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第247話 ゴードンと振り返ろう 前半

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 ゴードンが再び屋敷を訪れてきた。昨日の話の続きをするためだ。今回は二人だけでの話となる。まずはゴードンの話を聞くことになった。話を聞くだけでもゴードンは優秀な男であることが分かる。ゴードンを街に残し頼んだ仕事は、新たに増えた移住者の対応だ。食料の確保、住居の確保、そのための物流の調整だ。それだけでも大変な仕事であることが容易に想像ができる。

 しかし、ゴードンはそれを難なくこなしているのだ。僕には到底真似出来ない事柄だろう。しかも、街の実質的な責任者であるロドリスと相談して、鉱山開発のための人員を確保し、先発隊をすでに送り届けているというのだ。予定では、数カ月後には鉱山の開発が始められるというのだ。すでに手が加えられている鉱山なので、すぐに成果が期待できるらしい。今は村近くの鉱山からとれる鉄にほとんど依存している状態だが、それが解消できれば物流の点から、開発の効率を上げることができる。

 新規の移住者については、健康状態は皆良好になり、三村と二村への移住はほとんど完了し、あとは送られてくる資材で住居を作れば良いという状態にはなっているようだ。これならばなんとか、春の作付けの為の畑を作れるだろうな。ただ、問題がないわけではない。

 僕が考えている問題があるとすれば、すぐに連絡が来るはずだ。それは川の氾濫だ。雪解けの時期になれば当然川の水位は上昇する。僕達が開発を進めている場所は殆どが川沿い、それも下流域にある。そのため水位が急に上昇すれば、瞬く間に周囲に洪水を発生させるだろう。そうなれば、畑を作っても収量を期待することはできなくなるだろう。

 堤防の設置は、公国の領地が広がり、農地を拡大する上でも喫緊の課題の一つとなっている。しかし、ラエルの街でさえ最低限の堤防しか設置しておらず、氾濫を心配しなくてもいいのは村だけなのだ。ゴードンもその事を十分に理解しているため、各村や街ではできる限りの堤防を設置をしてもらうことになっている。なんとか今年の、せめて春だけでも乗り切ることが出来ればいいのだが。急激に暖かくなるようなことがないことを祈るのみだな。

 それとモナス達が二村に無事に入ったことの報告を受けた。気がかりだったことが問題なく進んだことにホッとしていた。モナスはオーレック騎士爵領の領主の娘だ。人口が五百人ばかりと小さな村を何とか維持していたが、家畜用の飲水に毒が混ざるようになってから、代々の土地を離れ、公国に来ることになったのだ。その際に、牛の飼育技術に長けているものが多くいたため、二村に作った牧場を引き継いでもらい、公国に牛の飼育を導入することが出来るようになったのだ。

 「それにしても、モナス様が来たときにはびっくりしましたぞ。大量の牛と大人数を連れて、街に入ってきた時は騒然となったものです。しかも、私が目当てと知った時はどうなるものかと思っていましたが、持参していた手紙を拝見してようやく安心したものです」

 それは悪いことをしたな。モナスより先に誰かを使いにやるべきであったが、僕達はサノケッソの街を目指さなければならなかったし、余分に人を割く余裕がなかったのだ。確かに、大量の牛が流れ込んできたら驚くことは容易に想像が出来るな。少し面白いが。

 さて、ゴードンからの報告はこんなものか。ゴードンが街にいてくれたおかげで物流も大いに改善されたと聞いた。やはり、物流を管理するものがいるといないとでは大違いなのだな。サノケッソの街にもはやく物流統括の支店を作ってやらねばなるまい。といっても、サノケッソの街はすでに大きな街だ。必要とする物資は食料くらいなものだから、混乱は起こりにくいだろうな。

 次は僕がゴードンに説明する番だ。説明と言うかやるべきことと言ったほうがいいかも知れないが。まずはサノケッソの街で新たな移住者を見つけた話から先にしたほうがいいだろう。三つの部落で約一万人の移住者を公国で受け入れることになった。

 「ロッシュ村長は、行く先々で移住者を発見する稀有な特技でもお持ちなのですかな?」

 とゴードンは笑っていたが、僕もそんな気がしていたのだ。僕が少し考えている素振りをしていると、ゴードンは僕に失礼なことを言ったのではないかと思ったみたいで謝罪をしてきた。

 「すこし口が軽くなってしまいましたな。ロッシュ村長が困っている者たちを救っているのは事実です。だからこそ、困っている人がロッシュ村長に集まってくるのかも知れませんな。まさに世界を救う救世主の如き行いと言えますな」

 まぁ、その辺にしておこう。徐々に変な方向に進み始めそうで怖い。僕はただの人間だ。シェラから頼まれたというのもあるが、自分ができることをやっているに過ぎない。それによって救われている者たちも、今では誰かを助けるために一生懸命働いているのだ。決して僕だけの力で皆を救っているわけでないのだ。

 僕は話を戻し、その一万人の移動先について説明することにした。領内の住民全てを難民とした男爵家の者たちには、元オーレック騎士爵領に入ってもらい、開拓と共に鉱山開発をしてもらうことになっている。それが約七千人の規模となる。といっても、農地の開墾はともかく、鉱山については全くの素人だ。とても開発を行えるものではない。そのためにも、街から鉱山開発の技術者を元オーレック領に派遣してもらう必要がある。

 「鉱山が増えることは喜ばしいことですな。しかし、街近辺の鉱山開発に着手すらしていません。そちらの方を優先的に現状進めていますから、元オーレック領については技術者の派遣は若干遅れるかも知れません。一応、鉱物資源の在庫は未だ潤沢にありますから、緊急性はないと考えております」

 ふむ。元オーレック領については、再び僕は向かう予定がある。その際に鉱脈までの道を開拓するのも手だと思っている。その際に、シラーに鉱山開発の指導をしてもらえば、派遣されてきた技術者も指導がしやすくなるだろう。

 「オーレック領に何かあるので?」

 その通りだ。元オーレック領にはアウーディア石がある可能性が非常に高いのだ。それを採掘するためにも今一度行かねばならないのだ。どうせなら、開発が進む前に掘りに行ったほうがいいだろう。ゴードンも納得してくれたようだ。

 残りの二つの部落についても話を進めよう。一つは昨日出てきた公爵領から来た者たち、約三千人についてだ。この者たちにはラエルの街に来てもらうことになっている。単純にラエルの街の労働力不足を補うためだ。といっても、公爵領の者たちのほとんどが老人と子供だ。そのため、簡単な農作業を中心にと考えていたのだが、高い学歴を持っていることがわかり、急遽、教師として働いてもらうことにしたのだ。

 そして、最後の一つが異色だ。魔族と亜人の混血のみがいる部落だ。彼らの希望で魔の森に住んでもらうことにしたのだ。今現在、魔の森で開墾している畑をそのまま管理してもらうことになる。魔族の血が混じっているせいか、戦闘能力が人間や亜人に比べてかなり高いことが伺え、魔の森でも十分に生活ができるほどらしい。そのため、魔の森の畑の管理人にうってつけなのだ。

 「そのような者たちがいようとは、いやはや世界は広いですな。私の知らないことがまだまだありそうですな。しかし、魔の森の畑を管理してくれるのは有り難いことですな。あの畑は一年中作物を取ることが出来ますが、村の畑に比べるとやや収量に劣るところがありますからな。冬以外使いみちがなかったところでした」

 ゴードンの言うとおりなのだ。魔の森の畑は冬こそいいが、それ以外の季節は大して使いみちがないのだ。いちいち警護をしてもらわなければならず、収量もさほどでもない。移住者が急遽増えてしまったために作ったはいいが、今年だけのものとなっていたかも知れなかったのだ。そこに警護のいらない管理人が入ってくれるとなれば、話は別だ。

 これで移住者の話は以上だ。次はグルドの一件か。しかし、ライルやガムドと共に話をしたときにグルドの話には触れている。ゴードンもその辺りは十分に承知しているだろう。

 「私でもグルド将軍のことは知っておりました。まさか公国で、グルド将軍の名を聞くとは思ってもいませんでしたよ」

 グルドってそんなに有名人だったのか。僕はなぜ知らないのだ? 転生前のロッシュに聞いてみたいところだな。まぁ、話が少なくすんで助かる。まだあるんだぞ。ただ、もう昼だ。昼食を食べてから話の続きをしよう。
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