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賞金稼ぎ

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 恐ろしさで、心臓が口から飛び出るのではないかと思うほどドキドキしていた。

 もう、帰らない。
 帰れない。
 そのままいたって、王さまを死なせた罪で、断罪されるかもしれないのだ。
 どっちにしても、もう、ぼくは落ちたのだ。
 悪魔のせいじゃない。
 選んだのは、ぼくだ。

 仕送りが途絶えて、親が文句を言うだろうが、構わない。
 これまで十分に尽くしてきたつもりだ。
 こんな時ぐらい、好きにさせてもらう。

 悪魔は騎士たちを振り切り、なぜか、堂々と歩いていた。
 凄腕の剣士は、返り血も浴びないというが、そうなのかもしれない。
 普通は、見つかりたくなくて隠れるんじゃないかと思うのに、顔を晒して颯爽と歩いている。
 だから見失わずにすんでいた。
 素人のぼくでも尾行できている。

 長い黒髪が、風に時折なびく。
 背が高く、目立っていた。
 ただ、足が速いので、ほとんど走るようにしないとついていけない。

 完全に素人のぼくが、尾行なんて、無理だったんだろう。
 悪魔が急に立ち止まったので、走っていたぼくは止まれずに、背中にぶつかっていってしまった。

「どういうつもりだ。死にたくなければ去れ」
 静かな低い声がした。
 殺気のような、恐ろしい気配ではなかった。
 ぼくなんて、殺す価値もないからだろう。

「聞きたいのはこっちだ。なぜ殺したの? 殺し屋なの?」
 勇気を振り絞って、ぼくも言った。
「お前には関係ない。とやかく言われる筋合いはない」
 背中で言った。
 顔を見て言ってほしい。
 そう言う勇気はなくて、黙っていると、
「早く行け。巻き込まれるぞ」
 鋭い声に、かえって棒立ちになってしまった。

 振り向きざまに、横に吹っ飛ばされる。
 何が起こったのか、一瞬わからず、無様に道に倒れ込んだ。

 起き上がって振り返ってみると、悪魔が騎士たちに取り囲まれていた。
 王さまの護衛騎士だ。
 毎日のように、王さまを護衛する姿を見ているから間違いない。
 騎士たちも必死だ。
 王さまをむざむざと殺されては、沽券に関わる。
「賞金稼ぎのグレンだな。誰に頼まれた。言え!」
 悪魔は、グレンという名前らしい。

 黙って剣を抜く。
 言い訳など一切しない。
「俺を斬って手柄にせよ」
「小癪な」

 町の通りが戦場になった。
 グレンの剣がキラッキラッと日の光を反射して光った。
 騎士も剣を振るっているのに、なぜか、グレンの剣しか目に入ってこない。

 最強を誇る騎士団も、悪魔には敵わないのだ。
 ぼくが見ている間に、次々と斬っていく。
 血飛沫が舞うのが見えて、棒立ちになる。
 あっという間に騎士たちが足元に転がってしまった。

 やっぱり悪魔だ。

 相手が多かったために、返り血を浴びたグレンがぼくを見た。

 目が鋭く、刺すようだった。
 怖くて震えたが、かっこよくて震えたのか、どっちなのかわからなかった。
「これでわかっただろう。巻き込まれたくなかったら、家に帰るんだ」
「・・・」
 ぼくは夢中で首を振った。

 なんでだろう。
 離れたくなかったんだ。
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