ひみつは指で潰してしまえ

nuka

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番外編・高成バースデー記念SS・『真END』

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○1○プロローグ○


 俺は受験生で、夏休みはとても忙しい。会えないと言ってるのに、電話の向こうの高成さんは諦めなかった。一方的に8月5日の待ち合わせを告げられる。高成さんの誕生日に以前よく行ったレストランでいっしょに食事をしたいそうだ。


「どうか会ってください。いくらなんでも寂しくて、耐えられません」


 何度断っても必死にせがんでくる。


 もうずっと会っていなかった。春に高成さんを好きになった人が俺に嫌がらせをして以来、俺の環境が大きく変わり、高成さんとはときどき電話するだけになった。


「悪いんだけど、どう考えても無理だよ。塾もあるし、今は叔父さんの家で暮らしているから、ちょっと出かけるにもどこに行くとか誰と一緒とかいちいち要一にチェックされてるんだ。少なくとも受験が終わるまでは俺に自由はないの」


「そこをどうにかして来て欲しいんです。来てくれるって信じて、たとえ何時まででも私はずっと待ってますから」


「そんなのやめてよ! いい? 俺は絶対に行かないよ!!」


 断言して俺は電話を切った。4月の俺の誕生日も同じように誘われて、俺は行かなかった。高成さんは何もなかったかのように振る舞っていたけど、待ちぼうけを食らってきっと懲りただろうと思ったのに。


 本当のところを言うと、絶対に無理というわけでもない。


 勉強は少し遅れてしまうけど、朝いつもどおり塾に向かってその後早退すれば、家にいる要一に気づかれずに会いに行ける。


 でも俺はそうしない。このまま高成さんとはずっと会わないつもりだ。


 文芸誌の編集者として働いている高成さんは類いまれな美貌を利用して、作家に取り入って原稿を得ている。そんな色仕掛けが上手くいくはずもなく気をもたせた相手と2度もトラブルを起こし、2度目は俺と、俺の叔父さんの病院まで巻き込んだ。


 あのときの恐怖はまだ忘れられない。叔父さんに俺が同性と付き合っていることを知られるかもしれないと思うと、何日も眠れなかった。もう二度とあんな思いをしたくない。


 このまま会わずにいれば、この関係は消えてなくなるだろう。高成さんはもともと、俺が高成さんを優先しないことに不満を漏らしていた。いまや受験勉強を理由に会いもしなくなった俺なんて、きっと愛想をつかすはずだ。


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