鷹華の日記(公開版)

Yuzki

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3人目~高橋鷹也~

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 3.私の前世での夫にして現世での実兄、高橋鷹也(たかはしたかや)

「千夏ちゃん、こんばんは。そして陽花はおかえりー」
「鷹也さん、こんばんは」
「兄さん、ただいま」
 私の自宅前に到着したところで、丁度家の中から兄である鷹也が出てきました。
 私より十年早くこの地に生を受けた兄は、今や立派な社会人です。
 こんな夕方も遅い時間にアイロンがばっちり掛かったスーツを着ているのは珍しいことで、
「兄さん、これからお仕事ですか?」
「そうなんだよねー。泊まり込みになりそうな感じ。ちょっと案件に火が付いちゃったみたいで。っと、行ってくるよ」
 いってらっしゃい、と私と千夏の言葉を受けて、兄は去っていきました。
「鷹也さん、大変だねー。……それじゃ、陽花。私も行くね。また明日」
「うん、また明日ね」
 私は千夏と別れて、家に入ります。
 兄が不在となるのであれば、どうやら今夜はぐっすり眠れそうです。

……あの、夜がどうとかってくだりで、もしかしてちょっとえっちなこととか想像してませんか?

 違いますよ?
 今は、私と兄は血の繋がった兄妹です。その、どうにかなる訳なんてないじゃないですか。
 そういう倫理観はきちんと持ち合わせています。
 でも時々、兄が怖いって感じる時があるんですよね、お風呂上がりの私を見る目とか。
 あの真面目な兄に限って、間違いがあるとかそういうことはないと信じていますので問題はないのですが。

 それはともかく、前世とか夫とかいうキーワードが出てきてますが、そのあたりを少しだけ話しておきましょう。
 とはいえ、実は私には前世の記憶ってのは今のところないんですよね。
 今まで生きてきた十七年間の記憶が全てなんです。
 いや、そりゃもうちょっと若い時分には、私には前世があってその頃に相思相愛だった運命の恋人が居て、右腕が疼いて聖印が背中に……とかそういう設定を考えていた時期はありました。
 でも違うんです、それはもう卒業しました。
 とは言いつつ、では私が語ろうとしているのは何かと言えば、
「姉様、お帰りなさい。兄様が今夜はお仕事でお帰りにならないそうですので、あのなんだかよくわからない前世? のお話は聞かなくて済みますね? だいたい、何で兄様と姉様が夫婦なんでしょうか。そんなの、兄様が欲望に忠実で外堀埋めて姉様と一線超える際の言い訳に使おうとしてるだけでだいたいありえないです姉様が選ぶのは兄様ではなくてこの私でなければ、だというのに兄様は何て自分勝手な、それなら私は逆に来世の話をしましょうそれでいいと思いますが姉様どう思いますか?」
「あー、ごめん、聞いてなかった。なんだっけ、月華?」
 ごめん、全部聞こえてたけど、聞こえないフリさせて貰ってるよ、月華。我が妹よ。
 ……だって、面倒なんだもん。
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