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王都トリスタニア

第51話 コンテスト出場を決意する

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公爵家屋敷、執務室。

「やあ、ライル君。元気がないようだね」

僕は剣が盗まれたことに未だに立ち直れていなかった。

それにフェリシラ様とはグレンコットから戻って以来、姿を見ていない。

大丈夫なんだろうか?

「大丈夫です。それで御用とは?」

落ち込んでいる所、執事が当主様からの呼び出しを伝えにやってきたのだ。

さすがに行く気分にはなれなかったが、執事の強烈な圧力に屈してしまった。

「ふむ。まずは君の耳に一つ、入れておきたい情報がある」

珍しいな。

僕に情報を与えるだなんて……。

なんだかんだ、デルバート様は秘密主義だ。

小さい情報でも周りに隠す……そんな印象だったんだけど。

「なんでしょう?」
「実はね、フェリシラが姿を表さないのには理由があるんだよ」

それは聞き捨てならない。

僕は一歩、近づいた。

「おっと、そんなに怖い顔をしてないでくれよ。大丈夫だ。フェリシラは元気だし、どこも悪いところはないんだ」

良かった……。

だったら……。

「これはね、公にはされていない事なんだが……」

信じられない。

そんなことが現実にありえるのか?

「レイモンド第二王子様が?」
「うむ。おそらく狙いはフェリシラだったのだろう。だが、幸いなことに、ここを離れていた」

そうか。

そんな大事がグレンコットにいた間に起きていただなんて。

「だが、領民に被害が出た。それに私の部下もだ。大層、酷いことをされたみたいでな」

話にしか聞いたことがないが……

なんて、下劣なやつなんだ!

しかも、自分から婚約破棄をしておいて、今更……。

きっと、フェリシラ様の話をどこかで聞いたのかもしれない。

それとも……

「何かね? その疑いのある目は」
「まさか、フェリシラ様が美しくなったことを王都で吹聴などはしていないでしょうね?」

それが原因だったら、公爵と言えども許せない。

フェリシラ様を危険に晒そうとする輩が全員……。

「おいおい。私がそんな事を言うと思ったのかね? それを吹聴するメリットが私にはないではないか」

本当にそうなのかな?

この人の考えていることは全く分からない。

「まぁ、君の妹思いは実に嫉妬してしまうね。だが、断じて私が原因ではない! 私が妹を危険にさせると思うか?」

それは思わない。

それだけは絶対にしないと断言できる。

やっぱり、この人ではないのか……。

「まぁ、いいではないか。その第二王子も捕まった。フェリシラが危険になることはもうないのだ」

それもそうだが……。

しかし、第二王子が捕まったなんて……大事じゃないか!!

本来はそっちに話が行くべきだ。

「やっと、本題に移れそうだね。私は彼を連れて、王都に行くつもりだ」

これは王都が荒れるな……。

まぁ、僕には関係のないことだけど。

これ以上、話を聞いているのは危険な感じしかしない。

……どうして、腕を掴むんだ?

「おっと、ここから先の話はライル君にも重要な話なんだよ」

どうして?

第二王子が公爵領で悪さを働いた。

それを糾弾するために行くんだろ?

僕の出る幕はないと思うんだけど。

「君には近々開かれる、王国コンテストに出場してもらうよ」

……は?

「あの、一年後では?」

約束の日から2年。

あと1年は猶予があるはず。

「ふむ。実はね、先日、メレデルク工房に立ち寄ったんだ」

メレデルク!!

なんて、羨ましい。

「もっと、詳しく……特に今、何を作っているのか……いや、工房長の愛用の道具は? えっと……何でもいいので、教えて下さい!!」」

「君の熱量は凄まじいね。お兄さんに興味はないのかね?」

兄?

そんなのいたっけ?

「それよりも、メレデルクさんの話を……」
「彼は相当実力を上げているよ」

……バカな。

ベイドが?

あの、ベイドが?

バカで、短慮で……何事もやる気のないベイドが?

「どうして……?」
「さあね。彼の中で、何かが変わったのかも知れない。そうなると、婚約の件も見直さなければならないな」

そんな……。

そんなことをされると……。

「困る、かね? だが、君にも話したが、私はウォーカー家が欲しい。鍛冶師としての実力が申し分なければ、私はベイド君でも構わないんだよ」

僕は自惚れていた。

もう、ベイドには話はないと思いこんでいた。

デルバート様は僕を推してくれている……そんな勘違いをいつからしていたんだろう。

「も、もしかして、ベイドも次の王国コンテストに?」
「察しがいいね。その通りだよ。そこで入賞をすれば、彼が後継者になるのは間違いない。そうしたら……」

フェリシラ様とベイドが……。

それだけは絶対に阻止しなければ!

「分かりました。僕もコンテストに参加します!!」
「それは良かった。まぁ、君が出れば、もしかして優勝もあり得るかも知れないね」

何を言って……。

「見せてもらったではないか。君の最新作は実に見事だった。あれほどの剣を君の若さで成し遂げた者なんて、いないと思うけどね」

「ですが、盗まれてしまって……」
「だったら、もう一度作ればいいのでは? 君なら出来るさ」

無理だ。

あれは錬金術の鉄があったからこそ出来たんだ。

「それは……」

だが、それは言えない。

フェリシラ様の言葉が頭に過る。

「お兄様には内緒に」

デルバート様の真意が分からない以上は僕の能力については言わないほうがいいだろう。

「なにかな?」
「いいえ、何でもありません」
「ふむ。では、出発までは時間はない。その間にコンテストの準備を済ませておくんだよ」

部屋を出る、僕の足取りは重かった。

コンテストに参加?

それも時間がほとんどない。

今の実力ではとても、あの剣を作るのは不可能だ。

鉄……どうしてもあの鉄が必要だ。

でも、どうやって手に入れる?

もう一度、グレンコットに行くか?

だが、その時間すらもない。

「ライル?」

そこに立っていたのは……

「フェリシラ様!」

いつものように美しい彼女だった。

悩んでも仕方がない……僕は必ず、ベイドよりいい作品を作るんだ!!
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