【旧版】桃色恋華

美和優希

文字の大きさ
上 下
72 / 95
第5章

闇夜の悲劇(4)

しおりを挟む
「ここだね。着いたよ」

 ハルキの声に長い沈黙は破られた。


「結構距離あったな」

 シンジは少し落ち着かない様子で素早く車から降りた。


「ハルキぃ~。拓人、大丈夫かなぁ?」

 ヒロが車から降りようとするハルキの腕を掴む。

「そんなの俺にも分からないよ! こんなところでぐずぐずしてないで、早く行こう!」

 ハルキはメソメソするヒロを振り払って車を降り、ヒロもそれに続いた。


 病院内に入ると、誰も居ない待合にカイトがひとり座っていた。

「おぅ! みんな待っとったで! あれ? 桃華ちゃんは?」


「夜遅くなりそうだし、桃華ちゃんには悪いけど先に帰ってもらったよ。それより拓人は……?」

 ハルキが心配そうに尋ねると、カイトは力強い声で答えた。


「拓人は無事や! 今奥の部屋で処置中や! やけど……」


「どうした?」

 突然肩を落としたカイトに、シンジが口を開く。


「……そうは言ってもな、やっぱり傷が大きくて深いから1週間くらいは入院やて……」


「そうか、今回ばかりは仕方ないね」

 ハルキも残念そうに言った。


「俺達もついていながら、結局この結果か……」

 シンジは病院の床を見ながら、悔しそうに呟く。


「誰も死なへんかったことが唯一の救いやな。ほなみんな、拓人のとこ行くか?」


 カイトの誘導で、拓人が処置を受けている部屋の前に向かう。


 ちょうど4人が処置室の前に着いた時、処置室のドアが開いて、奥からやや年配の外科医の男性が姿を現した。


「おや? 皆さん杉本さんのお知り合いですか?」


 4人が頷くと、中へ通された。


 処置室に入ると、拓人が奥のベッドで横たわっているのが確認できた。


 外科医は傍にあった診察用の丸椅子に座り、口を開いた。


「私は外科医の白石です。杉本さんですが、傷さえ治れば今後特に支障はないかと思われます。ただそうは言っても、傷口が深くて大きいので最低でも1週間は安静にしてもらうためにも入院してもらいます」


「そうですか。夜遅くにありがとうございました」

 カイトが代表して御礼を述べた。


 外科医の白石は、この後、少しだけ面会の時間をくれた。


「みんなごめんな」

 拓人が処置を受けたベッドで力無い声で謝った。


「ええって! 無事で何よりや!」


「松本さんには俺らから言っておくし、仕事もできるだけ穴があかないように調整するからさ」


「俺らがついてたのに結局何もできなくてすまない」

 カイトとハルキとシンジが次々に口にする言葉に拓人は内心ホッとした。


「たくとぉぉ~良かったよぉぉ~」

 ヒロは大泣きで拓人に抱き着いた。


「うわ……っ、ヒロ! 気持ちは嬉しいけど、まだ傷口が痛むから……」


「ほんまヒロはしゃーないな! これで拓人悪化したらおまえのせいやで!」


 カイトはヒロを拓人から引き剥がしながら言う。


「桃華は……?」

 拓人が心配そうに口を開く。


「俺らで無事に家に送り届けたよ」

 ハルキが答える。


「そうか。また桃華を傷つけてしまったな……」


「また夜が明けてからでも桃華ちゃんに連絡してあげなよ。かなり心配してたからさ」


「さっきの医者、桃華のお父さんだったみたい……」


「「マジで!?」」

 4人は一斉に声を上げ、目を見開く。


「歌手のTAKUかって聞かれたから、仕方なく頷いたら、いつも娘をありがとうって言われたんだ。はじめは何のことか分からなかったけど、いろいろ話してたら桃華のお父さんだって分かった」


「せやったんや! 全然分からへんかったわ! ってかあの医者えらい年配やったやん! おじいちゃんの間違いちゃうか?」

 カイトが白石医師が居ないことを確認して言った。


 カイトの発言にみんなは軽く笑い、拓人に各々

「早く治せよ!」

 と声をかけた。


「今日は本当にごめん。何かあったら連絡してくれよ! ありがとう」

 拓人は最後にそう言って、4人を見送った。


 4人が拓人と面会を終えると、拓人は看護師により病室へ運ばれた。


 4人は車に乗り込むと、今夜の事件について事務所に連絡を入れた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

苺の誘惑 ~御曹司副社長の甘い計略~

泉南佳那
恋愛
来栖エリカ26歳✖️芹澤宗太27歳 売れないタレントのエリカのもとに 破格のギャラの依頼が…… ちょっと怪しげな黒の高級国産車に乗せられて ついた先は、巷で話題のニュースポット サニーヒルズビレッジ! そこでエリカを待ちうけていたのは 極上イケメン御曹司の副社長。 彼からの依頼はなんと『偽装恋人』! そして、これから2カ月あまり サニーヒルズレジデンスの彼の家で ルームシェアをしてほしいというものだった! 一緒に暮らすうちに、エリカは本気で彼に恋をしてしまい とうとう苦しい胸の内を告げることに…… *** ラグジュアリーな再開発都市を舞台に繰り広げられる 御曹司と売れないタレントの恋 はたして、その結末は⁉︎

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

夫の不貞現場を目撃してしまいました

秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。 何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。 そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。 なろう様でも掲載しております。

選ばれたのは美人の親友

杉本凪咲
恋愛
侯爵令息ルドガーの妻となったエルは、良き妻になろうと奮闘していた。しかし突然にルドガーはエルに離婚を宣言し、あろうことかエルの親友であるレベッカと関係を持った。悔しさと怒りで泣き叫ぶエルだが、最後には離婚を決意して縁を切る。程なくして、そんな彼女に新しい縁談が舞い込んできたが、縁を切ったはずのレベッカが現れる。

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

泥々の川

フロイライン
恋愛
昭和四十九年大阪 中学三年の友谷袮留は、劣悪な家庭環境の中にありながら前向きに生きていた。 しかし、ろくでなしの父親誠の犠牲となり、ささやかな幸せさえも奪われてしまう。

別れてくれない夫は、私を愛していない

abang
恋愛
「私と別れて下さい」 「嫌だ、君と別れる気はない」 誕生パーティー、結婚記念日、大切な約束の日まで…… 彼の大切な幼馴染の「セレン」はいつも彼を連れ去ってしまう。 「ごめん、セレンが怪我をしたらしい」 「セレンが熱が出たと……」 そんなに大切ならば、彼女を妻にすれば良かったのでは? ふと過ぎったその考えに私の妻としての限界に気付いた。 その日から始まる、私を愛さない夫と愛してるからこそ限界な妻の離婚攻防戦。 「あなた、お願いだから別れて頂戴」 「絶対に、別れない」

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

処理中です...