【旧版】桃色恋華

美和優希

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第5章

色とりどりの花(1)

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  拓人の入院生活が始まってまだ1日すら経たない。


 しかし、拓人はすでに嫌気がさしていた。



 ──暇だ。暇すぎる。歌いたい。桃華に会いたい。みんなと仕事がしたい。



 拓人は苛立ちながら病室のテレビのリモコンのスイッチを押す。


 偶然にもスーツを着た男性のニュースキャスターが、昨夜の事件について報道していた。


『昨夜、あの大人気バンドNEVERのボーカルのTAKU(21)さんが、自宅前で刃物で刺される事件がありました。

TAKUさんはすぐに病院へ搬送され、今は病院で安静にしているという情報が得られています。

犯人は、TAKUさんの熱狂的なファンだった18歳の少女で、その場でNEVERのメンバーにより取り押さえられ、110番通報されて警察によりその場で殺人未遂の疑いで現行犯逮捕されました。

犯人がTAKUさんの恋人の少女(18)を刺そうとしたところ、TAKUさんはそれをかばい刺されたということです。

犯人の犯行の動機は、TAKUさんの恋人への過度な嫉妬によるものと見ています』


 男性ニュースキャスターがここまで話すと、女性ニュースキャスターとの会話形式に変わった。


『いやぁ、TAKUさんが刺されたというニュースだけでも衝撃的なのに、以前噂されたTAKUさんの恋人の話もどうやら本当だったようですね~』


『そうですね。TAKUさんの恋人の件につきましては、事務所もNEVERのメンバーも何も教えてはくれないので詳細は分かっておりません』


(……なんだよ、詳細って)

 拓人は心の中でぼやきながら、テレビの場面が都会の街並みに変わるのを見る。


『では、ファンの皆さんの反応はどうなんでしょう』


 20歳くらいの女性がインタビューを受けた。

『あのNEVERのTAKUさんが刺されたそうですが、ご存知ですか──?』


『マジですかぁ!?めっちゃショックです!!犯人超~許せないですっ!!』


『TAKUさんは恋人を守るために刺されたそうですが──?』


『えっ? やっぱり恋人居たんですか!? えーショックだけどすごく愛されてて彼女羨ましいです! TAKUさんが選んだ人なら是非幸せになって欲しいですっ!』


『最後にTAKUさんに一言』


『早く回復してまたカッコイイ姿見れるのを楽しみにしています!!』


 何人かの街頭インタビューの末、拓人を除くNEVERのメンバーが映し出された。


(あいつら……)

 拓人はさっきよりも真剣にテレビを見つめる。


『今回の犯行はTAKUさんの熱狂的なファンによるものだとのことですが──?』


『ファンが増えるということはとてもありがたいのですが、このような事件が起きてしまうのは残念です』


『TAKUさんが刺された時、NEVERの皆さんも傍に居たと言うことですが──?』


『気づいて声を上げた時にはもう遅くて……自分達の無力さを感じました』


『TAKUさんの恋人とも一緒に居たんですよね。どのような方でしたか──?』


 4人は顔を見合わせ、カイトが口を開いた。


『そのような質問にはお答えできません』


 拓人は少し4人に感謝した。


 あまり噂されすぎると、桃華も居心地悪いだろう。


(でも、この事件でTAKUの恋人の存在は知れ渡ってしまったな……)


 拓人はそんなことを考えながら、再びテレビのリモコンに手を伸ばし、スイッチを切った。


「くっそ~」



 ──暇すぎる。


 桃華は入院する度に、こんな日々を何ヶ月も毎日続けて来たんだ。


 そしてそんな入退院生活を何年も繰り返していたんだ。
 

 そう思うと胸が痛い──。
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