならガムドに叩いてもらう予定だ。そして海路の兵站の全てを任せることにしてある。今回の戦いは本当に細い細い糸に全てを託すような危うさを持っている。それでもこの戦いに勝利し、王国の牙城を崩さなければ我々に未来はないのだ。
都にはニード将軍率いる二万人の軍が集結した。それを見送るためにライルやグルドも馳せ参じてくれた。それだけで戦いの重要性の高さが分かる。ライルとグルドが兵達に叱咤激励を与えてくれたたおかげで否応なく士気が上がっていく。これからの戦に少しだけ光明が見えたような思いだ。
沿道に集まる住民たちに見送られながら、大型船八隻に分乗し、出発を待った。船長はチカカ、ではない。すでに船長として力をつけたチカカ塾の生徒たちがこの八隻の船長をしている。チカカにはより難しい、レントークへの物資運搬船の船長をしてもらっている。僕が乗る船はクレイ号と名付けられた船だ。なんとなく意味合いのある船に乗ったものだと思った。この戦いでクレイを無事に公国に連れ戻す。それも大きな目標の一つだ。このクレイ号で帰ってこられればよいが。
船に乗るのは、僕、エリス、ミヤ、リード、シェラ、シラー、ルード、ドラドの他に魔馬五百頭、フェンリル二十一頭、兵二千人、船員三百人、その他大量の食料物資が満載されている。僕の私室にも大量の荷物を積み込んだ。ありとあらゆる隙間に物資が詰め込まれている。追加の物資がないことを前提としたものだ。本当にガムドとチカカに期待するところが大きいな。
エリス達に最後の確認をした。
「これが引き返す最後のチャンスだ。皆、覚悟は出来ているか?」
皆の顔は様々だ。エリス以外は物見遊山でもするような気持ちでいるからだ。シェラは寝場所を荷物に占拠されていることにずっと不満顔だし。僕の言葉はほとんどエリスに対してのものだった。
「ロッシュ様。不安はないと言えば嘘になりますが……私は大丈夫です」
「そうか」
聞くだけ無駄だったようだな。船長に出港の合図を出すように命令をした。各船からも合図が鳴り響き、そろそろと船が動き始めた。レントークまでは一週間ほどの船旅だ。これからどうなってしまうんだろうか
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