隠れ刀 花ふぶき

鍛冶谷みの

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3話 立花家の危機

二 敵か味方か(四)

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「一人で行かせられない」
 洋三郎が怒っている。
「こんな傷で、刀なんか振れないよ」
「治ってからでは遅い」
「それはわかるけど・・・」
「様子を見て来るだけだ。それに入れてくれるかどうかもわからない」
「昔馴染みなら、入れてくれるんじゃない?単純に興味あるじゃん。昔の友が落ちぶれた姿」
 容赦なく言い切る。
 新一郎は苦笑した。
「そうだな」
「花ふぶきは持っていかないよね」
「ああ。様子見だと言っただろう」
「心配だなあ。ついていってもいい?」
「駄目だ。一人で行かせてくれ」
「けち」
「洋三郎も気をつけろよ。夜は出歩くな。誰が襲ってくるかわからない」
 正体がまったく掴めないのは、やはり恐ろしい。
「ねえ、牧の旦那、絶対怪しいよ。いつも旦那のところに行った帰りに襲われてない?」
「・・・まあ、な」
 前のは、主計どのの差し金だったと思うのだが。


「ちょっと、能面」
 何もしゃべらない見張の女に、あだ名をつけて、さちが呼ぶ。
「いい加減に口をきいたらどうなのよ。本当に能面かぶってんじゃないの?ひっぺがしてやろうか」
「おねえさま・・・」
 波蕗がたしなめる。
 暇すぎてちょっかいを出したくなるのだ。
「お殿さま呼んでよ。あたし達を閉じ込めたってねえ、何にもならないんだから。あんまり罪を重ねると、ろくなことにならないわよ」
「何にならないって?まったく騒々しいな。私も色々と忙しいんだよ。お嬢ちゃんに構ってやりたいけど、そうもいかなくてね」
 さちの声が届いたのか、男が姿を現した。
「何か用かい?いよいよ寂しくなってきたのか。色男がなかなかやってこないから」
「そんなんじゃないわよ。忙しいならさっさと解放しなさいよ。あたし達だって暇じゃないんだから」
 男が笑った。
「面白い女だね。本当に新一郎の女なのか?」
「おあいにくさま。あたしは新さんの女じゃありません。あたしのことなんか、なんとも思ってやしないわ」
「へえ。そうなのか」
「だから無駄よ。早く返してちょうだい」
「そんなことはわからないじゃないか。本人の前で試してみないとな」
 ニヤリと下卑た笑みを浮かべて言った。
「もし、それが本当なら、新一郎より先に私の女になるか。一生この屋敷で暮らしても良いのだぞ」
「何を言っているの?まっぴらごめんよ」
 さちの頬が鳴った。
 波蕗が口を押さえながら悲鳴をあげた。
 何が気に障ったのか、男が急に怖い顔になっている。
「縛りもせず、こうして話ができるのは、立花の身内だと大目に見てやっているからだぞ。勘違いするな。人質らしく大人しくしていろ。それができないなら本当に縛り上げるぞ」
 そのとき、表の方から家臣が男を呼びにきた。
「来たか」
 家臣の耳打ちに、笑みがこぼれる。
「お待ちかねの、色男が」

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