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第111話 魔獣の襲撃

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 掘り進めていく内に、周囲の景色が変わったような感じがした。これにはシラーも感じていたようで、しきりに匂いを嗅いでいた。あるところまで行くと、シラーが立ち止まり、鉱物を掘り出し始めた。こんなことをするのは、今回では初めてのことだ。僕は少し期待の目でシラーの行動を見つめていた。すぐに、シラーの手には拳くらいの何らかの原石が握りしめられていた。

 「ロッシュ様。これは、魔宝石ですよ。どうやら、私達は魔の森の下に向かっていたようですね。周囲の雰囲気が変わったのも魔の森に入ったからだと思いますよ。もしかしたら、このまま突き進むのは危険かもしれません。地中に生息する魔獣もいますから。一旦戻るか、地上に出て様子を見るか、どちらかをする方がいいかもしれませんね。」

 ここに来て、戻るという選択肢はない。そうなると地上に出てみるのが良いか。ここが村とどうゆう位置関係になっているかを把握するのもいいだろう。僕達は地上に向かう坑道を掘り続けた。さして、時間もかからずに地上に出ることが出来た。久しぶりの地上。日光が眩しいかと思ったが、森の中は常に薄暗いため、坑道とあまり変わらなかった。周囲を見渡したが、見たことのない景色が広がっていた。シラーに確認するも、同じだった。これでは村との距離は分かりそうにもないな。

 僕達は、坑道から離れて周囲を調べることにした。かなりの距離を歩いたが、森以外の風景を見ることは出来なかった。魔の森に長い時間いるのだが、魔獣の影も形も見られなかった。シラーも流石に不思議がっていたが……その時、視界の端の方で何かが動いたような気がした。僕は、その方を向くと、そこには大量の魔獣の影があった。まだ遠くにいるため、どんな魔獣かはわからなかったが、巨大な魔獣ではなさそうだ。僕達は、静かにその場を離れ、坑道の方に向かった。なんとか、逃げ込めそうだと思ったが、野獣は僕達の存在に気付き、こちらに接近してきた。

 僕達はなんとか坑道に逃げ込んだ。魔獣の動きは早かった。このまま、坑道を戻っていっても追いつかれてしまうだろう。とにかく、今は隠れなければ。僕は、近くに坑道を新たに堀り、その中にシラーと潜って、すぐに坑道を閉じた。これで魔獣達も僕達のことに気付かないだろう。しばらく経ってから、坑道の一部を掘り、覗き込むと、僕達の目の前にいた。あまりの数のため、暗く魔獣がいることしか分からなかった。

 さてどうしたものか。このまま、ここで待っていれば、魔獣はいなくなってくれるかな? それとも、この先を掘って、逃げ道を作ったほうが良いか悩むな。食料は補充したばかりだから、当分は必要ないだろう。とりあえず、先に進むほうが良いか。どちらにしろ、今は進む以外のやることはないのだから。

 僕は先に進むことをシラーに言うと反対することはなかった。シラーの指示で進む方向を決め、採掘を始めた。なるべく音を立てずに……慎重に進んでいるため、距離を稼ぐことは出来なかったが、少しずつ魔獣との距離を離せていった。時折、坑道を戻って魔獣の様子を見るが、いなくなる様子がなかった。

 「ダメだな。完全に退路を断たれてしまった感じだな。なんで、どこかに行く気配がないんだ!! とりあえず、今はとにかく進んで、魔獣を回避出来る場所まで移動しかないが……」

 僕は少し神経質になっていた。食料も日に日に減ってきており、シラーの指示に従って掘っているが未だに石の影すら追うことが出来ていない。このままでは、僕達であの魔獣と戦い拠点まで戻るしかない。あれだけの数の魔獣を相手に僕達だけ倒せるのだろうか? 考えがまとまらず、落ち着けない。そんな時、シラーが僕をふわっと抱きしめてきた。

 「ロッシュ様。落ち着いてください。私達は大丈夫ですよ。きっと、もう少しで道が開けるはずです。私にはそんな予感がするんです。ですから、後ろの魔獣のことは忘れて、掘るのに集中してください。」

 シラーの柔らかな体に包まれて、僕は落ち着きを取り戻し始めた。そうだな。今は集中を絶やさずに前に進むことだけを考えなければならないな……僕達は再び掘削を開始した。先程よりも早く、掘り進み、魔獣とも十分に距離を稼いだと思った頃、後ろの坑道の方から空気が震えるような音を感じたのだ。僕は耳を澄まし、じっと聞いていると、足音のような音がはるか後方から聞こえてきた。最悪だ……

 「くそ。魔獣がこっちに向かってきているぞ。数十分もすれば追いつかれてしまうな。とりあえず、前のように回避するための坑を開けて……」

 僕が独り言のように話している間、ずっとシラーは僕に話しかけていたみたいだ。シラーに揺すられて初めてそれに気付いた。

 「ロッシュ様。落ち着いてください。このすぐ近くに強い力のようなものを感じます。そっちに向かってみましょう。」

 こんな時に向かっていって、それこそ退路がなくなってしまったらどうするというのだ。僕はすこし苛立ちながらも、追いつかれる直前に坑を開けて逃げ込めばいいかと思い、シラーの言うとおりにした。なるほど。シラーの言う通り、鉱脈にぶつかったようで、魔宝石や魔金属が次々と出てきた。そんな状態が長く続き、ついには、ボコッと音が聞こえ、広い空洞が目の前に広がっていた。後ろには、魔獣達が迫っている。僕達はすぐに隠れられる場所を探し空洞内に足を踏み入れた。満点の空のように魔法石と思われるものが煌めき、ふと壁を触ると前にも触れたことのあるミスリルの鉱石のようだった。

 スタシャが見たら、大はしゃぎするような場所だな。僕はひとり笑って、歩きながら周囲を探っていた。すると、空洞内に小さな穴があり、しゃがめば通り抜けられるものだった。僕は、なにやら既視感に襲われ、すぐにシラーを呼んだ。この坑は、前に見たゴブリンの巣に似ている。

 「確かに似ていますね。鉱脈近くある空洞といい、人工的にくり抜かれたような坑といい、どうもゴブリンの巣で間違いないと思います。」

 そうすると、この先にいるのはゴブリンの女王ということになるのか……前回もたしかゴブリンに襲われて逃げ込んだんだよな。しかし、この空洞で身を隠せる場所と言ったらここしかないな。僕達は、その坑にスルスルと入っていった。中は小さな空洞で、完全に行き止まりだった。僕は、坑を塞ぎ、ここで魔獣が通り過ぎるのを待つことにした。しばらくぶりにホッとする瞬間だった。そう思うと、急に体が重くなって、地面に座り込んでしまった。ずっと掘り続きていたせいで体にかなり疲労が溜まっていたようだ。

 シラーが僕の頭を持ち上げ膝枕をしてくれたのは覚えているが、その瞬間、意識がなくなってしまった。遠くの方で何かが争うような音が聞こえる。僕は、寝ぼけながらも、その音がこの壁を隔てたすぐそこであることに気付き、慌てて上体をおこした。シラーもうとうとしていたようで、僕が起きたときにビックリして目を覚ましたようだ。

 「シラー。聞こえるか? 外で何かが争っているようだぞ」

 シラーは少し緊張した表情で頷いた。僕は、壁の方に近づき耳を当てて、外の音を聞こうとした。獣のような足音が響き渡り、絶叫が聞こえる。やはり、何かが争っているんだな。しばらく、その状態が続くと、争いの音が消えた。小さな声だけが聞こえるようになったのだ。それも、塞いだ坑の近くでだ。小さい声は次第になくなり、坑を掘るような音が代わりに聞こえ始めたのだった。
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