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第113話 ルドからの報告と珍しい金属

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 さて、どうしよう。巣に戻った僕は、目の前の山のような魔宝石と魔金属、そしてアウーディア石を見て、頭を抱えた。これをどうやって村に持ち帰れば良いのか。拠点にさえ運び込めれば、なんとかなるかもしれないが……ゴブリンの女王がそれを察してくれたのか、ゴブリンたちで拠点までの運搬をしてくれることになった。本当に助かった。

 僕達は、ゴブリンの女王と別れの時がやってきた。

 「主様。いつでも我等の巣にお越しください。歓迎致します。主様の好きな魔宝石と魔金属は、これからも村の方に運び込んでおきますので、お役に立ててください」

 ゴブリンとの出会いがなければ、今回は上手くいっていたか分からなかった。本当に感謝してもしきれないな。今度は僕の方が彼らに感謝を表さなければならないな。僕はそう思っていたら、ふと、女王の言葉に引っかかりを感じた。これからも? これからもってどうゆうことだ? まるで今までも魔金属とかを持ってきてたみたいな……あ、あの魔牛牧場に放置されていた魔金属はゴブリン達が置いていったものだったのか!! 村の七不思議に数えられてもおかしくなかった事象についに答えが出たのだ。

 シラーも驚きを隠せないでいた。そうだろう。僕もかなり驚いている。女王に置いていってくれた魔金属などのお礼をいい、再会を約束して、拠点へと戻っていった。拠点に向かう間、ゴブリン達が行列を作って、宝石などを運んでいる様は実に異様な光景だった。その先頭に僕が立っているのだから、山賊になったような気分だ。シラーはなぜか、ぼくとかなり近い場所を歩くようになっていた。抱きしめてから、すごく近くなった気がするんだよな。

 拠点には、数体のホムンクルスが待機していた。どうやらずっと待っていたみたいで、食料も山のよう積まれていた。ホムンクルスは特に感情を表に出さず、僕に溜まっていた手紙を手渡した後、ゴブリン達が持ってきたアウーディア石や魔宝石などを荷車に積んで村に向かって移動を開始していた。僕は、ここまで来てくれたゴブリン達に通じるかどうかわからないが礼をし、山のように積まれた食料を持って返ってもらうことにした。ここにあっても腐らせるだけだしね。ゴブリン達は食料であることが分かると、興奮した様子で、持てるだけ持って巣の方に引き返していった。

 ようやく僕の仕事も終わりだ。とりあえず、手渡された手紙を読むことにした。全ての差出人はゴードンからだった。ルドからの近況報告を説明するものばかりだったが、そのどれもが驚くべきものばかりだった。僕が、初めて手紙を受け取ったときに移住者が3000人増えると聞いて驚いていたが、一万人までに膨れ上がっていたのだ。村の備蓄を全て解放し、秋冬の収穫でようやく冬を越せるかどうかというところまで来ているみたいだ。ゴードンの手紙からは移住者の受け入れを拒みたい感じが出てきている感じだった。それでも僕からの指示がないので、渋々受け入れているということなのだろう。

 また、農作物についても多くの種類の種を入手したことが記されていた。全てを把握できていないみたいだが野菜や果物、小麦も手に入ったようだ。更に豚も十数頭だが手に入ったらしい。これはかなり嬉しい報告だ。顔がにやけっぱなしになってしまう。特に小麦と豚は非常に助かる。これで、村には養豚と養鶏が出来るようになったのだ。

 ルドの調査隊は、北方の調査を一旦終わらせ、街に帰還をしている最中らしい。やっぱり逃走した盗賊は発見できなかったか。不安材料を残すのは嫌だが、仕方がないか。さらに手紙は続いていた。村の方では、移住者の急増を受けて、畑を限界まで拡張しているということらしい。麦と秋ジャガイモ分で150枚ほどの畑を増やしたらしい。種を放出できる限界だろうな。しかし、いい判断だな。魔牛も今頃は大活躍をしているだろうな。

 さらに、夏の頃に予定していた魚の養殖が成功し、一部がラーナさんの食堂で食べられるようになったらしい。味は上々で、収量もかなりのものになっているらしく、養魚場責任者のクロコさんがすぐにでも養魚場を拡張をしてほしいと願い出ているというものだった。上手く行って良かった。村では動物といえば森で狩ってくる獣に限られていた。鶏が手に入ったと言っても卵を採る用だから肉としては流通させていない。その中で、魚の養殖に成功したのは大きな成果だ。

 あとは、海水浴でトラブルが発生したとか、祭りの準備が順調に進んでいるとか他愛もない報告が続き、最後の手紙になってくると、僕を心配する文章が延々と綴られていた。マグ姉やエリスが屋敷を飛び出して、採掘場に向かおうとしてなんとか食い止めている苦悩も綴られており、シラーと長い時間一緒にいることが心配なんだと……あ、そっちね。

 僕達は、よくここまで掘ったなと感心するほど、長い長い坑道をひたすら歩いていた。数日歩いたが、まだ表に出られない。というのも、つい鉱脈を見つけると寄り道して掘ってしまうからなのだが、インゴットにもならない少しの量だが、変わった魔金属を発見した。アダマンタイトとは違うが、見た目や重さが似ている金属で、ほんの少しの魔力を通すだけで簡単に加工できるほどの魔力との親和性が高いのが特徴だ。僕が、休憩中にその金属を加工して遊んでいたのだが、シラーが興味本位でそれを覗きにやってきた。シラーは何気ないつもりだったのだろうが、僕の扱っている魔金属を見て、僕の腕をかなり強い力で握っていた。

 「いだだだだ。な、なにするんだ!!」
 僕は、シラーの方を睨みつけたが、シラーの凄まじい形相に怯んでしまった。

 「ちょちょちょちょ、ちょっと!! な、な、な、な、なんてものを持っているんですか!!」

 シラーの言動がかなりおかしい。目もおかしなことになっている。なにか狂気な雰囲気を感じ、僕はその場をなんとか離れなければならないと頭の中で警鐘が鳴っていた。しかし、シラーに掴まれていたのだ。とても逃げられそうにない。こうなったらと、僕はシラーを抱きしめ、落ち着くように優しく声を掛けたが、どんっと突き放された。

 「落ち着いてなんかいられませんよ。ロッシュ様の持っているのは……オリハルコンなんですよ!!」

 沈黙が流れた。オリハルコンって何? 僕が分かってないような顔をしていると、シラーが僕を蔑んだような目で見つめ、ちょっと頭おかしいんじゃないの? って言われているような雰囲気を感じた。

 「知らなくて当然でしょ? これ、魔金属だよね? 人間界にはないものなんだから知らなくて当然でしょ?」

 僕も何を喋っているのか分からなかったが、シラーの蔑んだ目には耐えられそうもなかったのだ。なんとか、彼女からもう一度信頼を取り戻さなくてはと、何故か必死になってしまった。シラーも僕の言葉に我に返ったようで、謝罪を繰り返していた。冷静になってから、オリハルコンについて聞くことにした。

 「いいですか? オリハルコンというのは……」

 うん。説明が長い。オリハルコンは、魔界では100年に一度採掘されるかどうかの魔金属で、採れる量も小指一本分が取れれば大量と言われるくらいみたいだ。ほんの微量を他の金属に混ぜるだけで、その金属が持っている特性を大幅に強化することが出来ると言われている。魔界でも、オリハルコンを使った武具はその希少性ゆえ表に出ることは少なく、存在すらも疑われるほどだ。オリハルコンを取り扱うには、特殊な技能が必要で、それは一子相伝で受け継がれるため、魔界でも常に一人の鍛冶師しか取り扱うことが出来ない。

 僕の手の中には、こぶし大のオリハルコンがあった。さっきまで粘土みたいに遊んでいたのだ。僕は、じっとオリハルコンを見て、そっとカバンにしまいこんだ。これ、スタシャに見せたら大変だよね? とりあえず、ちょこっとだけ切り分けて、見せてみることにしよう。スタシャは意外と有用な使い途を教えてくれたりするからね。

 シラーが、触りたがっていたので手渡したら、恍惚とした表情で、色んな角度から見て何度ため息をついていた。ときどき、引っ張ったりしていたが、びくともしていなかった。それでも飽きずに眺めていたので、僕はちょっとあげようかと言うと、ひどく恐縮して、僕に押し付きてきた。やっぱり、魔族にとってオリハルコンってすごい存在なんだな。それともシラーだけなのか?

 それからも、しまいこんだカバンをずっと凝視していたが、僕は気にしないように村の方に戻っていった。懐かしい鉄採掘場の入り口から表の光が差し込んでいるのが見えてきた。外からは風が坑道に入ってきて、新鮮な空気を久々に肺に思いっきり吸い込んだ。もっとも、埃が凄いので、思いっきりむせてしまったが。外からの空気は、暖気を含んでおり、暑さを感じた。僕達が表に出ると、眩しさに一瞬目がくらみ、陽の光が容赦なく僕の体を焼き付けていくように感じた。もう、夏を過ぎて秋になろうとしているのか。

 僕がめまいから回復すると、目の前にはミヤが立っていて、僕がただいま、と言うとおかえりと返して、僕に抱きついてきた。僕は久しぶりに感じるぬくもりにずっと離したくない気持ちに襲われたが、僕の格好があまりにも汚れているの気付き、僕が離れようとするとミヤが抱きしめてくる力を強くしてきた。僕の胸に顔を埋めている彼女は泣いているようだった。

 しばらくして、僕達は離れ、ミヤはすぐに背中を向けてしまった。泣き顔を見られたくないようだ。僕は、エリスとマグ姉とリードについて聞くと、みんな屋敷で待っているらしい。皆、ゴードンをしっかりとサポートして村を守っていたのよ、といって、褒めて上げなさいよとも言ってきた。僕は、ミヤを真っ先に褒めると、すごく照れていた。
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