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序
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人は、あの人のことを辻斬りと呼んだ。
でも、私だけはわかっている。
あの人は、辻斬りではない。
私を助けに来てくれたのだと。
あのとき、私は、斬られても良かったのだ。
そう、望んでいたのに・・・。
あの人はそうしなかった。
だから、私は、あの人のために生きる決心をした。
私が生きている限り、あの人は、私の中で生き続けるのだからーー。
◇ ◇ ◇
駕籠が不意に止まった。
そして、地面に降ろされる。
「澪さまをお守りせよ」
いつもそばについていてくれる侍女の綾の声がする。
「何事?」
小窓を開けた。
「開けてはなりませぬ」
目を吊り上げた綾が、ピシャリと閉めた。
澪は、不安で胸が押し潰されそうになる。
「曲者っ!」
「何やつじゃ!」
何かが来る。
怒号と悲鳴。
断末魔の叫び声。
聞きたくなくて、耳を塞いだ。
が、すぐに音がしなくなり、静かになった。
と思う間もなく、駕籠が乱暴に開けられ、目が眩むような光が差した。
男の手が、澪の腕を掴んだかと思うと、外に引き出される。
「篠田さま・・・」
なぜか、こうなることは、わかっていた気がする。
いいえ、そう望んでいたのは私だ。
待ち望んでいた男を見上げて、澪は思った。
ところが、男の胸に飛び込みたいと思ったのに、体が動かなかった。
篠田郁之介の右手には、血が滴る刀が握られており、着物も顔にも血を浴びている。
何よりも、その表情からは、死人のように何の感情も読み取れないのが怖かった。
足がすくむ。
「いいわ。私を殺して!」
澪は、そう言って、口付けを受けるように、顎を上向かせ、目をつぶった。
血の匂いが濃くなる。
郁之介の左腕が、澪を抱きしめた。
「さらば・・・」
耳元で囁く声は、優しく、澪を痺れさせた。
刀を握る右腕がゆっくりと動く。
だが、二人の世界は一瞬で、複数の足音と叫び声で掻き消された。
「篠田郁之介。お方さまから離れろ。おれが相手になってやる!」
郁之介の腕が、澪から離れた。
そして、声のした方へ駆け出して行った。
堀端の桜並木がさらさらと花びらを散らし、愛しい人の姿を隠した。
でも、私だけはわかっている。
あの人は、辻斬りではない。
私を助けに来てくれたのだと。
あのとき、私は、斬られても良かったのだ。
そう、望んでいたのに・・・。
あの人はそうしなかった。
だから、私は、あの人のために生きる決心をした。
私が生きている限り、あの人は、私の中で生き続けるのだからーー。
◇ ◇ ◇
駕籠が不意に止まった。
そして、地面に降ろされる。
「澪さまをお守りせよ」
いつもそばについていてくれる侍女の綾の声がする。
「何事?」
小窓を開けた。
「開けてはなりませぬ」
目を吊り上げた綾が、ピシャリと閉めた。
澪は、不安で胸が押し潰されそうになる。
「曲者っ!」
「何やつじゃ!」
何かが来る。
怒号と悲鳴。
断末魔の叫び声。
聞きたくなくて、耳を塞いだ。
が、すぐに音がしなくなり、静かになった。
と思う間もなく、駕籠が乱暴に開けられ、目が眩むような光が差した。
男の手が、澪の腕を掴んだかと思うと、外に引き出される。
「篠田さま・・・」
なぜか、こうなることは、わかっていた気がする。
いいえ、そう望んでいたのは私だ。
待ち望んでいた男を見上げて、澪は思った。
ところが、男の胸に飛び込みたいと思ったのに、体が動かなかった。
篠田郁之介の右手には、血が滴る刀が握られており、着物も顔にも血を浴びている。
何よりも、その表情からは、死人のように何の感情も読み取れないのが怖かった。
足がすくむ。
「いいわ。私を殺して!」
澪は、そう言って、口付けを受けるように、顎を上向かせ、目をつぶった。
血の匂いが濃くなる。
郁之介の左腕が、澪を抱きしめた。
「さらば・・・」
耳元で囁く声は、優しく、澪を痺れさせた。
刀を握る右腕がゆっくりと動く。
だが、二人の世界は一瞬で、複数の足音と叫び声で掻き消された。
「篠田郁之介。お方さまから離れろ。おれが相手になってやる!」
郁之介の腕が、澪から離れた。
そして、声のした方へ駆け出して行った。
堀端の桜並木がさらさらと花びらを散らし、愛しい人の姿を隠した。
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