上 下
106 / 408

第105話 ジャガイモの収穫と街道監視計画 前半

しおりを挟む
 麦の収穫や大豆などの種まきが終わり、夏の訪れを感じ始めた頃、春ジャガイモの収穫の季節となった。去年より大幅に面積を拡大して栽培したこともあって、大量の収穫をすることができた。来年の種芋として残しておく物を差し引いても、各家庭で十分に食べることが出来る量を確保することが出来た。まだ、ジャガイモの備蓄が出来るほどではないが、来年からは備蓄出来るだろう。秋ジャガイモの定植もそろそろ始まるので、品種改良で秋ジャガイモの確保をしておかなければならない。

 魔牛由来の肥料は春に使えなかったが、秋ジャガイモからは使うことが出来る。それに、春用は今回の収穫分から回ることになっているので、栽培時期にポイントを使う必要がなくなり、品質向上に全振りできるようになるのだ。肥料分のポイント加算も期待できるので、品種改良が楽しみである。

 少しのんびりと過ごす時期が続いた。いつものように朝食を摂っていると、エリスがエルフが来訪したことを告げにやってきた。盗賊たちをエルフの里に送ってからまだいくらも時間が経っていない。もしかして、何か、忘れ物でもあったのかなと思っていたら、悪い知らせをもたらしてきた。盗賊たちの一人がエルフの里に入る前に脱走したのだと言う。その男には、リリの秘術がかかっていなかったみたいで、男の逃げた跡には壊れた腕輪のようなものが落ちており、それがリリの秘術を防いだのではないかという。エルフたちが追跡をしたが、発見が出来なかったそうだ。

 そのような道具があるのかとふと思って、スタシャにでも相談してみようかな。なんて、僕は事の重大性から現実逃避をしてしまった。あいつらは一人でも逃がすと村にとって非常にまずい。僕が心配そうな顔をしていると、エルフがそれは大丈夫なのでは、と言ってきた。理由を聞いてみると、魔の森から抜け出すのは難しく、その上食料も持ってないので誰かと接触できるまで生き延びることは出来ないのではないかと言う。確かに、魔の森を抜け出すのは簡単なことではない。僕も何度も魔の森を経験しているので、人間が立ち入っていい場所ではないと痛感している。

 エルフの言うことはもっともだし、おそらくそうなのだろうが……万が一ということもある。エルフの言うことには頷きつつ、フィルカウス教という異常な団体がこの村に手を伸ばしてくることを考えることにした。

 「リリには、気にしないように伝えておいてくれ。嫌な報告だったが、伝えてもらって助かった」

 エルフはそのまま屋敷を後にした。僕は、ライル、ゴードンとルドをすぐに呼び出すことにした。ミヤも加え、皆が集まり、誰にも聞かれないように執務室で話をすることにした。何の話をするのかを全く伝えていなかったので、皆、怪訝な顔をして執務室に入ってきた。

 「ロッシュ村長。どうなさったのですか? このような雰囲気は初めてなもので、すこし不安を感じるのですが」

 ライルとルドも一様に緊張した面持ちだ。ミヤだけは、トマトジュースを飲んで寛いでいた。相変わらずだな。僕は、エルフが訪ねてきて盗賊の一人が脱走したことを告げ、今後の対策について相談することを告げると、少し緊張感が和らいだ。皆、エルフの言っていたことを支持しているようだ。

 「村長さん。そのエルフの言うとおりだぜ。あの魔の森を抜け出せるわけがねぇ。前のことを忘れたわけではないだろ? 自警団で行った時、死にそうになった経験を。あの森で生き残るなんて無理だぜ」

 ルドもライルの意見に同意しているようだった。ミヤだけは、我関せずでいた。僕も、どちらかといえば皆の意見に賛成だ。しかし、話を聞いてる範囲では、教団の存在は脅威となりうる。今まで油断で皆を危険に晒させたことがあったことを考えると、万全の態勢だけは整えておくべきだと思う。

 「皆の意見はもっともだ。だが、防備だけはしっかりとしておきたいと思っている。幸い、この村は魔の森と山に囲まれた土地にある。この村に軍を侵攻しようと思えば、必ずラエルの街から伸びる街道を通過しなければならない。その街道に壁を設けようと思うんだ。それだけではなく、兵器、武器や防具の研究を進めていくべきだと思う。そのためにも、必要なものについて意見を聞きたいのだ」

 そういうと、皆は一様に真剣な顔に戻り、考えるような仕草を取り始めた。真っ先にゴードンが話し始めた。

 「私から言えるのは、人材、食料と資材のことについてだけですが、問題は人材面の確保と資材の調達があると思われます。現在、鍛冶はカーゴと内弟子に任せてありますが、研究を加えると足りなくなると思われます。その確保をしたほうが良いでしょう。資材については、鉄以外の資材が不足気味です。特にレンガと木材が不足すると思います。木材に関しては、製材所のモスコさんが量産体制を構築しているので問題は解消されるでしょう。レンガだけは現状、ロッシュ村長の魔法に依存しているので、安定的に供給するためにも新たにレンガを製造する工房を立ち上げる必要性が出ると思います」

 ふむ。さすがはゴードンだ。僕が考えが及ばないところに気付いてくれる。金属類は、鉄の採掘場で手に入れるとして、レンガか。当初からレンガ工房を立ち上げようとしていたが、なんとか手持ちのレンガだけで回していたところ、最近になって人口が急増したことでレンガが不足気味になってしまったのだ。早速、工房の手配をしよう。今ならば、工房の建設は然程難しいことではないだろう。次いで、ライルが話し始めた。

 「オレから言えるのは、自警団の装備の一新が必要だな。今使っているのは、短剣と簡単な防具のみだ。村長さんが想定している戦争のようなことだったら、長剣や弓、鎧が必要となってくるな。馬もどこかで調達する必要があるな。できれば、魔の森から馬のような魔獣を従えるのが理想だが。後は、物見櫓の設置と等間隔に鐘を設置したほうがいいな。敵が現れても対応を少しでも早くすることが出来る。あとは、調査隊を結成するべきだろう。オレ達の持っている情報は少なすぎる。この数年でも随分と様子が変わっているだろう。そのなんとか教団の動向を探るためにも調査隊を派遣すべきだ」

 さすがはライルだ。実務的な判断だ。調査隊は是非にも結成しておきたいと思っていたところだ。フィルカウス教団だけではなく、新規住民の勧誘や農作物の種、技術の取得など様々なことをすることが出来る。最近は、この村だけでは限界を感じ始めていたので、村を今以上に発展させるためには外から様々なものを取得していくしかない。ルドからも意見が出てきた。

 「調査隊を結成するなら、私の部下だった者を使ってくれないだろうか。彼らは戦争も経験して、場数を多く踏んでいる。周辺の地理感もこの村では多いほうだろう。それに、なによりも彼らがそれを望むだろう。彼らはこの村に助けられたと思っている。その恩を少しでも返したいと感じているだろう。頼む」

 そう言って、ルドが僕に頭を下げてくる。ライルの方を見ると頷いていたので、ルドの意見は受け入れてもいいだろう。

 「ただ、条件を付けさせてもらうが……」
しおりを挟む
感想 38

あなたにおすすめの小説

家族で突然異世界転移!?パパは家族を守るのに必死です。

3匹の子猫
ファンタジー
社智也とその家族はある日気がつけば家ごと見知らぬ場所に転移されていた。 そこは俺の持ちうる知識からおそらく異世界だ!確かに若い頃は異世界転移や転生を願ったことはあったけど、それは守るべき家族を持った今ではない!! こんな世界でまだ幼い子供たちを守りながら生き残るのは酷だろ…だが、俺は家族を必ず守り抜いてみせる!! 感想やご意見楽しみにしております! 尚、作中の登場人物、国名はあくまでもフィクションです。実在する国とは一切関係ありません。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク 普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。 だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。 洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。 ------ この子のおかげで作家デビューできました ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

処理中です...