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第319話 都建設初日

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 僕はシラーとルードを伴って、都建設の予定地に向かうことにした。エリスから大量の弁当をもらえた。

 「ロッシュ様。随分と暑くなってきましたから、お体を労ってくださいね」

 なんとも心のしみる言葉だ、僕はエリスに一時の別れを告げ、唇を合わせた。そして見送りに来てくれたミヤ、マグ姉、リード、シェラ、オリバにも唇を合わせ、別れを告げた。ミコトとオコトも最後まで僕達を見送ってくれた。屋敷先でゴードンと自警団と合流し、ラエルの街に到着した。ラエルの街ではすでに都建設に名乗りを上げた者たちが待機しており、僕達に従うことになっている。

 ゴードンの息子ゴーダが出迎えにやってきた。彼も今や立派なラエルの街の責任者だ。

 「ロッシュ公。村からの通達で工事の志願者を募ったところ、たちどころに千人ほどが集まりました。彼らはゆくゆくは都への移住を希望しております。どうぞ、よろしくお願いいたします」

 まるで我が子を見送る親のようだな。僕もいい加減にするわけにはいかないな。

 「彼らの気持ちに応えられるように立派な都を作ろう。これからも物資が大量に必要となる。そのときはよろしく頼むぞ」

 ゴーダは勿論です、と答えただけだった。それで十分だ。僕達がしばらくラエルの街で待機していると、待っていた新村からの工事志願者がやってきた。どうやらクレイが引率をしているようだ。

 「ロッシュ様。新村より工事の志願者を集めてまいりました。人数は3000人です。私も工事に同行したいと思います。よろしくお願いします」

 「クレイ。よく来てくれた。亜人の怪力は工事には是非とも必要となる。これだけの人数がよく来てくれたものだ」

 クレイはシラーとルードに挨拶をして、僕達の後尾につくことになった。僕達はラエルの街から出発して一村に到着した頃に、予定地から連絡が来た。どうやら各地から工事志願者が集まってきているようだ。まだ到着していない者たちもいるが、街から30,000人、城郭都市から40,000人、二村から1,000人、サノケッソの街から2,000人。そして、第三軍の20,000人が来る予定だ。総勢約100,000人とすでに予定地近くに移住している150,000人を合わせて、250,000人が工事を担当することになっている。この数字が食料生産を維持しつつ、狩り出せる限界と言える数字だろう。なんとか早く終わらせて、秋の作付けには間に合わせたいところだ。

 予定地に着くと、そこにはまだ多くの人の姿は見えない。予定地近くの者たちしか集まっていないのだろう。ルドも応援としてやってきてくれた。

 「ついにこの日がやってきたな。こちらでは100,000人分の居住する場所をなんと確保したが、建物にかなり無理した人数を押し込めている。早く、彼らの住める場所を確保しなければならないな」

 そうだな。僕もこれほどの志願者がやってくるとは思ってもいなかった。まずは居住区となる場所を先に整備したほうがいいだろう。そこに建物を建設している間に水路の建設、石材の運搬、人口湖を順次行なっていく。城建設は最後の方になるだろう。

 すぐに作業は開始された。まずは作業司令所を作った。テントを用いたもののため、すぐに作ることが出来た。その中には大きめなテーブルが置かれ、十数人程度が入れるようになっている。僕は地図を広げ、居住区を予定している場所を指差し、居住地に仮の建物を作ってもらうことにした。都には上下水道の整備をするために建物を作る前に配管の整備を済ませる予定だ。そのため、すぐに取り壊せられる建物を作ってもらう必要がある。

 ルドには測量を頼み、水路の位置を決めてもらうことにした。水路になる場所に杭を打ってもらうのだ。

 「ああ、分かった。そのために1000人ほど人を借りるが大丈夫か?」

 僕は頷き、クレイには建物を作るための監督をお願いした。

 「クレイ。建物を作る仕事が今は一番重要だ。工事は長丁場になる。建物の有無が皆の疲れの度合いに大きく関わってくる。よろしく頼むぞ」

 「分かりました。それで何人ほど、人数を割り振ってくれますか?」

 「そうだな。とりあえずは全員を使っても構わない。しかし、水路が完成すれば石材を運ぶために多くの人を割いてもらうことになる」

 「承知しました」

 僕は後ろに控えるゴードンにこれからの全ての宰領を任せることにした。

 「ゴードン。僕はほとんど現場にいるだろうから、これからの事は全て任せるぞ」

 「お任せください。それでロッシュ公はどちらで寝泊まりをなさるのですか?」

 ん? 考えてもいなかったな。元北部諸侯連合の移住者の街がある。そこでいいのではないか? それに対して異を唱えてきたのはルドだった。

 「それはいけないな。あの街は人で溢れかえって、ロッシュに割り振れるほどの建物がない。ロッシュなら気にしないかもしれないが、皆が心を安らかにするのが難しくなる。ロッシュには三村の私の屋敷で寝泊まりをしてくれないか。少し遠くなるが、ロッシュなら行き来するのに苦労はあるまい」

 そういうものか。こういう時はルドが正しいものだ。僕は逆らわずに頷いた。これで手順の説明は終わりだ。さっそく作業に移ろう。

 ルドはすぐに測量を始め、広大な土地に杭を打ち付けていく。もともと測量を済ませていたので、少ない時間で杭を打ち終えることが出来た。僕は居住区として決まった土地を整地するために土魔法を使っていた。一方シラーには、水路を掘り進めてもらうことにした。僕と離れることに難色を示したが、ルードが一歩前に出てきた。

 「シラーさん。護衛は私にお任せください。ロッシュ殿をどのようなことがあってもお守りします」

 「そうですか。分かりました。ただ、護衛を軽く見ないようにね」

 ルードは真剣な表情で頷いた。シラーが僕に一礼をして現場に向かっていった。なんともカッコイイ後ろ姿だ。僕は居住区を通る大通りを作るところから始めた。大通りは幅20メートルで統一している。馬車6台分と街路樹に歩道を作る予定だ。道の端に溝を切り、雨水の排水溝を作っていく。

 それから居住区のための区画を割っていく。一軒がどれほどの大きさが必要なんだ? とりあえず長屋を作るから必要ないか。僕はどんどん更地に変えていく。ルードはその光景は驚いた表情で見ていた。

 「ロッシュ殿は疲れを知らないのですか? これだけ魔法を使っているのに精度がどんどん上がっていくなんて。信じられません」

 「ん? こんなもんじゃないのか? まぁ、魔法を初めて使った頃に比べると魔力切れは起こしにくくなったかな。といってもシラーも凄いから、これが当たり前なんじゃないか?」

 「えっ!? シラーさんを基準にしたらダメですよ。彼女は魔族で、しかも吸血鬼の一族ですよ。魔力を覚醒した吸血鬼は魔界でも随一の魔力量を誇るんですから。多分、ロッシュ殿の魔力量も魔界でもかなり上の方だと思います」

 「そうなのか? まぁ、魔力は多いに越したことはない。とにかく、更地をどんどん進めていくぞ!!」

 正直、ルードの話には興味がなかった。それよりも早く終わらせてシラーの手伝いに行きたかったのだ。更地作業は一日でほとんど終わらせることが出来た。十万人が住む面積というのは途方もなくでかいな。これでも長屋を作って、詰め気味になってしまうだろう。都予定地の全ての工事が終われば、各自が住めるような居住区を改めて作ってやろう。

 僕はシラーを迎えに行くと、一番外側の水路の半分以上が終わっていた。深さ四メートル、幅二十メートルほどが掘られており、実際に水が流れるのは深さ二メートル、幅十メートルほどになるだろう。シラーを呼び出すと、魔法を使っていた手を止め、僕の方に笑みを向けてきた。

 僕はシラーがこちらに向かってくる間に掘られた坑を眺めていた。さすがに綺麗な断面だ。これなら石材を施さなくても良さそうな気もするが、土がむき出しで、そのうち雑草が茂る姿より石畳が広がっている方が美しいだろうな。そんなことを考えながらいると、シラーが上に上がってきた。

 「ご主人様。もうお帰りですか?」

 「そうだな。今日はこれくらいで十分だろう。これから長丁場になる。休める時に休もう」

 「はい」

 「さあ、二人共帰ろうか」

 僕達は三村に戻ることにした。途中でルドとクレイも合流し三村に向かうことにしたのだ。ルドは公国内でもある程度の地位を築いており、一応は元王国の王子だ。それにクレイも僕の婚約者だ。僕と同様に建物に詰め込めないという判断がされたようだ。ゴードンはしばらくは司令本部で寝泊まりをするようだ。年のことを考えるとちょっと心配だな。

 馬車を利用したおかげで一時間ほどで到着することが出来た。三村のルドの屋敷ではマリーヌがご馳走を用意して待っていてくれた。食事中にマリーヌがティア達の話になった。

 「ティアさん達は、ガムドさんがいらっしゃってすぐに村に戻っていきましたよ。私も出来る限り勉強を教えたつもりでしたが、飲み込みが早くて教えているのが面白かったですよ。ちなみに、今日並んでいる料理はトニアさんから教えてもらったものなんですよ。北の地の料理らしくて、なかなか面白いですよね」
 
 そうだったのか。たしかにマリーヌの料理としては見たことないものばかりだったが、こうやってすぐに料理が出来るのだから、マリーヌの料理の腕が高い証拠だろう。北の地の料理はやや塩っ気が強い。そのため酒のツマミとしては最適なものが多いのが特徴のようだ。マリーの酒の進みも良さそうだ。

 僕はルドと二人で飲むことになり、都建設の話になった。

 「公国も中央都市を持つようになるな。まさかこんな短期間でこれほどの国になるとは想像もつかなかったな。私が初めて村を訪れた時は、食料が豊富にあったが寒村に毛が生えた程度の規模だったな。五百人程度の人口だったかな?」

 確かに思い出してみると信じられない躍進だ。それでも地に足を付けて歩いてきたつもりだ。都は必然的なものだった。村に機関が集約していたが、どうしても不具合が多かった。それを公国の中央に据えるのは当然の措置だ。

 「僕も信じられないよ。それでも皆が付いてきてくれたからこそ、ここまでの国にすることが出来た。ただ、国造りが順調でも正直に言えば吹いて飛ぶほど脆弱だ。それは隣に強大な王国がある限りだ。しばらくは王国には動く力はないだろうが、一度動き出せば対応できるか自信がないな」

 「ロッシュでも自信がないことがあるんだな」

 「僕はいつだって自信がないぞ。皆が助けてくれるから、ここまでこれたに過ぎない」

 「謙遜を言うな。皆はお前の行いに畏れを抱いているほどだぞ。それがあるからこそ、王国に頭を垂れずに胸を張って生きられるんだ。ロッシュの下では安心して暮らせると。確かに王国は強大だが、公国も負けじと強力な軍隊が出来上がりつつある。前ほど苦しくはないのではないか?」

 そうなのだろうか? こちらが強大になれば、向こうも油断をしてくることが少なくなる。今までは相手の油断と過小評価によってなんとか勝ってきた。その優位性が無くなるのはなんとも不安になるのだ。

 「私も王国から公国を守るべく、最大限の協力を惜しまない。皆もその気持ちだ。自信を持てというつもりはない。ロッシュとて人間だからな。しかし、そんな顔は人前でしないほうがいいな」

 なんとなくルドの言葉は嬉しかった。僕にとってルドは友なのだと思う。

 「ああ、ありがとう」

 二人の時間は遅くまで及んだ。
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