隠れ刀 花ふぶき

鍛冶谷みの

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3話 立花家の危機

四 晴れた霧(四)    

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 荘次郎が血相を変えて長屋に飛び込んできた。

 あれからまた数日が経っている。

「あ、ええと・・・」
 急いで来たわりに言い淀んだ。

 さちが新一郎の包帯を取り替えていた。
 穏やかに過ごせた日々のおかげで、順調に回復していた。
「さちさん、ありがとう。兄が世話になります」
「いいえ、荘次郎さん、遠慮しないで、どうぞ。もうお父つぁんも、お上とは切れているから大丈夫」
 奉行所の同心と繋がっていると、話しづらいだろうと思ったのか、さちが言い添えた。

「どうした?」
 新一郎が促すと、ようやく言った。

「立花家から使いが来たんだ」
「なんだって?・・・主計どのから?」
 蟄居になっていたはずだ。
「できるだけ早く来てほしいと。蔵の鍵を持って・・・」
 立花家の蔵の鍵を、荘次郎に預けてあった。
「今後の相談もしたいそうだ。どうする?・・・ばれちゃったのかな」
「行くしかないな」

 立花家を通せと高崎に言った。
 高崎が何か知らせてきたとも考えられるが、若年寄に主計の蟄居を解く力があるかどうか。
 でも、なんらかの動きがあったに違いない。

「波蕗はどうする」
「使いは、波蕗も一緒にと」
「じゃあ、洋三郎もだな」
「あいつ、どこに行ったんだ?」
「往診よ。しっかり働いてもらわないとね」
 さちが言った。
「・・・」
「なあに、その顔は。文句ある?」
 荘次郎がたじたじになって、手を振った。
「いやあ、さちさんは強いなあって・・・」
「それは褒めてる?」
「もちろん!じゃあ、先に行ってるよ。波蕗は喜ぶだろうし。鍵は兄上たちが来るまで渡さないから、安心して」
「ああ。罠の可能性もあるから、気をつけろ」
 誰を信じていいか、わからなくなっている。
 用心に越したことはない。


「立花家会議、二度目だね」
 ここに来るのは三度目だけど、と立花家の門を見上げて洋三郎が言った。
 もう、見張も、竹もない。
 すぐに潜戸が開いて、中に入れてくれた。

 主計が涼しい顔をして新一郎たちを迎えた。
 もっと憔悴しているのかと思ったが、違った。
「おお、来たか。大方の話は次男坊と波蕗から聞いた。お互い災難だったな」
「蟄居は解かれたのですか?」
「ああ、そのようだ。証拠不十分ということで、処分は一旦保留になったようだ。だが、油断はできん。詮議は続けるということだからな」
「心当たりがあるのですか?」
「領内に起こった揉め事を取り沙汰された。なんらかの処分を受けても仕方のないものゆえ、はっきりと嵌められたとは言えぬのだ。厄介なことだが」
「大目付の鳥居さまは、花ふぶきを狙っているのですか」
「それは間違いない。花ふぶきを差し出すならば、大目に見ても良いとはっきり言うておった」
「露骨ですね」
「大目付としても、それほど真剣に罪を問いたいわけではないのだろう。やり方が汚い・・・それより、鍵を渡せ。これらを早く蔵に納めたい」
 部屋の四方に、押収されていた宝物が、ぐるりと置かれていた。

「刀が多いんですね」
 洋三郎が周囲を見回して言った。
 やはり、刀好きの主計らしく、刀剣の類が多いようだ。
「おお、そうだ。荘次郎に聞いて、新一郎の使う刀を吟味しておったのだ」
 己のものが戻ってきたからか、主計は嬉しそうに言う。
「しばらくこれを使え。脇差も折れたと言うではないか」
 刀と脇差を新一郎の前に置いた。
「何か当ててみるか?」
 どや顔で笑っている。
「いえ、刀に詳しくはないので・・・」
 相州伝に似て、質素な拵だ。
 が、よくみると、黒塗りの鞘に、細かい螺鈿がキラキラと砂のように散っている。
 鍔は三日月に星。
 抜いてみた。
 姿は反りが浅く、鋒が大きい。
「美濃伝だ。志津三郎兼氏。正宗の弟子だ」
「・・・」
「実戦向きだから、ちょうど良いと思ってな。使いやすいと思うが」
「よろしいのですか」
「こいつも蔵にしまわれるより、喜ぶのではないか?」
 相変わらず、刀を人のように言い、満足そうに頷いた。
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