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第171話 会議とガドートスの最期
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今後の目標や元ガムド子爵領の扱いについて、話し合いを終えると、こういう場合の会議では必ず議事進行役となるゴードンが、会議の終わりに向けて話を進め始めた。
「とりあえず、議題についてはこれで全てです。他に何かなければ、会議は終わりとしますが」
ゴードンがいいかけた時、僕が思い切って話を切り出した。こんなタイミングで申し訳ないと思うが、やはり、今言わなければならないだろう。ゴードンが僕の慌てた態度も見て、すこし訝しげに僕に話しの続きを促してきた。僕は深呼吸した。
「ゴードン。これは、公国初めての試みをしようという話だ。実は、魔の森の開拓をしようと思っている。あの場所は、年中温暖で、夏や冬がない場所だ。そこに、農地を作ろうと思っているのだ」
「はて、話が見えてきませんね。確かに、魔の森は開拓できれば、素晴らしい場所でしょう。しかし、現状、無理をしてまで魔の森に農地を拡大する理由がありません。たしかに、食料に余裕があるとはいい難いですが、来年の作付けで十分に備蓄を増やせるまでには持ち直せるでしょう。なにか、理由があるのでしょうか」
僕は頷き、街道の途中で出会った亜人の話をした。亜人の数が最低でも三万人が公国への移住を希望しているということ。かれらの食料の備蓄が三ヶ月あまりしかないことをいい、どうしても魔の森の開墾を急がなければ、彼らを餓死させてしまうという逼迫した状況をゴードンに伝えた。
「さすがは、ロッシュ村長!! いや、ロッシュ公ですな。私個人としては、受け入れは反対ですが、ロッシュ公ならば受け入れることでしょう。私は、分け隔てなく助けようとする精神を持つロッシュ公を尊敬しております。ゴードンめが力を貸します。魔の森を開拓しましょう。しかし、ただ耕すだけでは上手くいかないでしょう。何か策がおありで?」
良かった。ゴードンの支持を得られたのなら、この作戦は成功したも同然……とは言いすぎだが、協力をしてくれるのは素直に嬉しいものだ。魔の森の開拓で一番の問題は、なんと言っても魔獣の存在だ。開拓地の周りに柵を施したとしても、巨大な魔獣に襲われれば、すぐに破壊されるだろう。つまり、万全とは言いがたい。ミヤの眷族という選択肢もあるが、眷族に任せている仕事は意外と多い。そのため、畑の警護という仕事を与えて良いものか考えものだ。もちろん、いやな顔一つせずにやってくれそうだが。ただ、戦争になれば、駆り出されることをつい考えてしまう。
そこで考えたのが、魔獣飼育実験施設だ。そこの責任者のククルは魔獣を調教できる稀有な存在だ。彼女は、今、フェンリルという魔獣を従えているはず。それをもう少し増やし、魔獣を魔獣で撃退する方法を考えたのだ。もちろん、僕の使役魔法を使う手段もある。問題と言えば、魔獣の確保ということだが、開拓と同時並行でやっていくしかないだろう。僕が考えていることを説明すると、ゴードンはそこまで考えているのなら、大丈夫でしょう、と太鼓判を押してくれた。
とりあえず、魔の森の開墾は春になるまでの間ということにし、村の人に畑の管理を任せるということになった。畑までの警護を眷族に任せ、畑では魔獣に護衛を頼むということになるのだろう。魔獣については今はまだ疑問の段階だが。話はまとまり、会議室はゆったりとした時間が流れた。戦いからの緊張から一気に開放された感じなのだから無理はない。僕も、椅子にもたれかかり、天井を見ながらコーヒーをゆっくりと啜っていた。すると、会議室の扉がノックされ、ライルがドアを開けると、そこには、ガムド子爵妻子とガドートス第二王子がいた。ガドートスがやけに静かだなと思ったら、後ろにミヤが立っていたから納得した。よく見ると、静かと言うか、かなり怯えている様子だ。まぁ、あれだけ酷い怪我を負わせられたら、そうもなるか。
この三人の来訪に一番驚いているは、ルドだった。妻子にではない。ガドートス第二王子がいることにだ。つかつかとルドが第二王子に近づいた。下を俯いていたガドートスが頭を上げると、ルドを見て、半笑いをしているような表情をした。
「ガドートスではないか。生きていたのか!? こんなところで再び会うとは信じられない。しかし、良かった。なぜ、ここに来たのだ?」
「ルドベックか。貴方も生きているとは意外だな。しかも、辺境伯の下についているようだが、第一王子として恥ずかしくないのか?」
「どういう意味だ? 辺境伯ではないロッシュ公と呼べ。ロッシュ公は私と私の部下を助けてくれた恩人。その恩人に報いるのは王子どうこう以前に人として当り前の行為をしているに過ぎない。それに、第一王子などという肩書はとっくに捨てた。王家はもうないのだ。ガドートスもこれからはただのガドートスとして生きていくのだぞ」
「偉そうに何を言ってるんだ? お前がオレにしたことを忘れたのか? お前が、勝手に王弟に楯突いたせいでオレは死にかけたんだ。オレに指図するな。お前が第一王子を名乗らないなら、オレが第一王子だ。いいか? これから、この領地はオレが支配することにする。辺境伯はオレに従っていれば良いんだ。オレが王都を奪還した暁には、好きな領土を好きなだけくれてやる。どうだ。いい条件だろ?」
僕の方にガドートスが顔を向けてきた。何と言う醜悪な顔なんだろうか。とてもルドと兄弟とは思えないな。しかし、ずっと疑問に思っていたことがある。こんな酷いやつが、なぜ、ガムド妻子の救助に協力したかということだ。むしろ、密告するほうがらしいと思うが。それを聞いてみた。
「なんだ、オレの話が聞きたいと言うのか? いいだろう、オレの……」
話が無駄に長かった。彼の話を僕なりに解釈してみた。話はルドが王弟に反抗したところから始まった。その戦いで、ガドートスは逃げ出し、王都に戻り、ブルビヒ教の本部に逃げ込んだらしい。ちなみに、ブルビヒ教というのは、歴史は古く、王国が誕生してすぐに興った教団で、常に王国とともに持ちつ持たれつの関係を維持して繁栄していった。その教団を王弟はないがしろにしたようで、第二王子が転がり込んだことを好機と捉え、王弟と対立しようとしたようだ。その間は大いにもてなしてくれたが、ガドートスの馬鹿さ加減に呆れた教団は、彼を捨て、王弟に反抗することを諦め、恭順の姿勢を示したのだ。
教団に捨てられたガドートスは、なんとか教団の弱みを握り、それを手土産に王弟に直談判しに行ったのだ。しかし、王弟からすればせっかく恭順してきた教団との対立は望むものではないため、ガドートスの持ってきた情報を握りつぶし、平民に格下げした上、王城からの追放を命じたのだった。一応、王都での居住を認めたのが王弟の優しさだったのだろうか。
それを理解しないガドートスは不満を周りに撒き散らし、犯罪を犯しながら、生き永らえていた。そんな時、見知らぬ人が王城近辺を出入りしているのを発見し、後をつけると、その者たちがしきりにロッシュ公の名前を口にしているのを聞いたのだ。その者とは救助隊のことだ。ロッシュ公という名前だけで、僕だと分かるのは大したものだ。
僕に恩を売るために、救助隊に協力したということらしい。そして、僕の代わりに、領主となって返り咲きを図りたいのだそうだ。うん、馬鹿だな。教団の判断はとても正しいな。ガドートスは気持ちよく話していたが、聞いている皆はドン引きである。ルドも半分しか血が繋がっていないが、こんな残念な弟を持って悲しいだろうに。
「話はわかったが、ガドートスが僕に取って代わるという発言は、この公国では反逆罪と取られても仕方がないと思うが。その場合は、どういう罪なのだ? ルド」
答えは明白。当然、死刑だ。これを聞いて、初めて、自分の発言が軽挙だったかを理解したようだ。理解してくれたよな? ガドートスはすぐに発言を撤回すると言い出した。なんと軽いやつなんだ。すると、ガドートスがルドの先にいる女性に目が止まった。マリーヌだ。
「おまえ、マリーヌか? なんで、こんなところにいるんだ? お前はオレが牢屋送りにしたのに。ああ、ルドベックに出してもらったのか。お前らしいな。オレの次はルドベックに色目を使っているのか。大した女だな。まぁ、今なら、またよりを戻してやってもいいぞ。辺境伯はなかなかオレに女をくれないからな」
こいつがマリーヌを牢屋送りにした張本人か!! やはり、とんでもないやつだ。ルドも顔を真っ赤にして、怒り心頭の様子だ。しかし、ロドにはガドートスを命の危険に晒したという自責の念があるようだ。言い返せないでいるみたいだ。マリーヌは、いつもと様子が代わり、ガタガタと震えだした。なんと、弱々しい姿か。かわいそうで見ていられないな。
「ガドートス。いい加減にしろ。お前をここに置くのは、第二王子という肩書があるからではない。ガムド子爵妻子の救助に協力してくれたからに過ぎない。これ以上の横暴を働くのであれば、お前を追放する。それが嫌ならば、おとなしくすることだ。いいな?」
ガドートスは明らかに不満顔になったが、少しは諦めのだろうか。
「ちっ。まぁ、ここにいてやるよ。オレは、妻子を救うのに協力してやったんだ、その見返りくらいはあるんだろ? とりあえず、ルドベックの屋敷に住むことにしよう。これからはオレが第一王子なんだ。当然の権利だろ? だから、ルドベックはさっさと明け渡せよ」
ルドが何か言いたげであったが、僕は制止し、了承した。僕は他に要望はないか、聞くと、女だと答えた。僕は考えるふりをして、ガドートスに思いついた感じで話した。
「公国内の女を与えることは出来ないが、この近くに美女だけが住む里があるのだ。そこに案内することは出来るが? ただ、行くためには少し手強い獣がいるんだが」
「オレを誰だと思っているんだ? 王国剣術を極めたと行っても過言ではないほど修練を積んできたんだ。獣ごときに遅れを取るオレではない。早速、案内せよ。ルドベックは、屋敷を明け渡す準備をしておけよ」
僕はミヤの眷族の一人を呼び出し、小声で指示を出した。僕は彼女をガドートスに紹介した。当然、舐めるような視線をしていたが、ミヤに近い実力があると言ったら、興味をなくしたようだ。弱い女にしか興味はないのだろうか? 彼女が里まで案内するというと、喜んで眷属の後を里へと出発していった。
その後の末路だが、ガドートスは魔の森については無知だったようで、魔獣を普通の獣と勘違いをして、襲いかかったものの、見事に返り討ちにあい、帰らぬ人となった。そうけしかけたのは、当然、眷族だ。そして、指示を出したのは僕。彼が欲を出さずに、一生懸命働く意志を見せれば、この街で生きる術はいくらでもあったのだが。
眷族から話を聞いた僕らの中で、ガドートスの事を悲しむものは一人もいなかった。
「とりあえず、議題についてはこれで全てです。他に何かなければ、会議は終わりとしますが」
ゴードンがいいかけた時、僕が思い切って話を切り出した。こんなタイミングで申し訳ないと思うが、やはり、今言わなければならないだろう。ゴードンが僕の慌てた態度も見て、すこし訝しげに僕に話しの続きを促してきた。僕は深呼吸した。
「ゴードン。これは、公国初めての試みをしようという話だ。実は、魔の森の開拓をしようと思っている。あの場所は、年中温暖で、夏や冬がない場所だ。そこに、農地を作ろうと思っているのだ」
「はて、話が見えてきませんね。確かに、魔の森は開拓できれば、素晴らしい場所でしょう。しかし、現状、無理をしてまで魔の森に農地を拡大する理由がありません。たしかに、食料に余裕があるとはいい難いですが、来年の作付けで十分に備蓄を増やせるまでには持ち直せるでしょう。なにか、理由があるのでしょうか」
僕は頷き、街道の途中で出会った亜人の話をした。亜人の数が最低でも三万人が公国への移住を希望しているということ。かれらの食料の備蓄が三ヶ月あまりしかないことをいい、どうしても魔の森の開墾を急がなければ、彼らを餓死させてしまうという逼迫した状況をゴードンに伝えた。
「さすがは、ロッシュ村長!! いや、ロッシュ公ですな。私個人としては、受け入れは反対ですが、ロッシュ公ならば受け入れることでしょう。私は、分け隔てなく助けようとする精神を持つロッシュ公を尊敬しております。ゴードンめが力を貸します。魔の森を開拓しましょう。しかし、ただ耕すだけでは上手くいかないでしょう。何か策がおありで?」
良かった。ゴードンの支持を得られたのなら、この作戦は成功したも同然……とは言いすぎだが、協力をしてくれるのは素直に嬉しいものだ。魔の森の開拓で一番の問題は、なんと言っても魔獣の存在だ。開拓地の周りに柵を施したとしても、巨大な魔獣に襲われれば、すぐに破壊されるだろう。つまり、万全とは言いがたい。ミヤの眷族という選択肢もあるが、眷族に任せている仕事は意外と多い。そのため、畑の警護という仕事を与えて良いものか考えものだ。もちろん、いやな顔一つせずにやってくれそうだが。ただ、戦争になれば、駆り出されることをつい考えてしまう。
そこで考えたのが、魔獣飼育実験施設だ。そこの責任者のククルは魔獣を調教できる稀有な存在だ。彼女は、今、フェンリルという魔獣を従えているはず。それをもう少し増やし、魔獣を魔獣で撃退する方法を考えたのだ。もちろん、僕の使役魔法を使う手段もある。問題と言えば、魔獣の確保ということだが、開拓と同時並行でやっていくしかないだろう。僕が考えていることを説明すると、ゴードンはそこまで考えているのなら、大丈夫でしょう、と太鼓判を押してくれた。
とりあえず、魔の森の開墾は春になるまでの間ということにし、村の人に畑の管理を任せるということになった。畑までの警護を眷族に任せ、畑では魔獣に護衛を頼むということになるのだろう。魔獣については今はまだ疑問の段階だが。話はまとまり、会議室はゆったりとした時間が流れた。戦いからの緊張から一気に開放された感じなのだから無理はない。僕も、椅子にもたれかかり、天井を見ながらコーヒーをゆっくりと啜っていた。すると、会議室の扉がノックされ、ライルがドアを開けると、そこには、ガムド子爵妻子とガドートス第二王子がいた。ガドートスがやけに静かだなと思ったら、後ろにミヤが立っていたから納得した。よく見ると、静かと言うか、かなり怯えている様子だ。まぁ、あれだけ酷い怪我を負わせられたら、そうもなるか。
この三人の来訪に一番驚いているは、ルドだった。妻子にではない。ガドートス第二王子がいることにだ。つかつかとルドが第二王子に近づいた。下を俯いていたガドートスが頭を上げると、ルドを見て、半笑いをしているような表情をした。
「ガドートスではないか。生きていたのか!? こんなところで再び会うとは信じられない。しかし、良かった。なぜ、ここに来たのだ?」
「ルドベックか。貴方も生きているとは意外だな。しかも、辺境伯の下についているようだが、第一王子として恥ずかしくないのか?」
「どういう意味だ? 辺境伯ではないロッシュ公と呼べ。ロッシュ公は私と私の部下を助けてくれた恩人。その恩人に報いるのは王子どうこう以前に人として当り前の行為をしているに過ぎない。それに、第一王子などという肩書はとっくに捨てた。王家はもうないのだ。ガドートスもこれからはただのガドートスとして生きていくのだぞ」
「偉そうに何を言ってるんだ? お前がオレにしたことを忘れたのか? お前が、勝手に王弟に楯突いたせいでオレは死にかけたんだ。オレに指図するな。お前が第一王子を名乗らないなら、オレが第一王子だ。いいか? これから、この領地はオレが支配することにする。辺境伯はオレに従っていれば良いんだ。オレが王都を奪還した暁には、好きな領土を好きなだけくれてやる。どうだ。いい条件だろ?」
僕の方にガドートスが顔を向けてきた。何と言う醜悪な顔なんだろうか。とてもルドと兄弟とは思えないな。しかし、ずっと疑問に思っていたことがある。こんな酷いやつが、なぜ、ガムド妻子の救助に協力したかということだ。むしろ、密告するほうがらしいと思うが。それを聞いてみた。
「なんだ、オレの話が聞きたいと言うのか? いいだろう、オレの……」
話が無駄に長かった。彼の話を僕なりに解釈してみた。話はルドが王弟に反抗したところから始まった。その戦いで、ガドートスは逃げ出し、王都に戻り、ブルビヒ教の本部に逃げ込んだらしい。ちなみに、ブルビヒ教というのは、歴史は古く、王国が誕生してすぐに興った教団で、常に王国とともに持ちつ持たれつの関係を維持して繁栄していった。その教団を王弟はないがしろにしたようで、第二王子が転がり込んだことを好機と捉え、王弟と対立しようとしたようだ。その間は大いにもてなしてくれたが、ガドートスの馬鹿さ加減に呆れた教団は、彼を捨て、王弟に反抗することを諦め、恭順の姿勢を示したのだ。
教団に捨てられたガドートスは、なんとか教団の弱みを握り、それを手土産に王弟に直談判しに行ったのだ。しかし、王弟からすればせっかく恭順してきた教団との対立は望むものではないため、ガドートスの持ってきた情報を握りつぶし、平民に格下げした上、王城からの追放を命じたのだった。一応、王都での居住を認めたのが王弟の優しさだったのだろうか。
それを理解しないガドートスは不満を周りに撒き散らし、犯罪を犯しながら、生き永らえていた。そんな時、見知らぬ人が王城近辺を出入りしているのを発見し、後をつけると、その者たちがしきりにロッシュ公の名前を口にしているのを聞いたのだ。その者とは救助隊のことだ。ロッシュ公という名前だけで、僕だと分かるのは大したものだ。
僕に恩を売るために、救助隊に協力したということらしい。そして、僕の代わりに、領主となって返り咲きを図りたいのだそうだ。うん、馬鹿だな。教団の判断はとても正しいな。ガドートスは気持ちよく話していたが、聞いている皆はドン引きである。ルドも半分しか血が繋がっていないが、こんな残念な弟を持って悲しいだろうに。
「話はわかったが、ガドートスが僕に取って代わるという発言は、この公国では反逆罪と取られても仕方がないと思うが。その場合は、どういう罪なのだ? ルド」
答えは明白。当然、死刑だ。これを聞いて、初めて、自分の発言が軽挙だったかを理解したようだ。理解してくれたよな? ガドートスはすぐに発言を撤回すると言い出した。なんと軽いやつなんだ。すると、ガドートスがルドの先にいる女性に目が止まった。マリーヌだ。
「おまえ、マリーヌか? なんで、こんなところにいるんだ? お前はオレが牢屋送りにしたのに。ああ、ルドベックに出してもらったのか。お前らしいな。オレの次はルドベックに色目を使っているのか。大した女だな。まぁ、今なら、またよりを戻してやってもいいぞ。辺境伯はなかなかオレに女をくれないからな」
こいつがマリーヌを牢屋送りにした張本人か!! やはり、とんでもないやつだ。ルドも顔を真っ赤にして、怒り心頭の様子だ。しかし、ロドにはガドートスを命の危険に晒したという自責の念があるようだ。言い返せないでいるみたいだ。マリーヌは、いつもと様子が代わり、ガタガタと震えだした。なんと、弱々しい姿か。かわいそうで見ていられないな。
「ガドートス。いい加減にしろ。お前をここに置くのは、第二王子という肩書があるからではない。ガムド子爵妻子の救助に協力してくれたからに過ぎない。これ以上の横暴を働くのであれば、お前を追放する。それが嫌ならば、おとなしくすることだ。いいな?」
ガドートスは明らかに不満顔になったが、少しは諦めのだろうか。
「ちっ。まぁ、ここにいてやるよ。オレは、妻子を救うのに協力してやったんだ、その見返りくらいはあるんだろ? とりあえず、ルドベックの屋敷に住むことにしよう。これからはオレが第一王子なんだ。当然の権利だろ? だから、ルドベックはさっさと明け渡せよ」
ルドが何か言いたげであったが、僕は制止し、了承した。僕は他に要望はないか、聞くと、女だと答えた。僕は考えるふりをして、ガドートスに思いついた感じで話した。
「公国内の女を与えることは出来ないが、この近くに美女だけが住む里があるのだ。そこに案内することは出来るが? ただ、行くためには少し手強い獣がいるんだが」
「オレを誰だと思っているんだ? 王国剣術を極めたと行っても過言ではないほど修練を積んできたんだ。獣ごときに遅れを取るオレではない。早速、案内せよ。ルドベックは、屋敷を明け渡す準備をしておけよ」
僕はミヤの眷族の一人を呼び出し、小声で指示を出した。僕は彼女をガドートスに紹介した。当然、舐めるような視線をしていたが、ミヤに近い実力があると言ったら、興味をなくしたようだ。弱い女にしか興味はないのだろうか? 彼女が里まで案内するというと、喜んで眷属の後を里へと出発していった。
その後の末路だが、ガドートスは魔の森については無知だったようで、魔獣を普通の獣と勘違いをして、襲いかかったものの、見事に返り討ちにあい、帰らぬ人となった。そうけしかけたのは、当然、眷族だ。そして、指示を出したのは僕。彼が欲を出さずに、一生懸命働く意志を見せれば、この街で生きる術はいくらでもあったのだが。
眷族から話を聞いた僕らの中で、ガドートスの事を悲しむものは一人もいなかった。
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