60 / 69
王都トリスタニア
第51話 コンテスト出場を決意する
しおりを挟む
公爵家屋敷、執務室。
「やあ、ライル君。元気がないようだね」
僕は剣が盗まれたことに未だに立ち直れていなかった。
それにフェリシラ様とはグレンコットから戻って以来、姿を見ていない。
大丈夫なんだろうか?
「大丈夫です。それで御用とは?」
落ち込んでいる所、執事が当主様からの呼び出しを伝えにやってきたのだ。
さすがに行く気分にはなれなかったが、執事の強烈な圧力に屈してしまった。
「ふむ。まずは君の耳に一つ、入れておきたい情報がある」
珍しいな。
僕に情報を与えるだなんて……。
なんだかんだ、デルバート様は秘密主義だ。
小さい情報でも周りに隠す……そんな印象だったんだけど。
「なんでしょう?」
「実はね、フェリシラが姿を表さないのには理由があるんだよ」
それは聞き捨てならない。
僕は一歩、近づいた。
「おっと、そんなに怖い顔をしてないでくれよ。大丈夫だ。フェリシラは元気だし、どこも悪いところはないんだ」
良かった……。
だったら……。
「これはね、公にはされていない事なんだが……」
信じられない。
そんなことが現実にありえるのか?
「レイモンド第二王子様が?」
「うむ。おそらく狙いはフェリシラだったのだろう。だが、幸いなことに、ここを離れていた」
そうか。
そんな大事がグレンコットにいた間に起きていただなんて。
「だが、領民に被害が出た。それに私の部下もだ。大層、酷いことをされたみたいでな」
話にしか聞いたことがないが……
なんて、下劣なやつなんだ!
しかも、自分から婚約破棄をしておいて、今更……。
きっと、フェリシラ様の話をどこかで聞いたのかもしれない。
それとも……
「何かね? その疑いのある目は」
「まさか、フェリシラ様が美しくなったことを王都で吹聴などはしていないでしょうね?」
それが原因だったら、公爵と言えども許せない。
フェリシラ様を危険に晒そうとする輩が全員……。
「おいおい。私がそんな事を言うと思ったのかね? それを吹聴するメリットが私にはないではないか」
本当にそうなのかな?
この人の考えていることは全く分からない。
「まぁ、君の妹思いは実に嫉妬してしまうね。だが、断じて私が原因ではない! 私が妹を危険にさせると思うか?」
それは思わない。
それだけは絶対にしないと断言できる。
やっぱり、この人ではないのか……。
「まぁ、いいではないか。その第二王子も捕まった。フェリシラが危険になることはもうないのだ」
それもそうだが……。
しかし、第二王子が捕まったなんて……大事じゃないか!!
本来はそっちに話が行くべきだ。
「やっと、本題に移れそうだね。私は彼を連れて、王都に行くつもりだ」
これは王都が荒れるな……。
まぁ、僕には関係のないことだけど。
これ以上、話を聞いているのは危険な感じしかしない。
……どうして、腕を掴むんだ?
「おっと、ここから先の話はライル君にも重要な話なんだよ」
どうして?
第二王子が公爵領で悪さを働いた。
それを糾弾するために行くんだろ?
僕の出る幕はないと思うんだけど。
「君には近々開かれる、王国コンテストに出場してもらうよ」
……は?
「あの、一年後では?」
約束の日から2年。
あと1年は猶予があるはず。
「ふむ。実はね、先日、メレデルク工房に立ち寄ったんだ」
メレデルク!!
なんて、羨ましい。
「もっと、詳しく……特に今、何を作っているのか……いや、工房長の愛用の道具は? えっと……何でもいいので、教えて下さい!!」」
「君の熱量は凄まじいね。お兄さんに興味はないのかね?」
兄?
そんなのいたっけ?
「それよりも、メレデルクさんの話を……」
「彼は相当実力を上げているよ」
……バカな。
ベイドが?
あの、ベイドが?
バカで、短慮で……何事もやる気のないベイドが?
「どうして……?」
「さあね。彼の中で、何かが変わったのかも知れない。そうなると、婚約の件も見直さなければならないな」
そんな……。
そんなことをされると……。
「困る、かね? だが、君にも話したが、私はウォーカー家が欲しい。鍛冶師としての実力が申し分なければ、私はベイド君でも構わないんだよ」
僕は自惚れていた。
もう、ベイドには話はないと思いこんでいた。
デルバート様は僕を推してくれている……そんな勘違いをいつからしていたんだろう。
「も、もしかして、ベイドも次の王国コンテストに?」
「察しがいいね。その通りだよ。そこで入賞をすれば、彼が後継者になるのは間違いない。そうしたら……」
フェリシラ様とベイドが……。
それだけは絶対に阻止しなければ!
「分かりました。僕もコンテストに参加します!!」
「それは良かった。まぁ、君が出れば、もしかして優勝もあり得るかも知れないね」
何を言って……。
「見せてもらったではないか。君の最新作は実に見事だった。あれほどの剣を君の若さで成し遂げた者なんて、いないと思うけどね」
「ですが、盗まれてしまって……」
「だったら、もう一度作ればいいのでは? 君なら出来るさ」
無理だ。
あれは錬金術の鉄があったからこそ出来たんだ。
「それは……」
だが、それは言えない。
フェリシラ様の言葉が頭に過る。
「お兄様には内緒に」
デルバート様の真意が分からない以上は僕の能力については言わないほうがいいだろう。
「なにかな?」
「いいえ、何でもありません」
「ふむ。では、出発までは時間はない。その間にコンテストの準備を済ませておくんだよ」
部屋を出る、僕の足取りは重かった。
コンテストに参加?
それも時間がほとんどない。
今の実力ではとても、あの剣を作るのは不可能だ。
鉄……どうしてもあの鉄が必要だ。
でも、どうやって手に入れる?
もう一度、グレンコットに行くか?
だが、その時間すらもない。
「ライル?」
そこに立っていたのは……
「フェリシラ様!」
いつものように美しい彼女だった。
悩んでも仕方がない……僕は必ず、ベイドよりいい作品を作るんだ!!
「やあ、ライル君。元気がないようだね」
僕は剣が盗まれたことに未だに立ち直れていなかった。
それにフェリシラ様とはグレンコットから戻って以来、姿を見ていない。
大丈夫なんだろうか?
「大丈夫です。それで御用とは?」
落ち込んでいる所、執事が当主様からの呼び出しを伝えにやってきたのだ。
さすがに行く気分にはなれなかったが、執事の強烈な圧力に屈してしまった。
「ふむ。まずは君の耳に一つ、入れておきたい情報がある」
珍しいな。
僕に情報を与えるだなんて……。
なんだかんだ、デルバート様は秘密主義だ。
小さい情報でも周りに隠す……そんな印象だったんだけど。
「なんでしょう?」
「実はね、フェリシラが姿を表さないのには理由があるんだよ」
それは聞き捨てならない。
僕は一歩、近づいた。
「おっと、そんなに怖い顔をしてないでくれよ。大丈夫だ。フェリシラは元気だし、どこも悪いところはないんだ」
良かった……。
だったら……。
「これはね、公にはされていない事なんだが……」
信じられない。
そんなことが現実にありえるのか?
「レイモンド第二王子様が?」
「うむ。おそらく狙いはフェリシラだったのだろう。だが、幸いなことに、ここを離れていた」
そうか。
そんな大事がグレンコットにいた間に起きていただなんて。
「だが、領民に被害が出た。それに私の部下もだ。大層、酷いことをされたみたいでな」
話にしか聞いたことがないが……
なんて、下劣なやつなんだ!
しかも、自分から婚約破棄をしておいて、今更……。
きっと、フェリシラ様の話をどこかで聞いたのかもしれない。
それとも……
「何かね? その疑いのある目は」
「まさか、フェリシラ様が美しくなったことを王都で吹聴などはしていないでしょうね?」
それが原因だったら、公爵と言えども許せない。
フェリシラ様を危険に晒そうとする輩が全員……。
「おいおい。私がそんな事を言うと思ったのかね? それを吹聴するメリットが私にはないではないか」
本当にそうなのかな?
この人の考えていることは全く分からない。
「まぁ、君の妹思いは実に嫉妬してしまうね。だが、断じて私が原因ではない! 私が妹を危険にさせると思うか?」
それは思わない。
それだけは絶対にしないと断言できる。
やっぱり、この人ではないのか……。
「まぁ、いいではないか。その第二王子も捕まった。フェリシラが危険になることはもうないのだ」
それもそうだが……。
しかし、第二王子が捕まったなんて……大事じゃないか!!
本来はそっちに話が行くべきだ。
「やっと、本題に移れそうだね。私は彼を連れて、王都に行くつもりだ」
これは王都が荒れるな……。
まぁ、僕には関係のないことだけど。
これ以上、話を聞いているのは危険な感じしかしない。
……どうして、腕を掴むんだ?
「おっと、ここから先の話はライル君にも重要な話なんだよ」
どうして?
第二王子が公爵領で悪さを働いた。
それを糾弾するために行くんだろ?
僕の出る幕はないと思うんだけど。
「君には近々開かれる、王国コンテストに出場してもらうよ」
……は?
「あの、一年後では?」
約束の日から2年。
あと1年は猶予があるはず。
「ふむ。実はね、先日、メレデルク工房に立ち寄ったんだ」
メレデルク!!
なんて、羨ましい。
「もっと、詳しく……特に今、何を作っているのか……いや、工房長の愛用の道具は? えっと……何でもいいので、教えて下さい!!」」
「君の熱量は凄まじいね。お兄さんに興味はないのかね?」
兄?
そんなのいたっけ?
「それよりも、メレデルクさんの話を……」
「彼は相当実力を上げているよ」
……バカな。
ベイドが?
あの、ベイドが?
バカで、短慮で……何事もやる気のないベイドが?
「どうして……?」
「さあね。彼の中で、何かが変わったのかも知れない。そうなると、婚約の件も見直さなければならないな」
そんな……。
そんなことをされると……。
「困る、かね? だが、君にも話したが、私はウォーカー家が欲しい。鍛冶師としての実力が申し分なければ、私はベイド君でも構わないんだよ」
僕は自惚れていた。
もう、ベイドには話はないと思いこんでいた。
デルバート様は僕を推してくれている……そんな勘違いをいつからしていたんだろう。
「も、もしかして、ベイドも次の王国コンテストに?」
「察しがいいね。その通りだよ。そこで入賞をすれば、彼が後継者になるのは間違いない。そうしたら……」
フェリシラ様とベイドが……。
それだけは絶対に阻止しなければ!
「分かりました。僕もコンテストに参加します!!」
「それは良かった。まぁ、君が出れば、もしかして優勝もあり得るかも知れないね」
何を言って……。
「見せてもらったではないか。君の最新作は実に見事だった。あれほどの剣を君の若さで成し遂げた者なんて、いないと思うけどね」
「ですが、盗まれてしまって……」
「だったら、もう一度作ればいいのでは? 君なら出来るさ」
無理だ。
あれは錬金術の鉄があったからこそ出来たんだ。
「それは……」
だが、それは言えない。
フェリシラ様の言葉が頭に過る。
「お兄様には内緒に」
デルバート様の真意が分からない以上は僕の能力については言わないほうがいいだろう。
「なにかな?」
「いいえ、何でもありません」
「ふむ。では、出発までは時間はない。その間にコンテストの準備を済ませておくんだよ」
部屋を出る、僕の足取りは重かった。
コンテストに参加?
それも時間がほとんどない。
今の実力ではとても、あの剣を作るのは不可能だ。
鉄……どうしてもあの鉄が必要だ。
でも、どうやって手に入れる?
もう一度、グレンコットに行くか?
だが、その時間すらもない。
「ライル?」
そこに立っていたのは……
「フェリシラ様!」
いつものように美しい彼女だった。
悩んでも仕方がない……僕は必ず、ベイドよりいい作品を作るんだ!!
0
お気に入りに追加
1,541
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
「おっさんはいらない」とパーティーを追放された魔導師は若返り、最強の大賢者となる~今更戻ってこいと言われてももう遅い~
平山和人
ファンタジー
かつては伝説の魔法使いと謳われたアークは中年となり、衰えた存在になった。
ある日、所属していたパーティーのリーダーから「老いさらばえたおっさんは必要ない」とパーティーを追い出される。
身も心も疲弊したアークは、辺境の地と拠点を移し、自給自足のスローライフを送っていた。
そんなある日、森の中で呪いをかけられた瀕死のフェニックスを発見し、これを助ける。
フェニックスはお礼に、アークを若返らせてくれるのだった。若返ったおかげで、全盛期以上の力を手に入れたアークは、史上最強の大賢者となる。
一方アークを追放したパーティーはアークを失ったことで、没落の道を辿ることになる。
僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜
犬社護
ファンタジー
5歳の誕生日、アキトは不思議な夢を見た。舞台は日本、自分は小学生6年生の子供、様々なシーンが走馬灯のように進んでいき、突然の交通事故で終幕となり、そこでの経験と知識の一部を引き継いだまま目を覚ます。それが前世の記憶で、自分が異世界へと転生していることに気付かないまま日常生活を送るある日、父親の職場見学のため、街中にある遺跡へと出かけ、そこで出会った貴族の幼女と話し合っている時に誘拐されてしまい、大ピンチ! 目隠しされ不安の中でどうしようかと思案していると、小さなもふもふ精霊-白虎が救いの手を差し伸べて、アキトの秘めたる力が解放される。
この小さき白虎との出会いにより、アキトの運命が思わぬ方向へと動き出す。
これは、アキトと訳ありモフモフたちの起こす品質開拓物語。
器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜
白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。
光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。
目を開いてみればそこは異世界だった!
魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。
あれ?武器作りって楽しいんじゃない?
武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。
なろうでも掲載中です。
「武器屋があるからお前など必要ない」と追放された鍛冶師は伝説の武器を作り、無双する~今更俺の武器が必要だと土下座したところでもう遅い~
平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属する鍛冶師のアークはパーティーに貢献してないという理由で追放される。
アークは王都を出て、自由に生きることを決意する。その道中、アークは自分の真の力に目覚め、伝説級の武器を作り出す鍛冶師として世界中に名を轟かせる。
一方、アークを追い出した【黄金の獅子王】のメンバーは、後になって知ることになる。アークが自分たちの武器をメンテしていたことでSランクになったのだと、アークを失った【黄金の獅子王】は没落の道を歩むことになり、アークが関わった人たちは皆、彼の作る伝説の武器で、幸せになっていくのだった。
俺だけステータスが見える件~ゴミスキル【開く】持ちの俺はダンジョンに捨てられたが、【開く】はステータスオープンできるチートスキルでした~
平山和人
ファンタジー
平凡な高校生の新城直人はクラスメイトたちと異世界へ召喚されてしまう。
異世界より召喚された者は神からスキルを授かるが、直人のスキルは『物を開け閉めする』だけのゴミスキルだと判明し、ダンジョンに廃棄されることになった。
途方にくれる直人は偶然、このゴミスキルの真の力に気づく。それは自分や他者のステータスを数値化して表示できるというものだった。
しかもそれだけでなくステータスを再分配することで無限に強くなることが可能で、更にはスキルまで再分配できる能力だと判明する。
その力を使い、ダンジョンから脱出した直人は、自分をバカにした連中を徹底的に蹂躙していくのであった。
神様との賭けに勝ったので異世界で無双したいと思います。
猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。
突然足元に魔法陣が現れる。
そして、気付けば神様が異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。
もっとスキルが欲しいと欲をかいた悠斗は神様に賭けをしないかと提案した。
神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―――
※チートな主人公が異世界無双する話です。小説家になろう、ノベルバの方にも投稿しています。
とある辺境伯家の長男 ~剣と魔法の異世界に転生した努力したことがない男の奮闘記 「ちょっ、うちの家族が優秀すぎるんだが」~
海堂金太郎
ファンタジー
現代社会日本にとある男がいた。
その男は優秀ではあったものの向上心がなく、刺激を求めていた。
そんな時、人生最初にして最大の刺激が訪れる。
居眠り暴走トラックという名の刺激が……。
意識を取り戻した男は自分がとある辺境伯の長男アルテュールとして生を受けていることに気が付く。
俗に言う異世界転生である。
何不自由ない生活の中、アルテュールは思った。
「あれ?俺の家族優秀すぎじゃね……?」と……。
―――地球とは異なる世界の超大陸テラに存在する国の一つ、アルトアイゼン王国。
その最前線、ヴァンティエール辺境伯家に生まれたアルテュールは前世にしなかった努力をして異世界を逞しく生きてゆく――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる