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第349話 ドラド 後半
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「無理なのだ。我は魔族に変身する能力を得てしまったから」
それがどうした? と思ってしまったがどうやら違うようだ。ドラゴンは魔力でどのようなものにも変身する能力を有しているものだと思っていた。しかし、ドラゴンにはそのような能力はないらしい。ただ、例外的に他種族に恋をするとその種族への変身能力を持つようなのだ。
ドラゴンという種族は非常に変わっており、どのような種族とも交わることが出来るらしい。それはドラゴン自体の数が少ないことが原因らしい。しかし、他種族と交わるにしてもドラゴンの姿では難しいため変身する能力を後天的に獲得するようなのだ。それが恋することだというのだ。ちなみにドラドはトランにそう言う感情を持ったと言う。
「それなら、トランに行きなさいよ」
ミヤが至極尤もなことを言ってくれた。ドラドは悲しそうな顔をして、随分前にトランに断られたというのだ。それゆえ、他の魔族という選択肢もあったというのだが、ドラドと同等程度の強さを持っているのが条件となっているため、そんなものは存在しなかったようなのだ。
ドラドは種の存続のためにドランを諦めきれず、ずっと追いかけ回していたが功を奏することはなかった。そこで現れたのが僕だというのだ。ドラドが魔石で極限まで高められた魔力で放った呪いをいとも簡単に解除してしまったのだ。その未知の強さがドラドには魅力的に映ったようなのだ。そして、決定打がミヤだった。
「そこの魔族にはロッシュとの間の子供がいるな? つまり我の魔族の体でもロッシュとの間に子を作ることが出来るのだ。もはや我に選択肢はない。トランが駄目なら、ロッシュしかいないのだ。どうしても我とは駄目なのか?」
そんな目で見ないでくれ。トランの代わりとは思いたくないが……トランが断ったのは一体なぜなんだろうか? しかし、問題はトランではないのだ。僕がドラドをどう想うかという話だ。
「ドラドは本当に僕でいいのか? その時の気の迷いということはないのか?」
「それはないな。我にとっては少ない選択肢なのだ。それに縋らなければ我の血は途絶えてしまう。ただ、ロッシュが断ったとしても我は恨むことはない。ただ、他の魔族を探すだけだ。百年、見つかることはなかったがあと千年探せば見つかるかも知れないな」
悩んでしまう。ドラドは出会って間もない。とにかく先延ばしするのも一つの選択肢だ。そのことを告げようとするとシェラが間に入ってきた。
「旦那様。受け入れては如何ですか? ドラゴンが加われば、旦那様は全種族を妻にすることが出来るんですよ!! は、ともかく。ドラゴンは強大な種族です。知らない魔族との間に子供生まれて悪用される可能性は否定できません。だったら、旦那様の側に置いておいたほうが良いと思いますよ」
ミヤも同意見のようだ。
「魔界がどうなろうと知ったことではないけど。ドラゴンの力を使って、魔界を統べられるのは面白くないわね。うん。ドラドをロッシュの側室に加えちゃいなさい。むしろ、これはいい機会かも知れないわよ? ドラゴンの方から言い寄ってくるなんて」
皆にも聞いてみると一様にドラドに肯定的だ。ただ、オリバだけは反対と言うか難色を示していた。
「たしかに魔族に変身したドラドさんは魅力的だと思います。でも、ドラドさんの本当の姿はドラゴンなのですよ!! まずはそれを見た上で家族に受け入れるかどうかを判断したほうがいいと思います!! いえ、そうするべきなのです。私はもう一度、あの姿を見てみたい」
うん、きっと最後の言葉が正直な気持ちだろうな。あの時、オリバもドラドの姿を見たが、はっきりと見ることが出来なかったのだろう。きっとそれを悔やんでの発言だろうな。
「ほう。我の本当の姿を見せれば、ロッシュの番と認めてくれるというのだな?」
そうなのか? 頷ずくと、ドラドがいきなり変身を解こうとしだしたのだ。それは全力で止め、人目に触れそうにない場所に移動してから、ドラゴンの姿に戻ってもらうことにした。
「ミヤ、ドラゴンを見たからと言って襲いかかるなよ?」
「ぐ……ロッシュのくせに鋭いわね。お父様が勝てたと聞いたから……私も戦ってもいいでしょ?」
「ダメだ。ミヤに怪我でもされないか心配なんだ。僕に免じて、我慢してくれないか?」
「もう……分かったわよ。でも、ありがとうね」
「おい、そこで見せつけるものではないぞ。それでは姿を戻すぞ」
ドラドがそういうと、徐々に巨大なドラゴンの姿へと戻っていった。これで皆が恐怖でドラドを避けなければいいが。なんだかんだでドラドには皆と仲良くなってもらいたいと思っている。
ドラドは巨大な漆黒のドラゴンとなった。改めて見ると、でかいな。それに美しい体をしている。危害を加えてこないと分かると、途端に見方というのは変わるものだな。
「これが我の本当の姿だ」
響くような声が聞こえてきた。ドラドにとっては小声のようなものなのだろうが、若干畏怖を感じるほどだ。魔界で最強のドラゴンを言うだけのことはあるな。女性陣の反応は様々だったが、畏怖しているのは僕くらいだった。エリスはおそるおそるといった様子だが、近づいていって鱗を触っている。マグ姉は爪を凝視して、ちょっと削り取ろうとしている。オリバは、ドラゴンの姿に興奮しすぎて卒倒しそうになっていた。
もう十分そうだな。ドラドに龍人の姿に戻ってもらうことにした。本当は、本来の姿で過ごしてほしいとは思うがドラゴンの姿というのは難しいだろう。ドラドは首を縦に振ると、再び龍人の姿に戻ってくれた。
「ドラド。済まないな。本当はドラゴンの姿でいてもらいたいが、この世界ではその姿を晒せば攻撃をしてくる者もいるかもしれない。許してくれ」
「ロッシュ。やはり優しいな。我にそのような気遣いをしてくれるものは今までいなかったぞ。我の目には狂いはなかった。さて、我をロッシュの番として認めてくれるのか?」
皆は賛成という感じだったが、マグ姉だけは条件をつけてきたのだ。
「ねぇ、ドラドに個人的なお願いなんだけど。ドラゴンの鱗や爪って凄い薬になるって聞いたことがあるの。レシピとかは現存していないから手探りなんだけど、協力してくれないかしら?」
「ふむ。我をロッシュの番として認めてくれるのなら、鱗と爪は提供してやってもいいぞ」
「ふふっ。決まりね」
ドラドが無理をしていないか心配になってしまった。鱗や爪なんてそう簡単に渡せるものではないだろう。
「それは大丈夫だぞ。我は脱皮をする度に鱗を大量に出すからな。それに爪も生え変わるから、それを渡すつもりだ。もっとも魔の森のドラゴンのところに行けば大量に持ってこれるのではないか? 我らにとって鱗と爪の処分が最大の悩みだからな」
そういうものか。まぁ無理をしていないのならいいか。とりあえず屋敷に戻ることにした。戻る頃に、ちょうど城に戻ろうとしていたトランとシェリーとばったり会った。ドラドはトランに向かって宣言をした。
「我が友トラン。我はロッシュと番になることになった。そなたには付き纏ってしまったが、金輪際そのようなことはせぬ。その女と仲良く暮らせよ」
「おお? ロッシュ君といつの間にそのようなことに。まぁ、幸せにな」
このようなことになってしまったのだから、どうしても聞きたいことがあったのだ。
「トラン。なぜ、ドラドの誘いを断ったのだ? 最初に番になりたかったのはトランらしいぞ」
「んん? そのようなことは初めて聞いたぞ。何度も言うが、ドラドの誘いを私が拒んでいたのではない。私の誘いをドラドが拒んでいたのだ。あとでドラドが私の城に入り込んでいたことを知ったが。それまでは全く気付かないほど関係性を持っていないのだぞ。番なんて話は聞いたこともない」
確かにその通りだ。トランの言葉を思い出すと、終始一貫している。そうなると、ドラドの言っていたことが怪しくなってくるぞ。ドラドに詰問していると、ついに白状した。
「我の作戦よ。ロッシュは優しい。それに付け入るようにしたのは申しわけないと思うが。トランには番になることは求めたことはない。当時は番になることに然程興味がなかったからな。ただ、トランに興味があっただけだ。魔族のくせにそれほどの力をどうやって手に入れたのかを。しかし、今は違うのだ。ロッシュと本気で番になりたいと思っているのだ」
なるほど。すっかり騙されてしまったわけか。あの時、トランに確認をしておけばと思うが、今になっては無駄なことだな。そのような嘘があったと分かっても、ドラドとの関係をもう一度考え直そうという気は起きない。なぜなら、妻達がそれを許さないからだ。特にマグ姉は……。
「ドラド。これからはそのような嘘をつくなよ」
「許してくれるのか?」
「ああ。ドラドがそれほど僕との関係を築きたいと一生懸命だったのだろう。あとは妻たちと仲良くな」
「分かったぞ!! これからよろしく頼むぞ、ロッシュ。我が番よ」
その言い方は勘弁してもらいたいものだな。僕達の家族にまた一人、漆黒のドラゴンのドラドが加わった。彼女の目的は子を成し、孤独から解放されることだ。そのために出来る限り協力をしてやりたいと思う。この理由ならルードと仲良くなりそうだな。
その直後、都から連絡がやってきた。城への引っ越しが可能になったという報告だった。
それがどうした? と思ってしまったがどうやら違うようだ。ドラゴンは魔力でどのようなものにも変身する能力を有しているものだと思っていた。しかし、ドラゴンにはそのような能力はないらしい。ただ、例外的に他種族に恋をするとその種族への変身能力を持つようなのだ。
ドラゴンという種族は非常に変わっており、どのような種族とも交わることが出来るらしい。それはドラゴン自体の数が少ないことが原因らしい。しかし、他種族と交わるにしてもドラゴンの姿では難しいため変身する能力を後天的に獲得するようなのだ。それが恋することだというのだ。ちなみにドラドはトランにそう言う感情を持ったと言う。
「それなら、トランに行きなさいよ」
ミヤが至極尤もなことを言ってくれた。ドラドは悲しそうな顔をして、随分前にトランに断られたというのだ。それゆえ、他の魔族という選択肢もあったというのだが、ドラドと同等程度の強さを持っているのが条件となっているため、そんなものは存在しなかったようなのだ。
ドラドは種の存続のためにドランを諦めきれず、ずっと追いかけ回していたが功を奏することはなかった。そこで現れたのが僕だというのだ。ドラドが魔石で極限まで高められた魔力で放った呪いをいとも簡単に解除してしまったのだ。その未知の強さがドラドには魅力的に映ったようなのだ。そして、決定打がミヤだった。
「そこの魔族にはロッシュとの間の子供がいるな? つまり我の魔族の体でもロッシュとの間に子を作ることが出来るのだ。もはや我に選択肢はない。トランが駄目なら、ロッシュしかいないのだ。どうしても我とは駄目なのか?」
そんな目で見ないでくれ。トランの代わりとは思いたくないが……トランが断ったのは一体なぜなんだろうか? しかし、問題はトランではないのだ。僕がドラドをどう想うかという話だ。
「ドラドは本当に僕でいいのか? その時の気の迷いということはないのか?」
「それはないな。我にとっては少ない選択肢なのだ。それに縋らなければ我の血は途絶えてしまう。ただ、ロッシュが断ったとしても我は恨むことはない。ただ、他の魔族を探すだけだ。百年、見つかることはなかったがあと千年探せば見つかるかも知れないな」
悩んでしまう。ドラドは出会って間もない。とにかく先延ばしするのも一つの選択肢だ。そのことを告げようとするとシェラが間に入ってきた。
「旦那様。受け入れては如何ですか? ドラゴンが加われば、旦那様は全種族を妻にすることが出来るんですよ!! は、ともかく。ドラゴンは強大な種族です。知らない魔族との間に子供生まれて悪用される可能性は否定できません。だったら、旦那様の側に置いておいたほうが良いと思いますよ」
ミヤも同意見のようだ。
「魔界がどうなろうと知ったことではないけど。ドラゴンの力を使って、魔界を統べられるのは面白くないわね。うん。ドラドをロッシュの側室に加えちゃいなさい。むしろ、これはいい機会かも知れないわよ? ドラゴンの方から言い寄ってくるなんて」
皆にも聞いてみると一様にドラドに肯定的だ。ただ、オリバだけは反対と言うか難色を示していた。
「たしかに魔族に変身したドラドさんは魅力的だと思います。でも、ドラドさんの本当の姿はドラゴンなのですよ!! まずはそれを見た上で家族に受け入れるかどうかを判断したほうがいいと思います!! いえ、そうするべきなのです。私はもう一度、あの姿を見てみたい」
うん、きっと最後の言葉が正直な気持ちだろうな。あの時、オリバもドラドの姿を見たが、はっきりと見ることが出来なかったのだろう。きっとそれを悔やんでの発言だろうな。
「ほう。我の本当の姿を見せれば、ロッシュの番と認めてくれるというのだな?」
そうなのか? 頷ずくと、ドラドがいきなり変身を解こうとしだしたのだ。それは全力で止め、人目に触れそうにない場所に移動してから、ドラゴンの姿に戻ってもらうことにした。
「ミヤ、ドラゴンを見たからと言って襲いかかるなよ?」
「ぐ……ロッシュのくせに鋭いわね。お父様が勝てたと聞いたから……私も戦ってもいいでしょ?」
「ダメだ。ミヤに怪我でもされないか心配なんだ。僕に免じて、我慢してくれないか?」
「もう……分かったわよ。でも、ありがとうね」
「おい、そこで見せつけるものではないぞ。それでは姿を戻すぞ」
ドラドがそういうと、徐々に巨大なドラゴンの姿へと戻っていった。これで皆が恐怖でドラドを避けなければいいが。なんだかんだでドラドには皆と仲良くなってもらいたいと思っている。
ドラドは巨大な漆黒のドラゴンとなった。改めて見ると、でかいな。それに美しい体をしている。危害を加えてこないと分かると、途端に見方というのは変わるものだな。
「これが我の本当の姿だ」
響くような声が聞こえてきた。ドラドにとっては小声のようなものなのだろうが、若干畏怖を感じるほどだ。魔界で最強のドラゴンを言うだけのことはあるな。女性陣の反応は様々だったが、畏怖しているのは僕くらいだった。エリスはおそるおそるといった様子だが、近づいていって鱗を触っている。マグ姉は爪を凝視して、ちょっと削り取ろうとしている。オリバは、ドラゴンの姿に興奮しすぎて卒倒しそうになっていた。
もう十分そうだな。ドラドに龍人の姿に戻ってもらうことにした。本当は、本来の姿で過ごしてほしいとは思うがドラゴンの姿というのは難しいだろう。ドラドは首を縦に振ると、再び龍人の姿に戻ってくれた。
「ドラド。済まないな。本当はドラゴンの姿でいてもらいたいが、この世界ではその姿を晒せば攻撃をしてくる者もいるかもしれない。許してくれ」
「ロッシュ。やはり優しいな。我にそのような気遣いをしてくれるものは今までいなかったぞ。我の目には狂いはなかった。さて、我をロッシュの番として認めてくれるのか?」
皆は賛成という感じだったが、マグ姉だけは条件をつけてきたのだ。
「ねぇ、ドラドに個人的なお願いなんだけど。ドラゴンの鱗や爪って凄い薬になるって聞いたことがあるの。レシピとかは現存していないから手探りなんだけど、協力してくれないかしら?」
「ふむ。我をロッシュの番として認めてくれるのなら、鱗と爪は提供してやってもいいぞ」
「ふふっ。決まりね」
ドラドが無理をしていないか心配になってしまった。鱗や爪なんてそう簡単に渡せるものではないだろう。
「それは大丈夫だぞ。我は脱皮をする度に鱗を大量に出すからな。それに爪も生え変わるから、それを渡すつもりだ。もっとも魔の森のドラゴンのところに行けば大量に持ってこれるのではないか? 我らにとって鱗と爪の処分が最大の悩みだからな」
そういうものか。まぁ無理をしていないのならいいか。とりあえず屋敷に戻ることにした。戻る頃に、ちょうど城に戻ろうとしていたトランとシェリーとばったり会った。ドラドはトランに向かって宣言をした。
「我が友トラン。我はロッシュと番になることになった。そなたには付き纏ってしまったが、金輪際そのようなことはせぬ。その女と仲良く暮らせよ」
「おお? ロッシュ君といつの間にそのようなことに。まぁ、幸せにな」
このようなことになってしまったのだから、どうしても聞きたいことがあったのだ。
「トラン。なぜ、ドラドの誘いを断ったのだ? 最初に番になりたかったのはトランらしいぞ」
「んん? そのようなことは初めて聞いたぞ。何度も言うが、ドラドの誘いを私が拒んでいたのではない。私の誘いをドラドが拒んでいたのだ。あとでドラドが私の城に入り込んでいたことを知ったが。それまでは全く気付かないほど関係性を持っていないのだぞ。番なんて話は聞いたこともない」
確かにその通りだ。トランの言葉を思い出すと、終始一貫している。そうなると、ドラドの言っていたことが怪しくなってくるぞ。ドラドに詰問していると、ついに白状した。
「我の作戦よ。ロッシュは優しい。それに付け入るようにしたのは申しわけないと思うが。トランには番になることは求めたことはない。当時は番になることに然程興味がなかったからな。ただ、トランに興味があっただけだ。魔族のくせにそれほどの力をどうやって手に入れたのかを。しかし、今は違うのだ。ロッシュと本気で番になりたいと思っているのだ」
なるほど。すっかり騙されてしまったわけか。あの時、トランに確認をしておけばと思うが、今になっては無駄なことだな。そのような嘘があったと分かっても、ドラドとの関係をもう一度考え直そうという気は起きない。なぜなら、妻達がそれを許さないからだ。特にマグ姉は……。
「ドラド。これからはそのような嘘をつくなよ」
「許してくれるのか?」
「ああ。ドラドがそれほど僕との関係を築きたいと一生懸命だったのだろう。あとは妻たちと仲良くな」
「分かったぞ!! これからよろしく頼むぞ、ロッシュ。我が番よ」
その言い方は勘弁してもらいたいものだな。僕達の家族にまた一人、漆黒のドラゴンのドラドが加わった。彼女の目的は子を成し、孤独から解放されることだ。そのために出来る限り協力をしてやりたいと思う。この理由ならルードと仲良くなりそうだな。
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