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王都トリスタニア

第52話 壁

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フェリシラ様私室。

「大丈夫ですか?」

フェリシラ様の手にそっと、手を重ねた。

こんなことを自然に出来てしまう自分に驚きだ。

「ええ。ねぇ、ライル。今回のことをどう思う?」

第二王子が領民を襲う……。

目的はフェリシラ様だったとしても、軽率な行動が目立つ。

ましてや第二王子と言う地位があるんだ。

もっと慎重に行動すると思う……。

なんとなく、ベイドの顔がちらつく。

こんなバカなことをするのはアイツくらいだよな?

「一つ、聞いてもいいですか? 第二王子ってバカですか?」

元婚約者をバカ呼ばわりするのはどうかと思うが……。

「私の知る限り……決して、そのような風には見えませんでした。学業も優秀でしたし……」

ふむ……やはり、おかしいよな。

「ライル? どうかなさいましたか?」

……僕は言葉を紡ぐのを躊躇した。

この動きで一番特をしているのは誰だろう?

そう思ったら、一人しか思いつかなかった。

だけど、分からない点もある。

第二王子が捕まったことが秘密になっているということ。

もし、第二王子への復讐を果たすために何かしらの方法を使って、この状態を作り上げたのなら……。

すぐに喧伝するはず……。

静かすぎるんだよなぁ……。

「いえ、僕はついでという形なんですけど……王国コンテストに参加することになってしまって……」
「なんですって!?」

声でかっ!!

フェリシラ様がこんなに声をあげるなんて、初めてだ。

「フェリシラ様?」
「申し訳ありませんでした。急に参加すると言われて、驚いてしまって……」

そうだよな。

予定よりも一年早いんだ。

まだまだ実力が足りないのは、フェリシラ様もよく知っている。

無謀……と思っているのかも知れない。

「でも、困りましたわね。武具は出来そうですか?」

……。

僕は答えに窮した。

あの鉄がなければ、今の技術では……。

「分かりません。抗ってみるつもりですが……」
「そう、ですか。私にも何か、お手伝いが出来ることがあれば良いのですが……」

そう言ってくれるだけで元気がもらえる。

「ありがとうございます」

それだけを言って、僕は部屋を離れた。

数日間……。

僕は必死に腕を磨いた。

だが、それも無駄に終わった。

「やっぱり……上達しない」
「お兄ちゃん……」

アリーシャにも無理を言って、徹夜で手伝ってもらった。

「ごめんな」
「ううん」

今、出来る最高の剣……これでコンテストに挑まなければならない。

でも……こんなのでは……入賞は無理だ。

それにベイドにも……勝てない。

くそっ!!

僕は鍛冶道具を投げようと思ったが、必死にこらえた。

そして、涙だけが流れた……

「お兄ちゃん……」

……。

ついに王都への出発の日となってしまった。

「やあ、ライル君。準備はいいかな?」

……。

二台の馬車が連なっている。

おそらく、もう一台には第二王子がいるのだろう。

だが、僕にはどうでもいいことだ。

「はい……」

準備なんて、何も出来ていない。

この二年間、僕は絶えず、武具を作り続けた。

だが、一つも成長はしなかった。

『研磨』スキルがなければ、本当に鍛冶師としての才能はなかった。

父上の判断は正しかったのかも知れない……。

肩を落とし、馬車に乗り込んだ。

「ライル、おはようございます」

「フェリシラ様」

相変わらず、キレイな人だ。

僕にはとてもまぶしく見える。

僕がベイドに負けたら……そう思うと、直視すら出来ない。

「ライル?」
「すみません。コンテストの事で頭が一杯で」

うそだ。

だけど、フェリシラ様と会話するのがこんなにつらいなんて……。

「ライル君」

つぎはデルバート様か。

放っておいて欲しいのに……。

第二王子と一緒でもいいから、別の馬車にするべきだったか?

「なんでしょうか?」

「コンテストに向け、緊張するのは無理からぬことだ。それは責めはせぬ」

……ん?

「だが、妹に対してのその態度は気に食わぬな」

そんな事を言われても……。

僕はただの庶民だ。

そもそも、この場に一緒にいる事自体、恐れ多いことだ。

「すみません。でしたら、この馬車を降りましょうか?」
「ふむ……どうやら、君は見ぬ敵に恐れを抱いてしまっているようだな」

恐れ?

違う。

僕の未熟さに嫌気が差しているだけだ。

「私も戦場を何度か経験したことがある。斥候として……」

あまり聞きたくないな……。

「私は敵に囲まれ、絶体絶命になったのだ!!」

……続きが気になるな。

「それで、どうなったんですか?」
「ああ、私の部下に助けられたよ」

……そうですか。

もっと派手な話かと思った。

なんで、こんな話になったんだ?

「私はこれを教訓に学んだ。部下を信じよ、と。部下は私にとっては手や足に等しい。だからこそ、必要なのだ。信じることが」

信じる……か。

だけど、僕には部下と呼べる人はいない。

「そして、それは己にある力もまた信じるべきなのだ」

……ん?

僕にある力?

信じるって……どうやって。

「君にはまだまだ、可能性がある。こんなところで腐ってもらっては困る。よいな?」

デルバート様は励ましてくれていたのか?

自分の可能性……。

自分の力……。

そうだよな。

「あの、王都にある工房を借りることって出来ますか?」
「無論だ。すでに準備はしてある」

デルバート様ぁぁぁぁ!

「さあ、今こそ、私をお兄ちゃんと!」
「おに……イヤです」

言い掛けてしまった……。

でもそうだ。

ここで諦めるなんて……。

なにか、あるはずなんだ。

鉄……。

何かが、頭に引っかかるよな。
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