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第190話 クレイの裏切り?

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 テドが怒り心頭になりながらも、冷静に船大工にこの場を離れることを告げると、僕と一緒にクレイの建物に向かうことにした。テドが建物に入ると、開口一番にクレイさんに会わせろ!! と声を荒げて、受付の人の制止を振り切って、奥に向かっていった。すると、そこにはクレイを囲んで、屈強な者たちがいた。それを見たテドが更に怒り、声を荒げた。

 「貴様ら、一体どういうつもりだ。ロッシュ公が見えているのに出迎えもしないとは」

 僕がテドの後ろから現われると、そこにいた皆が一斉に驚いた表情になり、その後、気まずそうな顔に変わっていった。クレイが慌てた様子で僕の側に近づいてきた。

 「ロッシュ様。来ていたとは露知らず、出迎えもせずに申し訳ありませんでした。旅から戻ってきていることも知っていたのですが、何分、新村の開発を急がせているため、この場から離れられなかったのです。ロッシュ様はいつ頃、こちらに来ていたのですか?」

 僕は、数時間前に来ていたが、案内がなかったのでテドのところに顔を出していた、と伝えると、クレイが愕然とした表情に変わり、そこにいた男たちを詰問しだした。

 「一体どういうことなのだ⁉ ロッシュ様がお見えになっていることがなぜ、私の耳に入らなかったのだ? 誰でもいいから教えてくれないか?」

 僕は村人と面会していたから、遅くなったんだろ? というとクレイは首を振って、今日は誰とも会っていないと返してきた。どういうことだ? すると、テドが教えてくれた。

 「クレイさんは気付いてないかもしれないが、ここにいる奴らがクレイさんを立てて、新村で独立勢力を作ろうとしていたんだ。ロッシュ公と会わせなかったのは、それの邪魔になるからだろ? むしろ、ロッシュ公のクレイさんへの心象を悪くしたほうが都合がいいとも思ってたんじゃないか? こいつらはロッシュ公を裏切ろうとしたんだ」

 話が分からないな。ここにいるのは、おそらくレントーク王国から来た亜人だ。姫であるクレイを立てるということは、つまりは僕を裏切るってことか? クレイはどうするのだろうか? 僕はクレイの方を向き、話をするのを待った。しかし、別の方から声が上がった。裏切り者と言われた亜人からだった。

 「オレ達は、レントーク王国の民だ。確かにロッシュ公には世話になった。だけどな、やっぱり俺達の上にはレントークの王族であるクレイ姫がいるべきなんだよ。新村もここまで大きくなれば、俺達だけでも十分にやっていける。クレイ姫だって、人間の下に付くことなんて嫌に決まってるだろ? オレ達は裏切り者じゃない。最初から姫しか上に見てなかったんだからな」

 僕は、その考えを持っているのはお前たちだけかと聞いた。

 「今はともかく、必ず皆を説得してみせるぜ。こんなに早く露見してしまうとは思わなかったが、こっちにはクレイ姫が付いてるんだから、何も心配はない。きっと、皆、付いてきてくれるさ」

 なるほどな。こうなることは予想するべきだった。この新村の住民の殆どがレントーク王国の出身者だ。さらにクレイがいるとなると、こういう馬鹿なことを考えるやつが出てくるのは、当然と言うべきか。僕は結局の所、この公国に帰属する意志のない者を助けることはない。少なくとも、ここにいる者たちは公国民ではなく、レントーク王国民であることを望んでいる以上、助ける気は完全に失せてしまった。僕が落胆の表情を浮かべていると、クレイが重い口を開いた。

 「お前たちの気持ちはよく分かった。レントーク王国にそこまでの忠誠を尽くしてくれることに王族の一人として礼を言おう」

 クレイがそういうと、男たちは安堵した表情になり、余裕が出たのか頬が緩んだようなきがした。

 「しかし、お前たちは勘違いしている。この新村は、言う通り、軌道に乗ってきた。これからも上手くやっていけると思うのも無理はない。でも、それはロッシュ公がいるおかげなのだ。理由は言うつもりはないが、ロッシュ公が一度でもこの新村を見捨てれば、その瞬間からこの土地はラエルの街の外のように荒涼とした土地になる。そうなれば、餓えて死ぬのは誰だ? この地に住む以上、神に愛される以外にはロッシュ公なしに生きることはありえない」

 そして、言い終えると、僕の腕にクレイの腕を絡ませてきた。

 「それとお前たちの最大の勘違いは、私がロッシュ様を裏切ることなどありえないことだ。もっと、はっきりとお前たちに分かるように教えておくべきだった。それは私の落ち度だ。だが、村人を唆した責任を取ってもらうことにする。今なら、抵抗しても良いぞ」

 そういうと男たちは項垂れて、その場に座り込み、抵抗しない意志を示していた。僕は、この男たちに加担していたものを調べるようにテドに命じ、とりあえず、拘束をしてもらうことにした。僕としては追放を考えているけど、本人たちの反省を聞いてからでもいいだろう。一応は、勘違いとは言えクレイのためにやってくれたことだから。

 誰もいなくなった部屋に僕とクレイが二人きりになった。すると、クレイは深々と頭を下げ、申し訳ありませんでした、と謝罪してきた。僕は、頭をあげさせ、話を聞くためにテーブルに着くことにした。

 「謝るべきは僕の方だった。クレイに新村のことを押し付けてしまっていたからな。こうなる事はある程度予想しておくべきだったのだ。新村を一通り見てきたが、レントーク王国出身の民はよく働くな。僕はそれだけで受け入れたことを後悔することはない」

 クレイは俯いたままだ。

 「それで、これからだが。クレイは新村の開発の指揮を続けたいか? 代わりに人を呼んでもいいし、新村から新たに選んでもいい。僕はクレイの意志を尊重したいと思っている」

 そういうと、クレイは続けたいと答えた。

 「私は、エリスさん達のように何か、ロッシュ様に貢献できるものがありません。だから、新村の開発だけはなんとかやり通して、ロッシュ様のお役に立ちたいのです。ですから、この役を続けさせていただけないでしょうか」

 「クレイの意志を尊重しよう。だが、僕は、婚約者だからといって甘くするつもりはないぞ。今回の一件は、僕にも責任の一端はあるが、クレイにも油断があったと思う。今後はないように、気を引き締めていかないとな。それと、あの者達の処罰だが、僕は追放が相当だと考えている。しかし、クレイに忠義が篤いのも事実だ。そこを斟酌して、もし、クレイがあの者たちの処分を保留にしたいというのであれば、それに従おう」

 「それって、あの者たちの処分を私の一存で決めてもいいってことですか? ありがとうございます。あの者たちは、ずっと私に使え仕えてきてくれた者たちなのですが、やったことは許されることではないと分かっているのです。それでも、処罰だけは必ず与えます。ロッシュ様は十分に甘いと思いますよ」

 僕がクレイ村長、と言って茶化すと、恥ずかしそうに笑っていた。結構、その呼び方を気に入っているのかな? といっても、嫁を村長にする気はないな。やっぱり、側にずっといてほしいからね。久しぶりにクレイと二人で一晩を明かした。積もる話もあったが、ベッドに入ると二人は無言になり、朝まで体を離すことはなかった。

 次の日の朝から、僕は新村の開発の状況を聞いたり、予定通り進めるため人員を移動したりして、クレイと共に開発を進めていった。クレイはその日から、精力的に村人から話を聞き、村での問題点を出すことに必死になっていた。漁船が出来ることを前提に、漁師の確保をするために高札を立て、応募者を集めたして、数日、新村で過ごすことになった。

 その間に、ドワーフが到着したという報せがやってきた。ついに来たかと思い、喜んだが、ドワーフが到着したのは昨日のことだった。今から出発しても、一日ズレてしまうな。まぁ、仕方がないか。僕はクレイに開発の指示を出し、急ぎ、屋敷に戻ることにした。
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