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番外編・高成バースデー記念SS・『真END』
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○3○ ○
「ねぇ大丈夫……? 具合が悪いんじゃないよね……?」
ようやく彼を見つけたのは、駅の裏の人気のない公園だった。汚れたベンチにうなだれて座っていて、俺が声をかけると弾かれたように顔を上げた。
「正真くん……っ!?」
信じられないというように、俺を見つめる目は真っ赤だ。
「遅くなってごめん。帰るところだった? でも何時でもいいって言ってたし、まだ間に合うかな……?」
おそるおそる聞くと、高成さんはすがりつくように俺の腕を掴んだ。
「私はてっきり、あなたを要一くんにとられたかと思って……」
本当は、高成さんは待ち合わせ場所にやってきた俺に気づいていた。俺が声をかけるまで我慢して待っていたら、葵川くんが現れて俺を連れて行ったので、てっきり迎えに来た要一と帰ってしまったと思ったらしい。
「あの人はたまたま会っただけの友達。……要一は、俺が塾にいると思って家で待ってるはずだよ……」
俺が葵川くんと別れて駅前に再び戻ると、高成さんの姿は消えていた。きっと諦めて帰ったんだろう。これで良かったと思ったのに、体は勝手に高成さんを探して走り出していた。
高成さんを見つけたとき、まだ俺を待ってくれていたことに心から安堵した。
「正真くん……愛しています」
高成さんが輝く美しい瞳で俺を見つめる。抱き寄せられるまま、彼の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
せっかく彼を好きな気持ちが消えてくれそうだったのに。何ヵ月もかけた努力がたった5分で元に戻ってしまった。
これでまた彼に振り回される。要一に知られれば心底幻滅されて、もう二度と信頼を取り戻せないだろう。
涙が溢れてきた俺を、高成さんは優しく撫でて慰める。
「心配しないで。今度こそ私は産まれ変わります。あなたを必ず幸せにします」
そんな誓いは全然信じられない。またすぐ感情的になって俺を裏切るに決まってる。でも……。
「俺も高成さんが一番好き……」
公園は静かで他に誰もいない。でももしかしたら、誰かがこちらを見ているかもしれない。
それなのに俺は目を閉じて、高成さんと長いキスを交わした。
高成さんが笑っている。
「正真くん、口のまわりにケチャップが付いてますよ……」
「うそっ!? それならそうと早く言ってよ!! やだな、急いで食べたから……」
慌てて顔をこする。高成さんがハンカチを貸してくれた。
「そうですか。じゃあ食事はまた次にしましょう……」
タクシーを呼んでくると高成さんが俺の隣から立ち上がった。
「顔が見れて良かった。もう十分ですから正真くんは塾に戻ってください。私はマンションに帰ります」
これ以上あなたの時間を取るのはいけませんよね。分かってます! 胸を張って言う。
しかし肝心の俺の方はもうそんな気分じゃなかった。クラクラするほど、胸が脈打っていていて勉強なんか手につきそうもない。
「…………今日はもういいや。ねえ、これから高成さんのマンションに行こうよ。だって、今日は高成さんの誕生日なんでしょ……」
「良いんですか!?」
俺が差し出した手を、高成さんは悩むそぶりもなく即座に取った。頬を火照らせて嬉しそうに笑いかけてくる。ちょっと眼差しが熱すぎ。
「あのさ……まずはケーキを買いにいこ!」
高成さんの背中を押して公園をでた。夏の日差しの中、ひさしぶり並んで歩く。
この先の未来が、どうか少しでも平穏でありますように。
End.
葵川くんは番外編「迷子の小鳥」からの再登場です。
「ねぇ大丈夫……? 具合が悪いんじゃないよね……?」
ようやく彼を見つけたのは、駅の裏の人気のない公園だった。汚れたベンチにうなだれて座っていて、俺が声をかけると弾かれたように顔を上げた。
「正真くん……っ!?」
信じられないというように、俺を見つめる目は真っ赤だ。
「遅くなってごめん。帰るところだった? でも何時でもいいって言ってたし、まだ間に合うかな……?」
おそるおそる聞くと、高成さんはすがりつくように俺の腕を掴んだ。
「私はてっきり、あなたを要一くんにとられたかと思って……」
本当は、高成さんは待ち合わせ場所にやってきた俺に気づいていた。俺が声をかけるまで我慢して待っていたら、葵川くんが現れて俺を連れて行ったので、てっきり迎えに来た要一と帰ってしまったと思ったらしい。
「あの人はたまたま会っただけの友達。……要一は、俺が塾にいると思って家で待ってるはずだよ……」
俺が葵川くんと別れて駅前に再び戻ると、高成さんの姿は消えていた。きっと諦めて帰ったんだろう。これで良かったと思ったのに、体は勝手に高成さんを探して走り出していた。
高成さんを見つけたとき、まだ俺を待ってくれていたことに心から安堵した。
「正真くん……愛しています」
高成さんが輝く美しい瞳で俺を見つめる。抱き寄せられるまま、彼の香りを胸いっぱいに吸い込んだ。
せっかく彼を好きな気持ちが消えてくれそうだったのに。何ヵ月もかけた努力がたった5分で元に戻ってしまった。
これでまた彼に振り回される。要一に知られれば心底幻滅されて、もう二度と信頼を取り戻せないだろう。
涙が溢れてきた俺を、高成さんは優しく撫でて慰める。
「心配しないで。今度こそ私は産まれ変わります。あなたを必ず幸せにします」
そんな誓いは全然信じられない。またすぐ感情的になって俺を裏切るに決まってる。でも……。
「俺も高成さんが一番好き……」
公園は静かで他に誰もいない。でももしかしたら、誰かがこちらを見ているかもしれない。
それなのに俺は目を閉じて、高成さんと長いキスを交わした。
高成さんが笑っている。
「正真くん、口のまわりにケチャップが付いてますよ……」
「うそっ!? それならそうと早く言ってよ!! やだな、急いで食べたから……」
慌てて顔をこする。高成さんがハンカチを貸してくれた。
「そうですか。じゃあ食事はまた次にしましょう……」
タクシーを呼んでくると高成さんが俺の隣から立ち上がった。
「顔が見れて良かった。もう十分ですから正真くんは塾に戻ってください。私はマンションに帰ります」
これ以上あなたの時間を取るのはいけませんよね。分かってます! 胸を張って言う。
しかし肝心の俺の方はもうそんな気分じゃなかった。クラクラするほど、胸が脈打っていていて勉強なんか手につきそうもない。
「…………今日はもういいや。ねえ、これから高成さんのマンションに行こうよ。だって、今日は高成さんの誕生日なんでしょ……」
「良いんですか!?」
俺が差し出した手を、高成さんは悩むそぶりもなく即座に取った。頬を火照らせて嬉しそうに笑いかけてくる。ちょっと眼差しが熱すぎ。
「あのさ……まずはケーキを買いにいこ!」
高成さんの背中を押して公園をでた。夏の日差しの中、ひさしぶり並んで歩く。
この先の未来が、どうか少しでも平穏でありますように。
End.
葵川くんは番外編「迷子の小鳥」からの再登場です。
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