隠れ刀 花ふぶき

鍛冶谷みの

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3話 立花家の危機

三 友に捧ぐ(一)

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「猿芝居はよそうや」
 笑いやんだ佐野が、横目に鋭く新一郎を見た。

「花ふぶきをよこせ。それですべては解決する」
「・・・」
「新一郎」
 怒っているのか、泣いているのか、向き直った佐野の目が、充血している。
 両手で押さえられるように、左右の腕が掴まれた。
「変わらないだと?・・・そんなの嘘だ。大人になって、なんでもできるようになった。人の弱みにつけ込んで、おとしいれて、・・・こんなふうに・・・」
 掴んだ腕に力を込めてくる。
 左腕は、斬られた傷の上だ。
 ぎりぎりと容赦ない力が加えられた。
 傷口が開いたのか、血が滲んできた。
「人が痛がる顔を、平気で見られるようになった」

「やめろ、平四郎」
「本当は、お前なんか、いなくなって清々してたんだ。子供の頃から、なんでもできるお前を、内心疎ましく思っていた。・・・善人面しやがって!」
 右側に置いてある刀を新一郎から離すように蹴り飛ばした。
「お前だって、この刀で何人斬った。人殺しだろうが!・・・変わらないなんて、ありえない。だろ?」
 痛みに歪む新一郎の顔を、佐野が覗き込むように見る。
「花ふぶきをどうするつもりだ」
「おれは、刀なんてどうだっていいんだ。お前から、何もかも奪いたいだけだ。お前から奪った刀を献上すれば、思い通りになる。おれはついている。お前という友がいてくれたおかげだ」
 狂気じみた笑い声を立てた。
「今ならわかる。お前の親父どのは、この、気を抜けば蹴落とされる世で、生き抜く覚悟が足りなかったんだと」
「・・・」
「弱い者は生き残れない。あらぬ疑いをかけられて、抹殺されるのがオチだ。おれは、そうはならない。どんな手を使っても、上を目指す」

「どんな手を・・・まさか、波蕗とさちを拐かしたのは・・・」
「そうだ。今頃気がついたのか。・・・おめでたい奴。お前は出世に興味がないだろう。お家再興をちらつかせてもなびかないだろうから、確実な手を使ったまでだ」
「卑怯な・・・」
「それだ・・・おれが見たかった顔だ。お前は必ず花ふぶきを出す」

 離れようともがくが、かえって傷口が開き、血が流れ出す。
 頭が痺れるような痛みを堪えて上体を引いた。
 佐野が体勢を崩すまいと手を緩めた隙に、腹を蹴って引き離した。
 反動で後ろに倒れる。
 刀を拾おうとしたが、右腕を下にしたために、動かない左腕では届かなかった。
 佐野が先に刀を取り上げて抜き放った。
「これも名刀のようじゃないか」
 片手で起き上がれず、まごつく背中を踏まれ、目の前の畳に相州伝の刃が突き刺さった。
「こいつももらっておこう。その前にこいつで斬ってやる。己の刀に血を吸われる気分を味わわせてやろうか。どうだ。すべてを奪われた気分は」
「・・・」
「無様だな、新一郎・・・いい気味だ」
 刀を首元へ、ゆっくりと傾けていく。

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