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第222話 視察の旅 その26 元子爵領の開発
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僕は、ガムドから歴戦の猛者のグルドという人物の話を聞いた。グルドは、公国への帰属を望んでいるのだが、その真意は未だにわからない。グルドは王国への敵意が強く、常に復讐の機会を伺っているという人物であるため、ガムドはグルドの性質を危険視しており、せっかく順調に発展しようとしている公国にとって冷水になり兼ねないと考えているようだ。
僕はガムドに依頼をしてグルドとの面会を実現しようと思っていた。ガムドの話を聞く限り、公国に足りないのは用兵に長けている者だ。ライルとガムドという二人の得難い者がいるが、公国は領土を拡大している以上、多方面で戦が起こらないとも限らない。そのときに必要となるのが将軍となる者だ。その点では、グルドは最適な人材と思えるのだ。まずは、会ってみなければ、判断はできないな。
ガムドが言うには、グルドからの返答はしばらくかかるというので、元子爵領を見聞することにしたのだ。その前に、確認しておいたほうがいいだろう。
「ガムド。すまないが、元子爵領のことを教えてくれないか」
「もちろんです。子爵領は、東西に長い領土を有しております。北の街道が走っており、南より伸びてきた街道がこのサノケッソの街にぶつかり、街道は西に伸び王都まで向かいます。主要な生産物は木材で東半分に広がる広大な森から調達しております。良質な材質なので、王都では高値で取引がされていました。サノケッソの街より西は平地が広がっております」
なるほど。そうなると、農地は西に広げていくことになるか。良質な木材というのは非常に魅力的だが、運搬をするためには南につながる北の街道の整備をしなければならないな。もしくは、森を貫くように道を作るか。
「ガムド。東の森を越えれば、ラエルの街までの道が見えてくるはずだが、森を抜ける道を作ることは可能か?」
これが出来れば、この地の物流は大きく変わるはずだ。山を越えずにラエルの街から物を運び込むことが出来るのだから。それに、距離にすれば、北の街道を経由するより半分くらいで収まるはずだ。僕はガムドがこちらの味方に付いた時からそのことを考えていたのだ。僕が言うと、ガムドは一旦中座をして地図を持って戻ってきた。僕の目の前に地図が広がられた。どうやら元子爵領の地図のようだ。ガムドは森と山岳地帯の境界を指差しながら、僕の問いに答えてくれた。
「この道ならば、使えると思います。木材を運び込むために作られた道で道幅もそれなりにあると思いますが、森を突き抜けるほどは整備がされていません。調査もしていませんから、どうなるかは私にも見当もつかないのです。しかし、山越えをせずにラエルの街にいけるとなれば、公国にとっては大いに利すると思います」
そうなると、一度は森に入る必要がありそうだな。その予定を頭に描きながら、農地の話に移った。必要なものはなるべくこの視察の旅の間にやっておかなければならない。それに、昨晩の食事に出ていたイノシシの丸焼きが頭から離れることが出来なかった。あのイノシシは森で捕まえることが出来るようだが、なんとか家畜にすることが出来ないだろうか。
ガムドの話では、農地についてはやはり荒廃がかなり進んでいるようで、昨年の秋の収穫はかなりひどいものだったらしい。春も同じ状況が続けば、村からかなりの量の食料を支援してもらわなければならない事態になるようだ。また、農地を予定している場所には川が流れているのだが、どの川も急流で雪解けの時期になると必ず氾濫を起こすようだ。今年も氾濫が起きれば、春の作付けに影響が出ることは確実なようだ。
そうなると、堤防の設置が必要となってくるだろうな。土地の荒廃については、アウーディア石を設置することでなんとかなるだろう。まずは、そこから始めなくてはならないか。僕が立ち上がり、すぐに作業に入ろうとすると、ガムドから話の続きがあるというので、再び腰を沈めることになった。
「実は、流民が森で生活をしているのです。どういうわけか、あの森は冬場でも木の実を取ることが出来るようで、生きていくだけならなんとかなるようなのです。最初は、人数も少ないため把握していたのですが、今ではかなりの数になってしまっているため、何人いるのか見当もつかない程なのです。我々に余裕があれば、その者たちを救いたかったのですが」
どの地に行っても、流民がいない場所がないのだな。しかし、僕の興味が湧いたのは、流民の存在ではなく、森の存在だ。普通、冬に木の実が豊富に採れるというのは考えにくい。なにか、森にあるのだろうか。そればかり気になってしまう。流民については、まずは意志を確認してから判断しなくてはならないが、一応は森も公国の領土なのだ。その地に公国民以外がいるのは良いものではない。帰属の意志がなければ、追放するのもやむを得ない処置だろう。
「ガムド。済まないが、その流民の公国への帰属の意志の確認をしてくれないか。代表者がいれば、その者を連れてきてほしいのだ。おそらく、公国内では最後の流民となろう。できれば、公国に受け入れたいものだな」
ガムドは了解しました、と頷き、僕と共に部屋を出ることにした。僕は農地予定地の確認と堤防の設置、ガムドはグルドへの連絡と流民の調査をそれぞれ行うことにしたのだ。サリルには、サノケッソの街に残り、必要な物資の量の計算をしてもらうことにした。僕はシェラとシラー、それに自警団を連れて、街の外に出て、北の街道を西に進むことにした。
失敗したかも知れない。雪で何も見えないのだ。歩くことも難しく、とても堤防の設置なんて無理ではないだろうか。こうなっては、再び雪が解けた頃にここに出向かなければならなそうだ。僕達は、なんとか進もうとした足を止め、すぐに引き返すことにしたのだ。こうなったら、森の探索をしてみるか。森の秘密が何か分かるかも知れない。
西に向けた足を反転させ、東に足を進め始めた。サノケッソの街の境界線のすぐ外側には広大な森が広がっていた。森に一歩入ると、世界が一変したような気がした。最初は気付かなかったが、雪が少ないのだ。地面が見え隠れする程度しか積もっていない。それに、いくらか暖かいような気もする。元子爵領の冬はとても厳しいものだから、流民がどうやって生きているか気になっていたが、森に入れば、少しは理解できる気がするな。
僕達が森の奥に向かって入っていくと、フェンリルのハヤブサがやたらと興奮していたのだ。どうやら、体を動かしたくて仕方ないみたいだ。たしかに、北の街道はずっと道を作りながらの行動だったから、体が鈍ってしまったのだろう。僕は、ハヤブサに森を駆け回ってくるように許可を出すと、森の奥に駆けていった。瞬きを数回するうちにハヤブサの姿は消えてしまっていた。
僕が、ハヤブサの後ろ姿を探していると、誰かに声を掛けられた。どうやら、ガムドの部下のようだ。流民の調査のために森に入ってきたようなのだが、流民の集団を見つけることが出来ないようだ。ガムドが把握していた流民の居場所もとっくに放棄されたみたいだ。僕達は森の探索をする続けるつもりなので、その部下も一緒に、と誘うと同行することになった。
僕達は当てもなく、森の奥へと進んでいった。すると、シラーが周囲の匂いを嗅ぎ始め、僕が望むものが近くにあるかも知れないと言ってきたのだ。まさかと思っていたが、この森にもアウーディア石があって、その恩恵で豊かになっているようだ。早速、僕達はシラーの案内で目的地に向かっていくと、その場所は流民たちの拠点となっていたのだ。
僕達がその拠点を見下ろすような場所にいると、急に後ろから声を掛けられた。
「お前たち、ここで何している?」
僕が振り向くと、そこには汚いマントを覆い、髭を生やした大柄な男が立っていた。
僕はガムドに依頼をしてグルドとの面会を実現しようと思っていた。ガムドの話を聞く限り、公国に足りないのは用兵に長けている者だ。ライルとガムドという二人の得難い者がいるが、公国は領土を拡大している以上、多方面で戦が起こらないとも限らない。そのときに必要となるのが将軍となる者だ。その点では、グルドは最適な人材と思えるのだ。まずは、会ってみなければ、判断はできないな。
ガムドが言うには、グルドからの返答はしばらくかかるというので、元子爵領を見聞することにしたのだ。その前に、確認しておいたほうがいいだろう。
「ガムド。すまないが、元子爵領のことを教えてくれないか」
「もちろんです。子爵領は、東西に長い領土を有しております。北の街道が走っており、南より伸びてきた街道がこのサノケッソの街にぶつかり、街道は西に伸び王都まで向かいます。主要な生産物は木材で東半分に広がる広大な森から調達しております。良質な材質なので、王都では高値で取引がされていました。サノケッソの街より西は平地が広がっております」
なるほど。そうなると、農地は西に広げていくことになるか。良質な木材というのは非常に魅力的だが、運搬をするためには南につながる北の街道の整備をしなければならないな。もしくは、森を貫くように道を作るか。
「ガムド。東の森を越えれば、ラエルの街までの道が見えてくるはずだが、森を抜ける道を作ることは可能か?」
これが出来れば、この地の物流は大きく変わるはずだ。山を越えずにラエルの街から物を運び込むことが出来るのだから。それに、距離にすれば、北の街道を経由するより半分くらいで収まるはずだ。僕はガムドがこちらの味方に付いた時からそのことを考えていたのだ。僕が言うと、ガムドは一旦中座をして地図を持って戻ってきた。僕の目の前に地図が広がられた。どうやら元子爵領の地図のようだ。ガムドは森と山岳地帯の境界を指差しながら、僕の問いに答えてくれた。
「この道ならば、使えると思います。木材を運び込むために作られた道で道幅もそれなりにあると思いますが、森を突き抜けるほどは整備がされていません。調査もしていませんから、どうなるかは私にも見当もつかないのです。しかし、山越えをせずにラエルの街にいけるとなれば、公国にとっては大いに利すると思います」
そうなると、一度は森に入る必要がありそうだな。その予定を頭に描きながら、農地の話に移った。必要なものはなるべくこの視察の旅の間にやっておかなければならない。それに、昨晩の食事に出ていたイノシシの丸焼きが頭から離れることが出来なかった。あのイノシシは森で捕まえることが出来るようだが、なんとか家畜にすることが出来ないだろうか。
ガムドの話では、農地についてはやはり荒廃がかなり進んでいるようで、昨年の秋の収穫はかなりひどいものだったらしい。春も同じ状況が続けば、村からかなりの量の食料を支援してもらわなければならない事態になるようだ。また、農地を予定している場所には川が流れているのだが、どの川も急流で雪解けの時期になると必ず氾濫を起こすようだ。今年も氾濫が起きれば、春の作付けに影響が出ることは確実なようだ。
そうなると、堤防の設置が必要となってくるだろうな。土地の荒廃については、アウーディア石を設置することでなんとかなるだろう。まずは、そこから始めなくてはならないか。僕が立ち上がり、すぐに作業に入ろうとすると、ガムドから話の続きがあるというので、再び腰を沈めることになった。
「実は、流民が森で生活をしているのです。どういうわけか、あの森は冬場でも木の実を取ることが出来るようで、生きていくだけならなんとかなるようなのです。最初は、人数も少ないため把握していたのですが、今ではかなりの数になってしまっているため、何人いるのか見当もつかない程なのです。我々に余裕があれば、その者たちを救いたかったのですが」
どの地に行っても、流民がいない場所がないのだな。しかし、僕の興味が湧いたのは、流民の存在ではなく、森の存在だ。普通、冬に木の実が豊富に採れるというのは考えにくい。なにか、森にあるのだろうか。そればかり気になってしまう。流民については、まずは意志を確認してから判断しなくてはならないが、一応は森も公国の領土なのだ。その地に公国民以外がいるのは良いものではない。帰属の意志がなければ、追放するのもやむを得ない処置だろう。
「ガムド。済まないが、その流民の公国への帰属の意志の確認をしてくれないか。代表者がいれば、その者を連れてきてほしいのだ。おそらく、公国内では最後の流民となろう。できれば、公国に受け入れたいものだな」
ガムドは了解しました、と頷き、僕と共に部屋を出ることにした。僕は農地予定地の確認と堤防の設置、ガムドはグルドへの連絡と流民の調査をそれぞれ行うことにしたのだ。サリルには、サノケッソの街に残り、必要な物資の量の計算をしてもらうことにした。僕はシェラとシラー、それに自警団を連れて、街の外に出て、北の街道を西に進むことにした。
失敗したかも知れない。雪で何も見えないのだ。歩くことも難しく、とても堤防の設置なんて無理ではないだろうか。こうなっては、再び雪が解けた頃にここに出向かなければならなそうだ。僕達は、なんとか進もうとした足を止め、すぐに引き返すことにしたのだ。こうなったら、森の探索をしてみるか。森の秘密が何か分かるかも知れない。
西に向けた足を反転させ、東に足を進め始めた。サノケッソの街の境界線のすぐ外側には広大な森が広がっていた。森に一歩入ると、世界が一変したような気がした。最初は気付かなかったが、雪が少ないのだ。地面が見え隠れする程度しか積もっていない。それに、いくらか暖かいような気もする。元子爵領の冬はとても厳しいものだから、流民がどうやって生きているか気になっていたが、森に入れば、少しは理解できる気がするな。
僕達が森の奥に向かって入っていくと、フェンリルのハヤブサがやたらと興奮していたのだ。どうやら、体を動かしたくて仕方ないみたいだ。たしかに、北の街道はずっと道を作りながらの行動だったから、体が鈍ってしまったのだろう。僕は、ハヤブサに森を駆け回ってくるように許可を出すと、森の奥に駆けていった。瞬きを数回するうちにハヤブサの姿は消えてしまっていた。
僕が、ハヤブサの後ろ姿を探していると、誰かに声を掛けられた。どうやら、ガムドの部下のようだ。流民の調査のために森に入ってきたようなのだが、流民の集団を見つけることが出来ないようだ。ガムドが把握していた流民の居場所もとっくに放棄されたみたいだ。僕達は森の探索をする続けるつもりなので、その部下も一緒に、と誘うと同行することになった。
僕達は当てもなく、森の奥へと進んでいった。すると、シラーが周囲の匂いを嗅ぎ始め、僕が望むものが近くにあるかも知れないと言ってきたのだ。まさかと思っていたが、この森にもアウーディア石があって、その恩恵で豊かになっているようだ。早速、僕達はシラーの案内で目的地に向かっていくと、その場所は流民たちの拠点となっていたのだ。
僕達がその拠点を見下ろすような場所にいると、急に後ろから声を掛けられた。
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