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初めてのオシゴト
第9話
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冒険者登録をする為には、にこやかに笑う受付嬢さんを攻略しなければならない。
受付嬢さんが僕の登録を渋っていた理由は、
「あはは。何ですかこの『気持ちは魔法使い』って。クロックって、こういうお茶目なところあるんだね?」
受付嬢さんが笑顔のまま、しかし無言で僕に突き返した登録用紙。
それを覗き込んだアネッタが、何が面白いのか、からからと笑っている。
受付嬢さんが目を細めて、
「クロックさんのこの職業欄についてのお話、途中でしたよね?」
はい、と僕は頷くことしか出来ない。
「いいですか? 職業欄にこんなこと書いてる新人が居て、誰がパーティを組みたいと思うんですか?」
「あ、私は組みたいです。びっくりするくらい強かったじゃないですか!」
ジロリ、と受付嬢さんがアネッタを睨む。ヒィッと小さな悲鳴を上げて、アネッタが縮こまる。
「それとこれとは、話が別です。さっきの一件を直接その目で見た人は、まあクロックさんへの評価はかなり高いことでしょう。でも、」
受付嬢さんが、そこで溜息を一つ。それから、
「冒険者っていうのは、信頼とか信用が大事な職業でもあります。だから、職業は正確に申請しましょう?」
「うーん、でも、僕は魔法使いになりたいってずっとずっと思っていて、」
受付嬢さが、更に目を細めて僕を見る。
「そうですか……。いえ、本来なら本人の意志を尊重するのがギルドの方針ですので駄目とは言えないんです。でも、私個人としては認められないので却下です」
それって暴論じゃないですか、と思いはすれども言葉には出来ない。有無を言わせぬ雰囲気の受付嬢さんの言葉は続く。
「これは、クロックさんの為でもあるんですよ? 実力はたしかにあるかもしれませんが、それでもあなたは冒険者としては新人でしかないんです。パーティを組まずにソロで冒険に出れば、死んでしまう確率はぐっと高まります」
それは、そうだろう。たった一人で、例えば迷宮に挑むなんてそんなことは、物語に出てくる英雄でもない限り、
「そんなこと、私には見過ごせません。ですので、ここではきちんと適切な職業を申告して登録して、それでどこかのパーティに加わって経験を積んでステップアップしていって欲しいのです」
ここまで聞けば、もう十分だ。受付嬢さんの思いは、仕事に対する真摯さは伝わる。だから、
「受付嬢さん……!」
感謝の言葉を告げようとして、けれども感極まって言葉に詰まってしまう僕に、受付嬢さんが柔らかな笑みを見せて、
「そうしてクロックさんが立派な冒険者となった暁には、私のことをお迎えに来て頂ければ幸いです」
えーっと?
「このッ! どさくさに紛れて何言ってんですかッ!?」
僕より先に、アネッタのツッコミが入った。
受付嬢さんが僕の登録を渋っていた理由は、
「あはは。何ですかこの『気持ちは魔法使い』って。クロックって、こういうお茶目なところあるんだね?」
受付嬢さんが笑顔のまま、しかし無言で僕に突き返した登録用紙。
それを覗き込んだアネッタが、何が面白いのか、からからと笑っている。
受付嬢さんが目を細めて、
「クロックさんのこの職業欄についてのお話、途中でしたよね?」
はい、と僕は頷くことしか出来ない。
「いいですか? 職業欄にこんなこと書いてる新人が居て、誰がパーティを組みたいと思うんですか?」
「あ、私は組みたいです。びっくりするくらい強かったじゃないですか!」
ジロリ、と受付嬢さんがアネッタを睨む。ヒィッと小さな悲鳴を上げて、アネッタが縮こまる。
「それとこれとは、話が別です。さっきの一件を直接その目で見た人は、まあクロックさんへの評価はかなり高いことでしょう。でも、」
受付嬢さんが、そこで溜息を一つ。それから、
「冒険者っていうのは、信頼とか信用が大事な職業でもあります。だから、職業は正確に申請しましょう?」
「うーん、でも、僕は魔法使いになりたいってずっとずっと思っていて、」
受付嬢さが、更に目を細めて僕を見る。
「そうですか……。いえ、本来なら本人の意志を尊重するのがギルドの方針ですので駄目とは言えないんです。でも、私個人としては認められないので却下です」
それって暴論じゃないですか、と思いはすれども言葉には出来ない。有無を言わせぬ雰囲気の受付嬢さんの言葉は続く。
「これは、クロックさんの為でもあるんですよ? 実力はたしかにあるかもしれませんが、それでもあなたは冒険者としては新人でしかないんです。パーティを組まずにソロで冒険に出れば、死んでしまう確率はぐっと高まります」
それは、そうだろう。たった一人で、例えば迷宮に挑むなんてそんなことは、物語に出てくる英雄でもない限り、
「そんなこと、私には見過ごせません。ですので、ここではきちんと適切な職業を申告して登録して、それでどこかのパーティに加わって経験を積んでステップアップしていって欲しいのです」
ここまで聞けば、もう十分だ。受付嬢さんの思いは、仕事に対する真摯さは伝わる。だから、
「受付嬢さん……!」
感謝の言葉を告げようとして、けれども感極まって言葉に詰まってしまう僕に、受付嬢さんが柔らかな笑みを見せて、
「そうしてクロックさんが立派な冒険者となった暁には、私のことをお迎えに来て頂ければ幸いです」
えーっと?
「このッ! どさくさに紛れて何言ってんですかッ!?」
僕より先に、アネッタのツッコミが入った。
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