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第348話 ドラド 前半
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ドラゴンとの戦いに勝利を収めた僕達は、意気揚々と村の屋敷に戻っていった。魔の森のドラゴンの好意でドアを洞窟近くに設置させてもらい、ドアをくぐると懐かしい我が家に戻ってこれるのだ。屋敷は思ったよりも静まり返っており、出迎えに来るものはいなかった。それはそうか。ドアが開くタイミングなんて分からないもんな。今度、ベルかなんか取り付けてみるか。
魔族に変身した漆黒のドラゴン、ドラドの方を向いた。
「いいか? ちゃんと条件に従って行動してくれ。無闇に物は壊さない。人に対して不遜な態度は取らない。粗相をしない。トイレはあっちにあるからな。それと僕のことはロッシュと呼ぶんだ」
「全部分かった。ロッシュだな。しかし、我を何だと思っているんだ? これでもトランの城で何十年も家庭教師として疑われることもなく過ごしてきているのだぞ。粗相なんてあるわけがないだろ」
初対面の印象というのはなかなか抜けないものだ。ドラドがまともな生活を送れるような気が全くしないのだ。村に受け入れた以上はなるべく追い出さない方法を考えたいが、とりあえず様子を見てみよう。僕達は移動ドアの間のドアを開けると、ようやく家族に会うことが出来た。マグ姉だ
「ロッシュ。やっと戻ってきたのね。先に帰ってきた人がロッシュ達とドラゴンが死闘しているって聞いたから心配になっていたのよ。でも無事でよかったわ。とりあえず、トランの眷属達は怪我もなかったようだから城に送っておいたわ。シュリーさんは怪我はなかったものの、体力の消耗が見られたから屋敷の部屋に寝かせているわ。それで? 魔の森はどうだったのよ? すごかった? ドラゴンはどんなのだったの? シェラとオリバに聞いてもよく分からなくて」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに矢継ぎ早に質問されても困る。あとで皆が集まったときにでも話す。それまで待ってくれ。とにかく、トランの眷属達を介抱してくれてありがとうな」
「それは私からもお礼が言いたい。本当に済まなかったな。この礼は……と言いたいところだが、私に出せるものは何もないんだったな。元魔王とは言うが情けない限りだ。とにかく私はシュリーの見舞いに行ってくるぞ。またあとで会おう」
そういって、トランは慣れた足取りでシュリーが寝る部屋に向かっていった。マグ姉はトランの後ろ姿を見てから僕に振り返った。
「じゃあ、一つだけ教えてちょうだい。……その子は誰?」
「ドラゴン」
「別に私は怒っているわけではないのよ。ちょっと気になって聞いただけよ。だからそんな嘘はつかなくてもいいの。正直に答えて」
「だから、ドラゴンだって。魔族の姿に変身できるって言うから、そうしてもらっているだけだ」
「本当? 本当に本当? えっ!? ドラゴン!? こんな可愛い子が……あなた達最低よ。こんな可愛い子と死闘を繰り広げるなんて。これは家族会議が必要のようね。トランにも説教を」
ドラドの姿を見た。可愛い子供を装っているドラゴンにしか見えない。とても可愛いと感じることは難しそうだ。しかし、確かにドラゴンということに目をつぶれば、美人になりそうだなぁくらいには思えるかも知れない。体型は小学生くらいのものだが、顔は整っているし、綺麗な水色の髪に同じ色の瞳。角や尻尾だって、ちょっとしたアクセサリーのようだ。よくよく見てみると、可愛い子だ。でも、あの凶悪なドラゴンなんだよなあ。
「マグ姉はドラドの本当の姿を見ていないから、そんなことを言えるんだ」
「いいえ。たとえ変身でも心が美しくなければ、こんな可愛い子に変身できるものですか」
謎理論が出てきたが、とりあえず話が合いそうにもない。マグ姉と一旦休戦をして居間に向かうことにした。ドラドは今のところ、一言も発していない。おそらく、矮小なる生き物と思って話さなかっただけなんだろう。それでもマグ姉に体を触られていた時にいやな顔をしなかったのは偉かったな。何気なくドラドの頭を撫でてしまった。
「な、なにをする!? いくらロッシュでもやっていいことと悪いことがあるのが分からないのか!! 我の大切な角をそのようにぞんざいに触るとは」
「済まなかったな。こっちの世界では子供を褒める時に頭を撫でる習慣があるのだ。その癖でついな。悪気はなかった。許して欲しい」
「そうか……そのような風習があるならば仕方ないな。しかし二度は許さぬからな。それで? 我は何故褒められたのだ?」
マグ姉との接し方について説明し、褒めた理由を言うとドラドは素直にふむふむと聞いている。
「なるほどな。しかし、ロッシュは勘違いをしている。さっきのマグ姉と呼ばれていたのはロッシュの番であろう? それならば敬意を払うのは当然だ。ドラゴンの世界では番になれば、あらゆる点で女のほうが強いのだ。我が友の妻ともなれば、それはそれは強いのであろう。我には感じなかったが」
それがドラゴンの常識なのか。でもまぁ、その考えからいけば僕の妻たちには変なことをすることはないだろう。そう思い、あえて訂正をすることはなかった。ドラドとマグ姉と共に居間に向かうと妻達の殆どが顔を揃えていた。やはり魔の森探索の土産話が聞きたいようだ。
話が始まりそうな雰囲気を察したのか、エリスがとことことキッチンの方に向かいコーヒーを用意してくれている。飲みたいと思っていたところだ。ありがたい。ドラドを皆に紹介することにした。
「この子供はドラド。こんな見た目をしているが、実はドラゴンなんだ。本来の姿は二十メートルを超えるほどの大きさなんだが、魔族に変身することで今の姿になっている。一応は、この村でのルールは教え込んでいるし、本人も了承しているから問題は起こさないと思っている」
そう言ってから、ドラドにも挨拶をさせた。
「ロッシュの妻たちよ。我はドラド。魔界にてドラゴンの頂点に立つものだ。故あって、こっちの世界で世話になることになった。我は魔界に住むものだ。こちらの世界には極力介入しないのが不文律となっている。それ故、我に武力を頼るのだけは止めてくれ。それ以外だったら、協力させてもらおう。ただし、我はロッシュの側を離れる気はないからな」
最後の言葉が良くなかった。妻達はその言葉の意味を変な方向に解釈してしまったのだ。さっきまでドラドの味方で、なんでも言うことは聞きそうな勢いだったのに急に手のひらを返してしまったのだ。
「ドラドちゃん? そういうことはもうちょっと大人になってからするものよ? この村にもドラドちゃんくらいの子供がいるから、その子供たちと一緒に遊ぶといいわよ?」
その言葉にエリスが相槌を打ってくる。
「そうね。ドラドちゃんの背格好くらいでお嫁さんに行くって話は聞いたことはあるけど。やっぱり、マーガレットさんが言うようにもうちょっと大人になったからの方が」
「一体何を言っているのだ? 我はロッシュを観察するためにこの世界に来たのだぞ。常に一緒にいなければ、それが叶わぬではないか。我はもう一人ぼっちになるのは嫌なのだ」
ドラドは急に落ち込んでしまった。トランに置いてけぼりを食らったことが相当堪えているような。慰めをいいつつ、マグ姉たちの言っていることの説明をした。すると、ドラドは急に考え事をするように人差し指を顎に当てていた。
「なるほどな。我がロッシュと番になると思ったわけだな。しかし、この体型はそれほど幼く見えるものなのか? 魔界ではそのようなことを言われたことがないんだがな」
するとミヤが間に入ってきた。
「それはそうよ。魔界は様々な魔族がいるわ。その中には当然、大人になっても小さい体の種族もいるわ。だから魔族の中ではいちいち体の大きさで相手を図ることはないのよ。これはこっちの世界に来て初めて知ったことなんだけどね。だから、あなたの体型はこの世界では残念ながら子供のものなのよ。だから、どう頑張ってもロッシュの番にはなれないわよ」
「それは面白いことを聞いたな。それならば、ミヤのような体になればロッシュと番になることが出来るということか?」
「そうね。それが出来れば、少なくとも周りからは変な顔をされることはないわ。一応言っておくけど、別にこの国では子供との結婚は禁じられていないわ。けどね、周囲の目を気にする人がいるの。だから結婚しないだけなのよ」
ドラドとミヤの会話がなんだか嫌な方向に進んでいる気がする。これは今のうちに話を戻さないと大変なことになりそうだ。
「ドラド。ミヤの言うことに耳を貸す必要はないぞ。確かに結婚は大人同士でするものだ。しかし、結婚は体型だけで決まるものではない。信頼関係や相手を想う気持ちが必要なんだ。それには時間がかかる。だから体型のみで番になれるわけではないのだ」
「信頼関係と相手を想う気持ちが必要……なるほどの。人とは面白い事を考えるものだな。しかし、問題はなかろう? 我とロッシュとの間にはその気持ちがあるではないか。ロッシュは我に優しい。それは我を想う気持ちなのであろう? そして我をここに連れてきてくれた。それは信頼してくれているからであろう?」
否定しようとした。微妙に間違っているからだ。僕は別に優しくはない。ただ、皆と同じように接していただけだ。だからドラドに向けられた特別なものではない。それにドラドを全く信頼していない。いつ、あのドラゴンの姿になって暴れるか不安で仕方がないのだ。
……しかし、否定できないのだ。ドラドが意図的かどうか分からないが、潤んだ瞳でこちらを見つめてくるからだ。しかも、子供体型だからこそ子供に傷をつけてはいけないという気持ちが湧きあがってしまう。つい、言ってしまった。
「そうだな」
終わった。肯定してしまった。いや、待て。まだ諦めるのは早い。体型の問題が残っているではないか。子供とは結婚できないと突っぱねてしまえばいい。自分の浅はかさを恨んでしまうが、今は逃げ道はこれしかないのだ。
「嬉しいぞ。ロッシュが我を受け入れてくれるとは。そうなると、我も変わらねばならないようだな。人の習性を学習することが出来るドラゴンの叡智を知るが良い」
一体何を言い出すんだ? ドラドを見つめていると、ドラドは急に立ち上がり、何かの魔法を使い始めた。これは……変身したときと同じ光だ。まさかドラゴンに戻るのでは。周りを見渡し、妻達の配置を把握し、いつでも逃げ出せる準備だけを整えた。
しかし、光りに包まれたドラドは少し巨大化しただけで止まってしまった。ドラゴンに戻ったわけではないのか? 光が収まり、そこには先程のドラドが大きく成長し、人並みの大人の姿になっていた。
「これで大人の姿になったであろ? 本当は魔力の消耗を抑えるために小さな体にしているのだが、番になるためならば、仕方がないの」
こんなことが出来るなんて……最後の抵抗をいとも簡単に破られてしまった。いや、待て待て。まだだ。そういえば、ドラドから番になりたい理由を聞いていなかったな。
「ここで言うのか?」
確かに皆の前で言うのは恥ずかしいことだろう。結婚をするためには妻達の了承も必要だから、話を聞かせてほしいと訳の分からない理屈でなんとか説得した。
「子が欲しいのだ。我はずっと一人でいた。子がおれば違うであろう?」
確かに子供がいることで心が落ち着く。しかし、そうなると僕である必要性はないだろうに。たとえば魔の森のドラゴンとか、魔界にいる他のドラゴンとか。何にしても別の種族である僕を選ぶ必要はないではないか。
「無理なのだ。我は魔族に変身する能力を得てしまったから」
話が見えてこないな。ここからはドラゴンの生態に関わる話になった。
魔族に変身した漆黒のドラゴン、ドラドの方を向いた。
「いいか? ちゃんと条件に従って行動してくれ。無闇に物は壊さない。人に対して不遜な態度は取らない。粗相をしない。トイレはあっちにあるからな。それと僕のことはロッシュと呼ぶんだ」
「全部分かった。ロッシュだな。しかし、我を何だと思っているんだ? これでもトランの城で何十年も家庭教師として疑われることもなく過ごしてきているのだぞ。粗相なんてあるわけがないだろ」
初対面の印象というのはなかなか抜けないものだ。ドラドがまともな生活を送れるような気が全くしないのだ。村に受け入れた以上はなるべく追い出さない方法を考えたいが、とりあえず様子を見てみよう。僕達は移動ドアの間のドアを開けると、ようやく家族に会うことが出来た。マグ姉だ
「ロッシュ。やっと戻ってきたのね。先に帰ってきた人がロッシュ達とドラゴンが死闘しているって聞いたから心配になっていたのよ。でも無事でよかったわ。とりあえず、トランの眷属達は怪我もなかったようだから城に送っておいたわ。シュリーさんは怪我はなかったものの、体力の消耗が見られたから屋敷の部屋に寝かせているわ。それで? 魔の森はどうだったのよ? すごかった? ドラゴンはどんなのだったの? シェラとオリバに聞いてもよく分からなくて」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんなに矢継ぎ早に質問されても困る。あとで皆が集まったときにでも話す。それまで待ってくれ。とにかく、トランの眷属達を介抱してくれてありがとうな」
「それは私からもお礼が言いたい。本当に済まなかったな。この礼は……と言いたいところだが、私に出せるものは何もないんだったな。元魔王とは言うが情けない限りだ。とにかく私はシュリーの見舞いに行ってくるぞ。またあとで会おう」
そういって、トランは慣れた足取りでシュリーが寝る部屋に向かっていった。マグ姉はトランの後ろ姿を見てから僕に振り返った。
「じゃあ、一つだけ教えてちょうだい。……その子は誰?」
「ドラゴン」
「別に私は怒っているわけではないのよ。ちょっと気になって聞いただけよ。だからそんな嘘はつかなくてもいいの。正直に答えて」
「だから、ドラゴンだって。魔族の姿に変身できるって言うから、そうしてもらっているだけだ」
「本当? 本当に本当? えっ!? ドラゴン!? こんな可愛い子が……あなた達最低よ。こんな可愛い子と死闘を繰り広げるなんて。これは家族会議が必要のようね。トランにも説教を」
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「マグ姉はドラドの本当の姿を見ていないから、そんなことを言えるんだ」
「いいえ。たとえ変身でも心が美しくなければ、こんな可愛い子に変身できるものですか」
謎理論が出てきたが、とりあえず話が合いそうにもない。マグ姉と一旦休戦をして居間に向かうことにした。ドラドは今のところ、一言も発していない。おそらく、矮小なる生き物と思って話さなかっただけなんだろう。それでもマグ姉に体を触られていた時にいやな顔をしなかったのは偉かったな。何気なくドラドの頭を撫でてしまった。
「な、なにをする!? いくらロッシュでもやっていいことと悪いことがあるのが分からないのか!! 我の大切な角をそのようにぞんざいに触るとは」
「済まなかったな。こっちの世界では子供を褒める時に頭を撫でる習慣があるのだ。その癖でついな。悪気はなかった。許して欲しい」
「そうか……そのような風習があるならば仕方ないな。しかし二度は許さぬからな。それで? 我は何故褒められたのだ?」
マグ姉との接し方について説明し、褒めた理由を言うとドラドは素直にふむふむと聞いている。
「なるほどな。しかし、ロッシュは勘違いをしている。さっきのマグ姉と呼ばれていたのはロッシュの番であろう? それならば敬意を払うのは当然だ。ドラゴンの世界では番になれば、あらゆる点で女のほうが強いのだ。我が友の妻ともなれば、それはそれは強いのであろう。我には感じなかったが」
それがドラゴンの常識なのか。でもまぁ、その考えからいけば僕の妻たちには変なことをすることはないだろう。そう思い、あえて訂正をすることはなかった。ドラドとマグ姉と共に居間に向かうと妻達の殆どが顔を揃えていた。やはり魔の森探索の土産話が聞きたいようだ。
話が始まりそうな雰囲気を察したのか、エリスがとことことキッチンの方に向かいコーヒーを用意してくれている。飲みたいと思っていたところだ。ありがたい。ドラドを皆に紹介することにした。
「この子供はドラド。こんな見た目をしているが、実はドラゴンなんだ。本来の姿は二十メートルを超えるほどの大きさなんだが、魔族に変身することで今の姿になっている。一応は、この村でのルールは教え込んでいるし、本人も了承しているから問題は起こさないと思っている」
そう言ってから、ドラドにも挨拶をさせた。
「ロッシュの妻たちよ。我はドラド。魔界にてドラゴンの頂点に立つものだ。故あって、こっちの世界で世話になることになった。我は魔界に住むものだ。こちらの世界には極力介入しないのが不文律となっている。それ故、我に武力を頼るのだけは止めてくれ。それ以外だったら、協力させてもらおう。ただし、我はロッシュの側を離れる気はないからな」
最後の言葉が良くなかった。妻達はその言葉の意味を変な方向に解釈してしまったのだ。さっきまでドラドの味方で、なんでも言うことは聞きそうな勢いだったのに急に手のひらを返してしまったのだ。
「ドラドちゃん? そういうことはもうちょっと大人になってからするものよ? この村にもドラドちゃんくらいの子供がいるから、その子供たちと一緒に遊ぶといいわよ?」
その言葉にエリスが相槌を打ってくる。
「そうね。ドラドちゃんの背格好くらいでお嫁さんに行くって話は聞いたことはあるけど。やっぱり、マーガレットさんが言うようにもうちょっと大人になったからの方が」
「一体何を言っているのだ? 我はロッシュを観察するためにこの世界に来たのだぞ。常に一緒にいなければ、それが叶わぬではないか。我はもう一人ぼっちになるのは嫌なのだ」
ドラドは急に落ち込んでしまった。トランに置いてけぼりを食らったことが相当堪えているような。慰めをいいつつ、マグ姉たちの言っていることの説明をした。すると、ドラドは急に考え事をするように人差し指を顎に当てていた。
「なるほどな。我がロッシュと番になると思ったわけだな。しかし、この体型はそれほど幼く見えるものなのか? 魔界ではそのようなことを言われたことがないんだがな」
するとミヤが間に入ってきた。
「それはそうよ。魔界は様々な魔族がいるわ。その中には当然、大人になっても小さい体の種族もいるわ。だから魔族の中ではいちいち体の大きさで相手を図ることはないのよ。これはこっちの世界に来て初めて知ったことなんだけどね。だから、あなたの体型はこの世界では残念ながら子供のものなのよ。だから、どう頑張ってもロッシュの番にはなれないわよ」
「それは面白いことを聞いたな。それならば、ミヤのような体になればロッシュと番になることが出来るということか?」
「そうね。それが出来れば、少なくとも周りからは変な顔をされることはないわ。一応言っておくけど、別にこの国では子供との結婚は禁じられていないわ。けどね、周囲の目を気にする人がいるの。だから結婚しないだけなのよ」
ドラドとミヤの会話がなんだか嫌な方向に進んでいる気がする。これは今のうちに話を戻さないと大変なことになりそうだ。
「ドラド。ミヤの言うことに耳を貸す必要はないぞ。確かに結婚は大人同士でするものだ。しかし、結婚は体型だけで決まるものではない。信頼関係や相手を想う気持ちが必要なんだ。それには時間がかかる。だから体型のみで番になれるわけではないのだ」
「信頼関係と相手を想う気持ちが必要……なるほどの。人とは面白い事を考えるものだな。しかし、問題はなかろう? 我とロッシュとの間にはその気持ちがあるではないか。ロッシュは我に優しい。それは我を想う気持ちなのであろう? そして我をここに連れてきてくれた。それは信頼してくれているからであろう?」
否定しようとした。微妙に間違っているからだ。僕は別に優しくはない。ただ、皆と同じように接していただけだ。だからドラドに向けられた特別なものではない。それにドラドを全く信頼していない。いつ、あのドラゴンの姿になって暴れるか不安で仕方がないのだ。
……しかし、否定できないのだ。ドラドが意図的かどうか分からないが、潤んだ瞳でこちらを見つめてくるからだ。しかも、子供体型だからこそ子供に傷をつけてはいけないという気持ちが湧きあがってしまう。つい、言ってしまった。
「そうだな」
終わった。肯定してしまった。いや、待て。まだ諦めるのは早い。体型の問題が残っているではないか。子供とは結婚できないと突っぱねてしまえばいい。自分の浅はかさを恨んでしまうが、今は逃げ道はこれしかないのだ。
「嬉しいぞ。ロッシュが我を受け入れてくれるとは。そうなると、我も変わらねばならないようだな。人の習性を学習することが出来るドラゴンの叡智を知るが良い」
一体何を言い出すんだ? ドラドを見つめていると、ドラドは急に立ち上がり、何かの魔法を使い始めた。これは……変身したときと同じ光だ。まさかドラゴンに戻るのでは。周りを見渡し、妻達の配置を把握し、いつでも逃げ出せる準備だけを整えた。
しかし、光りに包まれたドラドは少し巨大化しただけで止まってしまった。ドラゴンに戻ったわけではないのか? 光が収まり、そこには先程のドラドが大きく成長し、人並みの大人の姿になっていた。
「これで大人の姿になったであろ? 本当は魔力の消耗を抑えるために小さな体にしているのだが、番になるためならば、仕方がないの」
こんなことが出来るなんて……最後の抵抗をいとも簡単に破られてしまった。いや、待て待て。まだだ。そういえば、ドラドから番になりたい理由を聞いていなかったな。
「ここで言うのか?」
確かに皆の前で言うのは恥ずかしいことだろう。結婚をするためには妻達の了承も必要だから、話を聞かせてほしいと訳の分からない理屈でなんとか説得した。
「子が欲しいのだ。我はずっと一人でいた。子がおれば違うであろう?」
確かに子供がいることで心が落ち着く。しかし、そうなると僕である必要性はないだろうに。たとえば魔の森のドラゴンとか、魔界にいる他のドラゴンとか。何にしても別の種族である僕を選ぶ必要はないではないか。
「無理なのだ。我は魔族に変身する能力を得てしまったから」
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