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5話 対決 龍と天女
三 二振り邂逅す(一)
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その時、下士が慌てた様子で土岐のそばに寄り、何かを告げた。
「なに、来ただと?」
土岐の目が一瞬鋭く新一郎を見たが、怪訝そうに細められた。
「女子とな?」
坂下に待つよう指示し、
「これへ通せ」
と、下士に命じた。
「何があったのです?」
坂下が問う。
「花ふぶきじゃ。花ふぶきが参った」
「なんと!」
「鳥居がよう出したものだな。さあ、どうしてくれよう」
考える表情になった。
「持ってきたのは女子だそうな」
「・・・」
「見ものだな」
新一郎も驚いていた。
ここに来てしまったら殺されてしまう。
程なく、案内の侍に連れられて、一人、細長い刀袋を胸に抱えた姫が歩いてきた。
まだあどけなさが残っている。
いつになく、豪華な振袖を着、静々と緊張した面持ちで歩いているのは、間違いなく波蕗だ。
「波蕗・・・」
驚きのあまり、つぶやいてしまった。
波蕗は、庭先にいる新一郎に気がつき、目を見開いて見た。
が、次の瞬間には、ほっとしたように、にっこりと頷いた。
「花ふぶきをお持ちいたしました」
土岐に向かって、しっかりと一礼した。
「立花波蕗と申します」
「立花?・・・すると、妹御かな」
「立花主計の娘にございます」
「なるほど」
土岐がにこやかに頷く。
「花ふぶきは、もはや立花家のものではないと聞いていたが?」
「はい。さようでございます。ですが、この日のために、お譲りいただきました」
「ほう。鳥居どのがのう・・・」
波蕗が、土岐に微笑した。
「ご覧になられますか? わたくしがご説明いたしまする」
「説明じゃと? そなたがか」
「はい。刀剣の知識は、父から教わっております。それに、この刀は、もともとわたくしのものです」
物怖じせずに言い放った。
土岐が苦笑している。
「面白い女子だのう」
「ありがとうございます」
刀袋から、花ふぶきを取り出した。
「お願いがございます」
「なんじゃな」
「相州伝の刀をこちらに・・・」
「相州伝とな?」
「この花ふぶきは、相州伝の隠れ刀です。にもかかわらず、出会ったことがございません。二振りを出合わせたいのです。最初で最後のわがままを、聞いていただけますでしょうか」
そう言って、頭を下げた。
「なに、来ただと?」
土岐の目が一瞬鋭く新一郎を見たが、怪訝そうに細められた。
「女子とな?」
坂下に待つよう指示し、
「これへ通せ」
と、下士に命じた。
「何があったのです?」
坂下が問う。
「花ふぶきじゃ。花ふぶきが参った」
「なんと!」
「鳥居がよう出したものだな。さあ、どうしてくれよう」
考える表情になった。
「持ってきたのは女子だそうな」
「・・・」
「見ものだな」
新一郎も驚いていた。
ここに来てしまったら殺されてしまう。
程なく、案内の侍に連れられて、一人、細長い刀袋を胸に抱えた姫が歩いてきた。
まだあどけなさが残っている。
いつになく、豪華な振袖を着、静々と緊張した面持ちで歩いているのは、間違いなく波蕗だ。
「波蕗・・・」
驚きのあまり、つぶやいてしまった。
波蕗は、庭先にいる新一郎に気がつき、目を見開いて見た。
が、次の瞬間には、ほっとしたように、にっこりと頷いた。
「花ふぶきをお持ちいたしました」
土岐に向かって、しっかりと一礼した。
「立花波蕗と申します」
「立花?・・・すると、妹御かな」
「立花主計の娘にございます」
「なるほど」
土岐がにこやかに頷く。
「花ふぶきは、もはや立花家のものではないと聞いていたが?」
「はい。さようでございます。ですが、この日のために、お譲りいただきました」
「ほう。鳥居どのがのう・・・」
波蕗が、土岐に微笑した。
「ご覧になられますか? わたくしがご説明いたしまする」
「説明じゃと? そなたがか」
「はい。刀剣の知識は、父から教わっております。それに、この刀は、もともとわたくしのものです」
物怖じせずに言い放った。
土岐が苦笑している。
「面白い女子だのう」
「ありがとうございます」
刀袋から、花ふぶきを取り出した。
「お願いがございます」
「なんじゃな」
「相州伝の刀をこちらに・・・」
「相州伝とな?」
「この花ふぶきは、相州伝の隠れ刀です。にもかかわらず、出会ったことがございません。二振りを出合わせたいのです。最初で最後のわがままを、聞いていただけますでしょうか」
そう言って、頭を下げた。
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