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1.喧嘩ばかりの男友達

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 次の日になっても、気分は晴れず浮かないままだった。

 健太郎とはいつものことだから、きっと美也子と喧嘩してしまったことが原因なのだろう。


 美也子とは朝登校してきたときに、偶然教室の前で会ったけれど、目が合った瞬間にそらされてしまった。

 きっと、まだ昨日のことを怒っているのだと思う。

 当然ながら、美也子とは昨日の喧嘩から一度も口をきけていない。


 私の斜め前の健太郎の席は、朝一のショートホームルームの始まりのチャイムが鳴っても空席のままだった。

 いつも元気だけが取り柄の健太郎が欠席だなんて考えられない。きっと寝坊でもしたのだろうと、特に深く気に留めていなかった。


 ショートホームルームのチャイムが鳴り終わったあと、クラス担任の女の先生が少し遅れて教室に入ってくる。

 先生の目は赤く腫れて、まるで泣いたあとのような顔に見えた。それに気づいたクラスメイトが、何事かとヒソヒソとざわめく声が小さく聞こえた。

 一瞬にして、重たい空気が張り詰める。


 日直の号令に従って、「おはようございます」の挨拶をしたあと、先生の口から衝撃的な事実を告げられた。


「昨日、桜木さくらぎ 健太郎くんが交通事故で亡くなりました」


 教室のざわつきが強まる。

 そんなにみんな大きな声ではないけれど、重なって聞こえる声はまるで悲鳴のように聞こえた。


 驚くような戸惑うようなみんなのざわめきのなかからは、どこからともなくすすり泣く声も聞こえ始める。

 私の身体の中でもドクドクと血液の流れる音が、いやなくらいに大きく響いている。


 決して喉が乾いてたわけでもないのに、一瞬にして口の中がカラカラになってしまったようだ。

 思わず、斜め前の健太郎の空席を見つめる。


 健太郎が、死んだ? 遅刻、じゃなくて?


 健太郎のことだから、一時間目の途中で慌ただしく「寝坊したーっ」って教室に駆け込んできて、みんなの笑いの的になるものだと思っていたというのに……。


「桜木くんは、昨日、下校中に横断歩道を渡っていたところに突っ込んできたオートバイと接触したそうです」


 横断歩道、オートバイと聞いて思い浮かぶのは、昨日遠目に見た事故現場の光景。

 信号無視のオートバイが歩行者を跳ねたあと、対向車線に飛び出して乗用車とも接触したと、昨夜のニュースで言っていた。

 オートバイの運転手と歩行者の男の子は死亡で、乗用車に乗っていた二人が重症だったんだとか。

 昨日のニュースの段階では死亡した男の子の名前までは出ていなかった。

 その亡くなった男の子が健太郎だったって言うの……?
 

「通夜は今夜、葬式は明日行われると、桜木くんの親御さんから連絡がありました」


 信じられなかった。

 いつも人のことをバカにして、すぐ悪さばかりしてくる、あの健太郎が死んだだなんて……。


『健太郎なんて死ねばいいのに』


 怒りに任せてそう言ってしまった、昨日の私。

 まさか事故とはいえ、本当に死ぬだなんて誰が思うだろうか。

 先生の口からは、涙混じりの声で決して変えられない事実だけが並べられていく。


「みんなも辛いと思います。だけど、どうかこの辛さを乗り越えて、桜木くんの分も学校生活を送っていってほしいと思います」


 それからのことは、担任の先生の話はもちろん、その日行われた授業の内容も全くもって耳に入って来なかった。

 頭の中では事実を理解しているのに、その事実を受け入れることができない。


 健太郎は事故で亡くなった。
 それは紛れもない事実だ。

 わかっていて受け入れられないのは、きっと私が心の片隅で昨日の自分を責めているからなのだろう。

 あのとき、健太郎に死ねなんて言ったから、健太郎は死んでしまったんじゃないか。言葉には魂が宿るって言うけれど、そのせいでこんなことになったんじゃないか。
 次から次へと出てくる後悔の念に、とにかく苦しくてたまらなかった。
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