織姫道場騒動記

鍛冶谷みの

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 織絵が解散を告げても、ほとんどの門弟たちが残っていた。

 みんなどうなるか見たいのだ。

 結城は大人しく座ったまま、稽古を見学していた。

 しばらく放っておかれても、そのままそこにいるということは、次に進む、ということだからだ。

 待てない者は、ここで文字通り放り出される。

「結城どの、お待たせいたしました。ご案内いたします」


 道場と母屋は別棟になっている。

 が、井戸は一つなので、母屋の様子もうかがうことができる。

 稽古が終わって汗を拭くために門弟たちが井戸端に集まる。
 今日は特に多い。
 そして静かだった。
 ヒソヒソと話しながら、風呂場から結城が出てくるのを待った。

 幸いなことに、外の風呂場にも近い。

 織絵と里絵は当然、母屋に入って汗を拭い、着替えている。

 いい匂いがしてきた。
 おたけさんが、夕餉を作っている。

「ええなあ。おたけさんの飯食いてえ」
 誰かが言う。

 おたけは住み込みで働いている。
 家事をしてくれていた老婆が亡くなってから、代わりに手伝いにきてくれている人だ。
 源兵衛とは、もう夫婦みたいなものだった。
 一度嫁していたが、子供ができず離縁されて実家に戻ってきていたところ、源兵衛の話を聞き、お手伝いしたいと申し出てくれたのだ。

 秋も深まってきて、日が落ちるのが早い。
 すでに、外にいる者は、影のようになり、お互いの顔もわからなくなってきていた。

「ちょっと、あなたたち、そこにいるんだったら結城どのをご案内して」

 織絵の声が母屋から聞こえた。

「あの、・・・そこまでしていただかなくとも・・・」

 結城の顔も定かに見えない。
「はいはい、どうぞどうぞ」
 まだ渋っている風呂上がりの結城の背中を押して、みんなが母屋までゾロゾロとついていく。

 そのままみんなで、農家の広い玄関に入っていった。
 道場破りなのに、遠慮しいの結城をつい応援したくなるのか、
「しっかりやれよ」
 と背中を叩く者もいる。
「はあ?」
 相変わらず、己のおかれている状況がさっぱり飲み込めていない結城だった。

 この、道場破りを試す一連の行為は、織絵の婿探しも兼ねていることを、みなは知っている。

 部屋から漏れてくる灯りが届き、結城の姿が浮かび上がった。

「着物まで貸していただき、かたじけのうござる」
 中にいる織絵、源兵衛に頭を下げたその姿は、ボロを纏っていたときとは一皮剥けて、颯爽とした若侍になっていた。

「おおっ・・・」
 門弟たちが驚きの声をあげている。

「まあ、上がれ」
 源兵衛の太い声がした。

「いや、しかし・・・そこまでしていただくいわれは・・・」
 膳が並べられ、料理のいい匂いがしてくる。

 ぐうるるるーー

 結城のお腹が、盛大に鳴った。
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