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第160話 新村開拓 その2

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 僕は晴れやかな気分になっていた。いろいろと問題はあったが、あの戦の戦後処理が全て終わったのだ。これだけでも僕は個人的に祝杯を上げたい気分だが、ゴードンが戦勝の祭りを企画していると聞いているので、ぐっと堪えることにしよう。ミヤも少しは機嫌が良くなっていたので、ホッとしている。

 今回は、僕は街から新村につながる道の整備をすることにした。これはルドからの要請だったのだが、街から村に向かう時に、人が往来しているため、随分と道は踏み固められて歩きやすくはなってきているのだが、でこぼことしていて、荷車で通る時に支障が出ているということだ。今は、街から新村へと物資が移動しているが、来年からは逆になるほど、新村の食料生産量は大きく増えることになるだろう。その時は、今とは比にならないほどの荷車が行き来することになる。

 そこで、僕は、街から村につながる軍用道路と同じくらいの幅をもたせた道を作ろうと思った。今の荷車の幅だと4,5台は横に並べるほどだ。皆は、すこし大きすぎると言うが、必ず必要になると思うし、道は最初に作っておいたほうが、あとで作るより労力が少なくて済む。といっても、道路面を平にして、側溝を設けるだけの簡単なものだけど。側溝は雨水を逃して、道路に水が溜まらないようにするものだ。これがあるだけで、雨の日に馬車の車輪が泥で動かなくなるのを大幅に減らすことが出来る。

 僕は、街から新村に向かう轍を頼りに、土魔法で側溝を掘り、その土を道路面となる場所に盛って、均すという作業を延々と新村に到着するまで続けることになった。僕は魔法を使っているから良いものの、ミヤと眷族は特にやることもなく、ただ突っ立ているだけだった。ミヤはともかく、眷族は何か作業をしたいと懇願してきたので、周囲の森で狩りをしてくるように頼んだ。食料は、十分な量を用意しているつもりだが、食料は多いに越したことはない。眷族達は喜んで、森に向っていった。ミヤは、木に寄りかかって、昼寝をしていた。

 距離は長くないものの、結構細かい作業が続いたため、思ったより時間がかかってしまった。昼もすっかり過ぎてしまい、ミヤと二人で遅めの昼食を摂ることにした。

 「ロッシュって、土木作業と農作業をやっている時が一番、生き生きとしているわよね。私には土にまみれて仕事をするっていうのはちょって信じられないけど、でも、頑張っている貴方を見るのは好きよ」

 ミヤがさらっと恥ずかしいことを言ってくれる。たしかに、最近は色々とあった。公国を立ち上げたり、多くの移民を受け入れたり、戦をしたりと。色々な人がその中で、餓えから一歩でも遠ざかるように頑張って、皆からありがとう、と感謝されるのはすごく嬉しいし、やりがいも感じるが。やはり、土いじりが一番、楽しいと感じてしまうな。もっと平和になって、土いじりだけをして生きていく、そんな世界を見てみたいものだな。もちろん、そこには、嫁たちも一緒だ。

 そんなことを考えると、一刻も早く新村の開拓を急がなければと思う。手に持っている弁当を平らげ、作業を再開した。再開するために立ち上がった時に、ミヤに僕も好きだぞ、と言葉を掛けると、嬉しそうに笑ってくれた。作業は順調に進み、日が暮れる前には、道が完成した。近い未来、この道が公国を大きく発展させるもっとも重要な道路になっていく。

 新村の入り口となる場所にたどり着くと、そこには切り株が乱立する異様な風景が広がっていた。この辺は農地の予定地のはずだな。ここに、まだ人が入っていないということは、居住区がまだ終わっていないということか。僕は道を作りながら、居住区となる場所に向かっていった。すると、広大な更地が目の前に現れた。でこぼこだった土地が均されており、たくさんのテントが乱立していた。居住区の外縁となる部分に人が集まり、今も切り株を除去する作業に追われているようだ。

 眷族達がようやく僕達に追いついたようだ。眷族達の後ろには狩った動物が山のように積まれていた。住民たちがそれを見つけて、大騒ぎしていた。眷族も満足そうな顔だ。狩った動物は、住民たちに渡し、僕とミヤは、居住区に設けられた開拓団長専用の家というところに向かった。どうやら、クレイがその開拓団長ということになっているようだ。家と言っても掘っ立て小屋を少し立派にした程度のものだが、周りは未だテント暮らしであることを考えると、厚遇されているなという印象だ。

 中に入ると、クレイとゴードンがテーブルに着き、地図を広げて話し合いをしていた。僕がその場に入ると二人共立ち上がり、互いに挨拶をした。テーブルに広げられている地図には、この新村の地形が描かれていた。その中に大きく、居住区とか、工業区などと書かれ、丸で囲われていた。この丸が、その予定地になるということか。ふむ、僕とクレイで相談した内容と同じだな。僕は、今回新設した道路を地図に加え、道路設置を二人に報告した。

 二人共、街までの道路が一日もかからずに終わったことが信じられなかったみたいだが、ミヤが証人となってくれたおかげで、二人は疑惑から驚愕の顔をに変わっていった。ゴードンもこれで物流が大きく向上する、と言って喜んでいた。僕は、他にも街とガムド子爵領から一万人の人夫が動員されることを伝えて、二人を喜ばせた。
                 
 僕はまた明日に来ると伝え、村に戻った。それから冬になるまで何度も往復し、新村の開拓を進めていった。居住区が完成したあとは、麦が間にあうかもしれないと思い、急遽、開拓団総出で畑を作り、麦を播いた。僕としては、なんとか間にあうと思うが、急拵えの畑と播き時が少しズレてしまった影響がどの程度か分からなかったので、アウーディア石から作られた土壌復活剤を使ってみることにした。これは、栽培に適さない土壌でも、高品質の作物を作れるという優れ物だ。ただ、効力は長くはない。来年の収量増は、人口増を支えるためにはどうしてもしてもらわなければならない。これでどのような効果が現われるか。

 ちなみに、復活剤の効果は絶大で、成長が促進する効果もあったようで、短い秋の間で、適期に播いた麦に追いついてしまったのだ。これには、僕もただただ驚くばかりであった。むしろ、成長しすぎて、冬の寒さで枯れてしまうのではと思うくらいだった。結局は杞憂に終わったが。

 農地周りの河川にも、堤防を設置し、氾濫を防ぐようにし、両岸に広大な水田を水路と共に広げていった。ここは、最下流になるため水の量が豊富で、大面積の水田でも賄うことが出来るのだが、問題点があった。それは、川が低すぎることだ。水田の方が土地が高いため、どうしても揚水をしなければならなかった。そこで、急遽、この河川の上流から水を引っ張ることにし、設置した道路の横に太い水路を並行して走らせ、水が新村の水田地帯に流れるようにした。

 砂浜でも、塩田を作ることにした。村近くと同じ規模よりもさらに大きなものにし、ここを塩の一大産地にすることにした。ただ、問題は、塩田を管理できるものがいないということだ。塩田を知っているという者がいればマシという程、塩田が周知されていない。説明だけでも一苦労するくらいだ。そこで、村近くの塩田を任せているマリーに来てもらうことにして、ここでの塩田の生産を任せることにした。村の近くの塩田には、村から人を送り、穴があかないようにゴードンに頼んだ。マリーに、一気に百人近い人を教育してもらうことになったため、マリーを支える人を何人かつけるという騒ぎになり、マリーを筆頭とする塩田生産の大きな組織が出来上がっていった。
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