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少年の覚悟が決まる日に
幸せになるために
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「……」
「ミノル? おいどうしたんだよ」
「はぇ……」
「ミノル、おいって! 目ぇ覚ましな。紅茶溢れちまってんぞ」
「へ……? あ、ぁっ……!! やばいっ……!!」
ラフィールの声で意識を取り戻したボクは、慌ててティーポットを戻し、紅茶を注ぐ手を止める。
しかし時すでに遅し。ティーカップに入り切らなかった紅茶は、大理石のテーブルを伝って床へと滴っていた。
「ご、ごめんっ……! ボーっとしててっ……!」
「やれやれ、これじゃあ淹れ直しだな。まあとりあえず拭いちまおうぜ、床は俺がやってやるからよ」
「ありがとうっ……。うう、ごめん。またやっちゃった……」
そうしてラフィールと共に、タオルを手にとって溢れた紅茶を拭いていく。同時に思い出すのは、ここ最近積み重ねてしまっているミスの数々。
またやらかしてしまった、これで何度目のミスになるんだろう。この前はラフィールの胸にコーヒーをぶち撒けちゃったし、階段で転んでティーカップを割っちゃうし……。散々だ……。
「殆ど零しちゃった……。すぐに紅茶淹れ直すから、もうちょっとだけ待っててっ」
「それは別にいいけどよ。ていうかどうしたんだ、最近ずっとそんなんだぞ? 声かけてもどこか上の空だし……何かあったのか?」
「い、いや……。何かあったというか……。こ、これからある予定というか……」
「ん……?? 予定……??」
言葉足らずなあまり、ラフィールは首を傾げてボクを見つめる。その視線に耐えきれず、ボクは明後日の方向を見つめて何とか誤魔化そうとした。
「まーた有耶無耶にしようとする。悪い癖だぞそれ」
「うぐっ……」
「大抵そういう反応する時ってのは、俺達関連の話になるんだよな。また何か悩んでんだろオメー」
「うう……。そ、そんなに分かりやすいかな、ボクって……」
「バレバレだ。むしろバレてないと思ってる方がビックリだぜ。……いいから言ってみろよ、ほら」
やがて紅茶を拭き終えたボクは、汚れたタオルを洗濯籠に置く。そして手を洗い、新しい紅茶の葉を手に取った辺りで、ふとラフィールの方をチラリと。
しかし口を開こうとしては、その度に閉じてを何度も繰り返してしまい。結局ただ口元をモゴモゴさせているだけの時間だけが過ぎていく。
その理由は明白だった。ボクの頭の中を支配していたのは、この前マサトに言われた同棲の話。それを打ち明けるべきか、隠し通すべきかで悩んでいたから……?
――いや、違う。隠したいから言えないんじゃない。恥ずかしいから言えないんだ。
だってマサトは言っていた、『ラフィールが一緒でもいい』って。だけどそれはマサトが、ボクとラフィールの三人で住みたいっていうわけじゃなく。もしボクが望むなら、それでもいい……っていう意味。
そういう意味で言えば、ボクの答えは決まっていた。だけどそれを口に出すのが、あまりに恥ずかしくて。辛くて、胸が締め付けられるような感覚に襲われちゃって。思わず口を閉じてしまうんだ。
「……ま、マサトに。同棲しないかって言われた……」
「同棲?」
「――えっ……あっ! い、いやっ……ちがっ……! いや、これはそのっ……ちがっ……!」
だけどある瞬間、気が付けばボクの口からその言葉が漏れてしまっていた。いわゆる口走ってしまったというやつで、焦ったボクは何とか訂正しようと必死になる。
勘違いさせてしまう。今の言い方じゃ正しくない、ボクの気持ちはちゃんと伝わらない。……こ、こうなればもう勢いだ。このまま言わないと、変に間違った意図で伝わっちゃうっ……。
「だから、そのっ……。ま、マサトが将来、社会勉強のために一人暮らしするかもって言ってて……。よかったらその時に、一緒に住むのはどうかな……って言われたんだ……」
「ああ~。そういえば前に、なんかそういう事も言ってたな。家を出るか迷ってるとか何とか」
「うん……。――そ、それで。ラフィールと一緒でも問題ないって言ってて。だから、あの。何もその、ボクは……。えっと、その……だ、だから……」
「……だから?」
「だ、だからっ……! ……うっ。だから、そのっ……。――ひゃっ!」
そうしてボクの口が、再びモゴモゴしてしまいそうになると。ラフィールが突然、背中からそっと……ボクを抱きしめた。
両腕で軽くボクを閉じ込め、ボクの肩に顎を置き。頬と頬をくっつけること……数十秒。
何かするのか、しないのか。その曖昧な一時が、どうしてもこそばゆくて……。逃げるようにボクが口を開こうとした、――その時だった。
「俺を一人にするつもりかよ?」
「ッ~~……!」
耳元で囁かれた、ラフィールのその言葉。ラフィールの声が耳に届いた瞬間、耳全体に……ゾクゾクっ……とした甘い静電気が響き渡り。やがてそれはボクの体全体へと伝わって、思わずボクは生唾を飲み込む。
「ん……んん……。だ、だからっ……! 一人にするなんて言ってないじゃんかっ……! ボクはその、ただっ……! た、ただっ……!」
「ククク……冗談だよ。焦るなって」
「くっ……! も、もうっ……。その言葉が冗談じゃないことくらい、ボクにはわかってるんだからね!? ていうかいつもさ、ボクが悩んでる度にボクの心を弄ぶの止めてくれない!? いちいち心が持たないんだよ、もうっ……!」
「わかったわかった。悪かったって、ちゃんと聴くよ。……聴かせてくれよ、な?」
「むすっ……! っとに、いつもラフィールはさっ……。そうやってボクを、いつも……!」
ボクはわざとらしく頬を膨らませ、「怒っているんだぞ!」ということをアピール。
だけどその裏側で、ボクは心の準備を整えようとしていた。ほんの少しの、些細な勇気を出すための、準備期間……。
大丈夫、ちょっと言葉にするだけ。前々から思ってたことを打ち明けるだけ。……なにもプロポーズをするわけじゃない、ただ思ってることを口にすればいいだけだから……。
「――だから、その。ら、ラフィールが嫌じゃなかったら。ボクは、三人で一緒に住みたいっ……。その方が絶対に楽しいしっ、そのっ。安心出来るしっ……。なんていうか、い、一番納得出来るから……」
「納得か。つまり、ミノルがそうしたいんだな?」
「そ、そうだよっ……! そんな、なんか改めて言わないでっ……これでも必死に頑張ってるんだからっ……」
「ああ、わかってる。じゃ決まりだな」
「第一ラフィールは、こういう時っていつも……! ……え、決まり??」
その素っ頓狂というか、あまりにサッパリとした返事を聴いたボクは、思わず振り返ってラフィールと目を合わせた。
「俺はミノルを幸せにしたい。一緒に住むことでそれが叶うなら、願ったり叶ったりさ。住もうぜ、一緒に」
「えっ……。で、でもっ。そんなアッサリ決めて……」
「あっさり決めていいんだよ。何も世界が滅ぶわけじゃなしに。……ていうか、迷う理由ないだろ。オメーとひとつ屋根の下に暮らせるんだぞ?」
「……そ、それは……そうだけど」
「じゃあ決まりだ。まあすぐにとは行かないだろうが、住む場所くらい目ぇつけとこうぜ」
ラフィールはそう言うと、テーブル上の雑誌を手に取りパラパラとめくった。やがてその手を止めたと思うと、開かれていたのは……『住みたい街特集』のページ。
各地の街並みが載っているそのページを、ラフィールは楽しそうに眺めていた。無表情で、何も考えて無さそうな顔だけど……ボクにはわかる。これは、ラフィールが楽しんでいる時の顔だ。……眉が浮いてるし、口元が横に広がってるし……。
「……もう。し、仕方ないなぁっ。ちょっとボクにも見せてよ、そのぺー……じっ……?」
そうしてボクの中にあった緊張の糸は、ゆらりと解けるように溶けていった。それこそ肩から力が抜け、思わず笑みが溢れてしまうくらいに。
だからかもしれない。ラフィールに近寄ろうとしたその瞬間、ふとボクの頭がボーっと熱くなったかと思うと、足がふらふらと波打ち……思わず倒れそうになったボクは、トンッとラフィールに受け止められた。
「っと。……おい、ミノル。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。ごめん、ちょっと頭が……」
疲れでも出たのだろうか。なんか、急に頭が熱くなってきた。体も熱いし、汗も……。
「……悪い。ちょっと近づくぞ」
「え……? あ……」
するとラフィールは、ボクの前髪を持ち上げて……オデコとオデコをくっつけた。
それはもはや、キスを何度でも出来そうな距離感で……。必然的にボクの体は、更に熱く、火照っていく。
……かっこいい。ラフィールって、こんなにかっこよかったっけ。なんか頭がボーっとしてる分、うまく冷静に見えないような……。
「……風邪か。やっぱり無茶してたんだな、ミノル」
「え、風邪……? い、いや。別にそんなことは……」
「悪かったな、気づいてやれなくて。……大丈夫か、頭痛や吐き気は?」
「だ、大丈夫。ちょっと頭が熱いだけだから……」
「そうか。とりあえず医務室に運ぶぞ、いいか?」
「うん……。で、でも運ぶってどうやっ……あっ……」
――それは、産まれて初めての……お姫様だっこ。有無を言わせず抱きかかえられたボクは、状況を理解する余裕も、困惑することも出来ず。気が付けばただ、ボクは胸元から眺めるラフィールの顔に……見惚れていた。
風邪のせいだろうか。いつもだったら恥ずかし過ぎて、こんな状況耐えられそうにないけど。ボーっと頭が火照っている分、なぜか今は……この状況が心地いい。
ずっと抱かれていたい。このまま、ラフィールの体に……。暖かくて、力強くて、柔らかい。――気が付けばボクはそれに甘えるように、体を小さくして……ラフィールの体に埋もれていた。
「ミノル? おいどうしたんだよ」
「はぇ……」
「ミノル、おいって! 目ぇ覚ましな。紅茶溢れちまってんぞ」
「へ……? あ、ぁっ……!! やばいっ……!!」
ラフィールの声で意識を取り戻したボクは、慌ててティーポットを戻し、紅茶を注ぐ手を止める。
しかし時すでに遅し。ティーカップに入り切らなかった紅茶は、大理石のテーブルを伝って床へと滴っていた。
「ご、ごめんっ……! ボーっとしててっ……!」
「やれやれ、これじゃあ淹れ直しだな。まあとりあえず拭いちまおうぜ、床は俺がやってやるからよ」
「ありがとうっ……。うう、ごめん。またやっちゃった……」
そうしてラフィールと共に、タオルを手にとって溢れた紅茶を拭いていく。同時に思い出すのは、ここ最近積み重ねてしまっているミスの数々。
またやらかしてしまった、これで何度目のミスになるんだろう。この前はラフィールの胸にコーヒーをぶち撒けちゃったし、階段で転んでティーカップを割っちゃうし……。散々だ……。
「殆ど零しちゃった……。すぐに紅茶淹れ直すから、もうちょっとだけ待っててっ」
「それは別にいいけどよ。ていうかどうしたんだ、最近ずっとそんなんだぞ? 声かけてもどこか上の空だし……何かあったのか?」
「い、いや……。何かあったというか……。こ、これからある予定というか……」
「ん……?? 予定……??」
言葉足らずなあまり、ラフィールは首を傾げてボクを見つめる。その視線に耐えきれず、ボクは明後日の方向を見つめて何とか誤魔化そうとした。
「まーた有耶無耶にしようとする。悪い癖だぞそれ」
「うぐっ……」
「大抵そういう反応する時ってのは、俺達関連の話になるんだよな。また何か悩んでんだろオメー」
「うう……。そ、そんなに分かりやすいかな、ボクって……」
「バレバレだ。むしろバレてないと思ってる方がビックリだぜ。……いいから言ってみろよ、ほら」
やがて紅茶を拭き終えたボクは、汚れたタオルを洗濯籠に置く。そして手を洗い、新しい紅茶の葉を手に取った辺りで、ふとラフィールの方をチラリと。
しかし口を開こうとしては、その度に閉じてを何度も繰り返してしまい。結局ただ口元をモゴモゴさせているだけの時間だけが過ぎていく。
その理由は明白だった。ボクの頭の中を支配していたのは、この前マサトに言われた同棲の話。それを打ち明けるべきか、隠し通すべきかで悩んでいたから……?
――いや、違う。隠したいから言えないんじゃない。恥ずかしいから言えないんだ。
だってマサトは言っていた、『ラフィールが一緒でもいい』って。だけどそれはマサトが、ボクとラフィールの三人で住みたいっていうわけじゃなく。もしボクが望むなら、それでもいい……っていう意味。
そういう意味で言えば、ボクの答えは決まっていた。だけどそれを口に出すのが、あまりに恥ずかしくて。辛くて、胸が締め付けられるような感覚に襲われちゃって。思わず口を閉じてしまうんだ。
「……ま、マサトに。同棲しないかって言われた……」
「同棲?」
「――えっ……あっ! い、いやっ……ちがっ……! いや、これはそのっ……ちがっ……!」
だけどある瞬間、気が付けばボクの口からその言葉が漏れてしまっていた。いわゆる口走ってしまったというやつで、焦ったボクは何とか訂正しようと必死になる。
勘違いさせてしまう。今の言い方じゃ正しくない、ボクの気持ちはちゃんと伝わらない。……こ、こうなればもう勢いだ。このまま言わないと、変に間違った意図で伝わっちゃうっ……。
「だから、そのっ……。ま、マサトが将来、社会勉強のために一人暮らしするかもって言ってて……。よかったらその時に、一緒に住むのはどうかな……って言われたんだ……」
「ああ~。そういえば前に、なんかそういう事も言ってたな。家を出るか迷ってるとか何とか」
「うん……。――そ、それで。ラフィールと一緒でも問題ないって言ってて。だから、あの。何もその、ボクは……。えっと、その……だ、だから……」
「……だから?」
「だ、だからっ……! ……うっ。だから、そのっ……。――ひゃっ!」
そうしてボクの口が、再びモゴモゴしてしまいそうになると。ラフィールが突然、背中からそっと……ボクを抱きしめた。
両腕で軽くボクを閉じ込め、ボクの肩に顎を置き。頬と頬をくっつけること……数十秒。
何かするのか、しないのか。その曖昧な一時が、どうしてもこそばゆくて……。逃げるようにボクが口を開こうとした、――その時だった。
「俺を一人にするつもりかよ?」
「ッ~~……!」
耳元で囁かれた、ラフィールのその言葉。ラフィールの声が耳に届いた瞬間、耳全体に……ゾクゾクっ……とした甘い静電気が響き渡り。やがてそれはボクの体全体へと伝わって、思わずボクは生唾を飲み込む。
「ん……んん……。だ、だからっ……! 一人にするなんて言ってないじゃんかっ……! ボクはその、ただっ……! た、ただっ……!」
「ククク……冗談だよ。焦るなって」
「くっ……! も、もうっ……。その言葉が冗談じゃないことくらい、ボクにはわかってるんだからね!? ていうかいつもさ、ボクが悩んでる度にボクの心を弄ぶの止めてくれない!? いちいち心が持たないんだよ、もうっ……!」
「わかったわかった。悪かったって、ちゃんと聴くよ。……聴かせてくれよ、な?」
「むすっ……! っとに、いつもラフィールはさっ……。そうやってボクを、いつも……!」
ボクはわざとらしく頬を膨らませ、「怒っているんだぞ!」ということをアピール。
だけどその裏側で、ボクは心の準備を整えようとしていた。ほんの少しの、些細な勇気を出すための、準備期間……。
大丈夫、ちょっと言葉にするだけ。前々から思ってたことを打ち明けるだけ。……なにもプロポーズをするわけじゃない、ただ思ってることを口にすればいいだけだから……。
「――だから、その。ら、ラフィールが嫌じゃなかったら。ボクは、三人で一緒に住みたいっ……。その方が絶対に楽しいしっ、そのっ。安心出来るしっ……。なんていうか、い、一番納得出来るから……」
「納得か。つまり、ミノルがそうしたいんだな?」
「そ、そうだよっ……! そんな、なんか改めて言わないでっ……これでも必死に頑張ってるんだからっ……」
「ああ、わかってる。じゃ決まりだな」
「第一ラフィールは、こういう時っていつも……! ……え、決まり??」
その素っ頓狂というか、あまりにサッパリとした返事を聴いたボクは、思わず振り返ってラフィールと目を合わせた。
「俺はミノルを幸せにしたい。一緒に住むことでそれが叶うなら、願ったり叶ったりさ。住もうぜ、一緒に」
「えっ……。で、でもっ。そんなアッサリ決めて……」
「あっさり決めていいんだよ。何も世界が滅ぶわけじゃなしに。……ていうか、迷う理由ないだろ。オメーとひとつ屋根の下に暮らせるんだぞ?」
「……そ、それは……そうだけど」
「じゃあ決まりだ。まあすぐにとは行かないだろうが、住む場所くらい目ぇつけとこうぜ」
ラフィールはそう言うと、テーブル上の雑誌を手に取りパラパラとめくった。やがてその手を止めたと思うと、開かれていたのは……『住みたい街特集』のページ。
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「……もう。し、仕方ないなぁっ。ちょっとボクにも見せてよ、そのぺー……じっ……?」
そうしてボクの中にあった緊張の糸は、ゆらりと解けるように溶けていった。それこそ肩から力が抜け、思わず笑みが溢れてしまうくらいに。
だからかもしれない。ラフィールに近寄ろうとしたその瞬間、ふとボクの頭がボーっと熱くなったかと思うと、足がふらふらと波打ち……思わず倒れそうになったボクは、トンッとラフィールに受け止められた。
「っと。……おい、ミノル。大丈夫か?」
「う、うん。大丈夫。ごめん、ちょっと頭が……」
疲れでも出たのだろうか。なんか、急に頭が熱くなってきた。体も熱いし、汗も……。
「……悪い。ちょっと近づくぞ」
「え……? あ……」
するとラフィールは、ボクの前髪を持ち上げて……オデコとオデコをくっつけた。
それはもはや、キスを何度でも出来そうな距離感で……。必然的にボクの体は、更に熱く、火照っていく。
……かっこいい。ラフィールって、こんなにかっこよかったっけ。なんか頭がボーっとしてる分、うまく冷静に見えないような……。
「……風邪か。やっぱり無茶してたんだな、ミノル」
「え、風邪……? い、いや。別にそんなことは……」
「悪かったな、気づいてやれなくて。……大丈夫か、頭痛や吐き気は?」
「だ、大丈夫。ちょっと頭が熱いだけだから……」
「そうか。とりあえず医務室に運ぶぞ、いいか?」
「うん……。で、でも運ぶってどうやっ……あっ……」
――それは、産まれて初めての……お姫様だっこ。有無を言わせず抱きかかえられたボクは、状況を理解する余裕も、困惑することも出来ず。気が付けばただ、ボクは胸元から眺めるラフィールの顔に……見惚れていた。
風邪のせいだろうか。いつもだったら恥ずかし過ぎて、こんな状況耐えられそうにないけど。ボーっと頭が火照っている分、なぜか今は……この状況が心地いい。
ずっと抱かれていたい。このまま、ラフィールの体に……。暖かくて、力強くて、柔らかい。――気が付けばボクはそれに甘えるように、体を小さくして……ラフィールの体に埋もれていた。
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