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第145話 戦後処理①

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 ガムド子爵が我が陣営に加わったことを受けて、子爵の部下である者達は釈放される運びとなった。戦争になった場合、捕虜として取り扱わなければならないと王法に定められているらしいが、今回の戦は、王法が適用されないので、捕虜としての取扱は受けていない。二千人近い数の兵士を捕まえてあるが、その内、千人が子爵の部下だったようだ。残りの千人は、他の貴族が戦に参加したという証のために、子爵に託した兵ということだ。

 この残りの千人に処理について、かなり頭を悩ませた。今回の戦について、貴族に従った兵たちを処罰することは出来ない。兵個人が罪を冒したならともかく、今回はそうではない。だとすると、選択肢は多くはない。このまま釈放してもいいが、領地にたどり着く前に餓死してしまうだろうし、受け入れるにしても千人は多すぎる。暴動などが起これば、鎮圧するのも容易ではない。ルドもこれについての処理については、いい考えが浮かばないようだ。すると、ガムド子爵が僕に助言の許可を求めてきた。僕がすぐに頷いた。

 「もし、ロッシュ公が受け入れることに懸念をしていらっしゃるのであれば、問題ないと思われます。残された兵たちは、いわば捨てられた者達です。領地に家族が残っていない者や老人、亜人しかおりません。たとえ、釈放して無事に領地にたどり着いても、捨てた者を受け入れるだけの度量はないでしょう。殺されるか、再び捨てられるかのどちらかの運命をたどることでしょう。そのことは、残された者達が一番知っていることでしょう。ですから、ここでロッシュ公が受け入れる姿を見せれば、彼らは喜んで、ロッシュ公に忠誠を誓うことでしょう」

 そういうものなのだろうか? 僕にはそういう機微のようなものがよく分かっていない。ルドもどうやらあまり分かっていないようだ。分からないことを考えても仕方がない。今回の件については、ガムド子爵は助言を信頼してみよう。僕は子爵を味方だと受け入れると決めたのだから。

 「ガムド子爵の助言に従い、彼らを助けることにしよう。こちらも兵が増えることは望ましいことだ。今回の戦で兵の少なさを嫌と言うほど痛感させられたからな。公国もこれからの戦に備えて、軍備は増強していこうと思っている。子爵の方も速やかに兵の立て直しを急ぐのだ。王国軍は再起するのに時間を要するだろうが、常に万全を心掛けねばならないからな。とりあえず、兵を連れて、すみやかに領都に帰還するが良い。食料もこの壁の中に大量に備蓄されているはずだ。それをもっていくといい。それと、王国にはまだ我らが結託したことは悟られないようにしろよ」

 「かしこまりました。ロッシュ公。速やかに領都に帰還いたします。それと奪還作戦に支障が出ないように細心の注意を払わさせていただきます。それにしても……」

 ガムド子爵が何か言い淀んでいる。なにか、伝え忘れかなにかか? しかし、その後に続いた言葉は、ロッシュ公は本当に15歳なのですか? という言葉だった。それに対して、ルドが、やはり子爵もそう思うか!! と激しく同意している様が印象的だった。僕って、そんなに子供っぽくないのかな?

 僕が少し子供っぽい笑いをしたら、ガムド子爵は苦笑いをして、その場を去った。僕は、その場に待機している団員にガムド子爵が味方に付いたこと、その部下を開放して子爵領に帰還させること、壁から食料を放出すること、残りの兵は公国に降る者は受け入れること、をライルに告げるように命令をし、ガムド子爵ととも行くようにさせた。

 次の悩みは、戦場に取り残されている亜人達だ。僕が退路を断った形になっているため、崖と穴、そしてラエルの街に囲まれた場所にいる状態なのだ。僕としては、亜人達を救いたいと考えている。やはり、王都での、亜人達の扱いは酷いようだ。先程のガムド子爵との会話を思い出していた。

 「私が妻と子を人質として送り届け、王弟殿と謁見するために王都に赴いたときの話ですが、王都の周りは大きな畑がいくつもあり、食料を大量に作っていた様子でした。実りはあまり良くなかったですが、とにかく面積が途方もなかったので生産量はかなりあったのでしょう。私が特に目に止まったのは、数万の亜人の姿です。見窄らしい姿で、農業に従事させられていました。人間の姿もありましたが、皆、棒のようなものを持ち、中には亜人を殴りつけているものもいました。かつての王都では見られなかった光景だけに、とても印象的でした」

 ガムド子爵の話はこれだけではなかった。

 「王城に向かう際も、亜人が奴隷のようにこき使われている様子を方方で見ましたし、王弟殿に謁見した際も、王都では亜人の奴隷を法律で認めることになったと言うことが伝えられ、我が領内の亜人を王都に送り届けろと命令されたのです。もはや、王都では亜人は生きているだけでも辛い場所になってしまっているのです。それでも、働くのはおそらく家族などが人質になっているからでしょう」

 今、思い出しただけでも腹が立つ話だ。なにゆえ、亜人がそのように虐げられなければならないのだ。人間と何が違うというのだ。なんとか、亜人を救い出す方法はないものかと考えたが、僕の出来ることは今は残念ないのが現状だ。しかし、今目の前にいる亜人たちなら救えるかもしれない。目の前にいる亜人は約一万五千人ほどだ。それに、これだけの亜人が王都からいなくなれば、大きな痛手となるに違いない。

 「ルド。すぐにまとまった兵をかき集めてくれ。僕は戦場に残っている亜人達のところに行ってくる。やはり、亜人達の実情を知ってしまうと、手を差し伸べたくなってしまう。これは僕にとっては宿命なのだ。だから、手を貸してくれ」

 そういうと、ルドは、ロッシュらしいな、と一言言って部屋を後にした。残された僕は、緊張が解けてしまったのか疲れが一気に僕の体を襲ってきた。フラフラする体、急激に眠気がやってくる。僕は、消えてしまいそうな意識の中、なんとか、シェラのいる治療院に向かい、そこにあるベッドに横たわった。シェラとマグ姉が何か僕に声を掛けてくるが、全てがどうでもいいほど眠い。僕は、すぐに夢の中に吸い込まれていった。

 父上が僕に微笑みかけている。そんな夢を見た気がした。

 僕が、眠りから目覚めると、少し日が傾き始めていた。小一時間ほど眠ってしまっただろうか。ふと、横を見ると、シェラとマグ姉が僕の手をしっかりと握って僕を見つめていた。

 「二人共、ここにいてくれたのかい? 父上が夢に出てきたような気がしたんだ。しかも微笑んでいたんだ。不思議な話だけど、僕のやっていることは間違ってないって思えるんだよ。シェラ、マグ姉、これからも僕のことを支えてくれよ」

 二人はキョトンとした顔をしていたが、それぞれ、もちろんよ、と返事をしてくれた。僕はその後、二人に状況を説明し、特に亜人について二人に意見を求めた。二人共、迷うことなく、救えるなら救うべきだと言ってくれた。

 父上と二人に勇気を貰い、僕はライルのいる場所に向かうことにした。ライルは、休憩中だったのか、テントの中で寛いでいた。いつの間にか、テント街みたいなことになっていた。

 「よお、ロッシュ公。目が覚めたかい。これから取り残された亜人のところに行くんだろ? だったら、オレも行くぜ。今回は置いてけぼりを食らったからな。少しでも戦場の空気を吸っておきたいんだ。それとオレみたいな亜人がいたほうが何かと便利だろ? クロスボウ隊が一緒に行くことになっているからな。もう出発するか?」

 既に準備が終わっていたのか。日が暮れる前になんとか交渉を終わらせたいところだ。すぐにライルとクロスボウ隊を引き連れ、亜人達の所に急行した。場所は、街から数キロメートルしか離れていなかったため、すぐに到着することが出来た。亜人達は、立ち往生している様子で、座り込んで休憩しているものがほとんどだった。

 僕達が近づくと、亜人達は手に武器を取り、立ち上がり始めた。どうやら、僕達に攻撃の意志を示しているようだった。
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