上 下
191 / 408

第190話 クレイの裏切り?

しおりを挟む
 テドが怒り心頭になりながらも、冷静に船大工にこの場を離れることを告げると、僕と一緒にクレイの建物に向かうことにした。テドが建物に入ると、開口一番にクレイさんに会わせろ!! と声を荒げて、受付の人の制止を振り切って、奥に向かっていった。すると、そこにはクレイを囲んで、屈強な者たちがいた。それを見たテドが更に怒り、声を荒げた。

 「貴様ら、一体どういうつもりだ。ロッシュ公が見えているのに出迎えもしないとは」

 僕がテドの後ろから現われると、そこにいた皆が一斉に驚いた表情になり、その後、気まずそうな顔に変わっていった。クレイが慌てた様子で僕の側に近づいてきた。

 「ロッシュ様。来ていたとは露知らず、出迎えもせずに申し訳ありませんでした。旅から戻ってきていることも知っていたのですが、何分、新村の開発を急がせているため、この場から離れられなかったのです。ロッシュ様はいつ頃、こちらに来ていたのですか?」

 僕は、数時間前に来ていたが、案内がなかったのでテドのところに顔を出していた、と伝えると、クレイが愕然とした表情に変わり、そこにいた男たちを詰問しだした。

 「一体どういうことなのだ⁉ ロッシュ様がお見えになっていることがなぜ、私の耳に入らなかったのだ? 誰でもいいから教えてくれないか?」

 僕は村人と面会していたから、遅くなったんだろ? というとクレイは首を振って、今日は誰とも会っていないと返してきた。どういうことだ? すると、テドが教えてくれた。

 「クレイさんは気付いてないかもしれないが、ここにいる奴らがクレイさんを立てて、新村で独立勢力を作ろうとしていたんだ。ロッシュ公と会わせなかったのは、それの邪魔になるからだろ? むしろ、ロッシュ公のクレイさんへの心象を悪くしたほうが都合がいいとも思ってたんじゃないか? こいつらはロッシュ公を裏切ろうとしたんだ」

 話が分からないな。ここにいるのは、おそらくレントーク王国から来た亜人だ。姫であるクレイを立てるということは、つまりは僕を裏切るってことか? クレイはどうするのだろうか? 僕はクレイの方を向き、話をするのを待った。しかし、別の方から声が上がった。裏切り者と言われた亜人からだった。

 「オレ達は、レントーク王国の民だ。確かにロッシュ公には世話になった。だけどな、やっぱり俺達の上にはレントークの王族であるクレイ姫がいるべきなんだよ。新村もここまで大きくなれば、俺達だけでも十分にやっていける。クレイ姫だって、人間の下に付くことなんて嫌に決まってるだろ? オレ達は裏切り者じゃない。最初から姫しか上に見てなかったんだからな」

 僕は、その考えを持っているのはお前たちだけかと聞いた。

 「今はともかく、必ず皆を説得してみせるぜ。こんなに早く露見してしまうとは思わなかったが、こっちにはクレイ姫が付いてるんだから、何も心配はない。きっと、皆、付いてきてくれるさ」

 なるほどな。こうなることは予想するべきだった。この新村の住民の殆どがレントーク王国の出身者だ。さらにクレイがいるとなると、こういう馬鹿なことを考えるやつが出てくるのは、当然と言うべきか。僕は結局の所、この公国に帰属する意志のない者を助けることはない。少なくとも、ここにいる者たちは公国民ではなく、レントーク王国民であることを望んでいる以上、助ける気は完全に失せてしまった。僕が落胆の表情を浮かべていると、クレイが重い口を開いた。

 「お前たちの気持ちはよく分かった。レントーク王国にそこまでの忠誠を尽くしてくれることに王族の一人として礼を言おう」

 クレイがそういうと、男たちは安堵した表情になり、余裕が出たのか頬が緩んだようなきがした。

 「しかし、お前たちは勘違いしている。この新村は、言う通り、軌道に乗ってきた。これからも上手くやっていけると思うのも無理はない。でも、それはロッシュ公がいるおかげなのだ。理由は言うつもりはないが、ロッシュ公が一度でもこの新村を見捨てれば、その瞬間からこの土地はラエルの街の外のように荒涼とした土地になる。そうなれば、餓えて死ぬのは誰だ? この地に住む以上、神に愛される以外にはロッシュ公なしに生きることはありえない」

 そして、言い終えると、僕の腕にクレイの腕を絡ませてきた。

 「それとお前たちの最大の勘違いは、私がロッシュ様を裏切ることなどありえないことだ。もっと、はっきりとお前たちに分かるように教えておくべきだった。それは私の落ち度だ。だが、村人を唆した責任を取ってもらうことにする。今なら、抵抗しても良いぞ」

 そういうと男たちは項垂れて、その場に座り込み、抵抗しない意志を示していた。僕は、この男たちに加担していたものを調べるようにテドに命じ、とりあえず、拘束をしてもらうことにした。僕としては追放を考えているけど、本人たちの反省を聞いてからでもいいだろう。一応は、勘違いとは言えクレイのためにやってくれたことだから。

 誰もいなくなった部屋に僕とクレイが二人きりになった。すると、クレイは深々と頭を下げ、申し訳ありませんでした、と謝罪してきた。僕は、頭をあげさせ、話を聞くためにテーブルに着くことにした。

 「謝るべきは僕の方だった。クレイに新村のことを押し付けてしまっていたからな。こうなる事はある程度予想しておくべきだったのだ。新村を一通り見てきたが、レントーク王国出身の民はよく働くな。僕はそれだけで受け入れたことを後悔することはない」

 クレイは俯いたままだ。

 「それで、これからだが。クレイは新村の開発の指揮を続けたいか? 代わりに人を呼んでもいいし、新村から新たに選んでもいい。僕はクレイの意志を尊重したいと思っている」

 そういうと、クレイは続けたいと答えた。

 「私は、エリスさん達のように何か、ロッシュ様に貢献できるものがありません。だから、新村の開発だけはなんとかやり通して、ロッシュ様のお役に立ちたいのです。ですから、この役を続けさせていただけないでしょうか」

 「クレイの意志を尊重しよう。だが、僕は、婚約者だからといって甘くするつもりはないぞ。今回の一件は、僕にも責任の一端はあるが、クレイにも油断があったと思う。今後はないように、気を引き締めていかないとな。それと、あの者達の処罰だが、僕は追放が相当だと考えている。しかし、クレイに忠義が篤いのも事実だ。そこを斟酌して、もし、クレイがあの者たちの処分を保留にしたいというのであれば、それに従おう」

 「それって、あの者たちの処分を私の一存で決めてもいいってことですか? ありがとうございます。あの者たちは、ずっと私に使え仕えてきてくれた者たちなのですが、やったことは許されることではないと分かっているのです。それでも、処罰だけは必ず与えます。ロッシュ様は十分に甘いと思いますよ」

 僕がクレイ村長、と言って茶化すと、恥ずかしそうに笑っていた。結構、その呼び方を気に入っているのかな? といっても、嫁を村長にする気はないな。やっぱり、側にずっといてほしいからね。久しぶりにクレイと二人で一晩を明かした。積もる話もあったが、ベッドに入ると二人は無言になり、朝まで体を離すことはなかった。

 次の日の朝から、僕は新村の開発の状況を聞いたり、予定通り進めるため人員を移動したりして、クレイと共に開発を進めていった。クレイはその日から、精力的に村人から話を聞き、村での問題点を出すことに必死になっていた。漁船が出来ることを前提に、漁師の確保をするために高札を立て、応募者を集めたして、数日、新村で過ごすことになった。

 その間に、ドワーフが到着したという報せがやってきた。ついに来たかと思い、喜んだが、ドワーフが到着したのは昨日のことだった。今から出発しても、一日ズレてしまうな。まぁ、仕方がないか。僕はクレイに開発の指示を出し、急ぎ、屋敷に戻ることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

前世は悪神でしたので今世は商人として慎ましく生きたいと思います

八神 凪
ファンタジー
 平凡な商人の息子として生まれたレオスは、無限収納できるカバンを持つという理由で、悪逆非道な大魔王を倒すべく旅をしている勇者パーティに半ば拉致されるように同行させられてしまう。  いよいよ大魔王との決戦。しかし大魔王の力は脅威で、勇者も苦戦しあわや全滅かというその時、レオスは前世が悪神であったことを思い出す――  そしてめでたく大魔王を倒したものの「商人が大魔王を倒したというのはちょっと……」という理由で、功績を与えられず、お金と骨董品をいくつか貰うことで決着する。だが、そのお金は勇者装備を押し付けられ巻き上げられる始末に……  「はあ……とりあえず家に帰ろう……この力がバレたらどうなるか分からないし、なるべく目立たず、ひっそりしないとね……」  悪神の力を取り戻した彼は無事、実家へ帰ることができるのか?  八神 凪、作家人生二周年記念作、始動!  ※表紙絵は「茜328」様からいただいたファンアートを使用させていただきました! 素敵なイラストをありがとうございます!

転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました

平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。 しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。 だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。 まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

レベル上限5の解体士 解体しかできない役立たずだったけど5レベルになったら世界が変わりました

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
前世で不慮な事故で死んだ僕、今の名はティル 異世界に転生できたのはいいけど、チートは持っていなかったから大変だった 孤児として孤児院で育った僕は育ての親のシスター、エレステナさんに何かできないかといつも思っていた そう思っていたある日、いつも働いていた冒険者ギルドの解体室で魔物の解体をしていると、まだ死んでいない魔物が混ざっていた その魔物を解体して絶命させると5レベルとなり上限に達したんだ。普通の人は上限が99と言われているのに僕は5おかしな話だ。 5レベルになったら世界が変わりました

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

処理中です...