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9.迷い猫

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「全然変わってないな」

「そうだね」

 小学校に来るなんて、いつぶりだろう。

 久しぶりに見た母校は、私の記憶の中の姿とほとんど変わっていないように見えた。


「あの滑り台、まだあるんだな」

 何気なくグラウンドの隅にある滑り台を見ていると感慨深げな健太郎の声がして、思わずどきりとする。


「うん。懐かしいね」

「千夏、かくれんぼであの滑り台の下に隠れて、結局見つけてもらえなかったんだよな」


 ハハっと笑う健太郎の声につられて、私も思わず笑った。


「そうそう。あのとき鬼だった子が、途中で役目放棄したんだったよね」


 この学校の滑り台はアスレチックと一体型になっている。滑る部分と階段の部分は普通の滑り台とは変わりないけれど、その土台部分は洞窟風にデザインされている。

 土台部分にはいくつか人が一人入れる程度の丸い穴があいていて、中にも入って遊べる仕掛けになっている。


 当時小学五年生のとき、学校の敷地内ならどこでも隠れてOKという条件で、放課後にクラスメイト全員で本気でかくれんぼをすることになった。

 隠れる場所が思い浮かばなかった私は、すぐに見つかるだろうなと思いながらも、あの滑り台の洞窟部分に身を隠した。

 ところがいくら待っても鬼は来ず、丸い穴から見える外の景色もどんどん薄暗くなっていった。

 外の様子が気になる一方で、見つけられてしまうのが嫌で、頑なに私は滑り台の洞窟部分から出ようとしなかった。

 どんどん静かになる校舎に対して、朝から降り続けるしとしと雨の音がより大きく聞こえてきはじめた。さらに辺りも薄暗くなってきていることからも、不安ばかりが募った。

 そんなとき、私を探しに来てくれたのが健太郎だった。


『千夏! こんなところに隠れてたのかよ!』

『健太郎、なんであんたが』

『鬼をやってた中田がなかなか千夏のこと見つけられないからって、途中放棄して帰っちまったんだよ。ったく、探させやがって』


 健太郎の話によると、どうやら私は本当の最後まで鬼に見つけられなかったらしい。

 私としては、すぐ見つかると思っていただけに本当にびっくりした。


『そんなに見つかりにくい場所だった?』

『場所というか、まず普通ならこの天気でグラウンドに出ようと思わねぇだろ』

『でも、健太郎は来てくれたじゃん』

『ハッ、俺をナメんなよ? 俺にかかれば千夏の一人や二人、どこにいてもすぐに見つけ出してやれるから。だから、困ったときは俺を呼べよ。千夏がどこにいても駆けつけてやるからよ』


 今でも鮮明に思い出せるあの日の会話に、思わず涙が出そうになる。


 思い返せば、かなりキザなセリフだ。

 当時の私は、千夏の一人や二人って言われて、私は一人しかいないしって言って笑ったんだったな。


「ねぇ、健太郎。健太郎は、今でも私がどこにいても見つけ出してくれるの?」

「なんだよ、急に」

「いや。なんとなく? あのとき、必死に私のことを探しに来てくれたなぁって思って」

「バーカ。必死にならなくても、千夏の居そうな場所くらい、すぐわかるって」

「なにそれ」

 結構ドキドキしながら健太郎に聞いたのに、こたえになってるようでなってない返事を返されて、思わず拍子抜けする。
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