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第326話 ダム建設とキャンプ

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 都郊外にある村の屋敷然とした建物は思ったよりも居心地がよく、ここから作業現場に向かうことが当たり前になっていった。都の方は、どんどんと家が立ち並んでいき、三の丸の東部の居住区は少しずつ埋まり始めていた。それでも一割にも満たない完成というのだから、10万人分の世帯というのは気が遠くなる数なのだと実感させられた。

 城はキュスリーが陣頭指揮をとりながら、職人たちが木材の枠組みを次々と組んでいく。すでに高さとしては半分くらいにはなっているだろうか。少し見上げるような高さになっていた。僕は温泉をひいた後は上水道の整備を進めることになっていた。だが、問題はどこから水源を引っ張ってくるか。都の中央に流れる川からは水源として確保することが難しいので、違う川ということになるのだが、水量が乏しい場所ばかりなのだ。

 ゴードンもこれについては頭を悩ましており、都周囲の河川の上流を調べに調査隊を繰り出したのだがなかなか水源の候補となる場所が少ないのだ。こうなればダムを数カ所作って、それらを水源として利用するという方法を取るしかないだろう。

 僕とゴードンは目の前にある地図ににらみながら、どこにダムを設置するかという話になっていた。相談の結果、三箇所のダムを作ることになった。場所は都から西の方にある比較的大きな川の源流となる。ここにダムを設置すれば、都だけでなく三村や二村に上水道を引くことが出来る。それに山間になっており、ダムを作るのに適している地形となっているのが決め手となった。

 僕とシラーが土魔法でダムの造成を行い、ルードが木々の伐採や石材の加工をやってもらうことになった。オリバにも同行をしてもらい、僕の体調管理をしてもらうことになっている。クレイは残念ながら新村に戻ることになった。都の建設がある程度ひと段落つき、引き継ぎも完了したということだ。まだまだ新村にはクレイがやらなければならない仕事が多いようだ。

 「ロッシュ様。先に戻りますがどうかお怪我をなさらないように。温泉での一時は本当に忘れられないものとなりました。また、ご一緒させてください」

 「ああ、もちろんだ。もうしばらく共にいたいと思っていたが残念だな」

 クレイと別れを告げ、僕達はダム建設予定地に赴くことにした。目的地に着くと、早速工事を開始した。山間の谷に水が溜まるように周囲を石材で塞いでいくだけのものだ。ただ、大量の水が溜まることを想定して分厚い石材を並べていく。それを三箇所作ることになるのだが、いちいち都を往復するのはかなり億劫だ。ここまでは道なき道を進むのだが、途中の木々を切り倒しても歩きにくさを改善するのは簡単なことではない。

 一つ目のダムが完成して、周囲を探索していると温泉を見つけることが出来た。この辺りは温泉が豊富なのかもしれない。僕が温泉を前に立ちつくしていると、シラーが僕に話しかけてきた。

 「今日はここで野宿をしませんか? あそこの崖に坑道を作れば雨露も凌げますし、目の前には温泉があるんです。いちいち都に戻っていたら、それこそ何度往復するか分かりませんから。ここを拠点にしてみませんか?」

 そういえば、野宿って最近していない気がするな。シラーは意外と野宿を嫌がるような女性ではないのだ。ちょっとワクワクしてきたな。オリバとルードにも確認をすると二人共意に介さない様子だ。

 「吟遊詩人として旅をすることが多かったですから。野宿なんてよくやっていたんですよ」

 吟遊詩人というのは思ったよりも過酷なものなのだな。どうも街中にいるイメージをしてしまうが、そんなことはないようだな。それにしてもオリバが野宿か。なんかイメージが湧かないな。

 「私なんて、よく長から怒られて里を追い出されていましたから。その時は秘密の場所で野宿するのが結構楽しみだったんですよ」

 うん。よく想像がつくな。怒られて、楽しむって。全然反省する気がないんだな。ルードを叱る時は外に出すのは止めておこう。僕はハトリを呼び出し、ゴードンに野宿をする連絡をしてもらうことにした。さて、野宿するとなると早く準備をしなければならないな。暖かくなったとは言え、この辺りは夜が冷えそうだ。岩を組んで露天風呂を作ることにした。シラーには坑道を掘ってもらうことにした。

 「ルード。この辺りに敷き並べる木材を用意してくれ。後はベッドにも使いたいな。とりあえず、十本くらい木を持ってきてくれ」

 「分かりまし……」

 せめて最後まで言ってから行ってほしかった。ただ、ルードは本当に行動が早くなった。都づくりで色々と学べることがあったのだろう。エルフと言えども16歳なのだ。種族に関わりなく学ぶのに最適な時期なのだろう。

 「オリバは料理を頼む。僕が持ってきている食材もあるが、せっかく野宿をするのだ。現地調達をした方が面白そうではないか? 僕も露天風呂を作り終えたら手伝いに行く」

 「ふふっ。ロッシュ様は面白い方ですね。王侯貴族がこのような場所で野宿をするなんて聞いたことがありませんよ。ましてや、料理人の食べ物でなく現地調達だなんて……また一つ詩ができますね。それでは食材を探してきます」

 僕は十人くらい入れる露天風呂を作った。風呂にはゆっくりと湯が流れて溜まり始めていた。時間はかかるが、夕飯後にはちょうどよくなっているだろう。さて、オリバの手伝いをしてくるか。ただその前にシラーに伝えておいたほうがいいな。

 崖の方にいくと小さめの入り口が作られており、くぐるように中に入ると思ったよりも広い。坑道内に光石が散りばめてあり、明るく照らしている。シラーはなぜか坑道に細々とした細工を施している。棚やテーブル。貯蔵庫まで作られている。一体、何日寝泊まりすると思っているんだ?

 「シラー。この棚は一体なんだ?」

 「へ? はっ!! すみません。つい癖で作ってしまいました」

 どうやら魔界にいた頃は、採石を生業としていた家系だけに坑道内での生活が長期渡るのは当然だったみたいだ。そのため、拠点づくりは代わる代わる担当するらしいが、細工が細かいものほど優れた採石師と評価されていたみたいで、坑道内の拠点は芸術品のような出来であったと言う。

 シラーはその中でも若手のため、技術が低いというのだが、とてもそうは思えないほどだ。テーブルなんてしっかりと木目まで描かれている。何のためか? きっとこれが芸術なのだろう。シラーは僕と会話しながらも手を休めることなく、次々と家具を作っていく。

 「シラー。僕はこれから食料を調達するために山に入ってくるぞ」

 するとシラーは夢中になっていた手を止めた。

 「私も行きます」

 「えっ!? 細工はいいのか?」

 「ご主人様のほうが大事ですから」

 なんて可愛いやつなんだ。押し倒そうとしたが、周りは岩むき出しだ。我慢しよう。僕はシラーを連れ出し、ルードを探す。ルードにも一応伝えておくか。しかし、なかなか見つからなかったので置き手紙だけして、オリバを追いかけて山に入っていった。

 僕は山菜を、シラーは果実を採取しながらオリバを探したのだが、いつまで経っても見つけることが出来なかった。その間に入れ物がいっぱいになったので拠点に戻ることにした。すると拠点前ではすでに煙が上がって調理が進められていた。

 「オリバ。探していたんだぞ。それにしても……すごいイノシシだな。オリバが仕留めたのか?」

 「あら? それはごめんなさい。つい、前のことを思い出して山奥まで入ってしまったもので。そのおかげで今晩はイノシシ鍋が食べれそうです。ロッシュ様はイノシシの刺し身って食べたことあります?」

 そんなものを食べても大丈夫なのか? 変な虫とかがいるような気がするんだが。それにしてもオリバがイノシシをね。吟遊詩人のときの苦しさが一瞬にじみ出ているような気がした。

 「その顔は食べたことがないようですね。私もないんですよ。今晩は止めておきましょう。あら? いろいろと食材を持ってきてくださったんですね。すぐに料理を作りますからしばらく寛いでいてください。そういえば、ルードさんが坑道に入ったまま戻ってきていませんね」

 ルードが戻っていたか。それはよかった。シラーはオリバの手伝いをすると言うので、僕はルードを探しに坑道に向かった。中を覗くと、立派なベッドが作られており、その上で熟睡するルードがいた。寝顔だけを見ると、どの種族も同じような表情をするんだな。僕がルードの顔を少し触れると目を薄っすらと開けた。

 「ロッシュ様。おかえりなさい。ちょっと寝てしまいました」

 「ああ。まだ起きなくてもいいぞ。オリバが今料理をしているから、それまでは」

 ルードは僕の手を握ると再び眠りに落ちた。僕はルードが握っている手を解き、僕の上着をルードにかけてから静かに外に出た。

 オリバの作る料理は絶品だった。とても野宿で食べるようなものではない。イノシシも新鮮だからか臭みが少なく、美味しく食べることが出来た。しかも、山菜や野生の果物も捨てたものではないな。僕は満足するまでオリバの料理を楽しんだ。それからは僕達は酒を飲み始めた。するとようやく目覚めたルードがやってきた。

 起こさなかったことに文句を言ってきたが、オリバの料理を一口食べるとすぐに機嫌が良くなった。ルードの食事が終わる頃に僕達は温泉に浸かることにした。このような場所では一人くらいは見張りに付けたほうがいいのかもしれないが、おそらく周りに忍びの里の者が警護をしてくれているだろう。

 僕は温泉に体を沈めた。都を作って良かったことは温泉が身近にあることだ。上を見上げれば星空が広がり、温泉に目を降ろしてくれば……僕に密着してくるオリバ、肉食獣のような目をして近づいてくるシラー、期待の目を向けてくるルードがいた。今夜はゆっくりと温泉に浸かる事も出来なかったか……。

 寝る間際まで四人で仲良くした。最後にオリバが呟いた。

 「外ってだけでこんなに盛り上がっちゃうものなんですね」

 その言葉にシラーとルードが同意するのだが、僕には普段と変わらないと思うんだが。次の日もこの拠点を中心にダム建設を行い、三日目にすべてのダムを完成することが出来た。それから配管を繋げたりと細かいことをやっているうちに更に数日費やすことになった。その間にもシラーによる拠点改造が進められ、立派な宿舎のようになっていた。

 なんだか潰すのがもったいないので、ダムの管理人という閑職を作って、誰かを住まわせてもいいかもしれないな。ゴードンに相談してみよう。

 都に戻ってからも上水道整備が待っていたが、下水道と並行して配管を通し、居住区に点々と水汲み場を作ることにした。都はついに上下水道完備の近代都市となることができた。

 「ロッシュ公。ついに完成しましたな。これよりは住民の手で作ってまいります。私はしばらくは都に残り、工事を監督したいと思っております。ロッシュ公はいかがしますか?」

 「僕は村に戻ろうと思う。どちらにしろ城に住むのは半年後だ。それまでに様々なことを片付けておきたいからな。ゴードン。よろしく頼むぞ」

 僕達は久々に村に戻ることになった。途中、クレイに都建設の報告をしてやろうと新村に立ち寄った。そのとき、ダムの話をしたのだが、オリバがキャンプの話をするとクレイの顔がみるみる暗くなっていった。そして、クレイは一言。

 「私もついていきたかったです!!」
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