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第87話 錬金工房

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 スタシャが錬金工房に引き篭もってから、しばらく経った頃、僕は錬金工房に様子を見に行くことにした。今回は、マグ姉が同行することになった。道中で、僕達は手を繋いでいるのが習慣になっており、村人も微笑ましく見ていた。今後の栽培の予定などを話しながら、成人式に日程を決めていった。マグ姉がほとんど決めていたので、本当に微調整程度で済んだ。

 そんな話をしながら、錬金工房に到着した。表には二人のホムンクルスらしい女性が、屋敷周りの片付けや庭造りを休み無く続けていた。スタシャは、あれから何体のホムンクルスを作ったんだ? あれからアダマンタイトの催促がなかったから、自前……というか大量に持ち去ったインゴットで作ったんだろう。

 僕達の姿を見て、ホムンクルスは見事なお辞儀をして挨拶をしてきた。僕はビックリしたが、挨拶をし返すと、ホムンクルスは作業を再開した。二人共、前に見たホムンクルスと外見がそっくりだ。違いといえば、髪の長さくらいか? 一人は肩くらいで、もう一人はショートだ。どうみても、人間にしか見えないな。マグ姉に僕がこの二人がホムンクルスであることを説明すると、僕以上に驚いていた。

 屋敷に入ると、ホムンクルスが僕達を出迎えてくれた。今度は、長い髪をポニーテールにしていた。質の良さそうなテーブルと椅子がある部屋に案内され、僕達はその椅子に座ると、紅茶が差し出された。香りもよく、とても上等な茶葉であると感じた。マグ姉の舌も認める程だったから、いいものなのだろう。しばらく、スタシャは現れなかったので、待つことになった。

 ちょうど、紅茶を飲み終える頃、スタシャがアルビノを伴って、部屋に入ってきた。マグ姉は立ち上がり、少し身構えたが、スタシャが気にする様子もなく、椅子に座ったので、マグ姉も続けて座った。

 「今日は何のようなのだ? ロッシュに言われたものは、倉庫に置いてあるので後で確認すると良い。もう一つの方は、まだ始められていないからもう少し待ってくれ」

 「ほう早いな。もう完成品が出来上がったのか。後で確認させてもらおう。その前に、ホムンクルスを何体作ったのだ? 表に二人、玄関に一人、ここに一人で全部で四人なのか?」

 「五人だ。今は、資材を調達してもらうために森に入っている。そのうち戻るだろうが。もう、アダマンタイトも空っぽだ。また貰いにいるからよろしく頼むぞ」

 スタシャのアダマンタイトの消費が激しすぎる。貴重だと言っていたが、以前は潤沢に使えた身分だったのだろうか?

 「なんだ? 文句でもあるのか? あるだけ使ってしまうのは……性だな。こればかりはどうしようもない。でもな、これでも利口に使っているつもりだ。ホムンクルスは、前にも言ったが不眠不休で働いてくれるから、錬金術の仕事が捗るのだぞ。それに、私も空いた時間に研究も出来るし、いい事づくしではないか。ロッシュが、前に言っていたからこれ以上は増やさない努力をするが」

 妙なところで自信を持たれても困るが……とにかく、スタシャには最小限の素材だけを渡すようにしよう。スタシャに村中の資源を奪われかねないからな。すると、マグ姉が話に加わってきた。

 「私、話が全然わからないんだけど。ロッシュが頼んだものってなんなの?」

 僕がスタシャに頼んだものは、どうしても必要なものだ。それは、鋼と染料だ。鍛冶工房が出来て、農具や包丁などの料理用具などの製造が出来るようになったのだが、どうしても鉄の品質が良くない。というより、僕の魔法でつくる金属はどうしても不純物が全く含まれない。そのため、柔らかすぎ、道具の性能が低すぎるのだ。そのためにも、鋼を作る必要があったのだが、この村の施設では難しく、魔法でも困難だった。そこで、錬金術に目をつけたのだ。性質の変化や素材の合成などが得意な錬金術では、鋼を作るのにうってつけなのだ。

 鋼は、純鉄に炭素を加えることで出来る。おそらく、完成品が出来ているのはこっちの方だろう。鋼の完成は、農業の効率をかなり上げることが出来るだろう。もう一つの染料は、衣類用だ。村産の綿が出来てから、衣類は村で作ることが出来るようになっていたが、染料を作ることが出来なかった。もちろん、草を煮詰めたりすれば、色を抽出できるだろうが、量産が難しく、色にムラがありすぎて、満足の行く衣類を作ることが出来なかった。そのため、錬金術で素材から色の抽出を依頼したのだ。

 「今、素材集めをしているのは、その染料を抽出するためのものだ。そういえば、最近、宝石集めをしたそうではないか。宝石からも染料を抽出できるから、クズで構わないから持ってきてくれ」

 「よく知っていたな。宝石ならたくさんあるから、今度屋敷に来てくれ。必要なものは持っていくと良い。宝石といえば、面白いものを拾って加工したものがあるんだ。マグ姉、スタシャに見せてやってくれ」

 僕がそう言うと、マグ姉は頷いて、嬉しそうな表情をして左手をスタシャが見える位置に差し出した。スタシャは最初は関心がなさそうな顔をしていたが、マグ姉の左手の薬指に七色の輝く宝石を見て、次第に顔色が変わっていった。スタシャの顔が吸い込まれるように、マグ姉の指輪に近づき、くっつきそうな勢いで見つめていた。

 「こ、これは……まさか。マーガレットよ。なんてものを身に着けているんだ。これは、アウーディア石ではないか!! 貴様、やってはならぬことをしてしまったな。王家の秘宝を盗んだな」

 スタシャが今にもマグ姉に攻撃をしそうなほど激怒していた。僕は、この指輪について、説明した。採掘していて偶々見つけたこと、これを身に着けているのはマグ姉以外にもいること、全部で十二個あることを順々に話していくと、スタシャの怒りは醒めていき、逆に興奮しだした。

 「まさか、発掘できる石だとは信じられぬ。しかし、現物がここにある以上、ロッシュの言っていることは間違っていないのだろう。そうか……その石を私に譲ってくれないか? 悪いようには使わない。この石はすごい可能性を持っていると思う。私もこの石について、調べられるだけ調べたことがある。最古の文献を調べてわかったことは……」

 話が長くなったので、要約すると、スタシャが言うには、アウーディア石には土地を豊かにする力が宿っている可能性があるというものだった。アウーディア王国が建国される前は、土地が枯れ果て、死の大地だったという。初代王がアウーディア石をなんらかの方法を使い、豊穣な土地に生まれ変わらせたらしい。アウーディア王国はそれ以降、豊穣な土地に支えられて繁栄し続けた。文献では、初代王が手にしていた石はこぶし大サイズであったが、最近見た時は小石程度のサイズだった。

 いろいろと分からないことがあるし、可能性の話が多すぎるので、信憑性という点ではかなり低いといえる。しかし、豊穣な土地に生まれ変わる可能性を秘めている物が手元にあり、その力を引き出すことが出来るかもしれない人物が側にいるのなら、試してみたくなって仕方がないだろう。

 僕は、スタシャにアウーディア石を融通することにした。この事が後にどういう影響が出るかは、僕には分からなかった。知的好奇心を大いに刺激したアウーディア石を手にしたスタシャは、しばらく屋敷から出てくることはなかった。どうやら、研究に没頭してしまったようだ。その間も、アルビノ達が鋼の製造を進めてくれたおかげで、農具の殆どが鋼製となった。スタシャがいなくとも、支障はないようなので、僕はスタシャの好きなようにやらせた。

 後日、染料も完成したと言うので、僕が見に行くと、素晴らしいものが出来上がっていた。これで、素敵な水着が作れそうだな。
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