上 下
211 / 408

第210話 視察の旅 その14 シラー

しおりを挟む
 シラーと合流した僕達は、三村で堤防の設置をすることにすることにした。まずは、ルド達がいる司令室に行かなければ。司令室では、皆が昼食を丁度食べ終わって、休憩をしているときだった。僕はシラーを紹介しようとすると、ルドが立ち上がり挨拶をしてきた。

 「シラーさんじゃないですか。お久しぶりです。ここで会えるとは思ってもいませんでしたよ。ミヤさんの代わりでロッシュの護衛ですか?」

 おお、ルドが珍しく興奮しているな。そうか、ルドは一時期、魔獣牧場で働いていたからシラーとは顔を合わせたことがあるんだな。シラーはそんなルドに関心がないように、手だけを振って何も話すことはなかった。どうしたんだ? シラーはよく喋る印象だったが、意外と緊張する正確なんだろうか。僕が代わりに答えておこう。

 「その通りだ。シラーはミヤの代わりで僕の護衛として今朝やってきたんだ。これから旅も一緒に行くことになるだろうな。マルゲルもマッシュもよろしく頼むぞ」

 マッシュは、シラーに見惚れている様子だったが、僕の言葉にすぐに反応して、返事をしてきた。マルゲルは、こちらこそよろしくお願いします、と腰を低くシラーに挨拶をしていた。ルドは、シラーからそっけない態度を取られても気にする様子はなく、マッシュ達もシラーには好意的に映っているようでなによりだ。ルド達は、すでに第一陣の受け入れをするべく、居住区の区画割を進めていて、第一区画から順に作っていくことになっているらしい。僕も今年から水田で米作りが出来るように、堤防の設置を急ぐとしよう。

 三村にはいくつか川が流れている。どれもがそこそこ大きな川であるため、水田を作るには最適な地形が広がっている。西にもっとも大きな川が流れているのだが、この川は二村にも通じているため、この川の水を利用した水田地帯を二村の方で広げてしまうと、おそらく、三村では水不足のため水田を思ったよりも広げることが出来ないだろう。そこよりも川の水量は一段少なくなってしまうが、三村だけで使える川のほうが有効利用できるだろうと思い、三村の中心を通る川から工事を始めることにした。

 工事は、村と同様に進めていく。川の側の土を削り、その土を盛っていくだけだ。そうすると、堤防が出来、土を削った場所には水田が出来ているという風にやっていく。その後の調整は、農業に従事する人員が多いことから任せることにし、僕とシラーでとにかく堤防をできるだけ設置していくことにした。僕はシラーに魔力回復薬を手渡し、お互いに川を挟んで堤防を設置していく。

 対岸から見てもシラーの土魔法は素晴らしいものだった。堤防のイメージがあまり固まっていないため、ただ土が盛ってあるだけの堤防となってしまっているが、それでも速度は凄まじいもので、僕よりいくらか早いのだ。僕も相当土魔法を使い込んでいるつもりだったが、まだまだのようだな。二人でやったおかげで、二キロメートルほどの堤防が瞬く間に完成した。その後、僕がシラーの作った堤防を手直しして、その間にシラーに水田に水を引くための水路を水田に並行する形で作ってもらうことにした。

 シラーの作った水路は、やや浅く、数年で泥が堆積して使えなくなってしまうだろうな。ここも手直しが必要だろう。シラーは僕に謝罪をしてきたが、僕は感謝の気持でいっぱいだった。シラーがいなければ、今日の半分しか出来ていなかっただろう。僕がシラーを褒めていると、シェラがやってきた。

 「もう遅いので帰りましょう。シラーさんも来たことですから、歓迎の意味を込めて乾杯しませんか?」

 それはいい考えだ。シラーも喜んでくれるだろう。シェラはミヤがいなくなって酒を飲む相手を探していたからな。シラーが来て、喜んでいるんだろう。そうでなければ、これほど気が利くわけがない。僕達は、ルド達に会ってお互いの報告を交わして、明日には第一陣が到着するということが決まった事が分かった。それならば、明日は居住区の地均しから始めるようにしたほうがいいだろう。ルド達と明日の予定を調整して、僕達は先に帰ることにした。三人は馬車に揺られることになった。

 僕はハヤブサに乗って帰ろうとしたのだが、シラーが出来れば馬車にいてほしいと懇願してきので、仕方なく馬車に乗り込むことにしたのだ。おそらく、護衛のためだろうが、シラーもいろいろと神経を使っているだろうから、こちらも多少は融通してやらないとな。それにしても、ハヤブサが明らかに落ち込んだ表情を浮かべていることに胸が痛くなる。何か、旨いものでも食べさせてやりたいものだな。

 二村の宿泊している建物に到着した僕達は、すぐに汗を流すことにした。村だったら、露天風呂があるのだがここでは湯をかぶるだけが精一杯の贅沢だ。他の二村の住民はこの寒い中、水をかぶっているのだからマシな方である。二村にも公衆浴場の設置を検討したいものだな。湯を浴びて、部屋に戻ろうとすると入れ替わるようにシェラが入ってきた。当然、全裸だ。見慣れたはずの裸なのに、今でもドキッとしてしまう。しかし、今日は、シェラの後ろにシラーが付いてきたのだ。

 かろうじてタオルで大事な部分を隠しているものの、くっきりと分かる裸体につい足を止めて、見入ってしまった。すぐに現実に立ち戻り、冷静に対処したつもりだが、動揺を隠せないでいた。僕の後ろから、シェラがからかってきたような気がしたが、全く耳に入ってこなかった。久しぶりに嫁達以外の裸を見て、こんなにも気持ちがざわつくものだろうか?

 食堂に入り、自分の席に座ると深いため息をした。今でも、シラーの裸が目に焼き付いていて頭から離れないのだ。これでは、これから一緒に旅をするというのに彼女に欲情しているようでは良くないな。気持ちを落ち着かせるために酒を一杯、さらに一杯と飲んで、煩悩を断ち切ろうとしたが上手く行きそうにない。そんな苦労をしている時に、汗を流してきたシェラ達が食堂に入ってきた。

 「あら、旦那様が先にお酒を召し上がっているなんて珍しいですね。せっかく、乾杯しようとしているんですから、待っていてくださっても良かったじゃないですか」

 そういえば、そんな事を言っていたな。これでは、心を乱していることがシェラにバレてしまうかも知れない。なんとか言い訳を考えなければ。

 「それは済まなかったな。のどが渇いてしまって、つい、飲んでしまった。でも、口を付けたばかりだ。見逃してくれ」

 もう三杯目だが、これくらいの嘘なら大丈夫だろう。僕はなるべくシラーの方を見ないようにしていた。濡れた髪がより色気を増しているからだ。これでは、我慢ができそうにないからな。僕は食事に焦点を当て、ひたすら無我で食事を食べていった。正直、味が全く分からなかった。なんで、こんなに興奮しなければならないのだ。待てよ。そういえば、この後ベッドを共にすると言っていたな。なんてことだ。今から部屋を別にしてもらうか?
 
 いや、そんなことを言い出せば、シラーに悪い印象を持っていると思われかねない。これから旅をする仲間として、良い関係を維持していかなければならない。今夜、耐えられるのだろうか。僕が悩みきっている横で、シェラとシラーは魔酒を飲み、上機嫌で話していた。僕にも話しかけてきてくれたが、上の空だ。僕自身、何を聞かれて、何を答えたか、全く覚えていない。僕は最後の手段を取ることにした。酔い潰れよう。

 しかし、なぜか目が冴えて、酔いが回ってこない。どういうことだ。これはおかしいぞ。まさか……僕はこっそりと自分に回復魔法を使うことにした。もし、なんらかの薬を飲まされていたら、回復魔法で治るはずだ。僕の予想は当たっていたようだ。煩悩と酔いが吹き飛んだのだ。シラーを見ても、胸の高鳴りは感じるが、抑制できないほどではない。これだったら、同じベッドでも耐えることが出来るな。

 僕は、いつぞやにリリに盛られた薬と同じ状況であることを思い出したのだ。犯人は考えられるとしたらシェラだな。何を考えているか分からないが、当てが外れたようだな。折角だから、まだ盛られている振りをしてやろう。シェラの驚く顔を見てやりたいな。

 深夜になり、シェラ達も十分に飲んだのか満足した様子だったので、寝室に向かうことにした。シェラは、僕が薬で理性を失い掛けていると思っているだろう。しかし、僕からは襲わないぞ。静かに寝てやろう。その時のシェラの顔を見てみたいものだ。

 三人でベッドに入り、僕が真ん中だ。さて、寝た振りをするか。しばらく経ってからシェラがどんな表情をしているかな? と思い薄めを開けると、なんとシェラは普通に寝ているではないか。一体どういうことだ? 僕が考えていると、僕の背後から柔らかい感触が伝わってきた。と思ったら、シラーが上に乗っかってきたのだ。どういうことだ? 僕がシラーに抱きつかれていることに気付いて、抵抗する前に、シェラにすっかり動きを封じられていた。まさか、二人がかりだと⁉

 「旦那様。随分と楽しそうなことをしていますね。私も参加させてください」

 僕はシェラが加わったことで逃げる機会を失い、流されるまま、シラーと関係を持つことになってしまった。翌朝、話を聞くと薬を持ったのはシラーだと判明した。その黒幕は当然、ミヤだ。しかし、僕が襲ってこないことに焦ったシラーは自ら薬を飲み、僕に襲い掛かってきたみたいだ。どうやら、前々から僕に好意を持っていてくれたみたいで、ミヤにも早く関係を持つことを迫られていたようだ。シェラも当然気づいていたみたいで、面白くなりそうなので放っておいたと認めた。

 僕はため息をついて、シラーには今後、僕との関係をどうするかについて旅の間で考えることを提案して、一応は決着した。僕の気持ち? もちろん、シラーが僕の嫁になってくれると言うのなら、喜んで受け入れるさ。

 嫁候補が一人加わり、また、土木の旅……ではなくて、視察の旅が続いていく。
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!

夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。 ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。 そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。 視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。 二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。 *カクヨムでも先行更新しております。

処理中です...