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台風が来たので、今日で親友を終わります。その1

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 告白されてしまった。
 誰かに好きだと想いを伝えられたのは人生で初めてのことだ。
 ……ごめんなさい、見栄張って嘘吐きました。
 本当は初めてじゃなくって、バレンタインデーに幼馴染からチョコレート貰って告白されるっていうイベントがあるにはあった。
 その時に貰ったチョコレートは、すぐに透子と二人でわけて食べて美味しかったところまでがセットの思い出だ。
 だがそれは幼稚園の頃で、そんなのは愛の告白でもなんでもないオママゴトみたいなものだったと思うから、ノーカンでお願いしたい。
 ともかく、告白されたという事実が、甘酸っぱい記憶となって私の心と身体を包んで満たしてくれて、知らず頬が緩んでしまう。
 だって、あんなに真っ直ぐに好意を向けられて、嫌だと思う人がいるのだろうか。
 ……ああごめん。相手にも寄るって、そう言いたい人もいるでしょう? うん、それはその通りだと思う。
 でも、これは違うんだ。
――好きです。
 私に想いを告げてくれたその相手の言葉が蘇る。
 その人は、全然まったく少しも知らない人って訳ではなくて。むしろとってもよく知っている人で。
――物心付いた時から、ずっと。
 そうなのだ。小さな子どもの頃からお互いを良く知っている人で。
 二人の関係をわかりやすい言葉で表すならば、幼馴染。
――私と、付き合って下さい。
 だからこれは、幼馴染という関係から一歩を踏み出して。
 ただの幼馴染だった二人が、片方の勇気によってその関係を変える、そんな始まりの日の物語だ。
 それは、とってもとっても甘い恋。
 高校生たるもの恋愛しなければ! と思いはするし、幼馴染に事ある毎にそう語っていたのだけれども、でも。
 いざ、自分が当事者になると、躊躇ってしまうものである。
 特に、それが世間一般ではあまり認められないような恋愛の形であるのならば。

 私は、どうしたら良いのだろう。
 心の思うがままに、手を伸ばせば幸せになれるのだろうか?

***

 台風のおかげで学校の朝。
 幼馴染で親友でもある透子に呼び出されてファミレスに行き、そして愛の告白をされた私は今、
「うふふ。こうやって手を繋いで一緒に帰るなんて、何年ぶりかしら?」
 心の底から嬉しそうな透子の声。
 そんな彼女と私が向かっている先は、私の家である。
 彼女の左手が私の右手と、いわゆる恋人繋ぎ、というお互いの手を絡め合う形で結ばれている。
 手を繋いで来たのは透子だし、こういう繋ぎ方をしてきたのも透子だ。
「たしかこれって、その、身体のお付き合いを済ませた男女がする繋ぎ方だって、」
 そういう話を夏休み明けにクラスメイトの女の子に聞いたんだけども、もしかしてまさか、
「興味があるのかしら?」
 透子が意味ありげに笑って、
「無理強いをするつもりはないけれど、そうね。私は良いわよ?」
「わ、私は、そんな、あの、えっと」
 しどろもどろになってしまう。女の子同士でそういう話をするのは良いんだけれども、いやでも、こうして当事者? になるかもって思うとあのあの、
「うふふ。そんな恥ずかしがっちゃって。可愛いわね」
 うー、透子のばかー、と呟いて、私はそっぽを向く。
 だが、離れることは出来ないし、しない。私と透子の手は、しっかりと握られているのだから。
 ほとんど私の自爆みたいなものだったが、こういう遣り取りも嫌いじゃないなあ、と私は思うのだった。

 もうすぐ私の家が見えてくる。
 ファミレスから徒歩五分なのだから、どれほどのこともない。
 しかし、と私は透子の横顔を盗み見つつ、溜息。
 全く、告白成功からの相手の家にお泊りとか、どんだけ強気なんだよこの恋愛マスター様は。
 そんなことを考えはするけれども、別に嫌だとかそういうことはない。
 小さい頃からたまにお互いの家に泊まり合うようなことも多く、だから全然抵抗もない。
 ……ない、はずである。
 横顔を見ていると、透子の整った顔立ちが良く目立つ気がする。
 長いまつ毛にパッチリおめめ。鼻筋は高く、リップで艶めく唇は色っぽさすら感じられる。
「ん? なあに?」
 透子が私を見て、だから視線がぶつかった。
「――ッ! なんでもない!」
「あはは。また恥ずかしがっちゃって。頬を赤らめてるところとか、可愛くて大好きよ?」
 透子が恥ずかしげもなくそんなことを言ってくる。
 私は私で、そっぽを向いて顔を見られないように頑張る。
 頬が焼けるように熱くて、きっと顔中真っ赤だから、それを透子に見られたくない一心だった。
 乙女心である、たぶん。
「風、ちょっと強くなってきたわね」
 雲が、空を結構な速さで流れていく。
 火照る頬を撫でる風は心地よくすらあるが、
「あ、ちょっと降ってきた。急いで帰ろ!」
 透子の手を強く握りなおして、家路を急ぐ。

 走り出す、その直前。
 透子が笑みを深くして、そして強く強く握り返してくれた。
 その手の繋がりを感じながら、私達は駆けていく。
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